皇白花には蛆が憑いている

LW

文字の大きさ
上 下
27 / 41
第7章 私は悪魔の羽根を踏まない

第27話:私は悪魔の羽根を踏まない・4

しおりを挟む


 細い指先の先まで、締め付けない程度の強さで布を巻きつける。白い布にはすぐさま内側から濃緑が滲み、斑になった。
「……はあ…」
 日が暮れ、ようやく一連の作業を終えた彼は、気の抜けた呼気を吐いて床に座り込んだ。その目前には、ぐったりと四肢を投げ出している小さな体がある。頭から足の先までところどころ濃緑の滲む布が巻きつけてあり、舶来物に詳しい人物などが見ようものなら、木乃伊だと騒いだろうと思えるほどだった。
 だがしかし、それでも拾った当初よりは相当に見られるようになった。少なくとも人間だとわかるようになったし、呼吸も大分整っている。呼吸の妨げにならないようにと巻かれた布の隙間から静かに息を吐き出し、また静かに吸い込んでいる小さな隙間に瓢箪から汲んだ水を雫一粒ほどずつ与え、十滴ほど飲ませたあと、華奢な身体に静かに薄い布団をかけてやる。やはり傷に響き、びくりと斑に濃緑な木乃伊は震えたが、それも一瞬のことだった。
 やがてもせずに微かな寝息が聞こえる。乱れも殆どなく、途切れそうな気配もない。ほうと息を吐いて安堵した彼は、座り込んだまま、そろりと視線を木乃伊の下腹部に向け、それからなにかを振り払うように首を振った。
 脳裏には、酷い火傷に覆われながらも確認できた、木乃伊の秘処が浮かんでしまう。疚しい下心があったわけでなく、純粋に薬を塗りつけるためだけに触れてしまっただけだ。しかしそれすら彼には溜息を吐いてしまうほどに緊張してしまうことだった。
 焼け爛れ、元の顔かたちはもちろん性別すら危うかった布の塊は、驚いたことに股の間に二つの性があった。辛うじて火傷が軽かった男性の証にもと薬液を塗りたくって布を当てていると、ふと触れてしまった指で気付いたのだ。守られるようにひっそりとあった花莟は稚く、焦土に咲いた花のようだった。幸いにも火傷はない様子だったが、万が一があってはと薬液を布ですくって塗り、そのまま布を当ててある。それ以上は、触れることもなかった。
「…ぅ、ァ…」
 ふと、木乃伊ミイラが声をあげた。見ると、僅かに腕が動いて、元あった場所からずれていた。人間は昏睡しているときは動かないが、睡眠時には無意識に動くように出来ている。腕が動いたということは昏倒ではなく、少なくとも眠りに浸っていることだ。それならば、ひとまずは安心できる。
 包帯の隙間からぼさぼさと突き出ている、燃えずに残った少量の髪の先に少しだけ触れて、彼はそれからしばらく、木乃伊の焼けた口から零れる寝息を聞いていた。


しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

身体だけの関係です‐原田巴について‐

みのりすい
恋愛
原田巴は高校一年生。(ボクっ子) 彼女には昔から尊敬している10歳年上の従姉がいた。 ある日巴は酒に酔ったお姉ちゃんに身体を奪われる。 その日から、仲の良かった二人の秒針は狂っていく。 毎日19時ごろ更新予定 「身体だけの関係です 三崎早月について」と同一世界観です。また、1~2話はそちらにも投稿しています。今回分けることにしましたため重複しています。ご迷惑をおかけします。 良ければそちらもお読みください。 身体だけの関係です‐三崎早月について‐ https://www.alphapolis.co.jp/novel/711270795/500699060

とある高校の淫らで背徳的な日常

神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。 クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。 後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。 ノクターンとかにもある お気に入りをしてくれると喜ぶ。 感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。 してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

憧れの先輩とイケナイ状況に!?

暗黒神ゼブラ
恋愛
今日私は憧れの先輩とご飯を食べに行くことになっちゃった!?

〈社会人百合〉アキとハル

みなはらつかさ
恋愛
 女の子拾いました――。  ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?  主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。  しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……? 絵:Novel AI

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

処理中です...