不運が招く人間兵器の異世界生活

紫苑

文字の大きさ
上 下
35 / 227
第一章

34.閑話1

しおりを挟む
解散した時刻は昼飯前だったので、食堂に寄り手早く食事を済ませる。
ビュッフェ形式なので、俺は野菜と魚中心に皿へ乗せていく。
日本食とは全く異なる味付けなのだが、結構俺の味覚には合っている。だが、とことん脂っこいのもあり、下手すると一日中胃もたれに悩まされるのだが、この国の騎士にはあの脂っこさが当たり前らしく、平気でジオルドが食していたのを思いだした。
「無理だ・・・・・食えないわ、あれは・・・」
思い出しただけでも、胃がムカムカしてくる。
『スイレン団長が今日はお一人で食事されている!』
『話しかけても大丈夫かな?』
『で、でも悪くないか?確か今日本当は休暇なんだろう?だったら、邪魔したら悪くないか?』
『ああ、それもそうなんだけど、なかなか話を聞けるチャンスないだろう?』
『それにしても、格好いいよな~』
『それな!俺たちより細いのに、綺麗に筋肉がついていて、憧れるわ』
『殿下たちに見せる笑みは可愛いし』
と、コソコソと聞こえてくるのが正直鬱陶しいので、
「いいから、話したければこっちで食べたら良い。質問くらい答えてやるから」
そう言ったのがよくなかった。
一気に周りを多くの騎士に囲まれ、質問攻め。
休暇のはずが、かなり疲れるランチタイムになってしまったのだった。
だが、悪くはなかった。
俺の人柄を把握できただろうし、俺に対しての不信感は少なくなるはずだ。
ただでさえ、「いきなり現われて団長にまでになった異世界人」という言葉のフレーズ自体はおかしくないが、口に出して言われると「揶揄」だと判断できる状況に何度か遭遇したのだ。
だが、今この時のおかげで、どことなく壁があった平騎士からの疑問は払拭され、信頼は得られたであろう。
それだけでも儲けもんだと、俺は納得して自室に戻った。
結局手早く済ませる昼食が結構な時間拘束されて、やっと自室に戻ることができ、ソファーで一息つく。
自分でお茶を煎れるのも億劫で、身体一つ動かすのも正直辛い。
理由はわかっている、神獣様をこちらの世界に呼び、相手をして貰ったからなのだ。
それに前日の激しい身体の交ざりもあることだろう。
思い出しただけで、下半身が鈍く疼く。
「そう言えば、今晩は覚悟しておかないといけないんだっけ・・・」
ボソリと独り言をごちり、まだその刻まではかなり早い時間だというのに、自室にある風呂で身体をゆっくりと清めた。
下着とシャツだけ羽織り、ソファーへと腰を落ち着かせると、瞼が段々と降りてきて、暗闇に誘(いざな)った。

「・・・イ・・・・・ス・・・・・・スイ、こんな格好で寝ていたら風邪引くよ?」
ゆらゆらと優しく揺すられる肩。
優しく心地良い声音。
温かい手のひら。
「ぅん・・・・・じおる・・・・っ!」
俺の目の前に超綺麗な顔のジオルドがいたので、驚いて飛び起きてしまった。
「スイ、だいぶ疲れているようだね?」
「あ、うん、正直まだ寝ていたい」
「そっか・・・・・・。ジルには伝えておくから、今日はもう寝て良いよ?あ、でももちろん私の部屋でだけど」
という言葉が聞こえてくるが、あまりに眠たくて、その声は子守歌となり、
「ふふ、私が連れて行くからそのまま寝ててスイ。良い夢を・・・・・・」
ふわりと持ち上がる俺の身体。
温かい体温が傍にあって。
トクントクンと規則正しい脈拍が、俺の眠りを促して、
「お休み、愛しいスイ」
その言葉を最後に今日の俺の意識をシャットダウンするのだった。


