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6章
僕たちの近海祭
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けっきょく、ライがおばあさんのピアノをひいたのはこの一回だけになりそうだ。
その理由は、小椋の家で曲づくりをすることをライがあきらめたからだ。
本物のピアノを演奏するライはすごく楽しそうだったし、本当は残念だったにちがいない。なのにそう決めたのは、おばあさんの部屋に踊りの衣装と、踊りをチェックするための大きな鏡があることに気がついたからだろう。小椋がいつもおばあさんの部屋で踊りの練習をしていることを知って、あきらめることにしたらしい。
たしかに、ピアノの音がずっと流れていたら、踊りに集中なんてできない。小椋が今年の近海祭にこめている思いの強さも知ったから、えんりょしたみたいだ。
次の日、僕はそんなこともふくめた全部のことを染井に伝えた。染井は残念そうだったけど「そんなにがんばってるなら、しょうがないね」となっとくしてくれた。
こうしてライは学校で勉強して、休み時間や放課後に曲をつくることになった。そしてお屋敷に帰れば、いつも累と結がいる。明るいうちは二人と遊んで、夜になればサギリの練習を見学する…なんて、一日のスケジュールがすっかりできあがっていた。
こうやって、ライとの残りの日々はあっという間にすぎていくんだろう。そんなふうに考えていたある日、思いもよらない情報が僕たちの耳に入ってきた。
学校から帰ってきて、いつものように広間で累と結の相手をしていた時だ。同じ部屋で仕事をしていた藤彦兄ちゃんが、しんけんな声でこう言った。
「追分町の曳き踊り、中止になったらしいぞ」
「えっ?」
僕は体にひっついていた累をはらって、藤彦兄ちゃんを見た。
「どういうこと?だって小椋は、今年が最後の踊りだって言ってたよ」
「たしかにそういう話だったんだけど、事情が変わったみたいなんだよ。どうやら町組のえらい人が、今年のうちから踊りをやめようって言い出したらしい」
「どうして、急にそんなことを言い出すんだよ」
僕は口をとがらせて、誰にともなく文句を言った。
「近海祭は五〇〇年も続く伝統行事だって、紀一も知ってるだろう?昔から守られてきた決まりを変えるっていうのは、すごく勇気がいるんだよ。なんでも変えてしまったら、ちがうお祭りになってしまうかもしれないからな。今までは町内に男の子もいなかったし、特別だって許してきたけど、小椋さんが亡くなったことで逆の意見が強くなったんだろう」
藤彦兄ちゃんの説明を聞いても、なっとくなんてできない。
お祭りの形を変えないほうがいいのは理解できる。だけど大人の話し合いだけでぜんぶ決めたりするなんて、いくらなんでもひどいと思う。
「小椋さんは、どんな気持ちなのかな?」
ライがぽつりと言った。その言葉にうなずくかわりに、僕はすっと立ちあがる。
「ライ、行こう」
「うん」
つきまとっていた結をそっと横にどけて、ライも立つ。僕たちはすぐにお屋敷を出て、小椋の家に向かった。
インターフォンを押してから出てきたのは、小椋のお母さんだった。
「ごめんね堀部君。瑠香は今、おばあちゃんのお部屋から出たくないみたいなの」
「そうですか。やっぱり、お祭りのことですか?」
「そうなの。町組のお知らせを聞いてから、すっかりふさぎこんじゃって」
小椋のお母さんが、申しわけなさそうに僕たちに話す。
「小椋とお話させてもらえませんか?部屋の前でもいいので」
「もちろんよ。ありがとうね、あの子のことを気にしてくれて」
ずっと暗かった小椋のお母さんの顔に、ちょっとだけ笑顔がのぞいた。
家の中にあげてもらった僕たちは、まっすぐおばあさんの部屋にむかう。入口のふすまはかたくとじられていて、廊下は夜みたいに暗かった。
僕はふすまの前から、小椋に呼びかけた。
「小椋、聞こえてる?」
しばらく待ったけど、小椋からの返事はなかった。僕は小椋が聞いていると信じることにして、ふたたび話かける。
「踊りのこと、聞いたよ。ひどい話だよね。急にやめさせるなんて」
藤彦兄ちゃんの話を聞いた時から、ずっと感じていた不満をうちあける。きっと小椋も同じことを考えているし、僕の話で少しは気持ちが楽になるんじゃないかと思ったからだ。
すると、ふすまの向こうから声がした。
「ひどくないよ。ぜんぜん」
小椋の声は小さかったけど、はっきりと聞こえた。まったく想像していなかった返事に、僕は混乱してしまう。
「どうして?だって小椋、おばあさんに見せるためにいっしょうけんめい練習していたんだろ?それを急にやめろって言われて、ショックじゃないの?」
「もちろんショックだよ。でも、だからってひどいことを言われたなんて思ってない。だってそれは、しょうがないことだもん」
「しょうがないの?おばあさんが決めたことをひっくり返されちゃったのに」
「そうだよ。おばあちゃんだって、決まりごとをやぶる時には自分が悪者になるのを覚悟してたくらいだし。おばあちゃんは、近海祭をすごく大事にしてたから」
僕も、絶対にそうだと思っている。
僕にはじめて近海祭の話をしてくれたのは、小椋のおばあさんだった。
もっと小さい時にも、お祭りを見たり話を聞いたりしたことはあったはずだ。けれど思い出に強く残っているって意味では、おばあさんが一番最初だったんだ。
おばあさんはそれからも、僕にいろんなことを教えてくれた。曳山の踊りやからくり人形は、古い神話や物語がモデルになってること。昔は子供が夜どおしサギリの演奏をしていたこと。曳山の飾りには、シルクロードを通って遠い国から伝わってきたものもあること…優しい声で話してくれたおばあさんは、僕の知っている中では誰より近海祭を愛している人だった。長く続いた決まりを変えるのは、よほどつらかったにちがいない。
「おばあちゃんがよく言ってたの。『ずっと同じでいることと、何もしないことはちがう』って。続いてきた決まりをやぶるのがどんなことかは知ってたし、昔の資料をいっぱい調べて考えて、すごく悩んだって」
聞こえてくる小椋の声は、小さくふるえていた。
「だから私が踊りの練習をする時は、別人みたいにきびしかった。あなたはどの町の男の子よりもきれいに踊れないといけないんだって、よく言ってた」
「そうだったんだ。小椋の踊り、すごく上手だったもんね」
「ありがとぅ…」
小椋の声ががらりと変わる。ガマンしていたものが一気にあふれてきたかのように、はげしくふるえていた。
すぐにわかった。泣いているんだって。
「私だって、本当は踊りたいよ。いっぱい練習した踊り、おばあちゃんに見てほしかった…」
涙のおえつにまざって、小椋の本当の気持ちが聞こえてくる。
僕には今の小椋の顔が、はっきりとイメージできた。おばあさんを亡くした時と同じ、小さな子供みたいにクシャクシャになった小椋の顔が。
この前会った時には、悲しい現実を受け止めようとしている小椋が大人に見えた。
でも、本当はそうじゃなかったんだ。小椋もおばあさんがいなくなった悲しみを乗りこえたくて、そのために踊りをいっぱい練習をして、とにかく必死だったんだ。
そうしないと、小椋はおばあさんを送りだすことができないから。そうしないと、小椋は先に進むことができないから…おばあさんを失った、夏のはじめの日から。
だけどもう、そのチャンスはなくなってしまった。小椋が受けているショックは、僕が思っていたよりもずっと大きかったらしい。かけたらいい言葉が見つからなくて、僕は小椋が泣いているのを聞いてるだけになってしまった。
「ねえ」
こまっている僕に、ライが後ろから話しかけてきた。ふりかえると、ライは今の状況ににあわない笑みを浮かべている。
「紀一、空だよ」
なにを言い出すのかと思ったら、お墓まいりの時に僕が教えた言葉じゃないか。
強めに注意してやろうかと思った。だけどその時、僕は別の可能性に気がついた。ライがこんな場面でニヤニヤしているのは、なにか理由があるんじゃないかって。
「ライ、もしかしてなにか考えてる?」
ライはますますにっこりと笑って、うなずいた。
「トント、今朝のデータを見せて」
ライのポケットから出てきたトントが、僕とライの間まで転がってくる。レンズ部分が白く光り、空中に一つの映像を浮かびあがらせる。
その姿を見た僕はおどろいて、すぐに目を丸くした。
それから五分後。僕はふすまを軽くノックして、小椋に話しかけた。
「ねえ小椋、ふすまをあけてくれない?見せたいものがあるんだ」
「…見せたいもの?」
「そう。空からのおくりものだよ」
しばらく時間をおいてから、ふすまがゆっくりとひらいた。間からのぞいた小椋の顔はやっぱりまっ赤で、涙でひどくよごれている。
「どういうことなの?空からのおくりものって」
「ライがすごいことをやってくれたんだ。これを見てよ」
トントが僕の前に転がり出てくる。部屋の中まで入りこむと、さっきと同じように空中に画像をうつしだした。
小椋の目の前に浮かびあがっているのは、女の人の人形だった。日本髪にきれいな金色の冠をかぶり、白と鴇色の立派な着物を身にまとっている。
