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第一章
11.解呪と解放
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「ジル、いるかい?入るよ?」
殿下の部屋であろう場所から5分ほど歩いた位置にある扉をジオルドが4回ノックし、扉を開ける。
つか、同じ所に住んでるのに、隣の部屋まで5分も歩かなければならないってどういうこと?ここに来るまで、他に扉なんてなかったぞ?規模がおかしくないか?後で、外観を確認せねば!
それより先に・・・・・・・・・・・・「うわぁ~」な光景が。
広々とした部屋に、品のある家具が邪魔にならない程度に置かれ、そして、多くの花や木が部屋を彩っている。
凄く空気が綺麗な部屋であることが周りを飛んでいる多くの精霊が教えてくれる。
これだけの精霊がいるとなると、この部屋の主は「精霊に愛される存在」であるのは確実だ。
それなのに外に出ること叶わず、軟禁されているなんて!
早く助けてあげたい。
「スイ?どうした、入り口で突っ立ってないで、こっちの部屋に入っておいで?」
ジオルドが右奥の方から呼びかけてくる。そこには別の扉があって彼が開けて待ってくれている。
「ごめん!」
小走りでジオルドが開けてくれている扉まで行くと、そちらには天蓋付きキングサイズのベッドがドドンと部屋を陣取っている。使われている木材や生地はどれも温かみがあり、彼への愛情が本物であることが一目で分かる代物ばかりだ。
そして、その愛情を受けている彼、第四殿下のジルフォード・フィルハートはジオルドと瓜二つの本当に綺麗な方だった。違いと言えば、ヘアスタイルがジオルドよりワイルドなのと少し憔悴している部分のみ。
「ジル、体調はどうだい?」
「ああ、あまり良くないな。身体に力が入らなくなってきた」
「っ!!!そんな・・・・・・・・」
「その前にそいつは誰なんだ?」
彼の瞳が俺を写す。
アルバートに教えて貰ったこちらの礼儀で、挨拶をする。片膝を突き右手は心臓に当て、左手は後ろ。この作法は異世界でなくてもヨーロッパ貴族が忠誠を誓う者に対する礼儀作法と同じだ。
「お初にお目にかかります。私は異世界より参りました姓は風磨、名は翠蓮。どうかスイとお呼びください」
「・・・スイ、私にはそんな態度取ってくれなかったじゃないか」
「それは殿下たちが悪いんでしょう?なんなら今から同じように接しましょうか?」
「っ!!!いや、気色悪いことは止めてくれ!君はそのままで充分だ!」
気色悪いとは失礼な!と思う反面、自分でもこのような接し方をジオルドにすると考えるだけで鳥肌がたつ。
「ははは、ジオルドに気色悪いと言われるなんて君は凄いのだな」
「いえいえいえいえいえいえいえ、普通の人間兵器です」
「「人間兵器を普通とは言わない」」
と、二人同時に突っ込まれました。
「じゃなくてだな、ジルフォード。これからお前と母様の解呪をスイが行う」
「は?そんなことできるはずないだろう?」
ジルフォードは不可解な目で俺を見やるが、それが当然の反応であろう。今まで誰一人として行うことが叶わなかった解呪を異世界の俺がするというのだ。疑っても仕方ないし、疑わない王族なんてすぐに誰かに殺されているだろう。警戒心が強いことに越したことはない。
ジオルドはジルフォードに森での出来事を掻い摘まんで説明をし、それでジルフォードは納得をした様子だ。
「しかし、それでも半信半疑なのだが。それに解呪に失敗した場合の反動がどのようなものかも想像できないしな」
ご尤もなお考えですが、それは必要ないこと。
「発言をお許しください。既にジルフォード殿下の解呪が成功することは判っております。私には些末な解呪です。しかし、王妃様を先に解呪しなければ、失敗に至ります。そちらの解呪の方が難しいかと思われます」
「っ!スイ、母様は大丈夫なのだろうな?失敗は・・・・・・・」
「しませんよ、ジオルド殿下。絶対に私の命にかけて。ジルフォード殿下の力の封印の技量はお粗末すぎるのです。同じ人物が行っているのであれば、私にかかれば些末のこと。ですが、その封印師でしょうか?その者の技量がお粗末過ぎて、封印が絡まり、そして歪な形状を成しているのです。その形状が殿下たちの王妃様に及んでいると私は考えております」
「すごい自信だね、スイ」
「当然です。私の力量を侮らないでください。先ほども述べましたが私の世界では『人間兵器』だったのですから」
「「・・・・・・・・・・・」」
殿下たちは何とも言えない表情を俺に向ける。寂しいような悲しいような、そんな暗い表情を。
ジオルドは俺をギュッと抱きしめてくる。
ああ、なんて優しい『音』。
されるがまま俺は殿下の腕の中でうっとりとしていると、小さく咳払いが聞こえた。
いつの間にか全員が集まっており、王妃様なんて「きゃっ☆」と言って頬を染めているのだ。
ちょっと待て。待ってくれ、王妃よ。
息子が男と抱き合っているんだぞ?「きゃっ☆」で済ませられる事柄か?
