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二人の時間①

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そして、旅行に出発の日がやってきた。

自家用ヘリで新堂組所有の無人島へ出発した。

「わあ、きれい、海がどこまでも続いてますね」

「ほら、かすみ、見えてきたぞ、あそこがかすみ島だ」

「えっ、かすみ島?」

「そう、俺とかすみの島だ」

かすみ島に到着すると、かすみはテンションが上がっていた。

喜んでくれていることが、拓真にとって一番嬉しかった。




建物に入ると、また広くて、キッチンの冷蔵庫には食材がぎっしり入っていた。

「拓真さん、コンビニいらないですね」

「ああ、そのために用意させたからな」

「なんか申し訳ないです」

「何言ってる、目一杯わがまま聞いてやるぞ」

「ありがとうございます、嬉しい」

拓真とかすみは海の波打ち際に行くことにした。

かすみは靴を脱いで裸足になった。

「拓真さん、水が冷たいですよ、でも気持ちいい」

「かすみ、手を繋ごう、転ぶと危ないからな」

「もう、拓真さんったら、過保護ですよ」

「なんとでも言え、俺はかすみが大好きだ」

拓真は大きな声で叫んだ。

「拓真さん、そんな大きな声で叫んだら、迷惑ですよ」

「何言ってる、俺とかすみしかいないんだぞ」

「あ、そうでした、ウフ」

かすみのこの笑顔をずっと、ずっと、見ていたい。

叶わぬ夢でも、なるべく長く、ずっと、一緒に過ごしたいと拓真は思った。




「拓真さん、大丈夫ですか」

キッチンに立って食事の用意をしていると、心配そうにかすみが覗いた。

「だ、大丈夫さ、平気、平気」

拓真はスマホを見ながら格闘していた。

しばらくして、テーブルに並んだ料理はどれも美味しそうだった。

「拓真さん、すごいですね」

「そうだろう、俺だってやれば出来るんだ」

かすみは料理を口に運んだ。

「美味しいです」

「よかった」

でも、かすみは少しずつ食べる量が減っていく。

体重もだいぶ落ちてしまった。

かすみは自分も辛いんだろうが、俺には一生懸命笑顔を見せてくれる。

なんで、かすみなのか。

俺は神を呪った。

忙しい男だ、祈ったり、呪ったり、神もたまったもんじゃないな。

拓真はふっと笑った。

今まで、自分の人生を振り返って、反省することは沢山ある。

こんな気持ちになるのも、かすみの死と向き合ってからだ。

そのためなら、俺の命を消せよ、なんでかすみなんだ。

俺ははじめて涙を流した。



かすみ島にきて、一ヶ月が過ぎた。

その間、大館が必要なものを運んでくれた。

かすみの健康状態を見るため、担当医村上もかすみの様子を見に来てくれた。

「春日部さん、東京に戻って、入院をお勧めします」

拓真はどうするか迷っていた。

このまま、ここでかすみと共に暮らすか、病院のベッドの中で死を待つか。

その時、かすみが俺の元にやってきた。

「拓真さん、先生は何か言ってましたか」

「なあ、かすみ、出来れば、入院した方がいいって言われたんだが……」

「拓真さんとここにいたいです、私は大丈夫ですから」

「俺だってかすみと一緒にここにいたいよ」

拓真はかすみを引き寄せ抱きしめた。

「かすみ、一緒にここにいような」

「はい」

拓真は担当医村上に連絡した。

「先生、かすみはここにいます」

「分かりました、冷蔵庫に薬を入れておきましたから、何か症状が出たら、必ず連絡ください、僕の指示で使える薬です」

「はい」






俺とかすみはかすみ島で生活を続けることになった。

そんな時、拓真は仕事で東京に戻ることになった。

「かすみ、春日部コーポレーションの仕事で東京に戻らないといけなくなった」

「そうですか」

かすみは明らかに元気がなくなった。

「かすみ、一緒に東京に戻らないか」

「えっ、でもきっと東京に戻ったら、私に待っているのは即病院のベッドだと思います、
だから、私はかすみ島で留守番しています」

「一人で留守番は無理だろう、心配だ」

「大丈夫です、私はそんなに頼りないですか」

「頼りない、絶対に一人に出来るか」

「分かりました、では、ツトムくんをよこしてください」

「ツトム?」

「それなら大丈夫ですよね」

余計に心配だ、ツトムと二人なんて……

「何か言いましたか」

「いや、わかった、ツトムと留守番していてくれ、すぐ帰る」

「はい」

かすみは笑顔で答えた、まさか無理していたなど考えは及ばなかった。



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