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心を空っぽに

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馬車が再び止まったのは、碧色の湖だった。

遅めのブランチをと用意させていたサンドイッチを護衛も含め皆で頂いた。

最高♫お外での食事はどうしてこんなに美味しいのかしら。

『殿下、ご用意が整いました』

あら?あなたブランチ食べてなかったの?
『ごめんなさい、貴方の分を残しておくのを忘れてしまいましたわ。』と焦っていると

『ありがとうございます。私へのお心遣い、感謝いたします。しかしご心配には及びません。』と頭を下げる護衛はランチボックスを恥ずかしそうに出す。どうやら恋人が持たせてくれたらしい。

心配無用とはこの事だわ。

『リデュアンネ行こう』と手を差し伸べられ向かう所は湖の上。二人で美しい湖の真ん中にボートを浮かべている。




『さて、リデュアンネ。これは避けては通れん。ここには誰もおらん。二人きりだ、全てを吐き出してみよ』

これは、昨日の続きを始めるということ。
避けては通れない。それはそう。だかこちらを見つめる殿下は昨夜の様に甘い表情ではなく、王太子の表情だ。全てを吐け。ということだ。

殿下はそっと、あの小瓶を取り出した。

!なぜ?驚愕する私に、

『リデュアンネこれはお前の物だな?』

『‥はい。』

『では、これは何の為に隠し持っていた?』

『西国の者より、帝国復活の為に東国王太子に盛れと言われました。そして私は西国筆頭公爵家の人間として西国の為に尽力せよとの事でした。』

『ならば何故、この小瓶は封が開けられていないままなのだ?』

『正直申し上げて、私にもわかりません
ただ‥』

殿下は黙ったまま、後の言葉を待つ。

『‥ただ、この、今のこの時間を手放す事が出来なかったのです。』
泣き落としが通づる男ではない。リデュアンネは真っ直ぐに視線を合わせ答える。

殿下は静かにもう一つの小瓶を胸元からそっと出し2つの小瓶を混ぜ合わせた。


『解毒だ。このままここに捨てたのでは、湖に申し訳ない。もう必要無いのであろう?』


『ですが、その小瓶が無くなっても、また西国から要求がきましょう』

『案ずるな、次はない。』

殿下の表情が王太子から夫の表情へと変わっていく。
『心の中は空っぽになったか?』

今まで張り詰めていたものがスッと軽くなり、私は幼子のように声を上げて泣いた。

殿下はそっと隣に座り、黙って肩を抱いてくれていた。時折頭を撫でるその仕草が優しく、このままずっとこうしていたいと思いながら声が枯れるまで泣き続けた。

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