哀愁の彼女

ツバメ

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探り合い

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「雨か…」
僕は折り畳み傘を鞄から出して帰ろうとした。
下駄箱に着いた時に彼女が雨を眺めて突っ立ていた。
「傘持ってないの?」
勇気を出して声を掛けた。
「持ってきてない。」
僕の心臓の音が聞こえていないか不安になるぐらい
ドキドキしていた。
「駅まで送ろうか。」
咄嗟にこの言葉を発した。
断られたらどうしよう。発言した後に後悔した。
「じゃあお願いします。」
この言葉に僕は心が踊った。
悟られない様に傘を差す。
駅までは歩いて十分程だろうか。
「…。」
「…。」
気まずい空気の中二人で歩く。
傘を叩く雨の音がいつもに比べて大きく感じた。
「昨日駅で見掛けたよ。」
何を言っているんだろうか。
聞かなくてもいい事を言ってしまい後悔した。
「…。」
「ごめん。彼氏さんが迎えに来たのかな?」
また余計な事を言ってしまった。
「…彼氏とかじゃない。」
意外な言葉が返ってきた。それと同時に僕は喜んだ。
じゃあ昨日の車は誰なんだろうか?
親が迎えに来たのだろうか?
僕の頭の中はそんな事でいっぱいだった。
「ありがとう。」
そんな会話をしていたら駅に着いてしまった。
駅に着いても彼女は改札に向かわない。
「電車に乗らないの?」
僕は問いかける。
「二十分後に待ち合わせてる人がいる。」
彼女はそう答えた。
彼氏ではないが、付き合いそうな人がいるのか…。
僕は冷静なフリを装って伝えた。
「じゃあまた明日。」
このセリフが精一杯だった。
改札に向かい舞い上がっていた自分が嫌になった。
するとホームからお知らせが流れる。
二つ前の駅で飛び降りがあったようた。
自分の運の悪さが凄く嫌になる。
電車が動くまで何処かで時間を過ごそうと思い
駅にある喫茶店に足を向ける。
一つ気になる事があった。
彼女の事だ。
彼女と別れてから丁度二十分程が経とうとしていた。
どうしても気になり来た道を戻る。
まだ別れた場所にいたら何を話そう。
そんな事ばかりを考えて歩いた。
すると彼女の姿が見えた。
前回見掛けた車とは違う車に乗り込んだ。
雨の中助手席に乗った彼女の顔が少しだけ見えた。
哀しそうな顔をしている。
僕は駅から離れていく車を眺めていた。
「彼女をもっと知りたいな。」
そんな気持ちになりながら喫茶店に入る。
二時間ほど経過しただろうか。
電車が動きだすアナウンスが流れた。
既に夕方になり仕事帰りであろうサラリーマン達が
疲れた顔をしてホームに向かっている。
会計を済ませホームに向かう。
すると一際目立つ髪色の女性がいた。
彼女の姿だった。
「送って貰ったんじゃないの?」
僕は彼女に話しかける。
彼女は驚いた表情をしていた。
「なんでまだいるの?」
「人身事故で動かなかったんだよ。」
何故か彼女は黙り込んだ。
僕は帰り道が同じという事に喜んでいた。
「…。」「…カラオケに行きたい。」
驚いた僕は聞き返した。
「カラオケ行きたいって言った?」
すると彼女はコクリとだけ頷いた。
「じゃあ二つ目の駅で降りたらあるよ。」
冷静を装い僕は言った。
満員電車の中嬉しい気持ちと緊張でどうにかなりそうだった。
目的の駅に到着した。
「じゃあ行こうか。」
「…うん。」
改札を出てすぐにカラオケ屋がある。
夜になりネオンが輝き大人が多かった。
慣れているかの様に装い受付をした。
「フリータイムで。」
「お客様未成年ですか?」
「はい。」
「では二時間までとなります。」
顔が真っ赤になった。
「ふふっ」
彼女が横で笑っていた。
僕は初めて彼女が笑った所を見ることができた。
部屋に向かい薄暗い部屋で二人きり。
「先に歌う?」
僕は彼女に問いかけた。
単純に恥ずかしいから彼女に歌って欲しかった。
「じゃあ…。」
彼女は流行りの曲を入れマイクを持った。
普段そんなに明るく喋らない彼女だが、
歌い出すと凄く上手だった。
薄暗い中の彼女に見惚れていた。
「はい。次歌って」
マイクを渡され曲を入れる。
幸いカラオケは好きだったので自信があった。
「上手じゃん」
この言葉が聞けただけで心の中が熱くなった。
「君も上手だよ」
格好つけて言葉を返した。
「香奈」
「…?」
「私香奈って名前だから名前で呼んで」
初めて彼女の名前を知った。
沈黙の後に勇気を出して呼んだ。
「次香奈の番だよ」
すると彼女は少しだけ微笑んで曲を入れた。
その微笑みが妙に色っぽく見えた。

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