不運が招く人間兵器の異世界生活

紫苑

文字の大きさ
上 下
40 / 227
第一章

39.神格化

しおりを挟む
「凄いですね、スイ団長。もう『瘴気』を払ってしまった」
「ああ、我々もグズグズしてはいられないのだが、これではな・・・・・・・」
城下に住まう民が、属国になることに異を唱え、混乱しているのだ。
『瘴気』よりそれを優先させる浅はかな考えは、我が国には必要ないのかもしれない。
キツい言い方かもしれないが。
だが、スイが『結界』らしき物を張った瞬間を見ていた民も当然いる。
一様に口をポカーンと開けて固まった。そして、すぐに『瘴気』が払われると、安堵と困惑の表情が代わる代わる現われ、そして、行き着く先には自分たちが行ったスイに対する暴言と行動だ。
後悔しても既に遅い。
ならば、これからどう行動するかを考えて欲しい。
私は固まっていた民の言葉を辛うじて聞き取れた。
「あいつ、無能じゃなくて、神だったのか・・・なんということを」
「ああ、私たちはあのお方に大変失礼なことを。助けてなんて烏滸がましくて、言えない」
「綺麗・・・・・・『瘴気』がない空ってこんなに綺麗だったかな?スイ様、どうか私たちに謝罪の機会をお与えください」
自分たちの行いを恥じ、スイを敬い、謝罪の機会を設けて欲しいと訴える民を放置するのは王族としてはしてはならないことだが、こればかりはどうしようもない。
スイがこちらに戻ってこなければ。
でも、その光景を見ておらず、我々に苦情ばかりを言っている民は『瘴気』があの位置だけ晴れたことに気づいていない。なんと愚かなことなのだろう。
私はこの得体のしれない民をどうしたらよいのか、本当に困る。
「ジオルド、ここを放置して俺たちは城に戻らないか?そっちの浄化作業を先にした方がよくないか?」
「ジルが言いたいことはわかるけど、スイがどう行動するか全く判らないから、動けないんだよね」
「スイめ。格好良すぎるのはよいのだが、後のことも考えて行動してくれ」
「全くだ」
私とジルの意見が一致した。
お互いに大きな溜息を一つ。
と、その瞬間、
「お前たち、スラム街の瘴気を晴らしてくれたのがあのお方なんだぞ!」
「いい加減、態度を改めて、あの方に謝罪なりなんなりしなければならないのがわからないのか!」
あの瞬間を見ていた民たちが、未だ文句を言う民たちに立ち向かう。それで自分の愚かさに漸く気付いたのだ。
愕然と立ちすくみ、そして、ガクガクと膝を鳴らし立っていられなくなる者、泣きわめいている者、泡を吹いて倒れている者、様々な愕然の仕方が見れるこの場はなんとも愚かしい。
「このバーミリアに『神』が御降臨されておられたのか」
「私たちはなんと不敬なことを・・・・・」
「ああ、神様っ!」
あの愚かな態度から一変。
スイはもはや「神」として崇められ始めた。
何とも勝手なものだと、冷めた目で見る。
私たちのスイは「神」でも「女神」でも「聖女」でもない。
ただの、心優しい「最強の騎士」なだけなのだ。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

神は眷属からの溺愛に気付かない

グランラババー
BL
【ラントの眷属たち×神となる主人公ラント】 「聖女様が降臨されたぞ!!」  から始まる異世界生活。  夢にまでみたファンタジー生活を送れると思いきや、一緒に召喚された母であり聖女である母から不要な存在として捨てられる。  ラントは、せめて聖女の思い通りになることを妨ぐため、必死に生きることに。  彼はもう人と交流するのはこりごりだと思い、聖女に捨てられた山の中で生き残ることにする。    そして、必死に生き残って3年。  人に合わないと生活を送れているものの、流石に度が過ぎる生活は寂しい。  今更ながら、人肌が恋しくなってきた。  よし!眷属を作ろう!!    この物語は、のちに神になるラントが偶然森で出会った青年やラントが助けた子たちも共に世界を巻き込んで、なんやかんやあってラントが愛される物語である。    神になったラントがラントの仲間たちに愛され生活を送ります。ラントの立ち位置は、作者がこの小説を書いている時にハマっている漫画や小説に左右されます。  ファンタジー要素にBLを織り込んでいきます。    のんびりとした物語です。    現在二章更新中。 現在三章作成中。(登場人物も増えて、やっとファンタジー小説感がでてきます。)

俺の推し♂が路頭に迷っていたので

木野 章
BL
️アフターストーリーは中途半端ですが、本編は完結しております(何処かでまた書き直すつもりです) どこにでも居る冴えない男 左江内 巨輝(さえない おおき)は 地下アイドルグループ『wedge stone』のメンバーである琥珀の熱烈なファンであった。 しかしある日、グループのメンバー数人が大炎上してしまい、その流れで解散となってしまった… 推しを失ってしまった左江内は抜け殻のように日々を過ごしていたのだが…???

異世界転生してハーレム作れる能力を手に入れたのに男しかいない世界だった

藤いろ
BL
好きなキャラが男の娘でショック死した主人公。転生の時に貰った能力は皆が自分を愛し何でも言う事を喜んで聞く「ハーレム」。しかし転生した異世界は男しかいない世界だった。 毎週水曜に更新予定です。 宜しければご感想など頂けたら参考にも励みにもなりますのでよろしくお願いいたします。

【完結】気が付いたらマッチョなblゲーの主人公になっていた件

白井のわ
BL
雄っぱいが大好きな俺は、気が付いたら大好きなblゲーの主人公になっていた。 最初から好感度MAXのマッチョな攻略対象達に迫られて正直心臓がもちそうもない。 いつも俺を第一に考えてくれる幼なじみ、優しいイケオジの先生、憧れの先輩、皆とのイチャイチャハーレムエンドを目指す俺の学園生活が今始まる。

【連載】異世界でのんびり食堂経営

茜カナコ
BL
異世界に飛ばされた健(たける)と大翔(ひろと)の、食堂経営スローライフ。

誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!

ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく  高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。  高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。  しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。  召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。 ※カクヨムでも連載しています

とある美醜逆転世界の王子様

狼蝶
BL
とある美醜逆転世界には一風変わった王子がいた。容姿が悪くとも誰でも可愛がる様子にB専だという認識を持たれていた彼だが、実際のところは――??

異世界に来たようですが何も分かりません ~【買い物履歴】スキルでぼちぼち生活しています~

ぱつきんすきー
ファンタジー
突然「神」により異世界転移させられたワタシ 以前の記憶と知識をなくし、右も左も分からないワタシ 唯一の武器【買い物履歴】スキルを利用して異世界でぼちぼち生活 かつてオッサンだった少女による、異世界生活のおはなし

処理中です...