俺はジオルドの腕を外そうと藻掻くが、どこから湧き出てくるのだろうこのバカ力。びくともしやがらない。
「スイの言いたいこと判ってるよ?『男同士を見られて平気なのか?』って事だろう?平気さ!この国は、というかこの世界は同性婚を認めているからね!ま、その話は追々で」
俺の言いたいこと何故判る?という疑問は表情だけに止めた。
「さて、皆揃ったな。では、早速だがスイ始めてくれ。貴殿には大変なことをさせようとしている我らを許して欲しい。だが、もはや我らは貴殿に縋るしかないのだ」
「ジオルド殿下・・・・・・・。私にとって些末のことと申し上げたはずです。その発言は、私を信用していないと申されているのと同義になります」
「そうだな、すまなかった。スイ、よろしく頼む」
「はっ!」
王妃様の前なので、一応の対応なのだろうが、如何せん慣れんな。とは、思うが、ジオルドの対応は、まさに王子然。様になっていて、本当に格好いい。男の俺が見惚れるのもわかるわ~~~。
じゃなくてっ!
「では、失礼いたします。王妃様、これから私の手を王妃様の心臓部に充てます。そこから私の力を流し込みます。熱い力が体中を巡ります。その間、絶対に私に触らないでください。触るともう解呪出来なくなります。よろしいですか?」
この部屋に訪れた王妃様の今の格好はほとんど下着だ。なるべく肌を晒す方がよいと言っても王妃様がここまでされるとは思いもしなかった。
その王妃様の御覚悟は素晴らしく、
「判りました。全ては子供のためですもの!あのジオルドが信頼を寄せる者です、私も誠意を見せましょう。こんな服装は本来王以外見せるものではありませんが、貴方が少しでも解呪をしやすくなるのならば、このくらい易いものです」
「王妃様のお心、感謝いたします。高いと思われる熱が体中を巡りましたら、私が手を当てている部分にその熱を集めます。全部集めるとその部分が凄く熱くなると思いますが、絶対に私の手に触れないでください。その熱を私が身体から取り出すまでは。ここまでのこの行為は、ジルフォード殿下も同じです。取り出した後は、ジオルド殿下の指示に従ってください。殿下、頼みましたよ」
「ああ、判っている。既にアルとレイ、侍女に用意して貰っている」
集まっている面々は緊張とやる気と、そして、成功だけを確信している表情を持っている。侍女たちですら『不安』の文字がないのだ。ジオルド殿下の信頼を一心に受けた身元不明の俺を信用するなど、本当にジオルド殿下が皆に慕われているのかがわかる空間で、居心地がいい。
「では、先に王妃様から行います。皆様はさがってください。王妃様、先ほども言いましたが、燃えるような熱さが体中を巡るかもしれません。しかし、決して私に縋ったり、触れたりしないでください。どうか、どうか耐えてください。それしか申し上げることのできない私をお許しください」
「ふふふ、貴方は本当に優しいのですね。ジオルドに相応しい妃だわ。さあ施術してください。どんな苦痛にも耐えましょう!私の子供を救えるのならば!!」
「御覚悟、頂戴いたします」
一部なんか変なフレーズも聞こえたが、反論しようものなら、厳かなこの空間が台無しになってしまうので、あとでジオルドに問いただしてやる!!!
