上 下
40 / 68
第四章 百合カップルは異世界でもドロドロ共依存しているようです

第38話:百合カップルは異世界でもドロドロ共依存しているようです・10

しおりを挟む
 脅しではない。純粋な疑問だ。お前は今から殺される身で何を訳のわからないことを悠長に確認しているのだと。
 確かにな、と切華は自省する。一方的に優位な状況ばかりが続いていて、自分はこの戦いを殺すか殺さないかの二択だと勘違いしかけていたかもしれない。相手は子供でもチート能力者、常に殺される可能性もあるのが本来の決闘だ。
 気を引き締め直し、改めて霙の姿を見据えた。その立ち姿は至って平静、ふと街中で立ち止まったような自然体で切華を見ていた。目も身体も全く力んでいない。刀を構えた人間を前にして高揚も動揺もない。
 こういう人間は総じて強い。感情の動きとは無関係にやるべきことをやれるタイプの人間だ。これは後天的に身に付くものではない、先天的な素養であることを切華は知っている。
 心臓が脈動する。霙には殺す意志がある。自分も死を覚悟した殺意を持つ。今初めて戦力を備えた者と正面から相対している。まさか最初の殺し合いが子供相手だとは思わなかった。
 切華は刀を構え直した。ここから先は決闘だ。

「さあ始めよう」
「あっ、まだ始まってなかった?」

 霙は既に立てた腕を振り出していた。チート能力『動物使役テイマー』、動物と心を通わせる能力が発動する。
 背後の森から三匹の野犬が飛び出してきた。目を血走らせ、涎をまき散らして切華に向かってくる。鋭い牙と爪は明らかに切華の急所を狙っている。

「それはもう見た」

 切華は腰を深く落とした。膝と足を曲げて獣に合わせて姿勢を調整する。野犬の動き自体は直線的だ。
 目標が動いているのだから、こちらから大きく切りかかる必要は無い。走る軌道を見極めて適切な場所に刀身を置いておくイメージ。先頭の一匹が大きな口を開けて飛びかかってきたタイミングで『創造クリエイト』を発動する。顎から脳天に刀が突き抜けた。
 貫通した瞬間に刀を消して次の一匹に備える。いつでもどこでも刀を出し入れできる『創造クリエイト』なら、複数匹相手でも刀の取り回しを考えなくていい。二匹目は喉の奥まで突き刺し、三匹目は低くステップしながら腹の横から両断する。血と臓物が地面に垂れた。
 野犬の群れを捌いた瞬間、更に巨大な獣が突進してくるのが目に入った。

「大猪!」

 犬とは比べ物にならないサイズと速度を兼ね揃えた野獣。
 素早い突進を低い姿勢で辛うじて転がりながら避けるが、切り返しが早い。再び走ってくる巨体に対し、腕を前に伸ばして何とか刀を突き刺す。しかし厚い脂肪に阻まれて致命傷を与えられないどころか、刀から衝撃を受けて地面に転がるのは切華の方だ。
 手強い相手だ。切華は獣にはそれほど詳しくない、考える時間も足りない。試行錯誤しながら色々な攻撃を試すしかないが、最後まで立っているのが自分かどうかは怪しいところだ。
 大猪が三度目の突進を仕掛けてきたとき、眼前を鋭い炎が横切った。猪が急ブレーキで足を止め、切華も火元を見る。
 数十メートル向こうで撫子が口から黒煙を吐いていた。『建築ビルド』を解除し、代わりに『龍変化ドラゴナイズ』をコピーして発動したのだ。

「こっちは駄目そう。建築合戦に霰ちゃんが参加してきて、二対一になったら押し切られちゃう」

 いつの間にか、要塞は膨大な植物群に覆われていた。
 霰の『植物使役プランター』、植物と心を通わせる能力が発動している。霰が腕を振るごとに地面から太い蔦やら曲がりくねった豆の木やらが凄まじいスピードで伸びていく。柔軟な生きた素材が鋼鉄に絡み付き、一切の隙間がない堅牢な要塞を再構築する。
 灯と霰の二人がかりによる建築。出力に倍の差が付き、撫子一人の『模倣コピー』ではどちらをコピーしたところで木々混じりの築城を止められない。一度にコピーできる能力は一つだけだ。
 この森全てが双子の味方だった。『植物使役プランター』が無限の防御を、『動物使役テイマー』が無限の攻撃を供給する。

「これは無理ね、いったん撤退。籠城が売りだし深くは追ってはこないでしょう」
「応。こちらもちょっとやそっとで倒せる相手ではない」
「楽しそうね、切華」
「応。霙はいい戦士だ。いずれまた再戦したい」

 長らく忘れていた煮え滾る熱を胸に宿し、切華は撫子と共に森に向かって走り出した。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ゲーミング自殺、16連射アルマゲドン

LW
ファンタジー
ゲーム感覚で世界を滅ぼして回ろう! 最強ゲーマー女子高生による終末系百合ライトノベル。 「今すぐ自殺しなければ! 何でも構わない。今ここで私が最速で死ぬ方法はどれだ?」 自殺癖持ちのプロゲーマー、空水彼方には信条がある。 それは決着したゲームを最速で完全に清算すること。クリアした世界を即滅ぼして即絶命する。 しかも現実とゲームの区別が付いてない戦闘民族系ゲーマーだ。私より強いやつに会いに行く、誰でも殺す、どこでも滅ぼす、いつでも死ぬ。 最強ゲーマー少女という災厄が異世界を巡る旅が始まる。 表紙イラスト:えすけー様(@sk_kun) 表紙ロゴ:コタツラボ様(@musical_0327) #ゲーマゲ

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

器用さんと頑張り屋さんは異世界へ 〜魔剣の正しい作り方〜

白銀六花
ファンタジー
理科室に描かれた魔法陣。 光を放つ床に目を瞑る器用さんと頑張り屋さん。 目を開いてみればそこは異世界だった! 魔法のある世界で赤ちゃん並みの魔力を持つ二人は武器を作る。 あれ?武器作りって楽しいんじゃない? 武器を作って素手で戦う器用さんと、武器を振るって無双する頑張り屋さんの異世界生活。 なろうでも掲載中です。

僕は今日から狐の女の子になった

恋愛
「一緒に行こう」とある日の夜、立派な耳と尻尾を持った男に拐われた伊吹。人間も性別もやめちゃうことに!

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
ファンタジー
HOT 1位!ファンタジー 3位! ありがとうございます!  父親が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 その他、多数投稿しています! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。 木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。 しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。 そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。 【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】

処理中です...