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第四章
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『圧政が民を苦しめ、国を苦しめ、崩壊の一歩を辿っているのです。ですから、属国に!いえ、統合でも構いません!お救い願いたいのです!』
この言葉はフィルハートの者たちの心に響き、刺さったのだ。
戦争などで領地を奪われ「属国」にされるという話はどの世界、どの時代でもある話だろう。だが、自ら崩壊の道を辿っておきながら「属国」を希望する国などそうそう無い。しかもその国を統べる者によってではなく、そんな権限すら持たぬ一騎士たちによってだ。
それほどまでに苦しい生き世なのだろう。
辛いのだろう。
「我々はアーダルリアへもっと目を向けるべきだった。今の治政はおかしいと知りながら放置したツケが今アーダルリア国民の犠牲となってしまった」
「ジオルド達が悪いんじゃねーよ。その国の「頭」が悪いんだ。他の国に助けを求めることすら許さない「トップ」が悪いんだ。誰もお前らを責めたりはしない」
「そうだろう。だが、こうしていればああしていればと思ってしまうんだ」
ジオルドは俺の身体を抱きしめ、そして小さく嗚咽を漏らす。
ああ、考えて考えて考えた末、感情が爆発してしまったんだな。
よしよしと俺は背中を撫でてやる。そして、
「そんな優しい気持ちを持ったジオルドが俺は好きだぜ」
「・・・・・・スイレンに励まされると嬉しいな」
「だろ?」
ごほんごほん
「え、え~お二人さん話を進めるぞ?」
「おう、進めてくれ。ジオルドはそこに座っておけ」
「いや、参加するよ」
俺の背後に回り、ギュッと抱きしめてくる。
この体勢のまま話し合いに参加するようだ。
ま、好きにさせておこう。
ジルフォードがジオルドの脇腹を小突くのを横目で見ながら、
「何でアーダルリアに戦車の駒を置いたんだ?」
さっきからそれが気になっていたのだ。
内部での軋轢はあれど、外部と何かあったとは現在の状況では考えにくい。焔とは違えど「鎖国」めいたことをしていたのが今のアーダルリアなのだから。
「アーダルリアは前教皇より数代前の時まで戦争を繰り返し、大きくしてきた国だ」
「『神聖国』なのにか?」
「『神聖国』だからだよ」
?????????
「つまり教徒を増やし、お布施や献金で国を豊かにしようとしたんだ。まだそこまでは「国民」を考えての行動だったと思いたい。何故なら大元のアーダルリアはすごく貧しい国だったからな。嘘だろうが、貧しすぎて『教皇』すら食に困っていたと聞く。だが、本当だったのか疑問に思えるくらい後の行動が酷かった」
「ジルフォード殿下、続きは私から説明致します」
「ああ、頼む。話しているだけで胸くそ悪くなってきた」
「横になられたらいかがでしょうか?健康になったとは言え、それでも私たちよりは不調の日が多いのですから」
「ああ、悪い。横にはならないが、ソファでゆったりさせてくれ」
俺はジオルドから離れ、ジル用に茶を煎れる。ジルの体調次第で茶葉を変えるのは俺の役目。というのも、精霊が「今ならこれがいいわよ」ってジルの体調を慮って教えてくれるのだ。
本当に精霊に愛された「子」だ。
「続きは???」
「はい。本当にそう考えていたのかは疑問ですが、端から見ると国を大きくすることで経済が潤うと単純に考えた結果が、今に繋がっているのだと思われます。始めは今の『魔国』のように闘いの為に荒れ果てた土地が続いていましたが、復興に資金を充てたため早く土地は元に戻りました。しかし、戻らない「何か」もあるのです」
「生きている「人」や「動植物」、それに「心」だな」
「はい、その通りです。亡くなった人々は元に戻るはずもなく、他の土地に避難していた人々はそちらの土地で生活をたてており、活気が戻ることはありませんでした。それの繰り返しで、資金は底を尽きます。底を尽くのでまた戦争の繰り返しです。それでアーダルリアの「頭」は学んだのです。復興しても意味が無いならば、アーダルリアに住む民から金を毟り取って、贅沢三昧したらよいのだと」
「・・・・・・・すんごい考えに至ったんだな。今までの話を要約すると『全て自分の満足のため』と理解出来るのだが、間違っているか?そもそも戦争が出来るくらいの武器があるくらいだ。本当に教皇は『貧しかったのか』?」
「スイレン団長がそう思われるのも当然だと思います。実際どの時代の教皇も『毎日肉を食し、ワインを嗜んでいた』と記録には残されているようです」っっっっc
「記録?そんなもんが残っていると言うことは、教皇にいつか復讐を誓う誰かの日記系か?それとも見張り役の覚書か?今の話を聞く限り、誰も『教皇』を尊敬し、崇め奉っていない。戦地になった生まれ故郷の土地に戻らないということはそもそもその『教皇』の治政が気にくわないからだ。もちろんそれ以外の理由も確実に存在はするけど。だが、他の地の政が余程素晴らしいと思えるほど治政は酷かったと推察できる」
