上 下
82 / 88

夜会。

しおりを挟む
帝国皇帝らもまたその威厳を醸し出すように豪華な装いでランズ王国国王と談笑している。

会場には雅楽団の生演奏にてダンスが舞い、あちこちで社交も繰広げられている。



宴もたけなわ、クラリスの待ち人はむこうからやってきた。美しく着飾るエリザベスは変わらずゾロゾロとお付の者をつれて、いつもの側近であろう女が嬉しそうに微笑みながらクラリスの前まで来ると

『クラリス様、また今夜は一段と素敵でいらっしゃいますね。』


クラリスは少し口角をあげただけでその女を見た。女は気にする事無く


『公式発表を前にクラリス様にはお伝えしておきますが我が国のエリザベス王女はもうすぐ帝国皇子妃となられますのよ?』


『そうですか、それはおめでとうございます。』


表情豊かなクラリスが珍しく無表情で祝福を送ると


『まぁ、動揺なさらないのですか?それとも内心焦っておられる?』


クラリスは微笑みを作り


『何故、私が焦るのですか?』


女は嬉しそうにエリザベスをチラリと見てから


『先日の無礼、お忘れですか?』


『無礼?』


『はい、無礼ですよ。未来の皇子妃と親しくなりたくないだなんてエリザベスの面前でおっしゃった事をお忘れですか?』


『いいえ、忘れてなんておりませんわ。』


…。

エリザベス御一行さまは怪訝そうにクラリスを見ていると


『帝国皇子妃を敵に回すとおっしゃるのですか?』


『まぁ敵だなんて、そもそも今回の来訪頂いたのは帝国から属国へのお誘いがあるのかも思っておりましたが違ったようですのね?テオドール?』


クラリスは帝国の思惑を盾に大袈裟に驚いてみて後ろを振り返るとテオドールに話を振った。

テオドールもまた驚いたように

『殿下にご報告してまいります!』


『お、お待ちになって!』


テオドールを引き止めるはエリザベス。流石に王女だけあってこの女よりは利口なようだ。


『事を荒立てる事はありませんわ』


他人事のように言うエリザベスにクラリスは


『だそうよ。』


それだけ言うとテオドールはまたクラリスの後ろで控えた。


『…頭の悪い女ね。だからそういう話しではありませんのよ?』


女はイライラをクラリスにぶつける様に言うと


『ならば何を?エリザベス様が皇子妃になられると言うことは聞きましたよ。それで?今回は最終目的が帝国第3皇子妃ですの?』



驚いたパナン王国御一行さまに尚も


『ほら、我が国にいらした時は第1王子妃となりながらその行く末に王太子妃がありましたでしょう?ですから今回はまさか帝国皇后陛下とまではいかない?かしら。』


クラリスは後ろのテオドールに話しを振るとテオドールもまた含み笑いをしながら首を傾げた。


『な、何を言うか!無礼千万!エリザベス様を馬鹿にするおつもりか?』


クラリスはキョトンとした表情で


『馬鹿にするだなんて本当の事ですが?』



ワナワナと震えるエリザベスを横目に

『せっかくのエリザベス様のご厚意ん無下にするなど』


『ご厚意?』


『分からない人ですね?そもそもこうして帝国がここまで足を運んで下さるのは誰のおかげだと思ってるのですか!』


クラリスとテオドールは顔を見合わせてから

『誰のおかげなのですか?』


クラリスの言葉にテオドールは心の中で


…頼んでねえしな?


女は言葉に詰まりながら


『そもそもアルフレッド殿下との結婚は政略結婚ですからね?政略結婚とはそのようなものですわ。妃殿下ともあろうお方がそんな事も知らないでよく王太子妃と名乗ってられますことよ。』



クラリスはエリザベスに視線を流してからその女に


『あら、政略結婚の意味を履き違えておりますわよ?政略結婚とは国と国の利益の為。そのご本人同士の結婚です。でしたらパナン王国は初めから、アルフレッド殿下とではなくフリードリヒ殿下と政略結婚をすべきでしたわ。最も、利益は双国になければ成り立ちませんがね?』


目を見開く女の後ろに向けてクラリスは尚も


『政略結婚は国と国。個人を踏み台にして良いわけないわ。そして何より貴女はあの件から今の今までアルフレッド殿下に詫びも入れていない。それなのにどこの妃かしらないけれどよくもまぁ我が国の地に足を踏み入れる事ができた事です。それはあなたに反省が無いに等しいということ。それが私が貴女と親しくなれない理由でしてよ?』



固まるエリザベスとは裏腹に女は声を荒げ


『誰に向かって言ってるの!?』


クラリスは小さく息を吐くと女を真っ直ぐに見据え


『では貴女は誰に向かって言ってますの?』 



!女は驚き口をパクパクさせている。
女の知るクラリスはいつも幼子のようにケラケラと笑い能天気な王女。何を言っても許される存在であったのは今も昔も変わらない…はずだった。


