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3章

認定試験

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 大きな太陽からふりそそぐ日ざしが、じりじりと熱い。
 一年を通して寒い気候のアダラ地方にも、つかの間の夏がおとずれていた。ミューイは望楼の上から青々と輝く森を見わたし、静かでもおだやかな夏景色にほっと息をつく。
 この季節が過ぎれば、今の生徒が学舎に入学してからちょうど一年。その間に実技の認定試験を受けることができたのはハナマとジェロイのコンビだけだ。だけどこの試験は大きな危険もともなうため、一年に一組というペースは決して少ないほうではなかった。
 でも今年は、季節が変わる前にもう一組の受験者が出るかもしれない。それは学舎にとって嬉しいことのはずなのに、それを思うだけでミューイは眉をひそめてしまう。
 理由は簡単。その試験を受けるコンビというのが、あの一人と一体だったからだ。
 考えこんでいたミューイの耳に、ざっと木々の波立つ音が聞こえてきた。ふりかえった彼女の目にうつったのはすごい速さで飛んでくるリオンと、その背に乗るアイの姿だった。
「リオン、着地してっ!」
 リオンは望楼の上できりもみ飛行をしてから、かろやかに庭に着地した。アイはリオンの背中からすっと飛びおりると、得意げにミューイを見あげる。
「先生、どうですか?今日の私たちの飛行は?」
「問題はないと思います。スピードも速いし、何よりあなたたちの間でしっかり意思がかよいあっている。しいて言うならば、低い場所ではもっと静かにできたらと思いますが」
「分かりましたあ!だってさリオン、次はもっとがんばろうね!」
 アイがなれなれしく話しかけると、リオンは低いうなり声をあげた。リオンはどこか嫌そうだったが、こうしてアイがすっかり彼をしたがえているところを見ていると、ミューイは今でも不思議に思わずにはいられなかった。
 とにかく今のアイたちにはもう、試験を受ける資格が十分にあることはまちがいない。そして近ごろはますます来る回数が増えているトトラスをはじめ、他の教官や時おりたずねてくる竜交省(コルドワに本拠地を持つ、人間と竜の交流をつかさどる機関のこと。学舎の卒業生のの多くはこの機関に入っている)の役人たちも、試験を受けさせたらどうかと口を出していた。逆にいつまでも迷っていると、彼らに不思議がられてしまうだろう。
(それでも、あの子たちをこれ以上仲良くさせるわけにはいかない)
 ミューイは心の中ではっきりつぶやくと、アイとリオンから目をそらす。
 その時だ。彼女は森の先のジア・フラード山脈の様子がいつもとちがうと気がついた。
 細い形の雲が渦を巻いて、山脈をおおう雲をかこむように集まっている。それを見たミューイの瞳にふと冷たい光がやどり、口もとにはうすい笑みが浮かんだ。
 彼女はすぐに望楼の下を向くと、次の指示を待っているアイの顔をまっすぐ見つめた。
「アイ・メーシェル、そしてリオン。あなたたちにお話があります」
 その言葉にリオンも顔をあげる。一人と一体の視線が、同時にミューイに向けられた。

「そんなに悩むことないって!アイたちなら大丈夫だよ」
 ベンチで頭をかかえているアイを、ハナマが力強い声ではげます。アイはさっきミューイから実技試験の内容を聞かされ、受けるかどうかの選択をせまられていたのだ。
「だってえ、ジア・フラード山脈のどれかの山で一晩を過ごして、レポートを書くんでしょう?そんなの、私たちにできるのかなあ」
「心配しすぎ!しっかり計画をたてれば大変じゃないよ。ジェロイもそう思うでしょ?」 
 ハナマはそう言って、近くの木にもたれているジェロイにたずねた。人間の姿で二人の話をじっと聞いていた彼は、重々しく口を開く。
「アイには悪いけど、僕はよしたほうがいいと思うな」
「えっ…ジェロイ、それってどういうこと?」
「リオンが竜の大使になった理由は僕たちも知らないし、急にアイの言うことを聞くようになったのも不思議だ。彼にはなにか、考えがあるような気がするんだよ」 
 ジェロイの言葉を聞いて、ハナマは不思議そうに首をかしげる。だけどアイはひそかに、ジェロイの直感のするどさに驚いていた。
「二人とも、何をそんなに気にしてるのよ?せっかくのチャンスなのに!」
 思いもよらない話をはじめたジェロイに不安になったのか、ハナマがあわてて口をはさむ。そして今度はアイの気分をかえようと、わざと明るい笑顔でちがう話をはじめた。