俺は王妃様の心臓部に手を充てて、
「浄霊清流」
俺の手のひらから王妃様の心臓に熱が移る。
王妃様が一度身体を痙攣させ、
「ああああああああああああああああああっ!」
と、身体中を巡る余りの熱さの熱に絶叫を迸らせるが、俺との約束は守ってくれている。俺に縋ることも、触ることもなく、一生懸命自分の手のひらに爪を立て、耐えている。手からは血が伝い床にシミを作る。それほどの熱さなのだ。自分は幼い頃の虐待紛いの訓練で耐性を付けたが、その苦しいほどの熱量は理解出来るのだ。
一先ず、体中を巡った熱を一箇所に集めると、先ほどよりも大きい悲鳴が部屋の空気を固まらせる。しかし、それを気にしている程、俺の精神は丈夫ではない。失敗すれば、元の木阿弥。否、現状より酷くなる可能性だってあるのだ。一瞬たりとも油断はできない。
そして、集めた熱を俺が取り出すと、王妃様は崩れるように倒れられたが、側近の侍女たちが支え、控えていた王妃様の騎士が「失礼します」と抱え上げ、ジオルドの指示で部屋を出て行った。用意させている浴場にお連れするのだろう。
そして、俺はこのまま、ジルフォードの心臓に手を充て、また、俺だけの呪文を唱える。しかし、男だからだろうか、熱いはずの熱に絶叫することはなく、ギュッと口を噤み、耐えて耐えている。
強靱な精神がそうさせているのだ。素晴らしい人間だと、素直に心の中で褒める。
そして、最後まで口から声を漏らさず耐えてくださった。
「はぁはぁ・・・・・・これで終わりだ。ジルフォード殿下と王妃様の体調など、明日お聞きしますので、それまでは自室などでごゆるりとお過ごしください。ジオルド殿下、後は頼みます」
二人分の熱を纏めた赤く発光する玉が消滅するのを見届けて、崩れるように俺は床に倒れた。
息するのが辛い。
身体に力が入らない。支えられない。
身体が、熱い!!
「スイっ!!」
意識が朦朧とする中、ジオルドの悲鳴のような声を聞いた気がする。
殿下の部屋であろう場所から5分ほど歩いた位置にある扉をジオルドが4回ノックし、扉を開ける。
つか、同じ所に住んでるのに、隣の部屋まで5分も歩かなければならないってどういうこと?ここに来るまで、他に扉なんてなかったぞ?規模がおかしくないか?後で、外観を確認せねば!
それより先に・・・・・・・・・・・・「うわぁ~」な光景が。
広々とした部屋に、品のある家具が邪魔にならない程度に置かれ、そして、多くの花や木が部屋を彩っている。
凄く空気が綺麗な部屋であることが周りを飛んでいる多くの精霊が教えてくれる。
これだけの精霊がいるとなると、この部屋の主は「精霊に愛される存在」であるのは確実だ。
それなのに外に出ること叶わず、軟禁されているなんて!
