リアナ3 約束の王国

西フロイデ

文字の大きさ
上 下
52 / 58
3 黒の王

セラベス、探求の旅へ ⑤

しおりを挟む
「では、そういうことなのか、エピファニー? おまえが任務に推す人物というのは……」
 デイミオンは、整った顔に思案気な表情を浮かべて銀髪の華奢な青年を見た。セラベスもまた、兄を見た。兄は美少女めいた顔に緊張感をみなぎらせた。

「そう。セラベス・セラフィンメア・テキエリス卿だよ」

 身じろぎもしない近衛兵をのぞいて、その場にいた全員が、いっせいに「ええっ」と声を出してファニーの方を見た。デイミオンさえ、例外ではなかった。

「地理に明るく考古学にも詳しく、五公十家クラスの地位を持ち、健康で頑健で、それでいて世渡りが下手で五公とのつながりが薄く、なんの役職にもついていない。さらに、兄ロギオン卿は優秀な〈呼び手コーラー〉で、こちらとの定時連絡も可能。これ以上は望めないほどの人材だろ?」
「……なるほど」デイミオンはうなずいたが、なかば呆然としているのをベスは見逃さなかった。「それに、機転もきく。さっきわかったが」
 書記官を追い払ったことを指しているらしい。ベスはデイミオンに認められて、ちょっと得意になった。異性としては別に好きでもなんでもなく、むしろ威圧感すら覚える相手だが、シーズンの相手をすっぽかされて自尊心が傷ついたのも事実だ。女性として認められなくても、優秀だと思われるのは気分がいい。

「では、妹に出仕のお話なのですね?」指名されなかったことに失望するでもなく、ロギオンが目を輝かせた。ベス同様、善良な男なのだ。
「卿にもだ」
 デイミオンはそう言うと立ちあがり、さっと手を振ってなにごとか小さく呟いた。見た目には何の変化も起きていなかったが、ファニーが二人に説明する。「弱い空気の壁を作って、声が外部に漏れないようにしているんだ」
 兄と妹は顔を見合わせた。

「よし、話をはじめよう。簡潔にと行きたいところだが、残念ながらかなり混み入った内容になる。それと、言うまでもないがここでの話は一切、誰にも漏らしてもらっては困る」
「無論、心得ております」ロギオンが緊張した面持ちで言った。

「五公たちは新顔に敏感だからね。これまで登城してこなかった人間がいるとなれば、あらゆる方面から探りが入ると思ってほしい。具体的にどう対処するかはあとで説明するけど」
 ファニーは落ち着いた笑みだが、デイミオンはあきれたように「おまえが言うのか……」と言った。

 ともかくも、セラベスの探求の旅は、そのようにして幕を開けたのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

娼館で元夫と再会しました

無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。 しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。 連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。 「シーク様…」 どうして貴方がここに? 元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!

[R18] 激しめエロつめあわせ♡

ねねこ
恋愛
短編のエロを色々と。 激しくて濃厚なの多め♡ 苦手な人はお気をつけくださいませ♡

夫が寵姫に夢中ですので、私は離宮で気ままに暮らします

希猫 ゆうみ
恋愛
王妃フランチェスカは見切りをつけた。 国王である夫ゴドウィンは踊り子上がりの寵姫マルベルに夢中で、先に男児を産ませて寵姫の子を王太子にするとまで嘯いている。 隣国王女であったフランチェスカの莫大な持参金と、結婚による同盟が国を支えてるというのに、恩知らずも甚だしい。 「勝手にやってください。私は離宮で気ままに暮らしますので」

もう彼女でいいじゃないですか

キムラましゅろう
恋愛
ある日わたしは婚約者に婚約解消を申し出た。 常にわたし以外の女を腕に絡ませている事に耐えられなくなったからだ。 幼い頃からわたしを溺愛する婚約者は婚約解消を絶対に認めないが、わたしの心は限界だった。 だからわたしは行動する。 わたしから婚約者を自由にするために。 わたしが自由を手にするために。 残酷な表現はありませんが、 性的なワードが幾つが出てきます。 苦手な方は回れ右をお願いします。 小説家になろうさんの方では ifストーリーを投稿しております。

淫らなお姫様とイケメン騎士達のエロスな夜伽物語

瀬能なつ
恋愛
17才になった皇女サーシャは、国のしきたりに従い、6人の騎士たちを従えて、遥か彼方の霊峰へと旅立ちます。 長い道中、姫を警護する騎士たちの体力を回復する方法は、ズバリ、キスとH! 途中、魔物に襲われたり、姫の寵愛を競い合う騎士たちの様々な恋の駆け引きもあったりと、お姫様の旅はなかなか困難なのです?!

私は何人とヤれば解放されるんですか?

ヘロディア
恋愛
初恋の人を探して貴族に仕えることを選んだ主人公。しかし、彼女に与えられた仕事とは、貴族たちの夜中の相手だった…

【R18】もう一度セックスに溺れて

ちゅー
恋愛
-------------------------------------- 「んっ…くっ…♡前よりずっと…ふか、い…」 過分な潤滑液にヌラヌラと光る間口に亀頭が抵抗なく吸い込まれていく。久しぶりに男を受け入れる肉道は最初こそ僅かな狭さを示したものの、愛液にコーティングされ膨張した陰茎を容易く受け入れ、すぐに柔らかな圧力で応えた。 -------------------------------------- 結婚して五年目。互いにまだ若い夫婦は、愛情も、情熱も、熱欲も多分に持ち合わせているはずだった。仕事と家事に忙殺され、いつの間にかお互いが生活要員に成り果ててしまった二人の元へ”夫婦性活を豹変させる”と銘打たれた宝石が届く。

私が死んだあとの世界で

もちもち太郎
恋愛
婚約破棄をされ断罪された公爵令嬢のマリーが死んだ。 初めはみんな喜んでいたが、時が経つにつれマリーの重要さに気づいて後悔する。 だが、もう遅い。なんてったって、私を断罪したのはあなた達なのですから。

処理中です...