「スイ、スイ、もう朝だよ?起きて」
柔らかな温かい物に包まれている身体をポンポンと優しく叩かれる。
「う~~ん・・・」
「お~い、スイ、今日は仕事だぞ?侵攻準備しないといけないだろう?」
今度は頭を優しく撫でられる。
それでも俺はまだ寝ていたくて。
だって、気持ちいい、撫でられるのが。
「ジル、このままだと朝食を食べ損ねてしまうから、ここに持ってきてもらえるよう手配して貰って」
「ああ、わかった。それまでにスイを起こしておけよ。本当に疲れていたんだな」
「ああ、そうだな。それでも起きて貰わないといけないのが、心苦しいな」
「本当にな。情けないな、俺たちは」
「ああ、全く。昨日神獣様に誓ったばかりなのに」
隣の体温がそっと離れていく。
嫌だっ!離れないで!
俺は無意識に腕を引っ張って再びベッドに引き戻させた。
「っ!?嬉しいことしてくれるな、スイ。だが、許せ。また、今日もゆっくり三人で寝ような」
額に軽くリップ音を落としてくる。
嬉しくて、表情が柔らかくなる。
「かわいい、スイ・・・・・・・。だけど、本当に俺もう行くね」
今度こそジルフォードは俺の元からそっと離れたのだ。
「っ!!!????」
ということで、漸く意識が完璧に浮上しました!
「う、うわぁぁぁぁぁぁっぁつ!!」
穴があったら奥まで入って反省したいです!!
「スイ?正気に戻った?」
「ぅっ!!ああ、ごめん、寝ぼけて」
「いや、可愛かったからいいよ?とりあえず、着替えて。ジルが朝食手配してくれているから、ここで食べよう?」
「うん、ありがとう」
そして、着替えが終わったころ、ジルフォードが執事や侍女に朝食を持たせ、戻ってきた。
寝ぼけていた俺を優しく笑って、「可愛いスイをいただきました」だって!
それもとびきりの笑顔で!
ぐぐぐぐっ!格好いい奴ってなんでも様になりやがる!!
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

若奥様は緑の手 ~ お世話した花壇が聖域化してました。嫁入り先でめいっぱい役立てます!

古森真朝
恋愛
意地悪な遠縁のおばの邸で暮らすユーフェミアは、ある日いきなり『明後日に輿入れが決まったから荷物をまとめろ』と言い渡される。いろいろ思うところはありつつ、これは邸から出て自立するチャンス!と大急ぎで支度して出立することに。嫁入り道具兼手土産として、唯一の財産でもある裏庭の花壇(四畳サイズ)を『持参』したのだが――実はこのプチ庭園、長年手塩にかけた彼女の魔力によって、神域霊域レベルのレア植物生息地となっていた。 そうとは知らないまま、輿入れ初日にボロボロになって帰ってきた結婚相手・クライヴを救ったのを皮切りに、彼の実家エヴァンス邸、勤め先である王城、さらにお世話になっている賢者様が司る大神殿と、次々に起こる事件を『あ、それならありますよ!』とプチ庭園でしれっと解決していくユーフェミア。果たして嫁ぎ先で平穏を手に入れられるのか。そして根っから世話好きで、何くれとなく構ってくれるクライヴVS自立したい甘えベタの若奥様の勝負の行方は? *カクヨム様で先行掲載しております

BlueRose

雨衣
BL
学園の人気者が集まる生徒会 しかし、その会計である直紘は前髪が長くメガネをかけており、あまり目立つとは言えない容姿をしていた。 その直紘には色々なウワサがあり…? アンチ王道気味です。 加筆&修正しました。 話思いついたら追加します。

【完結】気が付いたらマッチョなblゲーの主人公になっていた件

白井のわ
BL
雄っぱいが大好きな俺は、気が付いたら大好きなblゲーの主人公になっていた。 最初から好感度MAXのマッチョな攻略対象達に迫られて正直心臓がもちそうもない。 いつも俺を第一に考えてくれる幼なじみ、優しいイケオジの先生、憧れの先輩、皆とのイチャイチャハーレムエンドを目指す俺の学園生活が今始まる。

