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レイモンドの揺れる心

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晴れて婚約者と公に発表された2人はその後も忙しく毎日を過ごしていた。

シルビアは公爵夫人となるべく、公爵家に通いながら
教育を受けていた。

レイモンドは宰相でありアレクセイの側近である為、王宮に上がらない日は無い。

2人が顔を合わせる事はほとんど無い日々が続いている。

今は目前に迫る国際会議の段取りに追われている。

『ダリス大王国は国王夫妻では無く、第一王子か?』

アレクセイは出席者リストを確認しながらレイモンドに問う。


『そうだね、王子が産まれて間もないという事で
第一王子のフリードリヒ殿下が出席されるとの事だよ。』 


書類に目を通しながらアレクセイの問いに答えるレイモンド。


『そうか、直接オッドアイが拝見できると思ってたんだが』

残念そうなアレクセイは優雅にお茶を飲む。
ジロリと睨み直ぐに書類にむかうレイモンド。


『いつか、見られるでしょう。そんな事よりこちらはどうされますか?』

いい加減仕事しろよ‥の意味を込めて側近らしく振る舞うレイモンドに

『レイ、夜会のドレスは贈ったのか?』

レイモンドはあからさまに嫌悪感を出し


『そんな事は、』


『どうでも良くないぞ。我が国の夜会ではなく、他国の王族も参加する夜会だ。国際的にもレイが妻帯する事を知らしめる意味でもあるさ。』


‥国際会議の、夜会をそんな事に使うなよ‥


『婚約者とは名ばかりで一緒に過ごす時間もないのであろう?他国の王子に攫われるよ!うかうかしてたらさ。』


『あいにく、シルビアとの時間を確保出来ぬ程忙しい故。今も2人で取り掛かれば早く終わるものを私一人で取り掛かっておりますのでね!今日も帰れるかどうか‥』


嫌味をぶっ込むレイモンドにアレクセイは


『それはいけない。あまりに早くに終わるとレイが時間を潰すのに大変だと、これでも気を使っていたのだよ。だってあれほどまでに会う事を躊躇っていたからね。』




『何?会いたくなったの?シルビア嬢に』


ニヤリと笑いレイモンドを覗き込むアレクセイ。

『アレク1人には任せられないからね。』

『レイ、お前が先程から格闘している案件だが、私ならば後5件程決裁できるよ?これでも国王だからね。帰りたくないのなら仕方ないが、公爵家に帰ってシルビア嬢とひとときを過ごしたいなら、早く帰れ!』


そう言うと、レイモンドの前に積み上がる山の様な書類を抱え、執務室を出て行った。


‥アナスタージアに託すのか?



レイモンドは失笑しながらも執務室を出て馬車に乗り込んだ。


公爵家ではいつもよりかなり早い帰りのレイモンドに驚き、それでも公爵家、何事も無いかの様に広い廊下に使用人らがズラリと並ぶ。

執事の1言。

『お帰りなさいませ。』

この声が響き渡ると一斉に頭が下げられる。
頭が空を切る音のみが響き渡る。シルビアは目を丸くしそれに従う様に頭を下げた。


レイモンドは軽く手を上げて部屋に戻る。
その後ろでシルビアは先程の行動に指導を受けている。

レイモンドが早く帰ってくる事など滅多に無い為、まだ習って居ないのだろう。
シルビアは真剣に話しを聞いて頭に入れている。


くだらん。


そう思って溜息をもらした時、不意にステファニーの1言が頭を過る。


【まずは己を大切に己の引き出しにしまい込む。
そしてただひたすら王太子妃教育を全うする事。
時には理不尽に感じる事もあるし、自分の思いもあるだろうと。】
そしてステファニーはこうも言った。

全てを吸収したら、大切に閉まってある引き出しの己、自分自身と合わせるのだと。


‥だから人形なのだと。
アレクセイはステファニーがまだ人形の時にステファニーを捨てた。

シルビアも今はお人形なのか?黙って耐えて吸収してるのか?己を引き出しに閉まっているのか?


次々に頭を走りまわるクエスチョンを払いのける様に頭を振り、振り返りもう一度シルビアを見た。

そこには、既に誰も居なくなったエントランスホールにただ一人頭を下げ、軽く微笑む練習を何度も繰り返すシルビアが居た。

時に手を額に当て、何やら考え込み、角度を変えて頭を下げたりしている。


こんな事実際、どうでもよい。
公爵夫人になれば、誰も文句など言わぬし、夫人まで
使用人と頭を下げる事など無い。だが基本を知っている事が大切なのだ。

私もしたことなど無いが何故か知っている。

レイモンドは踵を返してシルビアへと向かい声を掛けた。


『そうでは無い。斜めに入り腰を折るのだ。』
レイモンドが実戦して見せる。

流石は公爵令息。先程みた使用人たちとは比べることも出来ない程美しい。

実際にしたことの無い振る舞いを見ているだけで模倣以上の出来栄えであった。


シルビアは答えを見つけた子どもの様に目を輝かせ自身もやって見せた。

レイモンドはその姿を目を細めながら見守ると

『シルビア、完璧だよ。』

そう言うと、シルビアの手を取り晩餐に向かった。






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