「試験に合格したらいいことだってあるんだよ。新しい授業が受けられるし、パートナーと森の外に行けるようにもなるんだから。アイだって、私たちが試験に合格したあとでコルドワまで行ったのは知ってるでしょう?」
 アイはこくりとうなずいた。たしかに二ヶ月前に試験に合格したこのコンビは、ジェロイがずっと人間の姿でいることを条件に森の外へ出ることを許されていたのだ。
 そこでハナマはなにかを思い出したらしく、急に「あっ」と声を出して手をたたいた。
「そういえば、もうすぐアロウル記念日じゃん!つまり、年に一度の聖堂の公開日だよ!」
 その言葉に、アイははっと目をひらく。
「せっかくだから、リオン君にお父さんの絵を見せてあげたら?いい思い出になるって」
 ハナマの声はますますはずんでいたが、アイは返事に迷ってしまう。
「これはアイの問題だ。考えるのを邪魔するのはよくないし、あとは彼女にまかせよう」
「うん…そうみたいだね」
 ジェロイがハナマに話しかけ、先に歩きだす。ハナマもその言葉に賛成すると、ジェロイに続いた。仲のいいこの一人と一体は、これからまた練習に行くようだ。
 ジェロイが竜の姿に戻ると、ハナマがその背中に乗る。飛び去っていく一人と一体を見送ったアイは、すぐにちがう方角を向いた。
「リオン、聞こえてる?」
 空に向かって呼びかけると、一〇秒もたたないうちにリオンがやってきた。
「ねえリオン、話したいことがあるの。人間の姿になってくれない?」
 アイの頼みを聞いたリオンはぷいとそっぽを向く。だけどアイが両手をかざして「ルィラ…」と呪文をとなえようとすると、あわてて人間の姿になった。
「リオンもさ、さっきの話を聞いてたでしょう?」
 少年の姿になったリオンは不満そうな表情でうなずいた。竜は耳がきくらしく、集中すればここからバルム山にいる鳥のさえずりまで聞くことができるという。
「お前とジア・フラードで過ごすなんて、俺にとってはありがたい話だ。ほかにどんな魔法を隠しているのかしらないが、あんなに厳しい環境の中ではひ弱な人間のお前は力を発揮できないだろうからな」
「そうだね」
「なのに、ミューイはよけいなことをしてくれた。選ばせるなんてことをせず、むりやりにでも試験を受けさせたらよかったのに」
 リオンはくやしそうにくちびるをかみしめる。リオンはアイがこの試験を拒否すると確信しているようだ。そんなリオンを前に、アイは思いきって話しかけた。
「リオン、私…試験を受けることにする」
 それを聞いたリオンは目を丸くして、何も言わずにアイを見つめた。驚いてしまって、すぐには言葉が浮かんでこないようだ。
「本気なのか?アイ・メーシェル」
 アイが迷うことなくうなずくと、リオンは続けて「どうしてだ?」と聞こうとする。けれど真剣なアイの顔を見て、ひらきかけた口をとじた。
「まあいい。どんな狙いがあるのかはしらないが、俺にとっては都合のいい話だ。その時を楽しみしているぞ」
 そうつげるリオンの瞳の奥で、危険をあらわすように赤い光がともる。アイはこみあげてくる不安や恐怖にたえて、そんなリオンの顔を見つめかえすのが精一杯だった。

 それから五日後、アイたちはいよいよジア・フラードに旅立つことになった。
「つらいと思ったら、迷わずに引きかえしてきなさい。課題の成功をあせっては、思わぬ危険をまねくことになりますからね」
「そうしたら、また試験をやり直させてくれるんですか?」
「いえ。失敗すればあなたたちは適正なしと見て、コンビを解消してもらいます」
 めずらしくミューイが親切な声をかけたと思ったら、次の言葉はやっぱりようしゃがなかった。アイは肩を落として、ミューイから顔をそむける。
「それでは、これよりリオンとアイ・メーシェルの認定試験を開始します!」
 ミューイの言葉を合図に、リオンが力いっぱい翼を動かす。風を受けた校舎の窓がガタガタ音をたて、庭をかこむアダラ杉が大きくかたむいた。
 荷物の重さでいつもより苦労しているようだったけど、リオンのはばたきは力強く、すぐに上昇気流をとらえて空高くへのぼっていく。あっという間にアイたちの前にジア・フラード山脈がせまり、視界をおおいつくしていった。
 アイたちは今回の試験の目的地を、何度も来たことがあるバルム山の山頂にしようと決めていた。この山はアダラの森から一番近いし、標高だって山脈のどの山よりも低い。つまりけわしいジア・フラード山脈の中では、山頂に行くのがもっとも簡単なのだ。しかし余裕だと思っていたアイは少しずつ、様子がおかしいことに気がつきはじめていた。