「これってミュージアムに展示されてる、高宮町のからくり人形だよね」
「あたり。でも、すごいのはここからなんだ」
話しているうちに、映像のからくり人形がゆっくりと動きはじめた。学校の芸術鑑賞会で見た能の舞のような、静かだけど神秘的な雰囲気をまとった動きだ。
だいたい一分くらいで人形は最初のポーズにもどり、ふたたび同じ動きをする。小椋は夢とも現実ともわからないような顔をして、僕を見た。
「この間のピアノと同じだよ。ミュージアムでライにからくりを見せた時、トントを使って中身を分析してたんだ。そのデータをカグヤの職人さんに送って、構造をもとにシミュレーションした動きを再現してもらったんだよ。今朝、この動画を受信したんだって」
小椋はまばたきをくり返しながら、今度はライを見た。
「すごいね…何百年も前に壊れたからくり人形の動きを、かんたんに再現しちゃうなんて」
小椋は心から感心しているみたいだったけど、すぐに表情をくもらせてしまう。たしかに、高宮町のからくりが再現できたことと、今の小椋が悩んでいることとは、どうつながっているのかわからないだろう。僕はすぐに、小椋にこの映像を見せた理由をうちあけた。
「小椋、この踊りをやってくれないかな?高宮町の曳山で」
「えっ?」
小椋が僕を見て、かたまった。あまりにもとつぜんで、理解が追いついていないらしい。
「このからくりが壊れちゃってるせいで、高宮町の曳山がずっとサギリを演奏してるだけの空山になっているのは知ってるでしょう?追分山で断られちゃったなら、いっそ僕たちの曳山で踊ったらいいんじゃないかと思ったんだ。ライのおかげで、どんな動きをしてるのかもわかったことだし」
「それはそうだけど、でもさ…高宮の人たちが反対するんじゃない?私たちの町でもダメになったことを、引き受けてくれるのかな?」
「それはまだわからない。けど、がんばってせっとくしてみるよ。だけどその前に、小椋の気持ちを聞いておきたいんだ。もしもだいじょうぶだったら、小椋は踊りたい?」
その瞬間、小椋の顔つきがかわった。力のこもった目つきになって、大きくうなずく。
「もちろん踊りたい。おばあちゃんがいる、最後の近海祭だもん」
「わかった。がんばるよ」
僕は小椋にうなずきかえして、ライを見た。ライは満足そうに笑い、トントを呼び戻す。
「それじゃあ、僕たちは帰るね。まずはサギリのみんなに伝えてみる」
「ありがとうね。もしもダメでも、すごくうれしいよ」
僕たちを送る時、小椋は弱気なことを言った。
もしかしたら小椋はもう、わかっていたのかもしれない。僕たちがやろうとしていることの大きさと、その難しさを。
僕たちは一度家に帰ってから、すぐに高宮の集会所にむかった。
サギリの練習のあと、みんなを呼びとめる。子供だけじゃなく、長井先生もいっしょだ。
「堀部、どうしたの?ライ君まで怖い顔して」
不思議な顔でたずねる染井たちに、僕とライはさっきの考えを説明した。
最初はみんなきょとんとしていたけれど、話を聞くうちにどんどんしんけんな表情になっていく。このお願いをどうしてもかなえたかった僕たちは、思いつくかぎりの言葉を使って小椋の思いを伝え、ライのからくりの映像も使いながら、必死で話し続けた。
ぜんぶ話すと、集会所がしんと静まりかえる。長井先生が最初に口をひらいた。
「むちゃくちゃな話だな。自分の町で踊れなくなった女の子を高宮の曳山にあげるなんて、反対されるに決まってるだろう」
ようしゃのない言葉に、僕たちはショックを受けて下をむく。
だけど、先生の話はそれで終わりではなかった。
「しかし…さっきの映像を見たら考えも変るかもしれない。百年以上も前から止まっていた天女様の動きを見たらおどろくはずだし、できれば次の近海祭にもいかしたいと考えるだろう。残りの時間で動きをかんぺきに再現できるとしたら、しっかり踊りの基本を教えこまれた小椋のお孫さんくらいだろうからな」
最初の言葉ですっかりあきらめていたけれど、今の話で希望がわいてきた。
「言っておくが『もしかしたら』ってことだからな。高宮の曳山はあくまでも高宮の人間のものだ。反対する人が何人もいれば、とうぜん認めるわけにはいかない」
僕たちは長井先生の目をしっかりと見て、うなずいた。
「よし。まずは、ここにいるみんなの意見を聞いてみろ」
「はい。それじゃあ、みんなはどう思う?今の話を聞いて」
「僕はいいと思う」大川俊一がすぐに発言した。それからすぐに「私も」「僕も!」と、卓司と原が続く。僕とライはほっと胸をなでおろした。
「私は反対」
ひときわ強い声が、集会所にひびいた。みんながびっくりして、声のほうにふりかえる。
染井が僕たちを見ている。にらみつけてると言ってもいいほどの、するどいまなざしで。
「染井、どうしてだよ?」
「どうしてじゃないよ。そんな話、おかしいじゃない」
染井の返事を聞いて、僕はますます混乱してしまう。
「『おかしい』ってなんだよ?染井だって、小椋を心配してたじゃん!みんなが賛成すれば、小椋だって元気になるかもしれないんだぞ?」
「そりゃあ、瑠香ちゃんには元気になってほしいよ。でもさ、ずっと曳山に女の子をあげないようにしていたのは、高宮だって同じでしょう?だから私たちだって、いくらサギリの練習をしても曳山にあげてもらえないのに…」
「染井さんも、曳山にあがれないの?」
ライがびっくりしてたずねる。僕と染井は同じタイミングで、首をたてにふった。
「追分町は特別だったんだよ。小椋のおばあさんは貴重な飾りものが外に流れそうになるのをふせいだり、曳山が壊れて困ってる町のために遠くの修理業者を紹介したり、近海祭をすごく助けてきた人だったからね」
「そうだったんだ…」
長井先生の説明を聞いて、ライがだまりこんだ。
「でも、これって染井にとってもチャンスじゃない?もし小椋が曳山にあがったら、染井だってあがれるはずだし」
「だからさ、そういうことじゃないの!」
いいことを言ったと思ったのに、染井はますます怒ってしまった。
「染井の言うとおりだ。誰だって、小椋のお孫さんを元気づけたいとは思っているだろう。だけど長く守ってきた決まりをやぶってしまっては、高宮のご先祖様や将来の高宮の人たちに面目がたたない。だから答えを出す前に、しっかり考えないといけないんだよ」
長井先生の話に、重々しくうなすく。それから染井を見たけど、目をそらされた。
「いちおう、今度の組合で町組の人たちにも話しておこう。だけどさっきも言ったとおり、簡単な話じゃないってことはおぼえておいてくれ」
「わかりました。ありがとうございます」
僕とライが長井先生にお礼を言って、この集まりは解散になった。
家に帰る時、染井は僕たちとは少しはなれて歩いていた。
一人だけちがうことを言ってしまったから、気まずいと思っているみたいだ。みんなも今のびみょうな空気を感じとって、染井に近づけないでいる。
結局、この日はそのままそれぞれの家に帰っていった。僕たちも心に重たい感じをかかえたまま、お屋敷へもどる。
広間に入って腰をおろすと、同時にふうーっと大きなため息がでた。部屋にいた藤彦兄ちゃんと累と結が、不思議そうに僕たちを見た。
「どうした?サギリの練習で、いやなことでもあったのか?」
心配そうにたずねてきた藤彦兄ちゃんに、事情をぜんぶ説明する。
「そりゃあ、とんでもない問題がまいこんだもんだな」
自分も町組のメンバーである藤彦兄ちゃんも、ちょっとこまっているようだった。それを見たライが「ごめんなさい」と言って、しゅんと頭をさげた。
「あやまる必要はないさ。良い部分も悪い部分もあるからこそ、とことん話しあう必要があるんだからな。どうすることが町にとって一番か、全員がなっとくする答えを出さないといけないからな」
藤彦兄ちゃんの話は、なんだか長井先生とそっくりだった。
しんけんな表情の僕たちといっしょに、累と結も藤彦兄ちゃんの話を聞いている。そういえば、この二人だって高宮の子供なんだ。
「累と結はどう思う?小椋が高宮の曳山で踊ったほうがいいか、やめたほうがいいか」
気分を変えたくて、僕は二人にも質問してみた。
「おどってほしい!お祭りでおどる小椋のお姉ちゃん、すごくきれいなんだもん!」
大きな声で、結が言う。
「おどらないほうがいいよ。みんなこまってるし、今のままでもいいじゃん」
今度は累が、結とは逆のことを言った。
「なに言ってるの?おどったほうがいいでしょ!」
「はあ?おどったらダメだよ!」
累が結の肩を押したのをきっかけに、つかみあいのケンカがはじまってしまった。僕とライがあわてて近づいて、すぐに二人をひきはなす。
双子の累と結は考えかたも好きなものも似ているし、ケンカしたことなんてめったになかった。そんな二人の意見がここまではっきりわかれるなんて、はじめてかもしれない。
「どっちかが正しくて、どっちかがまちがっているって言えるような問題じゃないってことだよ。さて…もうおそい時間だ。紀一、二人を家におくってくれ」
「わかった。二人とも、ケンカはもうやめな」
僕は二人の頭にぽんと手を乗せて立ちあがる。