静まり返る空気の中、クラリス今度は大きく息を吐くと1度瞼を閉じてゆっくりと大きな瞳を開いた。


『不敬罪よ。』


大きな瞳で女を射抜くと振り返りテオドールに告げる。


『捕らえよ』


その一言でテオドールは瞬時に女を拘束すると


『無礼な!離しなさい!』


テオドールに暴言を吐く女にクラリスは

『貴女の身分は知らないけれど、この者はこう見えてランズ王国筆頭公爵家の嫡男。無礼は貴女の方よ。』


暴れる女の後ろでエリザベスは驚き目を見開き固まっていた。その様子を見たクラリスは確信を得た表情でテオドールを見た。テオドールもまた頷き返したのである。


…思った通りだ。


エリザベスはどうやらこの女が居なければ成り立たない王女なのである。












しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

王女の朝の身支度

sleepingangel02
恋愛
政略結婚で愛のない夫婦。夫の国王は,何人もの側室がいて,王女はないがしろ。それどころか,王女担当まで用意する始末。さて,その行方は?

伯爵令嬢のユリアは時間停止の魔法で凌辱される。【完結】

ちゃむにい
恋愛
その時ユリアは、ただ教室で座っていただけのはずだった。 「……っ!!?」 気がついた時には制服の着衣は乱れ、股から白い粘液がこぼれ落ち、体の奥に鈍く感じる違和感があった。 ※ムーンライトノベルズにも投稿しています。

【R18】散らされて

月島れいわ
恋愛
風邪を引いて寝ていた夜。 いきなり黒い袋を頭に被せられ四肢を拘束された。 抵抗する間もなく躰を開かされた鞠花。 絶望の果てに待っていたのは更なる絶望だった……

辺境騎士の夫婦の危機

世羅
恋愛
絶倫すぎる夫と愛らしい妻の話。

中でトントンってして、ビューってしても、赤ちゃんはできません!

いちのにか
恋愛
はいもちろん嘘です。「ってことは、チューしちゃったら赤ちゃんできちゃうよねっ?」っていう、……つまりとても頭悪いお話です。 含み有りの嘘つき従者に溺愛される、騙され貴族令嬢モノになります。 ♡多用、言葉責め有り、効果音付きの濃いめです。従者君、軽薄です。 ★ハッピーエイプリルフール★ 他サイトのエイプリルフール企画に投稿した作品です。期間終了したため、こちらに掲載します。 以下のキーワードをご確認の上、ご自愛ください。 ◆近況ボードの同作品の投稿報告記事に蛇補足を追加しました。作品設定の記載(短め)のみですが、もしよろしければ٩( ᐛ )و

[R18] 18禁ゲームの世界に御招待! 王子とヤらなきゃゲームが進まない。そんなのお断りします。

ピエール
恋愛
R18 がっつりエロです。ご注意下さい えーー!! 転生したら、いきなり推しと リアルセッ○スの真っ最中!!! ここって、もしかしたら??? 18禁PCゲーム ラブキャッスル[愛と欲望の宮廷]の世界 私って悪役令嬢のカトリーヌに転生しちゃってるの??? カトリーヌって•••、あの、淫乱の••• マズイ、非常にマズイ、貞操の危機だ!!! 私、確か、彼氏とドライブ中に事故に遭い•••• 異世界転生って事は、絶対彼氏も転生しているはず! だって[ラノベ]ではそれがお約束! 彼を探して、一緒に こんな世界から逃げ出してやる! カトリーヌの身体に、男達のイヤラシイ魔の手が伸びる。 果たして、主人公は、数々のエロイベントを乗り切る事が出来るのか? ゲームはエンディングを迎える事が出来るのか? そして、彼氏の行方は••• 攻略対象別 オムニバスエロです。 完結しておりますので最後までお楽しみいただけます。 (攻略対象に変態もいます。ご注意下さい)   

【R18】私は婚約者のことが大嫌い

みっきー・るー
恋愛
侯爵令嬢エティカ=ロクスは、王太子オブリヴィオ=ハイデの婚約者である。 彼には意中の相手が別にいて、不貞を続ける傍ら、性欲を晴らすために婚約者であるエティカを抱き続ける。 次第に心が悲鳴を上げはじめ、エティカは執事アネシス=ベルに、私の汚れた身体を、手と口を使い清めてくれるよう頼む。 そんな日々を続けていたある日、オブリヴィオの不貞を目の当たりにしたエティカだったが、その後も彼はエティカを変わらず抱いた。 ※R18回は※マーク付けます。 ※二人の男と致している描写があります。 ※ほんのり血の描写があります。 ※思い付きで書いたので、設定がゆるいです。

処理中です...