不運が招く人間兵器の異世界生活

紫苑

文字の大きさ
上 下
39 / 227
第一章

38.スラム

しおりを挟む
「ここは・・・・・・・・」
「騎士様、こっち!!」
兄弟が俺の手を引いて、案内をする。
道は瓦礫やゴミが散乱し、そして、子供が見て良い光景ではない多くの『腐乱死体』があちこちに存在している。
「君たち、ここは・・・・・・・」
「スラムだよっ!僕たちはこの国に捨てられたゴミなんだ」
「っ!!!!」
子供が自分たちを『ゴミ』だと言う。そんなことあって言い訳がない。
「こんな国、クソ食らえだ」
俺はとことんこの国を滅ぼしてやろうと決心した。
行く道中で息が辛うじてある者には軽くだが『治癒』を施していく。俺がこれから使用する術を考えると、体力的に『軽い治癒』でないと瘴気を払えないのだ。それくらいこのスラムは死んでいる。
軽い『治癒』でも、レインたちが到着すれば、治癒師が引き継いでくれるだろうし、腹が減っているだけの者もいるから、食べるだけで回復する者もいるだろう。
正直泣きたい、こんな光景を子供が平気で見ている事に。
慈善を続けていると、子供たちにせっつかれるので、仕方なしに子供が誘導する家、否、荒(あば)ら家(や)に入ると異臭と屍臭が充満している。
しかし、小さな呼吸音が辛うじて聞こえる。この屍臭は『死に神の鎌に捕まってしまった』ためだろう。そこから逃げ出させれば助け出せる。
「ご両親の様な方はこのスラムには多いのかい?」
「うん・・・・・・ほとんどだよ・・・・・友達の父ちゃん死んじゃった・・・ひぅ・・・」
「ああ、泣かないで!君たちのご両親はまだ間に合うから!」
「うぅ・・・・・兄ちゃんっ!うわぁぁぁっん」
俺に縋り付いてくる二人の小さな身体をギュッと抱きしめて、俺は決める。
「俺はここを少し離れるよ。空を見ておいて。俺がすることを目に焼き付けて。その光景を二度と見ない世界を望んで」
「「・・・??うん」」
俺は、外に出て、
「朱雀っ!力を貸してくれ!!!」

『何だ、スイ?我に用か?』
「ああ、悪いけど、俺を連れて飛んでくれないか?空から結界を四方に張る」
『ああ、わかった。この汚れた場所を囲うのか?』
「そうだ。あっちで俺を馬鹿にした奴らは今は助けない。自らの愚かな思考を変えない限り」
『了解した』
朱雀は、他の鳥たちと共に飛ぶために小さくしていた身体を俺を乗せるため巨大な姿へと変える。
子供たちから「格好いい!」と賞賛され、朱雀は満更でもないようで、羽でその兄弟の頭を優しく一撫でし、俺を背に乗せ飛び上がる。
『スイ、このくらいの高さからなら、結界張れるか?』
「ああ、大丈夫だ!」
懐から5本の苦無を取りだし、スラムの周りに投げて突き刺す。

五(ご)星(しょう)結界

苦無からバリバリという音と共に金の光、否、雷の様な光が線を成していく。全てを描き終わると、陰陽道で使用される五芒星が現われ、そして、苦無で示した空間を白の帳(とばり)が覆った。
これで、俺が認める者以外は中に入れないし、出ることもできない。
つまり邪魔が入らないということだ。
そして、もう一つこの技には利点がある。
清浄化するのだ、囲んだ中を。
この汚れたスラムを少しでも呼吸のしやすい場所に変えてやりたかったのだ。
「ありがとう朱雀。俺はこのまま飛び降りるから、後は遊んでていいよ」
『怪我はするなよ、我らが愛し子よ』
「平気だって!でも、ありがとうな」
朱雀の背から俺は身を投げ出した。


兄弟たちの前に着地すると、腰を抜かしてへたり込んでしまった。
「騎士様、け、けがは・・・・・」
「ないよ?俺は超強いからね。へっちゃらさ!さ、皆を助けるよ!!ちょっと離れててな」
俺は集中し、『瘴気』がどこまで広がっているか把握して、