累と結と近づけるのはまだ不安だったから、ライにも一緒にきてもらうことにした。結局、それぞれの手をひいて帰っているうちにもとどおりになったんだけど。
累と結を家にとどけたあと、僕たちはお屋敷までの道をゆっくり歩く。
どこかでサギリの音色が聞こえる。もうすぐ本祭だから、遅くまで練習をしている町があるようだ。いつもは暗い夜の通りも、今はちょうちんの赤い光でてらされている。だけどお祭りが近づいていることが、今の僕たちにとってはゆううつだった。
「カグヤではさ、こんなふうに意見がわかれてもめたりすることはないの?」
「そうだね。すごいケンカになったりとか、ずっと関係が悪くなったりはしないかな」
「へえ。それってやっぱり、カグヤではみんなが家族だからなのかな?」
「どうなんだろう。先生に聞いてみようか」
ライはそう言って、ポケットの中からトントを呼び出した。
「先生。今の話を聞いてましたか?」
声をかけると、トントが人型の先生モードに変形する。ライの手のひらからぴょんと飛びおりて、僕たちに向かいあった。
「聞いていたよ。そして質問の答えはイエスだ。近い環境で育っているカグヤの住民はみんな似ている考えかたや価値観を持っているから、地上よりもずっと争いは少ないんだ」
「でも、意見がちがったりすることはあるでしょう?そんな時はどうやって解決するの?」
「とにかく話しあうんだ。自分の持っている情報や意見の根拠、それに自分の気持ちまでも隠さず伝えるし、同じくらいしっかりと相手の話を聞のがカグヤのルールだ」
「それって、地球でやっていることと同じじゃない?」
「そうかもしれないね。しかしみんなが同じレベルでの生活をおくっている衛星都市では、一方的にかたよったな思考を持つ人はあまりいない。だからカグヤでの議論というのは相手を言い負かすためではなく、おたがいをわかりあうために行うものなんだ」
「だからカグヤだと、話しあいが終わったら前より仲良しになってることが多いんだよ」
ライがとなりから、先生の話につけたした。
「つまり、おたがいのことを思いやっているかどうかが大切なんだね」
「そういうことさ。うまくいくかどうかは、意見をかわす人の心しだいと言うしかないが」
先生のアドバイスを聞いていたら、小椋と染井の顔が浮かんできた。
「ねえ紀一。明日から、学校のあとで小椋さんの家に行かせてもらえないかな。からくりの映像を見せてあげないと、踊りの練習はできないはずだから」
「ああ、そっか」
ライの言うとおりだ。からくり人形の動きが見れるのはトントの中にある動画だけだし、すぐにでも練習をしないと近海祭には間にあわない。
「じゃあ、曲づくりも小椋の家でやるの?」
「そうさせてもらおうと思う。小椋さんには迷惑かもしれないけど、トントをつれていくなら僕もいっしょにいないといけないし」
「そっか、たしかにそうだよね」
その時、僕の中にある考えが浮かんだ。
「ねえ…小椋の家に行くなら、一人だけで行ってみたら?」
「え!」
ライは立ちどまって、大きくひらいた目で僕を見る。
「紀一、どうして?小椋さんとは仲直りしたでしょう?」
「いや、そういうことじゃないんだよ。僕もサギリの練習をもっとしないといけないんだ」
「ああ、そういうことか」
理由を聞いたライは安心して、ふっと口もとをゆるめた。
「僕はだいじょうぶだよ。でも、先生はどう思うかな?」
ライは心配そうに、足もとの先生を見た。
「そうだな…交流プロジェクトのとちゅうであることは忘れてほしくないが、君たちが必要だと思うなら、それもいいだろう。もしもあぶない目にあっても、成人の男性一〇人くらいならトントのガード機能でやっつけることができるからな」
「そうなんだ…」
トントの意外な能力が、また一つ。いつものワンちゃんモードを見ても、もうカワイイなんて思えないかもしれない。
「先生、ありがとう。わがまま言ってごめんね」
「気にしないでいいよ。私はライがこの町でいっしょうけんめい悩み、行動していることがうれしいんだから」
そう言って、先生は通信をとじた。ライはボールになったトントをしまうと、僕を見た。
「じゃあ、これからは別行動が多くなるね」
「そうだね。でも、ライならだいじょうぶだよ」
「ありがとう」ほほ笑むライに安心して、僕は歩きだす。ライもすぐ僕に続いた。
それからお屋敷までの道のりは、二人とも無言だった。
次の日。いつものように授業が終わると、僕とライはすぐに帰りの準備をはじめる。今日も曲づくりをしていくと思っていた女子たちに理由を話していると、同じ場所にいた染井がこっちをじっとにらみつけていた。
この日の夕方から、染井はサギリの練習に参加しなくなった。
その二日後。お屋敷にもどると、いつも役場にいるはずの藤彦兄ちゃんが先に帰っていた。僕たちが広間に入るなり「出かけるぞ」と言って立ちあがる。なんだか怖い顔だった。
僕とライがつれてこられたのは、高宮町の集会所だった。サギリの練習にも使っている一番広い座敷には、町組の男の人たちが集まっている。
町組長である守山さんに長井先生、僕のおじいちゃんに、原のお父さん…さすがにみんなってわけじゃないけれど、一〇人近い町の男衆(お祭りの時は、大人の男の人たちをこうよぶんだ)が、輪を描くようにすわっている。
話しあいのとちゅうだったらしい。お祭りが近いこともあってか、そこにはピリピリした空気がただよっていた。
「紀一もライも、そこにすわれ」
藤彦兄ちゃんに言われて、僕たちは守山さんの向かいにすわることになった。
今年で七九歳になるという守山さんは、高宮町の大ボスって言葉がぴったりだ。大きな体にもしゃべり方にも迫力がある守山さんには、長井先生だって緊張するほどだ。
そんな守山さんが、とんでもなく怖い目つきで僕とライを見ている。僕も体のふるえが止まらなかったし、ライにいたっては歯からガチガチと音がなるほどおびえている。
「お前ら、なんで呼ばれたかわかっとるな」
低い声には、昔の土地のなまりが残っている。
「えっと…小椋の話、ですよね」
「そうや。こんなタイミングで、えらい話を持ちこみよったな」
怒っているんだろうか。守山さんはいつもこんなふうに話しているからわからない。でも、迷惑だと思っているのはまちがいないようだ。
「やっぱり、ダメですか?」
となりのライが、とびきりの勇気を出した。それを聞いた守山さんの顔が、クワッ!とひょうへんする。
「当たり前や!お前ら、近海祭りの五〇〇年をなんやと思うとる!」
「しげっち、きばりすぎやって。怒るところとちがうやろ」
声を荒げる守山さんを、幼なじみであるおじいちゃんがおだやかになだめる。「しげっち」というのは守山さんの名前が「茂雄」だからで、小さいころからそう呼んでるらしい。
「紀一、安心しな。がっかりするのはまだ早いで」
「え?」
さっきの言葉に絶望しかけていた僕とライは、びっくりして守山さんを見た。
やれやれ…とでも言うように、守山さんがぽりぽりとほっぺをかいた。
「まあたしかに、小椋の孫さんの話はかわいそうにも思うしな。それに小椋のばあさんには、祭にかかわる人間みんなが恩返しせなあかんほど世話になっとる。あの人を送り出すってことなら、おれたちだって力になりたいとは思うとるんや」
守山さんの言葉に続くように、ほかの人たちもうなずいた。
「じゃあ、いいってことですか?」
「紀一、今は話を聞け」
わけがわからなくなってたずねると、となりの藤彦兄ちゃんに注意されてしまった。
「さっきも言ったが、本祭に孫さんをあげることは不可能や。本祭の曳山渡り(ひきやまわたり)は、氏神様も見てはる神聖な行事やからな。しきたりをやぶるというなら、しんちょうに考えなあかん。だけどな、今年は本祭じゃなくても渡りをやるチャンスがある。そこにいる、衛星の子のおかげでな」
「ライが?どういうこと?」
びっくりしてライを見る。ライも口をぽかんとあけてるし、よくわかってないみたいだ。
守山さんにかわって、今度は藤彦兄ちゃんが話をはじめた。
「ライの帰る日が本祭の当日だってことは話したよな?じつはその前の日に、軌道エレベーターでおりてきたカグヤの人たちに渡りのデモンストレーションを見せることになったんだよ。しかしその日は夕方が宵山だからな。どこの町組も厳しいみたいで、渡りをする山が決まってない。そこに名乗りをあげるなら、いいんじゃないかって話になったんだ」
僕たちの希望は、意外なところからふってきた。僕もライも、急に瞳を輝かせる。
「だけど、問題はここからなんだ」
藤彦兄ちゃんが話を再開した。
「今の話にもあったが、本祭の前日がいそがしいのは高宮町だって同じだ。男衆がそろうわけじゃないから、紀一にも曳山をひいてもらうことになるだろう。デモンストレーションの会場は琵琶湖畔の広場。エアートラムが琵琶湖に出た場所の近くになる」
ライといっしょに朝日がのぼるのを見た場所だ。歩きならたいしたことはないけれど、曳山をひきながらあそこまで行くのは大変だろう。
しかも、今まで僕はサギリをふいてばっかりだったから、曳山をひくことがどれだけ大変なのかをちゃんとわかっていない。一〇人くらいの男の人たちが毎年へとへとになっていたから、すごくつらそうだなって思っていたくらいだ。
