59 / 76
レイモンドの揺れる心
しおりを挟む
晴れて婚約者と公に発表された2人はその後も忙しく毎日を過ごしていた。
シルビアは公爵夫人となるべく、公爵家に通いながら
教育を受けていた。
レイモンドは宰相でありアレクセイの側近である為、王宮に上がらない日は無い。
2人が顔を合わせる事はほとんど無い日々が続いている。
今は目前に迫る国際会議の段取りに追われている。
『ダリス大王国は国王夫妻では無く、第一王子か?』
アレクセイは出席者リストを確認しながらレイモンドに問う。
『そうだね、王子が産まれて間もないという事で
第一王子のフリードリヒ殿下が出席されるとの事だよ。』
書類に目を通しながらアレクセイの問いに答えるレイモンド。
『そうか、直接オッドアイが拝見できると思ってたんだが』
残念そうなアレクセイは優雅にお茶を飲む。
ジロリと睨み直ぐに書類にむかうレイモンド。
『いつか、見られるでしょう。そんな事よりこちらはどうされますか?』
いい加減仕事しろよ‥の意味を込めて側近らしく振る舞うレイモンドに
『レイ、夜会のドレスは贈ったのか?』
レイモンドはあからさまに嫌悪感を出し
『そんな事は、』
『どうでも良くないぞ。我が国の夜会ではなく、他国の王族も参加する夜会だ。国際的にもレイが妻帯する事を知らしめる意味でもあるさ。』
‥国際会議の、夜会をそんな事に使うなよ‥
『婚約者とは名ばかりで一緒に過ごす時間もないのであろう?他国の王子に攫われるよ!うかうかしてたらさ。』
『あいにく、シルビアとの時間を確保出来ぬ程忙しい故。今も2人で取り掛かれば早く終わるものを私一人で取り掛かっておりますのでね!今日も帰れるかどうか‥』
嫌味をぶっ込むレイモンドにアレクセイは
『それはいけない。あまりに早くに終わるとレイが時間を潰すのに大変だと、これでも気を使っていたのだよ。だってあれほどまでに会う事を躊躇っていたからね。』
‥
『何?会いたくなったの?シルビア嬢に』
ニヤリと笑いレイモンドを覗き込むアレクセイ。
『アレク1人には任せられないからね。』
『レイ、お前が先程から格闘している案件だが、私ならば後5件程決裁できるよ?これでも国王だからね。帰りたくないのなら仕方ないが、公爵家に帰ってシルビア嬢とひとときを過ごしたいなら、早く帰れ!』
そう言うと、レイモンドの前に積み上がる山の様な書類を抱え、執務室を出て行った。
‥アナスタージアに託すのか?
レイモンドは失笑しながらも執務室を出て馬車に乗り込んだ。
公爵家ではいつもよりかなり早い帰りのレイモンドに驚き、それでも公爵家、何事も無いかの様に広い廊下に使用人らがズラリと並ぶ。
執事の1言。
『お帰りなさいませ。』
この声が響き渡ると一斉に頭が下げられる。
頭が空を切る音のみが響き渡る。シルビアは目を丸くしそれに従う様に頭を下げた。
レイモンドは軽く手を上げて部屋に戻る。
その後ろでシルビアは先程の行動に指導を受けている。
レイモンドが早く帰ってくる事など滅多に無い為、まだ習って居ないのだろう。
シルビアは真剣に話しを聞いて頭に入れている。
くだらん。
そう思って溜息をもらした時、不意にステファニーの1言が頭を過る。
【まずは己を大切に己の引き出しにしまい込む。
そしてただひたすら王太子妃教育を全うする事。
時には理不尽に感じる事もあるし、自分の思いもあるだろうと。】
そしてステファニーはこうも言った。
全てを吸収したら、大切に閉まってある引き出しの己、自分自身と合わせるのだと。
‥だから人形なのだと。
アレクセイはステファニーがまだ人形の時にステファニーを捨てた。
シルビアも今はお人形なのか?黙って耐えて吸収してるのか?己を引き出しに閉まっているのか?