 標高が高くなるとリオンのはばたく回数がふえて、体もぐらつくようになる。雲のせいで視界が悪くなるにつれて、気流もますますひどくなってきた。
 バルム山の山頂にはたいらな場所が少なく、無理に着地しようとすればリオンがバランスをくずしたり、最悪の場合は斜面を転げ落ちてしまうかもしれない。山頂に近づくと、山からはねかえる気流で彼の飛行はもっとあぶなくなってきた。
「リオン、山頂からはなれて!バルム山はあきらめよう」 
 今の状況を見きわめて、アイがリオンに指示を出す。リオンもよほど厳しいと判断したらしく、めずらしくアイの言うことを聞いて山頂からはなれた。
 バルム山が遠ざかると気流も弱くなる。飛びやすくはなったけれど、今度は別のおりる場所を探さないといけなくなった。
 この先につらなる山々はいっそう高く、アイたちをおどかすようにごつごつした岩肌をあらわしてくる。その姿はもはや人間どころか、すべての生き物をこばんでいるようにさえ見えた。それでもリオンの飛行はさっきよりも安定しており、すぐにバルム山の一つ奥にあるログ山の頂上が近づいてきた。
「リオン、この山にしよう!」 
 アイが指示を出した時にはもう、リオンは翼をとじて着地の姿勢にはいっていた。彼の爪はしっかりと岩肌をとらえ、今度こそ無事に山頂におりたった。
 山頂の気流は確かにはげしいが、バルム山の近くほどではない。だからリオンも気流の動きを読んで、スムーズに着地することができたんだろう。
「どうしてここの気流は弱いんだろう。高い場所のほうが激しくなる気がするんだけど…」
「ちがうな」
 アイの言葉を、すぐにリオンが否定する。大きな体で風に当たるよりはいいと思ったのか、着地した彼はすぐに人間の姿に変わっていた。
「ここの気流が弱いのではなく、バルム山の気流が強かったんだ。渦雲が出ていたからな」 
「渦雲?何それ」 
「夏のジア・フラードでたまに見られる現象らしい。色んな方角から吹く気流がジア・フラードのまわりで入りみだれ、はね返るから渦をまいたような形の雲ができる。そんな時は雲の中のほうが気流が安定しているんだ。そんなことも知らなかったのか?」
「そんな言い方しなくてもいいでしょう?ミューイ先生も気がつかなかった現象を、私が知ってるわけないじゃない!」
「何言ってるんだ。ミューイは渦雲があるのを知ってて、わざと俺たちを行かせたんだよ」
「えっ…わざと?どうして先生がそんなことをしないといけないのよ」
「この気流におそれをなして、すぐにあきらめると思っていたんだろう。ミューイは俺たちのコンビを解消させたがっていたからな」
 リオンは平然と言ったけど、それを聞いたアイはこみあげてくる怒りに体を震わせた。
「ひどいよ…それだけの理由で、私たちをあんな危険な目にあわせるなんて」
 こうなったら、絶対に試験を成功させよう。アイは決意して、やる気をみなぎらせた。
「リオン、がんばろうね!私たちで力をあわせて、ミューイ先生をくやしがらせよう!」
 アイは力強い声で言い、リオンを見る。だけどリオンはうんと腕を伸ばしながら、大きなあくびをしていた。がっかりしたアイはリオンにぷいと背中を向けて、一人で歩き出す。
 最初にやらなければいけないのは、一晩をすごす拠点をととのえることだ。そう考えて山をくだったアイは、しばらく進んだ所に大きな岩がつみ重なった場所を見つけた。風もふせげそうだし、テントをはるにはちょうど良いかもしれない。
 かたい地面に固定するための杭を打ち込むのは大変だったけど、おかげでまあまあ住み心地の良さそうな拠点ができたと思う。満足したアイは残りの荷物をテントの中にしまうと、山頂をめざして歩く。
 そんなアイの視界のすみで、ちらりと青い光がまたたいた。
 よく見ると、それは小さな石ころだった。でも色は深い青で、表面はつやをおびている。
 この瞬間からアイの目には、その石ころしか入っていなかった。もっと近づこうと、もやに包まれた地面の上を一歩・二歩と進む。
 あと少しで手が届く。アイは夢中になって最後の一歩をふみ出した…その時だった。
 地面をふむはずだった右足が、とつぜん空をきって落ちていく。不吉な感触にぞっとした時にはもう、アイの体はバランスを崩してどうしようもなくなっていた。
 石ころの横が急な斜面になっていて、足をふみはずしてしまったらしい。彼女の体はかたい岩に何度も打ちつけられながら、けわしい斜面をころがり落ちていった。
 ぶつかった岩のはしをとっさにつかみ、なんとか止まることができた。だけど下には足をかけられるような場所もなく、自分の力で戻るのは無理みたいだ。