自分もそれに参加しないといけないなんて、考えるだけできんちょうしてしまう。
でも…ほかに方法はないみたいだ。そう思ったら、迷うことなんてできない。
僕もさっきのライみたいにしっかり守山さんを見て、大きくうなずいた。
「よし、ええ度胸や。男衆の少ない渡りはきっついからな。覚悟しとけよ」
守山さんが低い声で言う。思いきって決意したけど、それを聞いて背すじが寒くなった。
用件もすんだということで、僕とライは集会所から解放された。外に出た僕たちはほっと息をついて、顔を見あわせる。
「なんか、大変なことになっちゃったね」
「そうだね。でもさ、小椋が踊れることになって良かったよ」
たしかに。四十九日はだめだったけど、前の日でもおばあさんはいるはずだし、小椋は喜ぶだろう。
ひとまずほっとした。けれど、もう一つの問題を思い出すと胸が苦しくなる。
「どうしたの?もしかして、染井さんのこと?」
するどいライの質問に、僕はだまってうなずく。
小椋のことを相談してからの二日間、染井はずっと集会所に来ていなかった。
「染井があんなこと言うなんて、今までなかったのに…一体どうしたんだろう?」
「小椋さんが言ってたよ。『貴子ちゃんは、私のおばあちゃんににている』って」
道を歩きながらつぶやいた僕に、ライが意外な返事をした。
「ねえ紀一、小椋さんのおばあさんって、染井さんににていたの?」
「考えたこともなかったけど…言われてみたらそうかもしれない。染井もおばあさんも、まわりをすごく大事にする人だったから」
近海祭の昔も今も大切にして、未来のためにきびしい決断をした小椋のおばあさん。そしてまわりのみんなを大切に思ってて、すごく気をつかっている小椋。
小椋があんなことを言い出した理由だって、もしかしたらお祭全体のことを気にしたからなのかもしれない。
くらべてみると、たしかに二人はにているような気がする。おばあさんを近くで見ていた小椋がそう言うんだから、きっとそうなんだろう。
そんな染井が小椋のお願いを受けいれていないって考えると、悲しい気がするけど。
お屋敷に戻ると、ライはすぐに小椋の家へ向かった。そして僕はもう少し休んでから、サギリの練習をするために集会所にもどった。
そこに集まっているメンバーの中には、今日も染井の姿はないだろう。
次の日、僕は暗い気分で登校した。しょうじき、休んでしまいたいと思ったほどだ。
染井はやっぱり、サギリの練習にあらわれなかった。集会所だったら長井先生もいるし、説得できる可能性も高いから期待してたんだけど、結果は思ったとおりだった。
こうなってしまったら、学校で説得するしかない。ほとんど僕だけの力で。うまくいく自信は、はっきり言ってほとんどなかった。
ライといっしょに教室に入ると、すでに染井の姿があった。
僕はカバンを机に置くと、ドキドキしながら染井の席に近づく。心配していたライも、いっしょについてきてくれた。
僕たちに気がつくと、染井はすぐに顔をそむけた。
話しにくくなったけど、話さないわけにはいかない。僕はできるだけ染井の席に近づいて、声をかけようとした。
「…瑠香ちゃん、高宮の曳山の上で踊るんだってね」
僕より先に、染井が話しかけてきた。僕はどきりとして、一瞬言葉をうしなった。
「そ、そうなんだよ。守山さんも長井先生もみとめてくれたんだ」
「知ってる。昨日、原さんがきて教えてくれたから。本祭の前の日に、高宮町だけ曳山をひくことになったんでしょ?」
「うん…」
僕は弱気な声でうなずく。知ってるのにこの反応ってことは、染井の気持ちは変わっていないんだろう。
でも、だからってあきらめるわけにはいかない。
「染井、サギリの練習にきてよ。僕は曳山をひかないといけないし、ただでさえ演奏できる人は少ないんだ。それに、今のメンバーで演奏をリードできるのは染井くらいだし」
「いやだ」
ようしゃのない拒否。染井はふり向き、僕たちを強くにらみつける。
「私はいやだよ。だっておかしいと思うもん。高宮の曳山でほかの町の子が踊ってて、その下でサギリの演奏をするなんて」
染井らしくない言葉だった。僕は染井がそんな発言をしたことにおどろいてしまって、どんな声をかけたらいいのかわからなかった。
「どうして?」
ライが一歩前に出て、染井に聞いた。染井のするどい視線が、ライだけに向けられる。
「なに?『どうして』って」
「ほかの町の人を踊らせるのは、そんなにいけないことなの?困っているなら、ほかの町の人も助けてあげたらいいじゃないか。近海祭は、近海の人みんなのものじゃないの?」
「そうだけど、それだけじゃダメなんだよ。女の子が曳山にあがるのも、よその町の子を曳山にあげるのも、ずっと続いてた決まりをやぶることになるの。そんなことをかんたんにゆるしていったら、近海祭が近海祭じゃなくなっちゃうの」
「どうして?」ライの質問は止まらない。
「そうして決まりばかり大切にしてたら、本当に大切なものをなくしちゃうんじゃない?」
染井がぎゅっとくちびるをかんだ。その顔がみるみる赤くなっていって、ライをにらむ目がうるんでくる。
やばい状況かも…ライを止めようか本気で思った時、意外な声が教室にひびいた。
「ライ君。瑠香ちゃんの言うとおりだよ」
僕とライ、そして染井もびっくりして、声のほうを見た。
「瑠香ちゃん」
染井が最初に口をひらく。
そう、声をかけたのは小椋だった。言いあってるうちに教室に入ってきたらしく、カバンをかけたまま僕たちの後ろに立っていた。
ずっと学校を休んでいた小椋が、なんで教室にいるんだろう?おばあさんを送る近海祭の踊りだって、まだ終わっていないのに。
「小椋さん、本当に来たんだ」
ライだけは、事情を知っていたらしい
「もちろんだよ。貴子ちゃんが反対しているなら、ちゃんと気持ちを伝えないと」
そう言って、小椋は歩きだす。僕の横を過ぎ、ライの横を過ぎ、染井の前で立ちどまる。
「ライ君。貴子ちゃんはね、別にいじわるな気持ちで反対しているわけじゃないんだよ。近海祭をすごく大事にしているから、ずっと続いてきた決まりが崩れていくんじゃないかって心配してくれてるんだよ」
話す小椋はどこかさみしそうな、そして申しわけなさそうな顔をしていた。
「私のおばあちゃんも同じだったの。追分町に踊りができる男の子がいなくなった時、おばあちゃんはすごく悩んで私を曳山にあげることを決めたんだって。『もしもこういう前例ができたら、踊り手がいなくなって曳山が空山になることも少なくなるかもしれない』って。おばあちゃんは染井さんの考えとはちがう形で、近海祭を守る方法を選んだの」
「じゃあ、瑠香ちゃんたちはこう思ってるわけ?『近海祭のこれからのためになるって思ったら、簡単に今までの決まりをやぶってもいい』って」
「そうじゃないよ!」
小椋はすぐに言いかえす。
「おばあちゃんはこうも言ってたの。『決まりを変えていいのは、とても強い愛と覚悟を持っている人だけなんだ』って。おばあちゃんにはそれだけの自信があったし、今それをできるとしたら自分しかいないって思っていたの。私はおばあちゃんにはかなわないけど…今年の近海祭だけは、せいいっぱいの気持ちをこめて挑戦したいと思ってる。神様にだって見せてもはずかしくない踊りをするから、貴子ちゃんにも信じてほしい」
そう言って、小椋は深く頭をさげる。
しばらく染井は無言だった。そして小椋はその間、ずっと頭をあげなかった。クラスのみんなも注目していて、教室じゅうがしんと静まりかえっている。
どれくらい時間がたっただろうか。染井の目にたまっていた涙が一つ、ほっぺをつたって落ちていった。はっとした染井はあわてて目の涙をぬぐって、やっと小椋に声をかけた。
「わかったよ。そんなに強い覚悟があるなら、私もそれを見とどける」
その言葉を聞いた小椋が、すぐに顔をあげた。
「貴子ちゃん、ゆるしてくれるの?」
「本気でやらなきゃダメだからね?もちろん、それは私も同じだけど」
涙でちょっと赤くなった目で、染井はほっとしたように笑った。「うん」とこたえる小椋の声には、明るさがもどっている。
そんな二人の姿を見ながら、ライが不思議そうに目をぱちくりさせている。ゆっくりとふりかえって、頭の上に「?」マークが浮かんでいるような顔で僕を見た。
「たぶん、あの二人はカグヤの人たちと同じことをやろうとしてるんだよ」
「どういうこと?」
「ほら。カグヤの人たちは意見があわないと、おたがいの気持ちをわかりあうために努力するって言ってたでしょう?小椋は踊りをとおして、自分の気持ちを伝えたいって考えたんだ。その願いが、染井にもとどいたんだよ」
腕を組んで首をかしげるライはまだ、かんぺきにわかっているわけじゃないようだ。僕はライの肩にぽんと手を乗せて、とりあえず大事なことを伝える。
「いいんだよ。僕たちの近海祭がうまくいく可能性が、大きくなったってことなんだから」
「そっか。それならよかった」
それを聞いて安心したのか、ライもめいいっぱいの笑顔を見せてくれた。
でも、落ちついてもいられない。僕たちの渡りは、あと三日にせまっているのだから。