次々に頭を走りまわるクエスチョンを払いのける様に頭を振り、振り返りもう一度シルビアを見た。
そこには、既に誰も居なくなったエントランスホールにただ一人頭を下げ、軽く微笑む練習を何度も繰り返すシルビアが居た。
時に手を額に当て、何やら考え込み、角度を変えて頭を下げたりしている。
こんな事実際、どうでもよい。
公爵夫人になれば、誰も文句など言わぬし、夫人まで
使用人と頭を下げる事など無い。だが基本を知っている事が大切なのだ。
私もしたことなど無いが何故か知っている。
レイモンドは踵を返してシルビアへと向かい声を掛けた。
『そうでは無い。斜めに入り腰を折るのだ。』
レイモンドが実戦して見せる。
流石は公爵令息。先程みた使用人たちとは比べることも出来ない程美しい。
実際にしたことの無い振る舞いを見ているだけで模倣以上の出来栄えであった。
シルビアは答えを見つけた子どもの様に目を輝かせ自身もやって見せた。
レイモンドはその姿を目を細めながら見守ると
『シルビア、完璧だよ。』
そう言うと、シルビアの手を取り晩餐に向かった。
シルビアは公爵夫人となるべく、公爵家に通いながら
教育を受けていた。
レイモンドは宰相でありアレクセイの側近である為、王宮に上がらない日は無い。
2人が顔を合わせる事はほとんど無い日々が続いている。
今は目前に迫る国際会議の段取りに追われている。
『ダリス大王国は国王夫妻では無く、第一王子か?』
アレクセイは出席者リストを確認しながらレイモンドに問う。
『そうだね、王子が産まれて間もないという事で
第一王子のフリードリヒ殿下が出席されるとの事だよ。』
書類に目を通しながらアレクセイの問いに答えるレイモンド。
『そうか、直接オッドアイが拝見できると思ってたんだが』
残念そうなアレクセイは優雅にお茶を飲む。
ジロリと睨み直ぐに書類にむかうレイモンド。
『いつか、見られるでしょう。そんな事よりこちらはどうされますか?』
いい加減仕事しろよ‥の意味を込めて側近らしく振る舞うレイモンドに
『レイ、夜会のドレスは贈ったのか?』
レイモンドはあからさまに嫌悪感を出し
『そんな事は、』
『どうでも良くないぞ。我が国の夜会ではなく、他国の王族も参加する夜会だ。国際的にもレイが妻帯する事を知らしめる意味でもあるさ。』
‥国際会議の、夜会をそんな事に使うなよ‥
『婚約者とは名ばかりで一緒に過ごす時間もないのであろう?他国の王子に攫われるよ!うかうかしてたらさ。』
『あいにく、シルビアとの時間を確保出来ぬ程忙しい故。今も2人で取り掛かれば早く終わるものを私一人で取り掛かっておりますのでね!今日も帰れるかどうか‥』
嫌味をぶっ込むレイモンドにアレクセイは
『それはいけない。あまりに早くに終わるとレイが時間を潰すのに大変だと、これでも気を使っていたのだよ。だってあれほどまでに会う事を躊躇っていたからね。』
‥
『何?会いたくなったの?シルビア嬢に』
ニヤリと笑いレイモンドを覗き込むアレクセイ。
『アレク1人には任せられないからね。』
『レイ、お前が先程から格闘している案件だが、私ならば後5件程決裁できるよ?これでも国王だからね。帰りたくないのなら仕方ないが、公爵家に帰ってシルビア嬢とひとときを過ごしたいなら、早く帰れ!』
そう言うと、レイモンドの前に積み上がる山の様な書類を抱え、執務室を出て行った。
‥アナスタージアに託すのか?
レイモンドは失笑しながらも執務室を出て馬車に乗り込んだ。
公爵家ではいつもよりかなり早い帰りのレイモンドに驚き、それでも公爵家、何事も無いかの様に広い廊下に使用人らがズラリと並ぶ。
執事の1言。
『お帰りなさいませ。』
この声が響き渡ると一斉に頭が下げられる。
頭が空を切る音のみが響き渡る。シルビアは目を丸くしそれに従う様に頭を下げた。
レイモンドは軽く手を上げて部屋に戻る。
その後ろでシルビアは先程の行動に指導を受けている。
レイモンドが早く帰ってくる事など滅多に無い為、まだ習って居ないのだろう。
シルビアは真剣に話しを聞いて頭に入れている。
くだらん。
そう思って溜息をもらした時、不意にステファニーの1言が頭を過る。
【まずは己を大切に己の引き出しにしまい込む。
そしてただひたすら王太子妃教育を全うする事。
時には理不尽に感じる事もあるし、自分の思いもあるだろうと。】
そしてステファニーはこうも言った。
全てを吸収したら、大切に閉まってある引き出しの己、自分自身と合わせるのだと。
‥だから人形なのだと。
アレクセイはステファニーがまだ人形の時にステファニーを捨てた。
シルビアも今はお人形なのか?黙って耐えて吸収してるのか?己を引き出しに閉まっているのか?