「いえ、それが的確解答だと思います。実際、数代前の教皇から今に至るまでの生活は『贅沢であった』と考えた方が自然です」
「どこの時代も、どこの世界も同じだな」
この言葉は俺たち異世界の者から自然と発せられたのだ。
この言葉はフィルハートの者たちの心に響き、刺さったのだ。
戦争などで領地を奪われ「属国」にされるという話はどの世界、どの時代でもある話だろう。だが、自ら崩壊の道を辿っておきながら「属国」を希望する国などそうそう無い。しかもその国を統べる者によってではなく、そんな権限すら持たぬ一騎士たちによってだ。
それほどまでに苦しい生き世なのだろう。
辛いのだろう。
「我々はアーダルリアへもっと目を向けるべきだった。今の治政はおかしいと知りながら放置したツケが今アーダルリア国民の犠牲となってしまった」
「ジオルド達が悪いんじゃねーよ。その国の「頭」が悪いんだ。他の国に助けを求めることすら許さない「トップ」が悪いんだ。誰もお前らを責めたりはしない」
「そうだろう。だが、こうしていればああしていればと思ってしまうんだ」
ジオルドは俺の身体を抱きしめ、そして小さく嗚咽を漏らす。
ああ、考えて考えて考えた末、感情が爆発してしまったんだな。
よしよしと俺は背中を撫でてやる。そして、
「そんな優しい気持ちを持ったジオルドが俺は好きだぜ」
「・・・・・・スイレンに励まされると嬉しいな」
「だろ?」
ごほんごほん
「え、え~お二人さん話を進めるぞ?」
「おう、進めてくれ。ジオルドはそこに座っておけ」
「いや、参加するよ」
俺の背後に回り、ギュッと抱きしめてくる。
この体勢のまま話し合いに参加するようだ。
ま、好きにさせておこう。
ジルフォードがジオルドの脇腹を小突くのを横目で見ながら、
「何でアーダルリアに戦車の駒を置いたんだ?」
さっきからそれが気になっていたのだ。
内部での軋轢はあれど、外部と何かあったとは現在の状況では考えにくい。焔とは違えど「鎖国」めいたことをしていたのが今のアーダルリアなのだから。
「アーダルリアは前教皇より数代前の時まで戦争を繰り返し、大きくしてきた国だ」
「『神聖国』なのにか?」
「『神聖国』だからだよ」
?????????
「つまり教徒を増やし、お布施や献金で国を豊かにしようとしたんだ。まだそこまでは「国民」を考えての行動だったと思いたい。何故なら大元のアーダルリアはすごく貧しい国だったからな。嘘だろうが、貧しすぎて『教皇』すら食に困っていたと聞く。だが、本当だったのか疑問に思えるくらい後の行動が酷かった」
「ジルフォード殿下、続きは私から説明致します」
「ああ、頼む。話しているだけで胸くそ悪くなってきた」
「横になられたらいかがでしょうか?健康になったとは言え、それでも私たちよりは不調の日が多いのですから」
「ああ、悪い。横にはならないが、ソファでゆったりさせてくれ」
俺はジオルドから離れ、ジル用に茶を煎れる。ジルの体調次第で茶葉を変えるのは俺の役目。というのも、精霊が「今ならこれがいいわよ」ってジルの体調を慮って教えてくれるのだ。
本当に精霊に愛された「子」だ。
「続きは???」
「はい。本当にそう考えていたのかは疑問ですが、端から見ると国を大きくすることで経済が潤うと単純に考えた結果が、今に繋がっているのだと思われます。始めは今の『魔国』のように闘いの為に荒れ果てた土地が続いていましたが、復興に資金を充てたため早く土地は元に戻りました。しかし、戻らない「何か」もあるのです」
「生きている「人」や「動植物」、それに「心」だな」
「はい、その通りです。亡くなった人々は元に戻るはずもなく、他の土地に避難していた人々はそちらの土地で生活をたてており、活気が戻ることはありませんでした。それの繰り返しで、資金は底を尽きます。底を尽くのでまた戦争の繰り返しです。それでアーダルリアの「頭」は学んだのです。復興しても意味が無いならば、アーダルリアに住む民から金を毟り取って、贅沢三昧したらよいのだと」
「・・・・・・・すんごい考えに至ったんだな。今までの話を要約すると『全て自分の満足のため』と理解出来るのだが、間違っているか?そもそも戦争が出来るくらいの武器があるくらいだ。本当に教皇は『貧しかったのか』?」
「スイレン団長がそう思われるのも当然だと思います。実際どの時代の教皇も『毎日肉を食し、ワインを嗜んでいた』と記録には残されているようです」っっっっc
「記録?そんなもんが残っていると言うことは、教皇にいつか復讐を誓う誰かの日記系か?それとも見張り役の覚書か?今の話を聞く限り、誰も『教皇』を尊敬し、崇め奉っていない。戦地になった生まれ故郷の土地に戻らないということはそもそもその『教皇』の治政が気にくわないからだ。もちろんそれ以外の理由も確実に存在はするけど。だが、他の地の政が余程素晴らしいと思えるほど治政は酷かったと推察できる」
「いえ、それが的確解答だと思います。実際、数代前の教皇から今に至るまでの生活は『贅沢であった』と考えた方が自然です」
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