「リオン!来てーっ!」
 アイはとっさに口をひらき、大きな声をあげる。だけどそのすぐあとで、全身にぞっとさむけがはしった。
 急に思い出したのだ。リオンはこの試験を、復讐のチャンスだと思っていたことを。
 悲鳴のようなアイの声を聞いたリオンは、すぐに姿をあらわした。力強く翼を動かす姿は、いかにも殺(や)る気十分!といった感じだ。身動きがとれず、もちろん魔法を使うこともできない今のアイは、リオンにとっては絶好の標的にちがいない。
 リオンの爪がせまる。最悪の展開がよぎり、アイは思わず目を閉じる。
 すぐに強い衝撃がはしり、両手が岩からはがされた。だけど、それ以上の痛みはおそってこなかった。
 おそるおそる目を開けたアイは今、もやにつつまれた空の中にいた。意外なことに、リオンが彼女を運んでくれていたらしい。
 リオンはアイを落ちる前と同じ場所におろすと、すぐに人間の姿になった。アイは彼の行動が信じられず、パチパチとまばたきをくり返す。
「リオン…どうして助けてくれたの?私をたおすチャンスだったのに」
 不思議に思ってたずねると、リオンはどこか恥ずかしそうにぷいと顔をそらした。
「身動きさえできないお前をたおしても、気高い父上の魂は喜びはしないだろう。それにお前には、一つ聞いておきたいことがある」
「聞いておきたいこと?」
 命を救うほどリオンが聞きたかったことってなんだろう?気になったアイはすぐにたずねようとしたけれど、その前にリオンが口を開いた。
「それより、どうしてこんなことになった?ふらふら歩いてて、足でもふみはずしたか?」
 子供をしかるような厳しい声だった。だけどそれを聞いたアイは大事なことを思い出して、ぱっと目を丸くする。
「そうだ!私、ルルノア鉱石のかけらを見つけたの。確かあのへんに…あ、あった!」
 アイの視線の先にある石に気がついて、リオンはすぐに歩き出した。アイのように足をふみはずすこともなく、あっさりとひろいあげて戻ってくる。
「なんだ、こんなものがほしかったのか?」
「こんなものって…ルルノアはただの石じゃないんだよ!青い色の原料になるんだから」
「何を言い出すのかと思ったら、やっぱり絵の話か」
 リオンはあきれたように言うと、ルルノア鉱石を斜面に向かってほうり投げてしまった。
「あーっ!なんてことするの?すごく貴重な石なのに!」
「貴重?俺にはそうは思えないんだが」
 それを聞いたアイは不思議そうにリオンを見た。その姿に、リオンはまたため息をつく。
「いちいち説明するのは面倒だ。耳をふさげ」
 いきなりの言葉に驚きながらも、真剣なリオンの目を見たアイはあわてて耳をふさぐ。
 リオンの瞳が赤く光る。次の瞬間、全身がじんとしびれるほどの激しい音が響いた。近くで巨大な岩がはじけとんだらしい。
 音をたどって斜面をおりていったアイは、その光景を前にして立ちつくしてしまう。
 リオンは魔法を使って、山の表面をけずりとったようだ。しかしむき出しになった山肌は青く、つややかに輝いている。それは巨大なルルノア鉱石のかたまりだった。
 ジア・フラードがさまざまな鉱物のとれる場所だとは知っていたけれど、こんなに大きなルルノア鉱石が眠っているとは思っていなかった。最初は驚きで声もでなかったけれど、時間がたつうちにアイの中に感動がこみあげてくる。
「すごいよリオン!こんなこともできるんだね」
「竜の直感を甘く見るな。これくらいは楽勝だ」
 アイが声をはずませてほめると、リオンも得意そうにふんと鼻をならす。
 …だけど、この時アイたちは気がついていなかった。ルルノア鉱石が姿を見せたこの場所は、実はアイがテントを置いた所。そしてリオンは今の魔法で、アイのテントやたくさんの荷物も一緒に吹き飛ばしてしまったということに。

 山頂は昼間でも夏とは思えない寒さだったが、日が沈むとさらに気温が下がってしまう。
 そんな状況の中で、寒さをしのいでくれるはずのテントもない。アイは今や命のともしびとも言えるたき火の炎にあたりながら、保存食の紙パンをもくもくと口に運んでいた。
 ふと顔をあげたアイの前にあるのは満天の星空…ではなくリオンの顔だった。
「リオン、火が弱くなってきたよ」
 命令されたリオンは「ぐぅ」とくやしそうな声をだすと、魔法で炎を強くする。
 さすがにリオンも責任を感じたのだろう。アイの荷物を岩と一緒に吹き飛ばしたことが分かってから、この一人と一体の関係には変化が生まれていた。夜になるとリオンはアイのために火をおこし、翼を広げて風をふせいであげていたのだ。もっともその前に、アイは魔法の電撃を何発もリオンにあびせていたのだが。