しかも…それは同時に、ライと過ごす日も三日しか残っていないっていうことだ。
その理由は、小椋の家で曲づくりをすることをライがあきらめたからだ。
本物のピアノを演奏するライはすごく楽しそうだったし、本当は残念だったにちがいない。なのにそう決めたのは、おばあさんの部屋に踊りの衣装と、踊りをチェックするための大きな鏡があることに気がついたからだろう。小椋がいつもおばあさんの部屋で踊りの練習をしていることを知って、あきらめることにしたらしい。
たしかに、ピアノの音がずっと流れていたら、踊りに集中なんてできない。小椋が今年の近海祭にこめている思いの強さも知ったから、えんりょしたみたいだ。
次の日、僕はそんなこともふくめた全部のことを染井に伝えた。染井は残念そうだったけど「そんなにがんばってるなら、しょうがないね」となっとくしてくれた。
こうしてライは学校で勉強して、休み時間や放課後に曲をつくることになった。そしてお屋敷に帰れば、いつも累と結がいる。明るいうちは二人と遊んで、夜になればサギリの練習を見学する…なんて、一日のスケジュールがすっかりできあがっていた。
こうやって、ライとの残りの日々はあっという間にすぎていくんだろう。そんなふうに考えていたある日、思いもよらない情報が僕たちの耳に入ってきた。
学校から帰ってきて、いつものように広間で累と結の相手をしていた時だ。同じ部屋で仕事をしていた藤彦兄ちゃんが、しんけんな声でこう言った。
「追分町の曳き踊り、中止になったらしいぞ」
「えっ?」
僕は体にひっついていた累をはらって、藤彦兄ちゃんを見た。
「どういうこと?だって小椋は、今年が最後の踊りだって言ってたよ」
「たしかにそういう話だったんだけど、事情が変わったみたいなんだよ。どうやら町組のえらい人が、今年のうちから踊りをやめようって言い出したらしい」
「どうして、急にそんなことを言い出すんだよ」
僕は口をとがらせて、誰にともなく文句を言った。
「近海祭は五〇〇年も続く伝統行事だって、紀一も知ってるだろう?昔から守られてきた決まりを変えるっていうのは、すごく勇気がいるんだよ。なんでも変えてしまったら、ちがうお祭りになってしまうかもしれないからな。今までは町内に男の子もいなかったし、特別だって許してきたけど、小椋さんが亡くなったことで逆の意見が強くなったんだろう」
藤彦兄ちゃんの説明を聞いても、なっとくなんてできない。
お祭りの形を変えないほうがいいのは理解できる。だけど大人の話し合いだけでぜんぶ決めたりするなんて、いくらなんでもひどいと思う。
「小椋さんは、どんな気持ちなのかな?」
ライがぽつりと言った。その言葉にうなずくかわりに、僕はすっと立ちあがる。
「ライ、行こう」
「うん」
つきまとっていた結をそっと横にどけて、ライも立つ。僕たちはすぐにお屋敷を出て、小椋の家に向かった。
インターフォンを押してから出てきたのは、小椋のお母さんだった。
「ごめんね堀部君。瑠香は今、おばあちゃんのお部屋から出たくないみたいなの」
「そうですか。やっぱり、お祭りのことですか?」
「そうなの。町組のお知らせを聞いてから、すっかりふさぎこんじゃって」
小椋のお母さんが、申しわけなさそうに僕たちに話す。
「小椋とお話させてもらえませんか?部屋の前でもいいので」
「もちろんよ。ありがとうね、あの子のことを気にしてくれて」
ずっと暗かった小椋のお母さんの顔に、ちょっとだけ笑顔がのぞいた。
家の中にあげてもらった僕たちは、まっすぐおばあさんの部屋にむかう。入口のふすまはかたくとじられていて、廊下は夜みたいに暗かった。
僕はふすまの前から、小椋に呼びかけた。
「小椋、聞こえてる?」
しばらく待ったけど、小椋からの返事はなかった。僕は小椋が聞いていると信じることにして、ふたたび話かける。
「踊りのこと、聞いたよ。ひどい話だよね。急にやめさせるなんて」
藤彦兄ちゃんの話を聞いた時から、ずっと感じていた不満をうちあける。きっと小椋も同じことを考えているし、僕の話で少しは気持ちが楽になるんじゃないかと思ったからだ。
すると、ふすまの向こうから声がした。
「ひどくないよ。ぜんぜん」
小椋の声は小さかったけど、はっきりと聞こえた。まったく想像していなかった返事に、僕は混乱してしまう。
「どうして?だって小椋、おばあさんに見せるためにいっしょうけんめい練習していたんだろ?それを急にやめろって言われて、ショックじゃないの?」
「もちろんショックだよ。でも、だからってひどいことを言われたなんて思ってない。だってそれは、しょうがないことだもん」
「しょうがないの?おばあさんが決めたことをひっくり返されちゃったのに」
「そうだよ。おばあちゃんだって、決まりごとをやぶる時には自分が悪者になるのを覚悟してたくらいだし。おばあちゃんは、近海祭をすごく大事にしてたから」
僕も、絶対にそうだと思っている。
僕にはじめて近海祭の話をしてくれたのは、小椋のおばあさんだった。
もっと小さい時にも、お祭りを見たり話を聞いたりしたことはあったはずだ。けれど思い出に強く残っているって意味では、おばあさんが一番最初だったんだ。
おばあさんはそれからも、僕にいろんなことを教えてくれた。曳山の踊りやからくり人形は、古い神話や物語がモデルになってること。昔は子供が夜どおしサギリの演奏をしていたこと。曳山の飾りには、シルクロードを通って遠い国から伝わってきたものもあること…優しい声で話してくれたおばあさんは、僕の知っている中では誰より近海祭を愛している人だった。長く続いた決まりを変えるのは、よほどつらかったにちがいない。
「おばあちゃんがよく言ってたの。『ずっと同じでいることと、何もしないことはちがう』って。続いてきた決まりをやぶるのがどんなことかは知ってたし、昔の資料をいっぱい調べて考えて、すごく悩んだって」
聞こえてくる小椋の声は、小さくふるえていた。
「だから私が踊りの練習をする時は、別人みたいにきびしかった。あなたはどの町の男の子よりもきれいに踊れないといけないんだって、よく言ってた」
「そうだったんだ。小椋の踊り、すごく上手だったもんね」
「ありがとぅ…」
小椋の声ががらりと変わる。ガマンしていたものが一気にあふれてきたかのように、はげしくふるえていた。
すぐにわかった。泣いているんだって。
「私だって、本当は踊りたいよ。いっぱい練習した踊り、おばあちゃんに見てほしかった…」
涙のおえつにまざって、小椋の本当の気持ちが聞こえてくる。
僕には今の小椋の顔が、はっきりとイメージできた。おばあさんを亡くした時と同じ、小さな子供みたいにクシャクシャになった小椋の顔が。
この前会った時には、悲しい現実を受け止めようとしている小椋が大人に見えた。
でも、本当はそうじゃなかったんだ。小椋もおばあさんがいなくなった悲しみを乗りこえたくて、そのために踊りをいっぱい練習をして、とにかく必死だったんだ。
そうしないと、小椋はおばあさんを送りだすことができないから。そうしないと、小椋は先に進むことができないから…おばあさんを失った、夏のはじめの日から。
だけどもう、そのチャンスはなくなってしまった。小椋が受けているショックは、僕が思っていたよりもずっと大きかったらしい。かけたらいい言葉が見つからなくて、僕は小椋が泣いているのを聞いてるだけになってしまった。
「ねえ」
こまっている僕に、ライが後ろから話しかけてきた。ふりかえると、ライは今の状況ににあわない笑みを浮かべている。
「紀一、空だよ」
なにを言い出すのかと思ったら、お墓まいりの時に僕が教えた言葉じゃないか。
強めに注意してやろうかと思った。だけどその時、僕は別の可能性に気がついた。ライがこんな場面でニヤニヤしているのは、なにか理由があるんじゃないかって。
「ライ、もしかしてなにか考えてる?」
ライはますますにっこりと笑って、うなずいた。
「トント、今朝のデータを見せて」
ライのポケットから出てきたトントが、僕とライの間まで転がってくる。レンズ部分が白く光り、空中に一つの映像を浮かびあがらせる。
その姿を見た僕はおどろいて、すぐに目を丸くした。
それから五分後。僕はふすまを軽くノックして、小椋に話しかけた。
「ねえ小椋、ふすまをあけてくれない?見せたいものがあるんだ」
「…見せたいもの?」
「そう。空からのおくりものだよ」
しばらく時間をおいてから、ふすまがゆっくりとひらいた。間からのぞいた小椋の顔はやっぱりまっ赤で、涙でひどくよごれている。
「どういうことなの?空からのおくりものって」
「ライがすごいことをやってくれたんだ。これを見てよ」
トントが僕の前に転がり出てくる。部屋の中まで入りこむと、さっきと同じように空中に画像をうつしだした。
小椋の目の前に浮かびあがっているのは、女の人の人形だった。日本髪にきれいな金色の冠をかぶり、白と鴇色の立派な着物を身にまとっている。
「これってミュージアムに展示されてる、高宮町のからくり人形だよね」
「あたり。でも、すごいのはここからなんだ」
