皇白花には蛆が憑いている

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第9章 蝙蝠であるとはどのようなことか

第38話:蝙蝠であるとはどのようなことか・2

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 パソコン機器の修理や取扱を行うコールセンターでの仕事も、入社三年目を越えて、だいぶ板についた接客と対応をできるようになっていたころから、比例するようにして人付き合いが億劫になっていた。

 だからこそ、恋愛に興味が湧かない。人付き合いの極みである恋愛は、穏やかでい続けたいプライベートを消耗する。

(だって、毎日面倒くさい人とかかわっているんだから。そりゃ、人嫌いにもなるさ……)

 毎日かかってくる大量のクレームやとんちんかんな質問に、腹を立てることすらなくなってきていたのだが、どこかでうっぷんは溜まっていた。

 すでに入社六年目、二十八というお年頃。仕事を頑張るためにそれらを発散させる手段が、一人酒をお気に入りの居酒屋で飲むという、何とも色気のない行動になってしまったのは、万葉かずはが根っからの日本酒好きだったからだ。

 黒色の御影石を基調とした壁がオシャレな雰囲気の、女性一人で入ってもカウンターでゆっくり落ち着いてお酒を飲める店が、万葉のお気に入りの居酒屋だった。

 行きつけとなったその居酒屋で、万葉は三年も前からずっと毎週二回、一人酒を楽しんでいる。必ず月曜日と木曜に行く居酒屋に、今日もラスト一日の金曜日を迎え撃つ準備のために向かった。

「お疲れ様でーす!」

「お。恵ちゃんは、今日は一人酒の息抜きタイムの日かな?」

 隣の席で伸びをしていた、元夜の蝶であった先輩、長谷部桃花はせべももかが話しかけてきて、万葉はにこにこしながら頷いた。

「最近ではお一人様女子という言葉があるらしいの。一人酒じゃ色気ないけど、お一人様と言えば聞こえがいいとテレビで言ってたから」

「って言っても、やってることは同じだろう」

 丸めた資料で頭をぽこんと叩かれて、万葉が振り返ると同期でチューターの新海成史しんかいなりふみが、口をへの字に曲げていた。

「結局は日本酒酒浸り、乙女系マスターに愚痴を聞いてもらうという、酔っぱらいの極み。色気もへったくれもないだろ」

「大きなお世話よ、新海。色気なくても生きて行けるし。成績だって先月は悪くなかったんだし」

 それだけどな、と新海が丸めていた資料を広げた。

「見ろよ。また遠藤に抜かれるぞ?」

 広げられた資料を桃花とともにのぞき込むと、今月の中間報告が上がってきていた。桃花が「わーお」と声を上げる。

 そこには、万葉の後輩である遠藤が、僅差で万葉の成績を抜いている。月初の時点では万葉の方に軍配が上がっていたのだが、現時点では遠藤がリードをしていた。そして、こうなってくると、遠藤がいつも大手で勝ち逃げなのを、万葉も知っていた。

「こうなってくると、また恵ちゃん二位キープじゃない?」

「そーゆーフラグだよな、これは。いつものパターンってやつ。新年一発目は良かったんだ、続けて今月も抜いとかないと、さすがに先輩の威厳もかすむぞ?」

 二人に言われて、万葉はあからさまにむっとして口を尖らせた。

「だって仕方ないじゃん、遠藤の方が明らかにクレーム少ないし」

 万葉は成績がプリントアウトされた資料を見て、大きく落胆した。

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