 原因はリオンの魔法なんだし、そうするのも当然だとアイは思う。それでも一人で食事を続けていると、飲まず食わずで風を受け止めているリオンが可愛そうになってきた。
「ねえ、リオンも紙パン食べる?まずいけど」
 そんな思いから聞いてみたけれど、リオンが首を横にふるのを見て(やっぱりな…)と心の中でつぶやいた。竜の食事がすごく特別なのは、授業でならっていたはずなのに。
 その時だ。リオンがふと首をあげ、空をあおいだ。一体何をするんだろうかと、アイも顔をあげてリオンの様子を見守る。 
 やがてアイの耳に、不思議な音が聞こえてきた。山頂のすんだ空気にゆっくりとしみわたるような、きよらかで美しい音色だった。すると吹き続けていた風がやみ、目の前の炎がみるみる小さくなっていった。授業でならった竜の性質を思い出し、アイははっとする。
 アイは気がついた。(これはリオンの歌声だ。そして彼は今、人間でいう食事をはじめたところなんだ)と。
 竜はほかの生き物のように、ものを食べたりしない。かわりに歌や踊りによってまわりの精霊たちと交信し、生命力をあたえてもらうそうだ。風がやんだりたき火が小さくなったのは、リオンにエネルギーを送るために精霊たちが活動をおさえたからだろう。
 「竜は自然界のあらゆる精霊の祝福を受けて生まれ、またそれによって生かされている存在である」ミューイから教わった言い伝えを、アイははじめて実感していた。
 遠ざかる風が霧をつれていったようだ。アイたちの頭上の雲がはれ、満天の星空が姿を見せた。天空にちりばめられた光がふりそそぎ、歌うリオンの銀色の肌をほのかにてらす。その姿は息をするのも忘れて見とれてしまうほど、神秘的で美しかった。 
 しばらくするとリオンの歌はやみ、炎がもとのいきおいをとり戻した。
「竜って本当に、すごい存在なんだね」
 首をさげたリオンに向かって、アイはしみじみとつぶやいた。
 リオンのあきれた顔か、または憎らしいほど得意そうな笑顔が頭に浮かぶ。けれど、そう伝えずにはいられなかった。それほどアイには今のリオンの歌声が美しく、星空にてらし出された姿がまぶしかったのだ。その姿を思い出したアイはうつむき、また口をひらく。
「ねえ。もしも竜と分かりあえたら…人も竜みたいにもっと強く、美しくなれるのかな」
 アイはひとりごとのような小さい声で言うと、たき火の炎をじっと見つめた。
「ありえないな、それは」
 突然の言葉に、はっと顔をあげる。炎の向こうで少年の姿のリオンがこっちを見ていた。
「なぜなら人間たちは、自分からそのチャンスを捨ててしまったのだから」
「自分から?ええっと…それってどういうことなの?」 
 炎でうっすら赤くそまったリオンの顔が、ふとけわしくなった。彼はその真剣な表情のまま、ゆっくりと話しはじめた。
「竜の国でずっと昔から語られている言い伝えだ…その話によると、このあたりはかつて何もない平原だったらしい。ただ特別なのは、そこがちょうど人と竜がはじめて出会った場所だということだ。竜を知った人間はその力を求め、そして神の使者であった竜も与えうるもののすべてを与えようとした。人間と竜は力をあわせて舞台をつくり、両者はそこで出会うようになった。そこで竜は人間たちに主たる神の存在や、自然界の精霊がもたらす魔法といったさまざまなことを教えたそうだ」
「へえ…でもさ、竜はいつもの姿じゃ人間の言葉を話せないんでしょう?どうやって神様や魔法のことを伝えたの?今のリオンみたいに、人間の姿になって話をしたのかな」
 アイが聞くと、リオンは首を横にふった。
「音楽や踊りを使って伝えたらしい。竜は音の旋律や体の動きに意味をこめ、理解できたごく一部の人間たちがそれをまねて多くの人間たちに教えたそうだ」
「そうなんだ。じゃあ、音楽や踊りはもともと竜が人間に伝えたものなんだね」
「ああ。竜は人間への協力をおしまなかったばかりか、みずからの体を使って楽器をつくり、与えたそうだ。こうして竜が教えた知識は人間の世界へ広がっていった」
 リオンはそこできっと目を細めて、「でも」と話を続けた。
「こうして人間の世界は豊かになっていったが、やがてさらなる豊かさを求めて争いが起こるようになった。すると人間の中には竜に敵対する人間を皆殺しにするよう頼んだり、竜の体から武器を作ろうとするものまで現れたという。困りはてた竜が神におうかがいをたてると、怒った神は人間と竜の世界の間に巨大な山をつくり、人間をしめだしてしまった。それが今のジア・フラード山脈だという…そんな話だ」