話しているうちに、映像のからくり人形がゆっくりと動きはじめた。学校の芸術鑑賞会で見た能の舞のような、静かだけど神秘的な雰囲気をまとった動きだ。
だいたい一分くらいで人形は最初のポーズにもどり、ふたたび同じ動きをする。小椋は夢とも現実ともわからないような顔をして、僕を見た。
「この間のピアノと同じだよ。ミュージアムでライにからくりを見せた時、トントを使って中身を分析してたんだ。そのデータをカグヤの職人さんに送って、構造をもとにシミュレーションした動きを再現してもらったんだよ。今朝、この動画を受信したんだって」
小椋はまばたきをくり返しながら、今度はライを見た。
「すごいね…何百年も前に壊れたからくり人形の動きを、かんたんに再現しちゃうなんて」
小椋は心から感心しているみたいだったけど、すぐに表情をくもらせてしまう。たしかに、高宮町のからくりが再現できたことと、今の小椋が悩んでいることとは、どうつながっているのかわからないだろう。僕はすぐに、小椋にこの映像を見せた理由をうちあけた。
「小椋、この踊りをやってくれないかな?高宮町の曳山で」
「えっ?」
小椋が僕を見て、かたまった。あまりにもとつぜんで、理解が追いついていないらしい。
「このからくりが壊れちゃってるせいで、高宮町の曳山がずっとサギリを演奏してるだけの空山になっているのは知ってるでしょう?追分山で断られちゃったなら、いっそ僕たちの曳山で踊ったらいいんじゃないかと思ったんだ。ライのおかげで、どんな動きをしてるのかもわかったことだし」
「それはそうだけど、でもさ…高宮の人たちが反対するんじゃない?私たちの町でもダメになったことを、引き受けてくれるのかな?」
「それはまだわからない。けど、がんばってせっとくしてみるよ。だけどその前に、小椋の気持ちを聞いておきたいんだ。もしもだいじょうぶだったら、小椋は踊りたい?」
その瞬間、小椋の顔つきがかわった。力のこもった目つきになって、大きくうなずく。
「もちろん踊りたい。おばあちゃんがいる、最後の近海祭だもん」
「わかった。がんばるよ」
僕は小椋にうなずきかえして、ライを見た。ライは満足そうに笑い、トントを呼び戻す。
「それじゃあ、僕たちは帰るね。まずはサギリのみんなに伝えてみる」
「ありがとうね。もしもダメでも、すごくうれしいよ」
僕たちを送る時、小椋は弱気なことを言った。
もしかしたら小椋はもう、わかっていたのかもしれない。僕たちがやろうとしていることの大きさと、その難しさを。
僕たちは一度家に帰ってから、すぐに高宮の集会所にむかった。
サギリの練習のあと、みんなを呼びとめる。子供だけじゃなく、長井先生もいっしょだ。
「堀部、どうしたの?ライ君まで怖い顔して」
不思議な顔でたずねる染井たちに、僕とライはさっきの考えを説明した。
最初はみんなきょとんとしていたけれど、話を聞くうちにどんどんしんけんな表情になっていく。このお願いをどうしてもかなえたかった僕たちは、思いつくかぎりの言葉を使って小椋の思いを伝え、ライのからくりの映像も使いながら、必死で話し続けた。
ぜんぶ話すと、集会所がしんと静まりかえる。長井先生が最初に口をひらいた。
「むちゃくちゃな話だな。自分の町で踊れなくなった女の子を高宮の曳山にあげるなんて、反対されるに決まってるだろう」
ようしゃのない言葉に、僕たちはショックを受けて下をむく。
だけど、先生の話はそれで終わりではなかった。
「しかし…さっきの映像を見たら考えも変るかもしれない。百年以上も前から止まっていた天女様の動きを見たらおどろくはずだし、できれば次の近海祭にもいかしたいと考えるだろう。残りの時間で動きをかんぺきに再現できるとしたら、しっかり踊りの基本を教えこまれた小椋のお孫さんくらいだろうからな」
最初の言葉ですっかりあきらめていたけれど、今の話で希望がわいてきた。
「言っておくが『もしかしたら』ってことだからな。高宮の曳山はあくまでも高宮の人間のものだ。反対する人が何人もいれば、とうぜん認めるわけにはいかない」
僕たちは長井先生の目をしっかりと見て、うなずいた。
「よし。まずは、ここにいるみんなの意見を聞いてみろ」
「はい。それじゃあ、みんなはどう思う?今の話を聞いて」
「僕はいいと思う」大川俊一がすぐに発言した。それからすぐに「私も」「僕も!」と、卓司と原が続く。僕とライはほっと胸をなでおろした。
「私は反対」
ひときわ強い声が、集会所にひびいた。みんながびっくりして、声のほうにふりかえる。
染井が僕たちを見ている。にらみつけてると言ってもいいほどの、するどいまなざしで。
「染井、どうしてだよ?」
「どうしてじゃないよ。そんな話、おかしいじゃない」
染井の返事を聞いて、僕はますます混乱してしまう。
「『おかしい』ってなんだよ?染井だって、小椋を心配してたじゃん!みんなが賛成すれば、小椋だって元気になるかもしれないんだぞ?」
「そりゃあ、瑠香ちゃんには元気になってほしいよ。でもさ、ずっと曳山に女の子をあげないようにしていたのは、高宮だって同じでしょう?だから私たちだって、いくらサギリの練習をしても曳山にあげてもらえないのに…」
「染井さんも、曳山にあがれないの?」
ライがびっくりしてたずねる。僕と染井は同じタイミングで、首をたてにふった。
「追分町は特別だったんだよ。小椋のおばあさんは貴重な飾りものが外に流れそうになるのをふせいだり、曳山が壊れて困ってる町のために遠くの修理業者を紹介したり、近海祭をすごく助けてきた人だったからね」
「そうだったんだ…」
長井先生の説明を聞いて、ライがだまりこんだ。
「でも、これって染井にとってもチャンスじゃない?もし小椋が曳山にあがったら、染井だってあがれるはずだし」
「だからさ、そういうことじゃないの!」
いいことを言ったと思ったのに、染井はますます怒ってしまった。
「染井の言うとおりだ。誰だって、小椋のお孫さんを元気づけたいとは思っているだろう。だけど長く守ってきた決まりをやぶってしまっては、高宮のご先祖様や将来の高宮の人たちに面目がたたない。だから答えを出す前に、しっかり考えないといけないんだよ」
長井先生の話に、重々しくうなすく。それから染井を見たけど、目をそらされた。
「いちおう、今度の組合で町組の人たちにも話しておこう。だけどさっきも言ったとおり、簡単な話じゃないってことはおぼえておいてくれ」
「わかりました。ありがとうございます」
僕とライが長井先生にお礼を言って、この集まりは解散になった。
家に帰る時、染井は僕たちとは少しはなれて歩いていた。
一人だけちがうことを言ってしまったから、気まずいと思っているみたいだ。みんなも今のびみょうな空気を感じとって、染井に近づけないでいる。
結局、この日はそのままそれぞれの家に帰っていった。僕たちも心に重たい感じをかかえたまま、お屋敷へもどる。
広間に入って腰をおろすと、同時にふうーっと大きなため息がでた。部屋にいた藤彦兄ちゃんと累と結が、不思議そうに僕たちを見た。
「どうした?サギリの練習で、いやなことでもあったのか?」
心配そうにたずねてきた藤彦兄ちゃんに、事情をぜんぶ説明する。
「そりゃあ、とんでもない問題がまいこんだもんだな」
自分も町組のメンバーである藤彦兄ちゃんも、ちょっとこまっているようだった。それを見たライが「ごめんなさい」と言って、しゅんと頭をさげた。
「あやまる必要はないさ。良い部分も悪い部分もあるからこそ、とことん話しあう必要があるんだからな。どうすることが町にとって一番か、全員がなっとくする答えを出さないといけないからな」
藤彦兄ちゃんの話は、なんだか長井先生とそっくりだった。
しんけんな表情の僕たちといっしょに、累と結も藤彦兄ちゃんの話を聞いている。そういえば、この二人だって高宮の子供なんだ。
「累と結はどう思う?小椋が高宮の曳山で踊ったほうがいいか、やめたほうがいいか」
気分を変えたくて、僕は二人にも質問してみた。
「おどってほしい!お祭りでおどる小椋のお姉ちゃん、すごくきれいなんだもん!」
大きな声で、結が言う。
「おどらないほうがいいよ。みんなこまってるし、今のままでもいいじゃん」
今度は累が、結とは逆のことを言った。
「なに言ってるの?おどったほうがいいでしょ!」
「はあ?おどったらダメだよ!」
累が結の肩を押したのをきっかけに、つかみあいのケンカがはじまってしまった。僕とライがあわてて近づいて、すぐに二人をひきはなす。
双子の累と結は考えかたも好きなものも似ているし、ケンカしたことなんてめったになかった。そんな二人の意見がここまではっきりわかれるなんて、はじめてかもしれない。
「どっちかが正しくて、どっちかがまちがっているって言えるような問題じゃないってことだよ。さて…もうおそい時間だ。紀一、二人を家におくってくれ」
「わかった。二人とも、ケンカはもうやめな」
僕は二人の頭にぽんと手を乗せて立ちあがる。
累と結と近づけるのはまだ不安だったから、ライにも一緒にきてもらうことにした。結局、それぞれの手をひいて帰っているうちにもとどおりになったんだけど。
累と結を家にとどけたあと、僕たちはお屋敷までの道をゆっくり歩く。