浄霊清流

結界を張った場所から、一気に瘴気が綺麗になくなる。
子供たちは目を瞬かせ、呆然としているが、兄の方が「はっ!」と何かに気付いて、家に入っていく。
「父ちゃんっ!母ちゃんっ!!!」
そして、喜びの声が聞こえてきたから、彼らは大丈夫なのだろう。
そして、この結界がある限り、清浄が続けられる。
身体の中に溜まった悪の塊は、徐々になくなるだろう。
このスラムにいる人々からはだが。
漸く、俺に追いついたレインたちが結界の外に見えるので、彼らが結界内に入ることを許可する。
「団長っ!!勝手に行動しないでください!!」
「いや~~優秀な副官がいると楽だわ~~~」
「ス・イ・団・長!!!」
「あ、はい、ごめんなさい。説教は後で聞くから、治癒が使える者は民の具合を見てくれ!力仕事が得意な者は、瓦礫などを一箇所に集めてくれ!あと、炊き出しの準備をっ!腹一杯食わせてやってくれ!」
「「「はっ!!!」」」
とりあえず、スラムについての『瘴気』は一件落着だ。
あとは、城と城下町だな。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

神は眷属からの溺愛に気付かない

グランラババー
BL
【ラントの眷属たち×神となる主人公ラント】 「聖女様が降臨されたぞ!!」  から始まる異世界生活。  夢にまでみたファンタジー生活を送れると思いきや、一緒に召喚された母であり聖女である母から不要な存在として捨てられる。  ラントは、せめて聖女の思い通りになることを妨ぐため、必死に生きることに。  彼はもう人と交流するのはこりごりだと思い、聖女に捨てられた山の中で生き残ることにする。    そして、必死に生き残って3年。  人に合わないと生活を送れているものの、流石に度が過ぎる生活は寂しい。  今更ながら、人肌が恋しくなってきた。  よし!眷属を作ろう!!    この物語は、のちに神になるラントが偶然森で出会った青年やラントが助けた子たちも共に世界を巻き込んで、なんやかんやあってラントが愛される物語である。    神になったラントがラントの仲間たちに愛され生活を送ります。ラントの立ち位置は、作者がこの小説を書いている時にハマっている漫画や小説に左右されます。  ファンタジー要素にBLを織り込んでいきます。    のんびりとした物語です。    現在二章更新中。 現在三章作成中。(登場人物も増えて、やっとファンタジー小説感がでてきます。)

【完結】気が付いたらマッチョなblゲーの主人公になっていた件

白井のわ
BL
雄っぱいが大好きな俺は、気が付いたら大好きなblゲーの主人公になっていた。 最初から好感度MAXのマッチョな攻略対象達に迫られて正直心臓がもちそうもない。 いつも俺を第一に考えてくれる幼なじみ、優しいイケオジの先生、憧れの先輩、皆とのイチャイチャハーレムエンドを目指す俺の学園生活が今始まる。

異世界転生してハーレム作れる能力を手に入れたのに男しかいない世界だった

藤いろ
BL
好きなキャラが男の娘でショック死した主人公。転生の時に貰った能力は皆が自分を愛し何でも言う事を喜んで聞く「ハーレム」。しかし転生した異世界は男しかいない世界だった。 毎週水曜に更新予定です。 宜しければご感想など頂けたら参考にも励みにもなりますのでよろしくお願いいたします。

【連載】異世界でのんびり食堂経営

茜カナコ
BL
異世界に飛ばされた健(たける)と大翔(ひろと)の、食堂経営スローライフ。

誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!

ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく  高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。  高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。  しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。  召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。 ※カクヨムでも連載しています

とある美醜逆転世界の王子様

狼蝶
BL
とある美醜逆転世界には一風変わった王子がいた。容姿が悪くとも誰でも可愛がる様子にB専だという認識を持たれていた彼だが、実際のところは――??

平凡くんの学園奮闘記

nana
BL
平凡男子の真城 紡(ましろ つむぎ)が、頑張って王道学園で生活するお話。

異世界に来たようですが何も分かりません ~【買い物履歴】スキルでぼちぼち生活しています~

ぱつきんすきー
ファンタジー
突然「神」により異世界転移させられたワタシ 以前の記憶と知識をなくし、右も左も分からないワタシ 唯一の武器【買い物履歴】スキルを利用して異世界でぼちぼち生活 かつてオッサンだった少女による、異世界生活のおはなし

処理中です...