 長い話を終えたリオンが、ふうと息をつく。その顔を、アイはじっと見つめた。
「知らなかった。人間と竜に、そんな過去があったなんて」
「ああ。たんなる伝説だと思っていたが、お前に会って考えが変わった。人間の中でも魔法が生きているってことは、本当にそんな歴史があったのかもしれないな」
 真剣なリオンの言葉にうなずくアイ。だけど今の話を聞いたアイの心にはなんだか引っかかるものがあり、しばらくだまって考えこんでいた。
「ああっ!」
 アイはいきなり大きな声をあげると、キラキラ輝く瞳でリオンを見つめた。気味が悪いと思ったリオンは体を後ろにそらし、少しでもアイから距離をとろうとする。
「ど、どうしたんだよ」
「今のリオンの話で思い出したの。小さいころにお父さんから聞いた…」
 しかしアイはふたたび「あっ」と声をあげ、すぐに口をふさいだ。リオンには父親の話をしてはいけなかったと思い出したからだ。
 だけどリオンは炎ごしにまっすぐアイを見つめるだけで、何をする気配もない。その様子はなんだか不気味で、声をあげて怒られるよりも怖いと思った。
 少し間をおいて、リオンが口をひらく。その言葉は、アイにとって意外なものだった。
「お前は知っているか?『竜と絵描きは世界で一番仲が悪い』と言われている理由を」
「えっ?…さあ、くわしい理由までは知らないけど」
「それは二つある。その一つが、絵描きの好奇心があまりにも強いことだ。あいつらはめずらしい物や心をひかれる物については激しく興味を持ち、執念深く追求する。しかもそれを絵にしてしまうんだから、俺たち竜にとってはまったく厄介な存在だったんだ」
「そうだったんだ、ごめんね」
「なんでお前があやまるんだ。それよりも、教えろ…お前はどうしてこの試験を受けた?」
 はりつめたリオンの声を聞いて、アイはさっき助けてくれた時の言葉を思い出す。もしかしたらこれが、あの時に彼が言っていた「聞きたいこと」なのかもしれない。
「俺と一緒にこんな場所まで来てしまえば、無事ではすまないと考えるのが普通だろう。それでも試験を断り、コンビを解消するほうを選ばなかったのはどうしてだ?お前はそうまでして、俺のたてがみがほしいのか?お前の父親もそうだ。絵描きっていうやつはみんな、知ることや描くことのためなら何もかも投げ出せるのか?」
 言葉をかさね、炎の先からじっとアイを見つめるリオンの瞳は、竜の時よりも赤い。
 アイはその赤色の中に、リオンの絵描きに対する怒り、そして理解できない相手に対する恐れを見たような気がした。返事によっては今度こそ自分におそいかかってくるかもしれないと、ひそかに怖くなるほどだった。
 だけどリオンが言うとおり、危険は最初から覚悟していた。今がその理由を伝える時かもしれない…そう感じたアイは、リオンに負けない真剣なまなざしでこたえた。
「もちろん私は、リオンのたてがみがほしいよ。そしてお父さんの筆をなおして、絵を描いてみたい…だけどその前に、やらないといけないことがあるってわかったの」
 言い終えたアイは服の裏から竜牙の筆軸を取り出し、二人をへだてる炎の上につき出した。リオンは不思議に思いながらも、立ちあがって手を伸ばす。
 ばちばちと音をたてるたき火の上で、リオンの指が筆にふれようとした…その時だった。
「ちょっと待って。その前に、お願いがあるの」
「お願い?」
「そう。この筆はリオンにかえす。でもそのかわり、私にお父さんの話をさせて」
 リオンは顔をしかめたが、アイにはよほどの覚悟があると気づいたらしい。「分かった」としんけんな声でこたえると、今度こそ筆を受け取る。アイは小さくうなずき、口を開いた。
「お父さんは私が五歳の時に行方不明になっているんだ。だからお父さんが本当に良い人だったかどうかなんて、はっきりしたことは言えないのかもしれない。それでもお父さんのことを信じたいって思うのは、お父さんが私にこの名前をさずけてくれたからなの」
「名前?アイっていう、その名前がか?」
 予想外の答えに、リオンは思わず聞き返す。アイは首をたてにふった。
「『あい』っていうのは『海をへだてた遠い世界』のとある国の言葉で、二つの意味があるんだって。一つはね、その国で一番深い青の名前」
 そう言うとアイは遠くをながめるように目を細め、そっと胸に手をあてた。
「お父さんはよく風景を描いていて、青は一番好きな色だったの。だからいろんな世界の青を知ってて、その中で特にきれいだと思った色の名前をつけてくれたんだって」
 それを聞いたリオンは何かを思い出したのか、ふと下を向いて考えこんだ。だけどすぐにまた顔をあげて「それで、もう一つの理由は?」とたずねた。