次々に頭を走りまわるクエスチョンを払いのける様に頭を振り、振り返りもう一度シルビアを見た。
そこには、既に誰も居なくなったエントランスホールにただ一人頭を下げ、軽く微笑む練習を何度も繰り返すシルビアが居た。
時に手を額に当て、何やら考え込み、角度を変えて頭を下げたりしている。
こんな事実際、どうでもよい。
公爵夫人になれば、誰も文句など言わぬし、夫人まで
使用人と頭を下げる事など無い。だが基本を知っている事が大切なのだ。
私もしたことなど無いが何故か知っている。
レイモンドは踵を返してシルビアへと向かい声を掛けた。
『そうでは無い。斜めに入り腰を折るのだ。』
レイモンドが実戦して見せる。
流石は公爵令息。先程みた使用人たちとは比べることも出来ない程美しい。
実際にしたことの無い振る舞いを見ているだけで模倣以上の出来栄えであった。
シルビアは答えを見つけた子どもの様に目を輝かせ自身もやって見せた。
レイモンドはその姿を目を細めながら見守ると
『シルビア、完璧だよ。』
そう言うと、シルビアの手を取り晩餐に向かった。
10
お気に入りに追加
110
あなたにおすすめの小説
[完]僕の前から、君が消えた
小葉石
恋愛
『あなたの残りの時間、全てください』
余命宣告を受けた僕に殊勝にもそんな事を言っていた彼女が突然消えた…それは事故で一瞬で終わってしまったと後から聞いた。
残りの人生彼女とはどう向き合おうかと、悩みに悩んでいた僕にとっては彼女が消えた事実さえ上手く処理出来ないでいる。
そんな彼女が、僕を迎えにくるなんて……
*ホラーではありません。現代が舞台ですが、ファンタジー色強めだと思います。
アルバートの屈辱
プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。
『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。
いくら政略結婚だからって、そこまで嫌わなくてもいいんじゃないですか?いい加減、腹が立ってきたんですけど!
夢呼
恋愛
伯爵令嬢のローゼは大好きな婚約者アーサー・レイモンド侯爵令息との結婚式を今か今かと待ち望んでいた。
しかし、結婚式の僅か10日前、その大好きなアーサーから「私から愛されたいという思いがあったら捨ててくれ。それに応えることは出来ない」と告げられる。
ローゼはその言葉にショックを受け、熱を出し寝込んでしまう。数日間うなされ続け、やっと目を覚ました。前世の記憶と共に・・・。
愛されることは無いと分かっていても、覆すことが出来ないのが貴族間の政略結婚。日本で生きたアラサー女子の「私」が八割心を占めているローゼが、この政略結婚に臨むことになる。
いくら政略結婚といえども、親に孫を見せてあげて親孝行をしたいという願いを持つローゼは、何とかアーサーに振り向いてもらおうと頑張るが、鉄壁のアーサーには敵わず。それどころか益々嫌われる始末。
一体私の何が気に入らないんだか。そこまで嫌わなくてもいいんじゃないんですかね!いい加減腹立つわっ!
世界観はゆるいです!
カクヨム様にも投稿しております。
※10万文字を超えたので長編に変更しました。
嘘つきな私が貴方に贈らなかった言葉
海林檎
恋愛
※1月4日12時完結
全てが嘘でした。
貴方に嫌われる為に悪役をうって出ました。
婚約破棄できるように。
人ってやろうと思えば残酷になれるのですね。
貴方と仲のいいあの子にわざと肩をぶつけたり、教科書を隠したり、面と向かって文句を言ったり。
貴方とあの子の仲を取り持ったり····
私に出来る事は貴方に新しい伴侶を作る事だけでした。
五歳の時から、側にいた
田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。
それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。
グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。
前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。
【完結】あなたを忘れたい
やまぐちこはる
恋愛
子爵令嬢ナミリアは愛し合う婚約者ディルーストと結婚する日を待ち侘びていた。
そんな時、不幸が訪れる。
■□■
【毎日更新】毎日8時と18時更新です。
【完結保証】最終話まで書き終えています。
最後までお付き合い頂けたらうれしいです(_ _)
溺愛される妻が記憶喪失になるとこうなる
田尾風香
恋愛
***2022/6/21、書き換えました。
お茶会で紅茶を飲んだ途端に頭に痛みを感じて倒れて、次に目を覚ましたら、目の前にイケメンがいました。
「あの、どちら様でしょうか?」
「俺と君は小さい頃からずっと一緒で、幼い頃からの婚約者で、例え死んでも一緒にいようと誓い合って……!」
「旦那様、奥様に記憶がないのをいいことに、嘘を教えませんように」
溺愛される妻は、果たして記憶を取り戻すことができるのか。
ギャグを書いたことはありませんが、ギャグっぽいお話しです。会話が多め。R18ではありませんが、行為後の話がありますので、ご注意下さい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる