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口説き落す

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アルベルタは今後の事を考えてナターシャを味方に付ける事に尽力した。


『ねえ、ナターシャ。私もバカではないの。貴女たちの態度を見れば友好的な関係では無かった事は分かるわ。』

『‥』


『そしてもちろんこの家の主との関係性も分かる。』


ナターシャの目が少し泳いだ。

『恐らく、いえ絶対に私はみんなに嫌われていたはずよね?記憶を無くす前は。』


ナターシャは目を見開き

『記憶を無くされているのですか?』
 

倒れて目が覚めたら記憶がないなんて簡単には信じられないでしょうが、これは真の話。


淡々と説明をすると、ナターシャは表情が緩んできたようだ。


『奥様はどこまでの記憶が残っていらっしゃるのですか?』


なかなか賢い侍女である。


『何もないわ。産まれた時から。今流行りの転生かしらとも思ったのだけど、前世の記憶とやらも無いもの。何なのかしら?貴女わかる?』


ナターシャは真剣に話を聞いている。すると重い口がだんだん開いていった。


どうやらアルベルタは公爵夫人となって半年程になるそうだ。


『あ!分かったわ!この家の主には心に决めた令嬢が居たのね?それで妻には無関心?それでしたら私へのあの態度もわかるもの!』


ナターシャは真面目な顔で


『いいえ。旦那様にはそのような方はいらっしゃいません。そもそも愛やら恋やらとは縁遠いお方ですから。』


『‥そうなの?なかなかの美男子っぽくなかった?』


ナターシャは表情を変えず

『はい、この国の令嬢の人気を独占しておりますもの。』


アルベルタはまたも思い付いたように

『あ!分かったわ!いい男だけど令嬢には興味を示さないツンデレね?』


『いいえ、むしろ大好きかと存じます。』

‥は?

『と言うと?』


『はい、旦那様はいつも入れ代わり立ち代わり色々な令嬢と関係を持たれております。』


『えっと‥この国では一夫多妻制なのかしら?』


ナターシャはこれまた表情をそのままに


『いいえ?一夫一妻制ですが。旦那様は特別と言いますか‥遊びでもよいので一回だけでも、と言う女性が後を絶ちません。』


‥アホなの?この国の令嬢は。


『ちょっと待って、ではこの家の主はクズじゃない?顔だけ男なの?』


『いいえ、クズはクズですが顔だけではなく仕事もすこぶる出来る男ですよ。』


‥クズはクズって。


『ちょっと待って、もう1つ!私が目覚めた時に隅っこで偉そうにしてたのがこの家の主よね?なぜそんな女好きがあのような冷たい表情で眺めていたの?』


『‥さあ、奥様が嫁がれた時からあんな感じでしたよ?』


『女好きでもタイプが有るってことね。じゃあ私アルベルタはどんな人なの?』


ナターシャは頭を巡らせ


『そうですね、あまり記憶がないのですが。』


‥はい?貴女も記憶喪失?


『記憶が無いというよりはとても影が薄いというか、大人しくお人形のようでございました。』


‥。


『でもでも!貴女たちは皆私を恐ていたわ!』


『それはそうでしょう。生きて目をお覚ましになるなんて誰も思ってなかったですもん。』


‥‥。揃いも揃って私が死ぬのを待ってたんかい!


『ありがとう。よく分かったわ。』


何だか釈然としないが最低限の事は理解した。


ここの主はクズって事だけは分かったわ。
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