「それはね、その国で一番とうといって言われている気持ちのことなんだって」 
「一番とうとい気持ち?」
「そう。誰かのことをすごく大切だって思ったり、そのためならどんなことでも犠牲にできるっていう気持ちのこと。それを『あい』って言うの」
「誰かを大切に思ったり、そのためならどんなことでもできる気持ち…」
 リオンはアイの言葉をくり返し、ふたたび黙りこむ。自分たちの国にはそんな感情をあらわす言葉があっただろうかと、記憶をさぐっているようだった。
「たしかに私は、お父さんとの思い出があまり多くないのかもしれない。だけどこの名前をおくってくれただけでも、私を大切に思ってくれたんだって信じられるんだ」
 そう話すアイの瞳には、さっきまではなかった力強い光がやどっていた。
「だから私は信じてる。お父さんは絶対に、筆をつくるためにリオンのお父さんのことを殺したりなんかしないって。それを伝えたくて、私はあなたとここに来ようって決めたの。ただ言うだけじゃ、きっと伝わらないって思ったから」
 言いたいことはすべて言った。アイはもうこれで十分だというようにふっとほほ笑み、口を閉じる。これでリオンが分かってくれないのなら、復讐されてもしかたないと思った。
「そうか。それがお前の本当の気持ちなのか」
 炎の先からリオンの低い声が聞こえる。彼の瞳が赤くゆらめいたように見えて、アイはごくりとのどを鳴らした。リオンの口がふたたび、ゆっくりとひらいていく。
「俺も、青は好きだ」
「えっ?」
 リオンは驚くアイから目をそらし、右手の筆をじっと見つめる。そして今までアイが聞いたこともないような、おだやかな声で話をはじめた。
「もう百年以上になるかな…俺が飛び方を覚えて、ようやく大人の竜と同じくらいに行動できるようになったばかりの時。父上がとつぜん、俺を旅につれて行ってくれたんだ」
「そうなんだ。いいね、楽しそうで」
「お前…言っておくが、これはただの親子が出かけるのとはわけがちがうんだからな!なにせ俺の父上は、偉大な竜国の王だったのだから!」
 リオンは必要以上に大きな声でどなる。子供みたいにむきになっている所を見ると、よほど大事な思い出のようだ。
「俺には兄や姉がたくさんいたし、そうでなくても父上はすべての竜をおさめる存在だ。だからあの方は俺にとっては父というより、あまりに偉大で遠い、永遠に届かない目標みたいな存在だったんだ。だからその朝、俺の前にいきなりあらわれた時は本当に驚いた」
 それからリオンはゆっくりと、その時の出来事をアイに語りはじめた。
 …リオンの前に現れたセフィロスは何かを伝えるように彼の瞳をじっと見つめたあと、空高くへ飛びあがる。自分を呼んでいるんだとすぐに分かって、リオンもあわてて翼をひらく。父の姿はすぐに、空をおおっていた厚い雲の中へ消えた。
 父上は自分をどこへつれて行くつもりなんだろう…疑問に思いながらもリオンはその後姿を必死に探し、追い続けた。やがて気流が弱くなり、目の前が明るくなってきた。
 大空へ出たリオンが下を見ると、たった今自分の力でとおりぬけた雲が広がっていた。はてしない白い平原が、のぼりはじめた太陽の光をあびて輝いている。
「いいぞリオン。一人前に飛べるようになったという話は本当だったのだな」
 セフィロスが竜の言葉で話しかけてくる。だけどリオンはその姿を見あげるばかりで、返事をすることもできなかった。
「緊張するのも仕方がないな。お前とは今まで、ゆっくり言葉をかわすことさえなかったのだから。ところでリオンよ、お前は海を見たことがあるか?」
「…うみ、ですか?」
 リオンはセフィロスの言葉をくり返すと、大きく首を横にふった。
「そうか。竜国の中心で生まれ育ったお前は知らないだろうが、海とは地上とは異なる生物が暮らし、天上界とは異なる神々がおさめる世界のことだ。ちょうどいい。一人前の竜となるために、お前もより広い世界を見わたせなければいけないのだからな」
 そう言うとセフィロスはリオンに背中を向け、東の方角へ飛びはじめた。
 セフィロスのたてがみはリオンよりもずっと長く、朝日をあびてなお美しくきらめいている。風になびいてゆらめくたびに、ちらばった光の粒が下界へとふりそそがれるようだ。 
 リオンはその姿に見とれ、さっきよりも夢中で追いかける。そうしているうちに、はてしないと思っていた雲の平原が信じられない速さで流れていった。
 やがてどこまでもまっ白な世界の向こうに、どこまでも青い世界が見えてくる。とぎれた雲の下には、空とはちがう青一色の空間が広がっていたのだ。
