不運が招く人間兵器の異世界生活

紫苑

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第一章

3.瘴気の消滅確認

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「「「っ!!!!!!!」」」
一瞬何が起ったのかわからなかった。
今に至るまで対処のしようがなく、手を拱いていた『精霊の住まう森』の瘴気が消え去った気配がしたのだ。
俺がいるこの部屋は、俺がお護りするこの国の第三王子、ジオルド・フィルハート様の自室だ。
この部屋の主と俺の副官レイフォード・アシュレイと共に瘴気の被害について話し合っていた最中だったのだ。
本来ならば王や宰相などと話し合うべきなのだろうが、彼らには他の対応がある。
今この世界は瘴気に溢れ、そして民が苦しみ藻掻き、天災、飢餓、他諸々の厄災が溢れかえっているのだ。
第一王子は天災の対処、第二王子は飢餓の対処、そして吾が君第三王子は『瘴気』の対処、そして、王や宰相は大切な民の命を護るために尽力しているのだ。
この国の王子は等しく文武両道が求められ、皆我ら騎士団に護られる存在では決してない。王族なだけあって、騎士団長や副団長に匹敵する力量は兼ね備えている強者たちだ。だから、彼らのことはあまり心配はしなくていい。というより、『心配するな!』と怒られる始末。
よって、我ら全ての騎士団は王族より民を護ることに重きを置く。
そう、この国の王族は「民のための国作り」を大切にし、重んじている素晴らしい国だと俺は思うし、吾が主を尊敬もする。
だから、今回もこうして・・・・・・・・・・
「前回私は精霊の住まう森の入り口に転移用魔法石を配置したはずだな?」
「はっ!」
「では、野営をするのも覚悟で転移する!そのように準備を!30分後ここに集合だ!」
「「はっ!!」」
殿下の命令により、我らは各々準備に取りかかる。
「アルバート団長、私は料理長に頼み食料を3日分ほど用意して貰って参ります」
「ああ、頼んだ、レイフォード。私は・・・・・・酒を用意するか」
「・・・・・・・もちろん清めの酒ですよね?」
「ま~、それと本当に瘴気が晴れていたら景気づけに飲むためだな」
「・・・・・・・・・。では、それ用のつまみもくすねてきますね」
「話が早くて助かる」
「では!」
副官のレイフォードと別れ、俺は衛生班にタオルを3日分手配してもらい、自室に戻りコレクションの中から数本自慢の酒を選び、圧縮袋に収納する。食料及び料理機材は全てレイフォードの袋の中に収まっているだろう。
再び俺たちは第三王子の自室に赴く。
「・・・・・・君たちすごい荷物になったんだね」
「殿下も人のこと言えないではないですか」
そうなのだ。殿下の圧縮袋だって物は小さな塊に圧縮されて袋の中で大人しくしているはずなのにパンパンに膨れているのだ。
ちなみに『圧縮袋』とは、無制限に収納出来るわけではない。限られた数、大きさしか入らない。例えばワインボトル一本が四方3cm角の大きさのキューブになって収まるのだ。物の大きさによってキューブの大きさは異なる。
殿下が持って行かれようとしている袋の大きさは背中に背負うタイプで、ま~量的には結構入るのだ。俺と副官も同じ物を使用しているが、さすがにパンパンというか、歪な形になるほど詰め込んではいない・・・・・・と思ったのだが、レイフォードが
「団長・・・・・・あんた、一体どれだけの酒持って行くつもりですか?」
と額に青筋を浮かべながら問うてくるくらいだから、殿下と似たり寄ったりな形になっているのだろう。
人のことは棚に上げて、都合の悪い俺は、
「さ、行きましょうかジオルド殿下」

転移魔法石は王族しか使えない代物なのだ。これはある精霊と契約し、その契約内容を犯さない限り対となる魔法石がある場所に転移できるのだ。
魔法石には王族各々の力が込められているため、本人にしか使用できないようになっている。
前に精霊が住まう森の入り口まで行ったのだが、瘴気が強すぎて中には入れず、何か起った場合すぐに来られるよう殿下が自分の力を込めた転移魔法石を殿下自ら瘴気が漂う森の入り口の木に埋め込んだのだ。
その後すぐに『水』の力を持つ副官のレイフォードが治癒にあたり事なきを得たのだが。
今回はどうなることやら。
殿下が魔法石に何かを呟き、一瞬辺りが光ったと思ったら次には問題の森の入り口に到着していたのだ。
そして、俺たちは唖然とするのだった。
あれだけ濃く満ちていた『瘴気』をどこにも感じないのだ。
ただ、頂上の方にぼんやりと光が見える。そこに何かがあるのかもしれない。
俺たちは互いの目を合わせ、そして、険しい山を登っていく。
『瘴気』にヤラれたであろう動物たちが倒れているだろうと危惧していたのだが、そのような姿は一向に見られず、安心と不信感が募っていく。
頂上に近づくにつれて、気温が高くなり、湯気が立ち上っている。この付近に源泉があるということだ。タオルを多めにくすね、じゃなく、用意してもらってよかったと思う。だが、まさかこの時点で、俺たち用のタオル以外の使い方があろうとは考えもしないというか、誰も予想だにしないだろう。
ああ、俺は正しい!
まさか、大きめの石で囲った湯に浸かった人がいると誰が思うであろうか。
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