どこかでサギリの音色が聞こえる。もうすぐ本祭だから、遅くまで練習をしている町があるようだ。いつもは暗い夜の通りも、今はちょうちんの赤い光でてらされている。だけどお祭りが近づいていることが、今の僕たちにとってはゆううつだった。
「カグヤではさ、こんなふうに意見がわかれてもめたりすることはないの?」
「そうだね。すごいケンカになったりとか、ずっと関係が悪くなったりはしないかな」
「へえ。それってやっぱり、カグヤではみんなが家族だからなのかな?」
「どうなんだろう。先生に聞いてみようか」
ライはそう言って、ポケットの中からトントを呼び出した。
「先生。今の話を聞いてましたか?」
声をかけると、トントが人型の先生モードに変形する。ライの手のひらからぴょんと飛びおりて、僕たちに向かいあった。
「聞いていたよ。そして質問の答えはイエスだ。近い環境で育っているカグヤの住民はみんな似ている考えかたや価値観を持っているから、地上よりもずっと争いは少ないんだ」
「でも、意見がちがったりすることはあるでしょう?そんな時はどうやって解決するの?」
「とにかく話しあうんだ。自分の持っている情報や意見の根拠、それに自分の気持ちまでも隠さず伝えるし、同じくらいしっかりと相手の話を聞のがカグヤのルールだ」
「それって、地球でやっていることと同じじゃない?」
「そうかもしれないね。しかしみんなが同じレベルでの生活をおくっている衛星都市では、一方的にかたよったな思考を持つ人はあまりいない。だからカグヤでの議論というのは相手を言い負かすためではなく、おたがいをわかりあうために行うものなんだ」
「だからカグヤだと、話しあいが終わったら前より仲良しになってることが多いんだよ」
ライがとなりから、先生の話につけたした。
「つまり、おたがいのことを思いやっているかどうかが大切なんだね」
「そういうことさ。うまくいくかどうかは、意見をかわす人の心しだいと言うしかないが」
先生のアドバイスを聞いていたら、小椋と染井の顔が浮かんできた。
「ねえ紀一。明日から、学校のあとで小椋さんの家に行かせてもらえないかな。からくりの映像を見せてあげないと、踊りの練習はできないはずだから」
「ああ、そっか」
ライの言うとおりだ。からくり人形の動きが見れるのはトントの中にある動画だけだし、すぐにでも練習をしないと近海祭には間にあわない。
「じゃあ、曲づくりも小椋の家でやるの?」
「そうさせてもらおうと思う。小椋さんには迷惑かもしれないけど、トントをつれていくなら僕もいっしょにいないといけないし」
「そっか、たしかにそうだよね」
その時、僕の中にある考えが浮かんだ。
「ねえ…小椋の家に行くなら、一人だけで行ってみたら?」
「え!」
ライは立ちどまって、大きくひらいた目で僕を見る。
「紀一、どうして?小椋さんとは仲直りしたでしょう?」
「いや、そういうことじゃないんだよ。僕もサギリの練習をもっとしないといけないんだ」
「ああ、そういうことか」
理由を聞いたライは安心して、ふっと口もとをゆるめた。
「僕はだいじょうぶだよ。でも、先生はどう思うかな?」
ライは心配そうに、足もとの先生を見た。
「そうだな…交流プロジェクトのとちゅうであることは忘れてほしくないが、君たちが必要だと思うなら、それもいいだろう。もしもあぶない目にあっても、成人の男性一〇人くらいならトントのガード機能でやっつけることができるからな」
「そうなんだ…」
トントの意外な能力が、また一つ。いつものワンちゃんモードを見ても、もうカワイイなんて思えないかもしれない。
「先生、ありがとう。わがまま言ってごめんね」
「気にしないでいいよ。私はライがこの町でいっしょうけんめい悩み、行動していることがうれしいんだから」
そう言って、先生は通信をとじた。ライはボールになったトントをしまうと、僕を見た。
「じゃあ、これからは別行動が多くなるね」
「そうだね。でも、ライならだいじょうぶだよ」
「ありがとう」ほほ笑むライに安心して、僕は歩きだす。ライもすぐ僕に続いた。
それからお屋敷までの道のりは、二人とも無言だった。
次の日。いつものように授業が終わると、僕とライはすぐに帰りの準備をはじめる。今日も曲づくりをしていくと思っていた女子たちに理由を話していると、同じ場所にいた染井がこっちをじっとにらみつけていた。
この日の夕方から、染井はサギリの練習に参加しなくなった。
その二日後。お屋敷にもどると、いつも役場にいるはずの藤彦兄ちゃんが先に帰っていた。僕たちが広間に入るなり「出かけるぞ」と言って立ちあがる。なんだか怖い顔だった。
僕とライがつれてこられたのは、高宮町の集会所だった。サギリの練習にも使っている一番広い座敷には、町組の男の人たちが集まっている。
町組長である守山さんに長井先生、僕のおじいちゃんに、原のお父さん…さすがにみんなってわけじゃないけれど、一〇人近い町の男衆(お祭りの時は、大人の男の人たちをこうよぶんだ)が、輪を描くようにすわっている。
話しあいのとちゅうだったらしい。お祭りが近いこともあってか、そこにはピリピリした空気がただよっていた。
「紀一もライも、そこにすわれ」
藤彦兄ちゃんに言われて、僕たちは守山さんの向かいにすわることになった。
今年で七九歳になるという守山さんは、高宮町の大ボスって言葉がぴったりだ。大きな体にもしゃべり方にも迫力がある守山さんには、長井先生だって緊張するほどだ。
そんな守山さんが、とんでもなく怖い目つきで僕とライを見ている。僕も体のふるえが止まらなかったし、ライにいたっては歯からガチガチと音がなるほどおびえている。
「お前ら、なんで呼ばれたかわかっとるな」
低い声には、昔の土地のなまりが残っている。
「えっと…小椋の話、ですよね」
「そうや。こんなタイミングで、えらい話を持ちこみよったな」
怒っているんだろうか。守山さんはいつもこんなふうに話しているからわからない。でも、迷惑だと思っているのはまちがいないようだ。
「やっぱり、ダメですか?」
となりのライが、とびきりの勇気を出した。それを聞いた守山さんの顔が、クワッ!とひょうへんする。
「当たり前や!お前ら、近海祭りの五〇〇年をなんやと思うとる!」
「しげっち、きばりすぎやって。怒るところとちがうやろ」
声を荒げる守山さんを、幼なじみであるおじいちゃんがおだやかになだめる。「しげっち」というのは守山さんの名前が「茂雄」だからで、小さいころからそう呼んでるらしい。
「紀一、安心しな。がっかりするのはまだ早いで」
「え?」
さっきの言葉に絶望しかけていた僕とライは、びっくりして守山さんを見た。
やれやれ…とでも言うように、守山さんがぽりぽりとほっぺをかいた。
「まあたしかに、小椋の孫さんの話はかわいそうにも思うしな。それに小椋のばあさんには、祭にかかわる人間みんなが恩返しせなあかんほど世話になっとる。あの人を送り出すってことなら、おれたちだって力になりたいとは思うとるんや」
守山さんの言葉に続くように、ほかの人たちもうなずいた。
「じゃあ、いいってことですか?」
「紀一、今は話を聞け」
わけがわからなくなってたずねると、となりの藤彦兄ちゃんに注意されてしまった。
「さっきも言ったが、本祭に孫さんをあげることは不可能や。本祭の曳山渡り(ひきやまわたり)は、氏神様も見てはる神聖な行事やからな。しきたりをやぶるというなら、しんちょうに考えなあかん。だけどな、今年は本祭じゃなくても渡りをやるチャンスがある。そこにいる、衛星の子のおかげでな」
「ライが?どういうこと?」
びっくりしてライを見る。ライも口をぽかんとあけてるし、よくわかってないみたいだ。
守山さんにかわって、今度は藤彦兄ちゃんが話をはじめた。
「ライの帰る日が本祭の当日だってことは話したよな?じつはその前の日に、軌道エレベーターでおりてきたカグヤの人たちに渡りのデモンストレーションを見せることになったんだよ。しかしその日は夕方が宵山だからな。どこの町組も厳しいみたいで、渡りをする山が決まってない。そこに名乗りをあげるなら、いいんじゃないかって話になったんだ」
僕たちの希望は、意外なところからふってきた。僕もライも、急に瞳を輝かせる。
「だけど、問題はここからなんだ」
藤彦兄ちゃんが話を再開した。
「今の話にもあったが、本祭の前日がいそがしいのは高宮町だって同じだ。男衆がそろうわけじゃないから、紀一にも曳山をひいてもらうことになるだろう。デモンストレーションの会場は琵琶湖畔の広場。エアートラムが琵琶湖に出た場所の近くになる」
ライといっしょに朝日がのぼるのを見た場所だ。歩きならたいしたことはないけれど、曳山をひきながらあそこまで行くのは大変だろう。
しかも、今まで僕はサギリをふいてばっかりだったから、曳山をひくことがどれだけ大変なのかをちゃんとわかっていない。一〇人くらいの男の人たちが毎年へとへとになっていたから、すごくつらそうだなって思っていたくらいだ。
自分もそれに参加しないといけないなんて、考えるだけできんちょうしてしまう。
でも…ほかに方法はないみたいだ。そう思ったら、迷うことなんてできない。