「これが、海というものなんですね」
 リオンの言葉を聞いて、セフィロスは長い首を動かしてうなずいた。
 リオンは瞳を輝かせ、このまっ青な世界にじっと目をこらす。すると青一色だけだと思っていた海の上に、小さい白い線のようなものを見つけた。
 どうやらその白い線は、ゆっくりと移動しているらしい。一番先には大きな白い布を広げた、木の切れはしみたいなものが浮かんでいる。
「父上、あれは一体何なのですか?」
「あれは帆船といって、人間が海をわたるための乗り物だ。あの白い布に風を集めることで、遠くまで進むことができるのだ。あれはきっと、大陸の外を調べに出た調査船だろう」
「調査船?どうして人間は調査などをしているのでしょう?」
「それは彼らが宿命的に持つ、見知らぬものへのあこがれのせいではないかな」
 そんなセフィロスの返事を聞いたリオンは、いかにも不満そうにグルルと声をあげる。
「迷惑な連中ですね。そんな理由だけで、命がけでよその世界にふみこむなんて」
「かもしれないな。彼らは世界を広げることで侵略の手を伸ばしたり、新たな争いを起こす可能性だってある。しかも彼らは同じあやまちをくり返す、困ったくせがあるからな」
「なんてやつらだ。ほうっておけば、いつか竜国へもやって来るのではないですか?面倒なことになる前に、こっちからせめて滅ぼしてやれば良いのではないでしょうか」
 今のリオンの言葉を聞いて、セフィロスの雰囲気ががらりと変わる。彼のまなざしには今までの優しい感じだけではなく、厳しさがはっきりとあらわれていた。
「いいかリオン…確かに我々竜は、人間たちをはるかに上回る力を持っている。しかし、だからこそ冷静になり、彼らのあこがれが向かう先を見守らなければならないのだ」
「そんな!僕たちが彼らを見守ることに、一体なんの意味があるんですか?」
「確かに人間はか弱く、おろかな部分も持っている。しかし彼らはそのあこがれる心によって思いもよらないことをなしとげたり、我々にはないものを作り出すこともある。決して悪い部分だけではないのだよ」
 セフィロスは視線を再び海の上の帆船に向けた。つられるように、リオンも下を向く。
 船の動きはリオンの目にはほとんど変わっていないと思えるほど遅い。あんな頼りない力だけで、人間たちは本当にこのはてしない海をこえようとしているんだろうか。しかも進む先には、何が待っているかも分からないというのに。
「強すぎるあこがれは、時に大きな迷いやあやまちを生むことがある。人間はそれを何度もくり返し、それでもあこがれを捨てることができない生き物だ。その姿は気高くあろうとするほどにおろかだが、時に輝いて見えることもあるという」
「本当なのですか?僕には想像できませんが」
「それは人間とかかわってみないことには分からないだろう。いつになるかは知らないが、リオンにもきっとその時が来るはずだ」
 そこまで言うとセフィロスはふと顔をあげて、すっかり高くなっている太陽を見あげた。
「こんなに時間がたってしまったか…なごりおしいが、そろそろ戻ろなければ」
 セフィロスはそう言って、西の方角へ飛びはじめた。リオンもここを離れるのが残念だったが、自分のわがままでセフィロスに迷惑をかけるわけにはいかなかった。
 きっとまた来ることができるだろう。そう信じて、彼も父親を追って翼を動かした。
「…でも、その時は来なかった」
 ぼそりと口にすると、リオンは悲しげに瞳をほそめた。
「あれから俺は修行のために国の中心をはなれたし、父上もあいかわらずいそがしい日々を送っていた。共に飛ぶ日が来るどころか、ゆっくりと言葉をかわすことさえないまま月日が流れた。そして父上は突然命を落とし、安息の地へとめされてしまったんだ」
 話を終えたリオンは再び筆の軸を見つめて、ふっとため息をついた。
「やれやれ…俺としたことが、しゃべりすぎてしまったようだ」
 言葉とは反対に、リオンの表情はどこか晴れやかに見えた。それから彼は立ちあがり、右手の筆をアイにさし出した。アイは驚き、リオンを見たままかたまってしまう。
「かえすわけではないぞ!竜の姿で筆を持つのは面倒だから、お前が大事に持っていろ」
 たき火にてらし出されたリオンの顔が、少し赤くなったような気がした。だけどそれを確かめる間もなく、筆をわたしたリオンは竜の姿へと戻っていく。そしてアイには立派に見える翼を開き、彼女と火を風から守るように包みこんだ。
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