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第九章 一途な気持ち

北山先生の優しさに触れて

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その頃私は海に囲まれた孤島にいた。

ゆかりさんに貧血の薬を続けるように言われていたが、それどころではなかったので、すっかり忘れていた。

時々めまいがして立っていることが辛く、薬飲まなくちゃと思い始めていた。

急にめまいが襲いその場にへたり込んだ。

「大丈夫ですか?」

私を支えて気遣ってくれた男性がいた。

「すみません、ご迷惑をおかけして」

「急に立ち上がってはいけません、僕は北山健志と言います、医者です、僕の診療所はすぐそこですから」

北山先生はそう言うと、私を抱きかかえて診療所まで運んでくれた。

簡単な血液検査をして、結果が出るまでベッドで休むように促された。

「貧血だと思われますので、この薬を飲んで安静にしててください」

「ありがとうございます」

「出来れば、東京の設備の整った病院で、ちゃんと検査をした方がいいと思いますよ」

「以前働いていた会社の医務室でも言われました」

「そうでしたか」

北山先生は恥ずかしそうに下を向いた。

私は北山先生の薦めでしばらく入院することになった。

入院中、北山先生を訪ねてくる患者さんが途切れることがない。

「北山先生、腰が痛くてなんとかしてくれんかのう」

そう言って診療所を訪ねて来たのは、この島にずっと住んでいるとよさんだった。

「とよさん、湿布を出しておくから、しばらく貼って様子見て?」

「北山先生、いつもすまんのう」

「大丈夫ですよ」

ここは待合室から海が見える診療所である。

私はこの景色がとても気に入った。

入院中の患者なのにいつも待合室から海を眺めていた。

「お嬢さん、見かけない顔だね、北山先生の彼女さんかい?」

そう言って私に近づいて来たのは、診察を終えて待合室で湿布を待っていたとよさんだった。

「ち、違います、入院患者です」

「そうかい、わしは、とよ言うやけど、お嬢さんはなんて言うんじゃ」

「立木みゆと申します、ちょっと貧血が酷くて、北山先生に入院を進められて」

「そうかい、貧血なんぞ病気のうちに入らんよ、うまいもん食っていっぱい動けば大丈夫じゃ」

「そうですね」

「ちょうどいい、みゆちゃん、北山先生の嫁さんになってくれないかのう」

そこへ慌てた様子で北山が湿布を持って来た。

「とよさん、失礼な事言わないでください、みゆさんが困ってるじゃないですか」

「そうかい、お似合いだと思うんだがなあ」

北山先生は照れた様子で俯いた。
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