僕もさっきのライみたいにしっかり守山さんを見て、大きくうなずいた。
「よし、ええ度胸や。男衆の少ない渡りはきっついからな。覚悟しとけよ」
守山さんが低い声で言う。思いきって決意したけど、それを聞いて背すじが寒くなった。
用件もすんだということで、僕とライは集会所から解放された。外に出た僕たちはほっと息をついて、顔を見あわせる。
「なんか、大変なことになっちゃったね」
「そうだね。でもさ、小椋が踊れることになって良かったよ」
たしかに。四十九日はだめだったけど、前の日でもおばあさんはいるはずだし、小椋は喜ぶだろう。
ひとまずほっとした。けれど、もう一つの問題を思い出すと胸が苦しくなる。
「どうしたの?もしかして、染井さんのこと?」
するどいライの質問に、僕はだまってうなずく。
小椋のことを相談してからの二日間、染井はずっと集会所に来ていなかった。
「染井があんなこと言うなんて、今までなかったのに…一体どうしたんだろう?」
「小椋さんが言ってたよ。『貴子ちゃんは、私のおばあちゃんににている』って」
道を歩きながらつぶやいた僕に、ライが意外な返事をした。
「ねえ紀一、小椋さんのおばあさんって、染井さんににていたの?」
「考えたこともなかったけど…言われてみたらそうかもしれない。染井もおばあさんも、まわりをすごく大事にする人だったから」
近海祭の昔も今も大切にして、未来のためにきびしい決断をした小椋のおばあさん。そしてまわりのみんなを大切に思ってて、すごく気をつかっている小椋。
小椋があんなことを言い出した理由だって、もしかしたらお祭全体のことを気にしたからなのかもしれない。
くらべてみると、たしかに二人はにているような気がする。おばあさんを近くで見ていた小椋がそう言うんだから、きっとそうなんだろう。
そんな染井が小椋のお願いを受けいれていないって考えると、悲しい気がするけど。
お屋敷に戻ると、ライはすぐに小椋の家へ向かった。そして僕はもう少し休んでから、サギリの練習をするために集会所にもどった。
そこに集まっているメンバーの中には、今日も染井の姿はないだろう。
次の日、僕は暗い気分で登校した。しょうじき、休んでしまいたいと思ったほどだ。
染井はやっぱり、サギリの練習にあらわれなかった。集会所だったら長井先生もいるし、説得できる可能性も高いから期待してたんだけど、結果は思ったとおりだった。
こうなってしまったら、学校で説得するしかない。ほとんど僕だけの力で。うまくいく自信は、はっきり言ってほとんどなかった。
ライといっしょに教室に入ると、すでに染井の姿があった。
僕はカバンを机に置くと、ドキドキしながら染井の席に近づく。心配していたライも、いっしょについてきてくれた。
僕たちに気がつくと、染井はすぐに顔をそむけた。
話しにくくなったけど、話さないわけにはいかない。僕はできるだけ染井の席に近づいて、声をかけようとした。
「…瑠香ちゃん、高宮の曳山の上で踊るんだってね」
僕より先に、染井が話しかけてきた。僕はどきりとして、一瞬言葉をうしなった。
「そ、そうなんだよ。守山さんも長井先生もみとめてくれたんだ」
「知ってる。昨日、原さんがきて教えてくれたから。本祭の前の日に、高宮町だけ曳山をひくことになったんでしょ?」
「うん…」
僕は弱気な声でうなずく。知ってるのにこの反応ってことは、染井の気持ちは変わっていないんだろう。
でも、だからってあきらめるわけにはいかない。
「染井、サギリの練習にきてよ。僕は曳山をひかないといけないし、ただでさえ演奏できる人は少ないんだ。それに、今のメンバーで演奏をリードできるのは染井くらいだし」
「いやだ」
ようしゃのない拒否。染井はふり向き、僕たちを強くにらみつける。
「私はいやだよ。だっておかしいと思うもん。高宮の曳山でほかの町の子が踊ってて、その下でサギリの演奏をするなんて」
染井らしくない言葉だった。僕は染井がそんな発言をしたことにおどろいてしまって、どんな声をかけたらいいのかわからなかった。
「どうして?」
ライが一歩前に出て、染井に聞いた。染井のするどい視線が、ライだけに向けられる。
「なに?『どうして』って」
「ほかの町の人を踊らせるのは、そんなにいけないことなの?困っているなら、ほかの町の人も助けてあげたらいいじゃないか。近海祭は、近海の人みんなのものじゃないの?」
「そうだけど、それだけじゃダメなんだよ。女の子が曳山にあがるのも、よその町の子を曳山にあげるのも、ずっと続いてた決まりをやぶることになるの。そんなことをかんたんにゆるしていったら、近海祭が近海祭じゃなくなっちゃうの」
「どうして?」ライの質問は止まらない。
「そうして決まりばかり大切にしてたら、本当に大切なものをなくしちゃうんじゃない?」
染井がぎゅっとくちびるをかんだ。その顔がみるみる赤くなっていって、ライをにらむ目がうるんでくる。
やばい状況かも…ライを止めようか本気で思った時、意外な声が教室にひびいた。
「ライ君。瑠香ちゃんの言うとおりだよ」
僕とライ、そして染井もびっくりして、声のほうを見た。
「瑠香ちゃん」
染井が最初に口をひらく。
そう、声をかけたのは小椋だった。言いあってるうちに教室に入ってきたらしく、カバンをかけたまま僕たちの後ろに立っていた。
ずっと学校を休んでいた小椋が、なんで教室にいるんだろう?おばあさんを送る近海祭の踊りだって、まだ終わっていないのに。
「小椋さん、本当に来たんだ」
ライだけは、事情を知っていたらしい
「もちろんだよ。貴子ちゃんが反対しているなら、ちゃんと気持ちを伝えないと」
そう言って、小椋は歩きだす。僕の横を過ぎ、ライの横を過ぎ、染井の前で立ちどまる。
「ライ君。貴子ちゃんはね、別にいじわるな気持ちで反対しているわけじゃないんだよ。近海祭をすごく大事にしているから、ずっと続いてきた決まりが崩れていくんじゃないかって心配してくれてるんだよ」
話す小椋はどこかさみしそうな、そして申しわけなさそうな顔をしていた。
「私のおばあちゃんも同じだったの。追分町に踊りができる男の子がいなくなった時、おばあちゃんはすごく悩んで私を曳山にあげることを決めたんだって。『もしもこういう前例ができたら、踊り手がいなくなって曳山が空山になることも少なくなるかもしれない』って。おばあちゃんは染井さんの考えとはちがう形で、近海祭を守る方法を選んだの」
「じゃあ、瑠香ちゃんたちはこう思ってるわけ?『近海祭のこれからのためになるって思ったら、簡単に今までの決まりをやぶってもいい』って」
「そうじゃないよ!」
小椋はすぐに言いかえす。
「おばあちゃんはこうも言ってたの。『決まりを変えていいのは、とても強い愛と覚悟を持っている人だけなんだ』って。おばあちゃんにはそれだけの自信があったし、今それをできるとしたら自分しかいないって思っていたの。私はおばあちゃんにはかなわないけど…今年の近海祭だけは、せいいっぱいの気持ちをこめて挑戦したいと思ってる。神様にだって見せてもはずかしくない踊りをするから、貴子ちゃんにも信じてほしい」
そう言って、小椋は深く頭をさげる。
しばらく染井は無言だった。そして小椋はその間、ずっと頭をあげなかった。クラスのみんなも注目していて、教室じゅうがしんと静まりかえっている。
どれくらい時間がたっただろうか。染井の目にたまっていた涙が一つ、ほっぺをつたって落ちていった。はっとした染井はあわてて目の涙をぬぐって、やっと小椋に声をかけた。
「わかったよ。そんなに強い覚悟があるなら、私もそれを見とどける」
その言葉を聞いた小椋が、すぐに顔をあげた。
「貴子ちゃん、ゆるしてくれるの?」
「本気でやらなきゃダメだからね?もちろん、それは私も同じだけど」
涙でちょっと赤くなった目で、染井はほっとしたように笑った。「うん」とこたえる小椋の声には、明るさがもどっている。
そんな二人の姿を見ながら、ライが不思議そうに目をぱちくりさせている。ゆっくりとふりかえって、頭の上に「?」マークが浮かんでいるような顔で僕を見た。
「たぶん、あの二人はカグヤの人たちと同じことをやろうとしてるんだよ」
「どういうこと?」
「ほら。カグヤの人たちは意見があわないと、おたがいの気持ちをわかりあうために努力するって言ってたでしょう?小椋は踊りをとおして、自分の気持ちを伝えたいって考えたんだ。その願いが、染井にもとどいたんだよ」
腕を組んで首をかしげるライはまだ、かんぺきにわかっているわけじゃないようだ。僕はライの肩にぽんと手を乗せて、とりあえず大事なことを伝える。
「いいんだよ。僕たちの近海祭がうまくいく可能性が、大きくなったってことなんだから」
「そっか。それならよかった」
それを聞いて安心したのか、ライもめいいっぱいの笑顔を見せてくれた。
でも、落ちついてもいられない。僕たちの渡りは、あと三日にせまっているのだから。
しかも…それは同時に、ライと過ごす日も三日しか残っていないっていうことだ。
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