俺を好きになるな、お前を愛していない、極道の目覚めた独占欲

第十二章 運命の歯車が大きく動き出す

⑤

「感謝なんかしてねえよ、してたら見舞い来るだろう、一回も来ねえ、
俺はとんだピエロだ」

蓮也の手は小刻みに震えていた。

加子は蓮也の手を握った。

「いい男見つけろよ」

「蓮也さんはだめなんですか」

「車椅子の俺はお前の負担になる」

「リハビリすれば大丈夫ですよ」

「わかったようなこと言うんじゃねえ、動かない足を抱えてどうしろって言うんだ」

蓮也は動かない右足を思いっきり叩いた。

「そんなに叩いたらダメです」

「叩いたって、つねったって感じねえんだ、くそ」

蓮也は自分の動かない足を痛め付けた。

加子は見ていられなかった。

「蓮也さん、やめて、もうやめて」

加子は蓮也に抱きついた。

蓮也は耳元で囁いた。

「お前は他の男に抱いてもらえ、俺を好きになるな、お前を愛していない」

加子は蓮也の言葉にショックを受けた。

そして、病室を追い出された。

今の蓮也さんに私の言葉は届かない。

加子は出直すことにした。

加子は毎日蓮也の病室を訪れた。

「また、来たのか、お前も暇だな、早く新しい男探せよ」

「蓮也さんが好きなので、無理です」

「俺は迷惑だ」

「私のことは気にせず、過ごしてください、もう少し蓮也さんの顔見たら
帰りますから」

「勝手にしろ」

いつもの会話だ。

蓮也は加子の存在を迷惑だと言いながら、ちょっと嬉しそうに感じていた。

全く、動かない右足を持て余し、一人で病室にいると、ふっと消えたくなる。

自殺志願者はきっとこんな気持ちなんだろうと思った。

そこに加子が毎日やってくる。

加子の笑顔は蓮也に生きる希望を与えていた。

(ダメだ、加子を追い返さないと……)

そう思いながら、つい会話を楽しんでしまう。

「なあ、屋上へ連れて行ってくれないか」

「いいですよ」

加子は蓮也を車椅子に乗せて屋上へ向かった。

「風が気持ちいいですね」