スキルも魔力もないけど異世界転移しました

書鈴 夏(ショベルカー)
BL
なんとかなれ!!!!!!!!! 入社四日目の新卒である菅原悠斗は通勤途中、車に轢かれそうになる。 死を覚悟したその次の瞬間、目の前には草原が広がっていた。これが俗に言う異世界転移なのだ——そう悟った悠斗は絶望を感じながらも、これから待ち受けるチートやハーレムを期待に掲げ、近くの村へと辿り着く。 そこで知らされたのは、彼には魔力はおろかスキルも全く無い──物語の主人公には程遠い存在ということだった。 「異世界転生……いや、転移って言うんですっけ。よくあるチーレムってやつにはならなかったけど、良い友だちが沢山できたからほんっと恵まれてるんですよ、俺!」 「友人のわりに全員お前に向けてる目おかしくないか?」 チートは無いけどなんやかんや人柄とかで、知り合った異世界人からいい感じに重めの友情とか愛を向けられる主人公の話が書けたらと思っています。冒険よりは、心を繋いでいく話が書きたいです。 「何って……友だちになりたいだけだが?」な受けが好きです。 6/30 一度完結しました。続きが書け次第、番外編として更新していけたらと思います。

誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!

ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく  高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。  高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。  しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。  召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。 ※カクヨムでも連載しています

【連載】異世界でのんびり食堂経営

茜カナコ
BL
異世界に飛ばされた健(たける)と大翔(ひろと)の、食堂経営スローライフ。

真面目系委員長の同室は王道転校生⁉~王道受けの横で適度に巻き込まれて行きます~

シキ
BL
全寮制学園モノBL。 倉科誠は真面目で平凡な目立たない学級委員長だった。そう、だった。季節外れの王道転入生が来るまでは……。 倉科の通う私立藤咲学園は山奥に位置する全寮制男子高校だ。外界と隔絶されたそこでは美形生徒が信奉され、親衛隊が作られ、生徒会には俺様会長やクール系副会長が在籍する王道学園と呼ぶに相応しいであろう場所。そんな学園に一人の転入生がやってくる。破天荒な美少年の彼を中心に巻き起こる騒動に同室・同クラスな委員長も巻き込まれていき……? 真面目で平凡()な学級委員長が王道転入生くんに巻き込まれ何だかんだ総受けする青春系ラブストーリー。 一部固定CP(副会長×王道転入生)もいつつ、基本は主人公総受けです。 こちらは個人サイトで数年前に連載していて、途中だったお話です。 今度こそ完走させてあげたいと思いたってこちらで加筆修正して再連載させていただいています。 当時の企画で書いた番外編なども掲載させていただきますが、生暖かく見守ってください。

神は眷属からの溺愛に気付かない

グランラババー
BL
【ラントの眷属たち×神となる主人公ラント】 「聖女様が降臨されたぞ!!」  から始まる異世界生活。  夢にまでみたファンタジー生活を送れると思いきや、一緒に召喚された母であり聖女である母から不要な存在として捨てられる。  ラントは、せめて聖女の思い通りになることを妨ぐため、必死に生きることに。  彼はもう人と交流するのはこりごりだと思い、聖女に捨てられた山の中で生き残ることにする。    そして、必死に生き残って3年。  人に合わないと生活を送れているものの、流石に度が過ぎる生活は寂しい。  今更ながら、人肌が恋しくなってきた。  よし!眷属を作ろう!!    この物語は、のちに神になるラントが偶然森で出会った青年やラントが助けた子たちも共に世界を巻き込んで、なんやかんやあってラントが愛される物語である。    神になったラントがラントの仲間たちに愛され生活を送ります。ラントの立ち位置は、作者がこの小説を書いている時にハマっている漫画や小説に左右されます。  ファンタジー要素にBLを織り込んでいきます。    のんびりとした物語です。    現在二章更新中。 現在三章作成中。(登場人物も増えて、やっとファンタジー小説感がでてきます。)

処理中です...