不運が招く人間兵器の異世界生活

紫苑

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第二章

30.葬送

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まだ命ある13名をホルシオへと連れて行く。
そう、たったの13名。
若手を取られた家族からの悲痛の叫び声には、全く届かない人数。
その事実をジルフォード殿下がジオルド殿下および兄殿下たちに伝える。
その間に、騎士団の力を借りて、生きていてくれた数名を病院に運び込む。
何とかこの者たちの一命は取り留め、後は回復を待つだけなのだが、心の回復は俺にはどうしようもない。
いつか笑える日が来ることを、切に願う。
回復の加護を使えるレイフォードは額から汗を滲ませながら、必死に涙を堪え治療に専念している。
綺麗で精悍で優しい顔が、苦渋に塗れ、必死に目を背けまいと抗っている姿が目に焼き付いて離れない。
レインも風の加護で、空気を清浄化し、少しでも呼吸を楽にして貰うために、常時発動させている。
並々ならぬ精神でないと心が折れる必然のことを、やってのける。
顔色が悪くなっていることに俺は気付いたが、それを指摘すると彼の矜恃を慮らないただの『クズ上司』だと自分に言い聞かせ、その格好いい姿を頭に焼き付ける。
ジオルドも兄殿下との話し合いが終わったのだろう、治癒の力でレイフォードと共に民に気力を与え始める。
ジルフォードは、ホルシオ内で見つかった瘴気を片っ端から浄化するため、第三騎士団を借りて行動をしている。
殿下たちの能力は王族とは名ばかりではないことを証明するくらい、凄い純度の高い加護で、多くの範囲を自分たちの力でよりよい方向へと導いていく。
俺はこの場に必要はない、と判断した。
だから、近くにいたアルバートに

「あの森に戻って、死者の魂を葬送してくる」
「ああ、わかった。俺も行こうか?」
「いや、アルはここを手伝ってくれ。まだ、暴動は治まっていないのだから」
「そうだな。辛い役目をお前にばかりかけていると思う。すまない」
「俺が?違うぞ。俺じゃない。見てみろ、アシュレイ兄弟をっ!俺は人間兵器だ。ある程度慣れがある。だが「スイっ!」
俺の言葉をアルバートが遮って、肩を鷲づかみにされる。
「スイは『人間兵器』かもしれない!だが、『兵器』ではないんだ!心ある人間だ!自分を卑下することは許さない!」
「アルバート・・・・・・・」
「それに、自分を卑下することは殿下たちを馬鹿にしているのと同意義だといい加減気付け」
「あ・・・・・・・」
そうだ、こんな俺を好いてくれている殿下たちがいる。
「あの人たちの立場を考えろ。あの方々は素晴らしく、とても人間味溢れ、民に愛される人たちだ。その人たちがスイを選んだんだ!」
「っ!」
「そんな人たちが選んだ人間が『心ない兵器』なわけないだろうがっ!」
「ふっ・・・・・・ぅ・・・・・・・」
ポロリと頬を伝う冷たい水。
「ああ、泣けば良い。黙っててやるから」
「うん・・・・・・」
「あと、やっぱり俺も付いていく。お前一人に死者を送る役目を押しつけるわけにはいかんからな」
「うん、ありがとう」



多くの遺体が転がされている洞窟に俺は再び五星結界を張る。
既に清浄化はしていたが、結界を張ることでこれから行う儀式が、格段と美しく、そして死者を安らかな眠りに就かせてあげられる。
死者との対話は俺にはできない。だから『安らか』かどうかはわからないが、ただ、そうであって欲しいという俺の勝手な願望だ。

「アルバート、俺の後ろにいてくれ。巻き込まれたらお前がこちらの世界に戻れなくなる」
「了解した。俺は何もしなくて良いのか?」
「ああ、見ていてくれるだけでいい。もし可能なら、死者に願ってくれ。『安らかな眠り』を」
「ああ、それは当然のことであろうに」
「うん。では・・・・・・・」


煌華葬送


結界を張った同じ場所から金色の光が現われて、柱のように聳え立つ。まるで大きな星が地面に堕ち、輝きを絶やさず、自分の存在を他の星たちに知らせている様だ。
その中で眠っていた死者たちの身体は浮き上がり、上へと登っていく。
本来は途中で光だけとなり、何も残さず天へと還るのだが、今回は柱のその先に大きな扉が現われ、そして、開かれると、あの世なのだろうか花が咲き誇り、精霊たちが楽しそうに飛び回っている姿を見ることができた。
俺にはそのような『力』はない。
ならば、
『今回は我が力を貸そう、スイ』
「フロ、じゃなかった、精霊女王」
『ああ、こちらの世界のことだ。お前だけに頼ってばかりでは情けない』
精霊女王フローラは、姿は取れないが俺の正面に光として現われた。
『あの扉の先は死者の魂が行き着く場所、楽園だ。皆が皆そこに行ける場所ではないが、今回は何の非もない、罪もない者たちばかりだ。だから、大丈夫だろう』
つまり、『天国』ということなのだろう。
「ありがとう、精霊女王」
『否、こちらが礼を言わねばならぬ。ありがとう、スイ。この者たちの魂は我らが預かり、安らかな眠りを授けると約束しよう』
「うん、そうしてくれると嬉しい」
『ああ、私の可愛いスイ・・・・・・いつでも私を頼ってくれていい』

そう言い残して、精霊女王は閉じようとしている扉に最後の光として飛び込んでいった。

「綺麗だったな、スイ」
「ああ、俺の力じゃあんな演出できなかった」
「お前の力はあの光の柱だけだったのか?」
「そう。だから、向こうの世界がああなっているなんて知らなかったよ」
「俺もだ。良いところのようだな。あとは精霊女王にお任せだ」
「見えたかな、多くの人に・・・・・・」
「見えたとも。あの光が遺族の気持ちを癒してくれたさ」
「そうであったらいいのにな」
「断言してやる、絶対だ!」
「うん、ありがとう・・・・・・」

そもそも何故バーミリアでこの力を使用しなかったのかというと、『俺』の力であって、皆が一丸となってする技ではないからだ。
あの時は、皆の心が重要だった。
皆で唄を歌い、葬送するのが最重要だった。
だが、今回は遺族の気持ちが重要だった。
それにこの力は生きとし生けるものまで巻き込んでしまう。自分では制御できない力。
そして、体力の消耗が激しいのだ。
実際立っているのもやっとで、膝がガクガクと五月蠅い。

「よっと!」
「っ!!!!???」
アルバートが俺を軽々と抱き上げたのだ。
殿下たちより逞しい腕で!
安心感は頗る凄いが、それでも『姫抱き』はない!
それに男としての矜恃が粉々にっ!
くそっ!!
「ちょっ!降ろせ!」
「歩けないのだろう?大人しくしておけ」
「少し休めば大丈夫だっ!」
「あ~~五月蠅い五月蠅い!早く戻って、あっちの対処もせにゃならんのだ。大人しくしていろ」
「ぐっ!」
そう言われると逆らえない。
あと、全く揺れない!
アルバートの胸筋と腕に挟まれて、暑苦しいことこの上ないないのだが、安定感が凄いし、そして安心感も凄い。
いつの間にか俺は寝ていて・・・・・・・


「はっ!!やばっ!」

と、起きたのが見覚えのある一室。
そう、ホルシオのあのホテルだ。
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