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第一章

25.不条理

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ギーと小さく扉の開く音がした。
そして、足音を消し、息も殺して・・・・・。
そこまで完璧にしておきながら、何で話しかけるんだ、こいつは?
起きるだろう、俺が!
アホなのか?アホなんだな?
「はっ!寝顔も間抜けだな!くそっ!よくも私の力を奪ってくれたな!死んであの世で私に侘びるがいいっ!」
と、テンプレな言葉と共に、
ドシュッ!
短剣が突き刺さる音がした。
そして、布団が赤い色に染まる。
「ははっ!はははははっ!報いだっ!せいぜい私を怒らせたこと後悔するがよい!!」
「あはははははははは、お前バカなの?」
「はっ?!」
オークレイは笑い顔のまま背後に立つ俺に振り返る。
「ん?俺が生きてんのが不思議か?それ、血糊だぞ?で、お前が刺したのは丸めた布団だ。そんなのに騙されるなんて、騎士失格じゃね?」
「うるさいうるさいうるさいっ!貴様っ!私を愚弄しおって!絶対殺してやるっ!」
オークレイの形相はすんごい汚いもので、そして・・・・・
彼から発せられる『瘴気』の色に、俺は我を忘れかけた。
「テメーその『瘴気』、何をした?ああ?」
俺はオークレイの首を片腕で締め上げ、吊す。
「がっ!はっ!!」
「スイっ!何をしてっ!」
駆けつけたアルバートが俺を止めようとする前に、オークレイをユーステスに向かって放り投げた。
「そいつを牢に入れておけ。アシュレイ兄弟は付いてこい。キュリアス殿下とジルフォード殿下も俺に付いてきてください。アルバートたちはそいつの尋問だ。そいつ、一体いくつの魂を奪ってやがるっ!!」
「「「っ!?」」」
「俺があの時気付いていればっ!くそっ!俺が悪いっ!」
「スイッ!!」
アルバートが俺の肩を掴んで、顔を上げさせる。
「どうした?そんな怖い顔をして?」
「・・・・・あ、ごめん・・・。とりあえず、行ってくる。説明は後だ。それと、ジオルド殿下を起こしておいてくれないか?」
「ああ、わかった。だが、必ず説明はしてくれよ?じゃないと、俺も付いていくぞ?」
「保護者みたいだな、ははは。うん、大丈夫。大丈夫、大丈夫!よし、行こうか!」
これから見せる場所が、彼らのトラウマにならないことを祈るばかりだった。



「スイ、ここはこの間の農村ではないか?」
「そうです。そして、暗闇でもわかりますよね?『瘴気』が再び発生していることが」
「ああ、しかし、この間より濃くなっている気がするのだが?」
「間違いではありません。これは『呪詛』でどす黒くなっているのです」
俺はその『瘴気』に近づき、中に手を突っ込み、爆発させる。『瘴気』跡から隠されていた扉が露わになった。
「覚悟を決めてください。あの時気付かなかった俺を責めてくれてもいい。だけど、目を背けないでください」
背後にいる殿下たちの「了解」の意を受け取る前に、俺はその扉を開いた。
中からはドロリとした濃い『瘴気』と錆び付いた鉄の匂いが溢れ出てきた。
レインが近くにある灯籠に灯(あかり)を灯(とも)すと、無残な室内が存在していた。
壁は赤い何かが飛び散っており、机には何かの実験道具、床には人だった骸、犬だろう骸、鶏だろう骸、様々な骸がゴミの様に雑に扱われている。
「っ!んなっ!」
「俺さ『帝都の瘴気には清掃』と言ったけど、農村の事はひと言も言ってないの気付いてた?」
「い、いや、全く」
「違和感があったんだ、ここの『瘴気』。でも、まさかっ!俺の落ち度だ・・・・・・・苦しかったな、怖かったな、助けてあげることができなくて、ごめんな」
俺はうち捨てられた一番新しい子供の遺体を抱きしめる。
何の実験をしていたのかわからないが、遺体からは血液が全て抜かれていた。抜き方は遺体ごとに異なっている。あまりにも非人道的な行為に、レインとレイフォードは吐き気を堪えるのが精一杯なようで、外に出させた。
「この場の『瘴気』は奴が俺を襲った時に纏っていた呪いと同じ色だったんだ。奴が犯人で間違いはない。明日、ここの調査を第二騎士団にお任せしても良いでしょうか?」
「無論だ!我が団の不祥事!いや、不祥事で片付けたくない悍ましい事件だ。私が責任を持って調べ、奴に厳罰を与える!だから、君のせいじゃない、スイ。泣かなくて良い。悪いのは、私の監督不足なのだから」
ジルフォード殿下が俺を背後から抱きしめてくれる。
ああ、ジオルドと双子だからだろうか、俺の心が温かさを取り戻し、満たされる。
キュリアス殿下は子供たちの遺体に自分のマントをかけている。俺たちも同じ事をした。
「俺はこの『瘴気』を祓います。それと、厳罰を与えるのはバーミリアを属国にしてからにしてください。奴の目の前でエリアス・グラスゴーの呪いを解き、倍にして返してやりますから」
「ああ、わかっている。それまでに絶対に全ての罪を洗い出す!君たちがバーミリアに行っている間、私とオーガストで奴の犯罪を全て見つけ出す!」
「お願いします。では、皆下がって・・・・・・。あ、あの、この国は死者を送る際に歌う歌はないのですか?」
「ありますよ、スイ団長。申し訳ありません、この場に来ておきながら役立たずの兄弟で」
「復活したか、レイン、レイフォード」
「はい。私とレイフォードで『送り歌』を歌います」
「私たち兄弟の歌声は、一目置かれる程なのですよ」
兄弟は無理に笑おうとする。そんな彼らに俺は
「頼む」
しか言えなくて。

浄霊清流


アシュレイ兄弟が歌う歌は『調べ』だけで歌詞はない。それがとても美しくて、そして彼らの加護である『風』と『水』が混じり合い、苦しんだり、悲しんだりしていた亡骸の姿は癒やされ、安らかな気持ちで向こうの世界に旅立ったことだろう。『霊体』を見ることができない俺は、そう思うしかないのだ。
ただ、苦悶の表情が少し和らいでいるのは、俺の見間違いではないはずだ。殿下たちも驚いているのだから。
彼らの『歌』には『浄化作用』があるのがこれで判明した。ただ、一人で歌っても意味がない。二人だからこそ成せる術であることは、加護を見たら一目瞭然だった。
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