早く助けてあげたい。
「スイ?どうした、入り口で突っ立ってないで、こっちの部屋に入っておいで?」
ジオルドが右奥の方から呼びかけてくる。そこには別の扉があって彼が開けて待ってくれている。
「ごめん!」
小走りでジオルドが開けてくれている扉まで行くと、そちらには天蓋付きキングサイズのベッドがドドンと部屋を陣取っている。使われている木材や生地はどれも温かみがあり、彼への愛情が本物であることが一目で分かる代物ばかりだ。
そして、その愛情を受けている彼、第四殿下のジルフォード・フィルハートはジオルドと瓜二つの本当に綺麗な方だった。違いと言えば、ヘアスタイルがジオルドよりワイルドなのと少し憔悴している部分のみ。
「ジル、体調はどうだい?」
「ああ、あまり良くないな。身体に力が入らなくなってきた」
「っ!!!そんな・・・・・・・・」
「その前にそいつは誰なんだ?」
彼の瞳が俺を写す。
アルバートに教えて貰ったこちらの礼儀で、挨拶をする。片膝を突き右手は心臓に当て、左手は後ろ。この作法は異世界でなくてもヨーロッパ貴族が忠誠を誓う者に対する礼儀作法と同じだ。
「お初にお目にかかります。私は異世界より参りました姓は風磨、名は翠蓮。どうかスイとお呼びください」
「・・・スイ、私にはそんな態度取ってくれなかったじゃないか」
「それは殿下たちが悪いんでしょう?なんなら今から同じように接しましょうか?」
「っ!!!いや、気色悪いことは止めてくれ!君はそのままで充分だ!」
気色悪いとは失礼な!と思う反面、自分でもこのような接し方をジオルドにすると考えるだけで鳥肌がたつ。
「ははは、ジオルドに気色悪いと言われるなんて君は凄いのだな」
「いえいえいえいえいえいえいえ、普通の人間兵器です」
「「人間兵器を普通とは言わない」」
と、二人同時に突っ込まれました。
「じゃなくてだな、ジルフォード。これからお前と母様の解呪をスイが行う」
「は?そんなことできるはずないだろう?」
ジルフォードは不可解な目で俺を見やるが、それが当然の反応であろう。今まで誰一人として行うことが叶わなかった解呪を異世界の俺がするというのだ。疑っても仕方ないし、疑わない王族なんてすぐに誰かに殺されているだろう。警戒心が強いことに越したことはない。
ジオルドはジルフォードに森での出来事を掻い摘まんで説明をし、それでジルフォードは納得をした様子だ。
「しかし、それでも半信半疑なのだが。それに解呪に失敗した場合の反動がどのようなものかも想像できないしな」
ご尤もなお考えですが、それは必要ないこと。
「発言をお許しください。既にジルフォード殿下の解呪が成功することは判っております。私には些末な解呪です。しかし、王妃様を先に解呪しなければ、失敗に至ります。そちらの解呪の方が難しいかと思われます」
「っ!スイ、母様は大丈夫なのだろうな?失敗は・・・・・・・」
「しませんよ、ジオルド殿下。絶対に私の命にかけて。ジルフォード殿下の力の封印の技量はお粗末すぎるのです。同じ人物が行っているのであれば、私にかかれば些末のこと。ですが、その封印師でしょうか?その者の技量がお粗末過ぎて、封印が絡まり、そして歪な形状を成しているのです。その形状が殿下たちの王妃様に及んでいると私は考えております」
「すごい自信だね、スイ」
「当然です。私の力量を侮らないでください。先ほども述べましたが私の世界では『人間兵器』だったのですから」
「「・・・・・・・・・・・」」
殿下たちは何とも言えない表情を俺に向ける。寂しいような悲しいような、そんな暗い表情を。
ジオルドは俺をギュッと抱きしめてくる。
ああ、なんて優しい『音』。
されるがまま俺は殿下の腕の中でうっとりとしていると、小さく咳払いが聞こえた。
いつの間にか全員が集まっており、王妃様なんて「きゃっ☆」と言って頬を染めているのだ。
ちょっと待て。待ってくれ、王妃よ。
息子が男と抱き合っているんだぞ?「きゃっ☆」で済ませられる事柄か?
俺はジオルドの腕を外そうと藻掻くが、どこから湧き出てくるのだろうこのバカ力。びくともしやがらない。
「スイの言いたいこと判ってるよ?『男同士を見られて平気なのか?』って事だろう?平気さ!この国は、というかこの世界は同性婚を認めているからね!ま、その話は追々で」
俺の言いたいこと何故判る?という疑問は表情だけに止めた。
「さて、皆揃ったな。では、早速だがスイ始めてくれ。貴殿には大変なことをさせようとしている我らを許して欲しい。だが、もはや我らは貴殿に縋るしかないのだ」
「ジオルド殿下・・・・・・・。私にとって些末のことと申し上げたはずです。その発言は、私を信用していないと申されているのと同義になります」
「そうだな、すまなかった。スイ、よろしく頼む」
「はっ!」
王妃様の前なので、一応の対応なのだろうが、如何せん慣れんな。とは、思うが、ジオルドの対応は、まさに王子然。様になっていて、本当に格好いい。男の俺が見惚れるのもわかるわ~~~。
じゃなくてっ!
「では、失礼いたします。王妃様、これから私の手を王妃様の心臓部に充てます。そこから私の力を流し込みます。熱い力が体中を巡ります。その間、絶対に私に触らないでください。触るともう解呪出来なくなります。よろしいですか?」
この部屋に訪れた王妃様の今の格好はほとんど下着だ。なるべく肌を晒す方がよいと言っても王妃様がここまでされるとは思いもしなかった。
その王妃様の御覚悟は素晴らしく、
「判りました。全ては子供のためですもの!あのジオルドが信頼を寄せる者です、私も誠意を見せましょう。こんな服装は本来王以外見せるものではありませんが、貴方が少しでも解呪をしやすくなるのならば、このくらい易いものです」
「王妃様のお心、感謝いたします。高いと思われる熱が体中を巡りましたら、私が手を当てている部分にその熱を集めます。全部集めるとその部分が凄く熱くなると思いますが、絶対に私の手に触れないでください。その熱を私が身体から取り出すまでは。ここまでのこの行為は、ジルフォード殿下も同じです。取り出した後は、ジオルド殿下の指示に従ってください。殿下、頼みましたよ」
「ああ、判っている。既にアルとレイ、侍女に用意して貰っている」
集まっている面々は緊張とやる気と、そして、成功だけを確信している表情を持っている。侍女たちですら『不安』の文字がないのだ。ジオルド殿下の信頼を一心に受けた身元不明の俺を信用するなど、本当にジオルド殿下が皆に慕われているのかがわかる空間で、居心地がいい。
「では、先に王妃様から行います。皆様はさがってください。王妃様、先ほども言いましたが、燃えるような熱さが体中を巡るかもしれません。しかし、決して私に縋ったり、触れたりしないでください。どうか、どうか耐えてください。それしか申し上げることのできない私をお許しください」
「ふふふ、貴方は本当に優しいのですね。ジオルドに相応しい妃だわ。さあ施術してください。どんな苦痛にも耐えましょう!私の子供を救えるのならば!!」
「御覚悟、頂戴いたします」
一部なんか変なフレーズも聞こえたが、反論しようものなら、厳かなこの空間が台無しになってしまうので、あとでジオルドに問いただしてやる!!!
俺は王妃様の心臓部に手を充てて、
「浄霊清流」
俺の手のひらから王妃様の心臓に熱が移る。
王妃様が一度身体を痙攣させ、
「ああああああああああああああああああっ!」
と、身体中を巡る余りの熱さの熱に絶叫を迸らせるが、俺との約束は守ってくれている。俺に縋ることも、触ることもなく、一生懸命自分の手のひらに爪を立て、耐えている。手からは血が伝い床にシミを作る。それほどの熱さなのだ。自分は幼い頃の虐待紛いの訓練で耐性を付けたが、その苦しいほどの熱量は理解出来るのだ。
一先ず、体中を巡った熱を一箇所に集めると、先ほどよりも大きい悲鳴が部屋の空気を固まらせる。しかし、それを気にしている程、俺の精神は丈夫ではない。失敗すれば、元の木阿弥。否、現状より酷くなる可能性だってあるのだ。一瞬たりとも油断はできない。
そして、集めた熱を俺が取り出すと、王妃様は崩れるように倒れられたが、側近の侍女たちが支え、控えていた王妃様の騎士が「失礼します」と抱え上げ、ジオルドの指示で部屋を出て行った。用意させている浴場にお連れするのだろう。
そして、俺はこのまま、ジルフォードの心臓に手を充て、また、俺だけの呪文を唱える。しかし、男だからだろうか、熱いはずの熱に絶叫することはなく、ギュッと口を噤み、耐えて耐えている。
強靱な精神がそうさせているのだ。素晴らしい人間だと、素直に心の中で褒める。
そして、最後まで口から声を漏らさず耐えてくださった。
「はぁはぁ・・・・・・これで終わりだ。ジルフォード殿下と王妃様の体調など、明日お聞きしますので、それまでは自室などでごゆるりとお過ごしください。ジオルド殿下、後は頼みます」
二人分の熱を纏めた赤く発光する玉が消滅するのを見届けて、崩れるように俺は床に倒れた。
息するのが辛い。
身体に力が入らない。支えられない。
身体が、熱い!!
「スイっ!!」
意識が朦朧とする中、ジオルドの悲鳴のような声を聞いた気がする。
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