リアナ3 約束の王国

西フロイデ

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3 黒の王

セラベス、探求の旅へ ⑤

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「では、そういうことなのか、エピファニー? おまえが任務に推す人物というのは……」
 デイミオンは、整った顔に思案気な表情を浮かべて銀髪の華奢な青年を見た。セラベスもまた、兄を見た。兄は美少女めいた顔に緊張感をみなぎらせた。

「そう。セラベス・セラフィンメア・テキエリス卿だよ」

 身じろぎもしない近衛兵をのぞいて、その場にいた全員が、いっせいに「ええっ」と声を出してファニーの方を見た。デイミオンさえ、例外ではなかった。

「地理に明るく考古学にも詳しく、五公十家クラスの地位を持ち、健康で頑健で、それでいて世渡りが下手で五公とのつながりが薄く、なんの役職にもついていない。さらに、兄ロギオン卿は優秀な〈呼び手コーラー〉で、こちらとの定時連絡も可能。これ以上は望めないほどの人材だろ?」
「……なるほど」デイミオンはうなずいたが、なかば呆然としているのをベスは見逃さなかった。「それに、機転もきく。さっきわかったが」
 書記官を追い払ったことを指しているらしい。ベスはデイミオンに認められて、ちょっと得意になった。異性としては別に好きでもなんでもなく、むしろ威圧感すら覚える相手だが、シーズンの相手をすっぽかされて自尊心が傷ついたのも事実だ。女性として認められなくても、優秀だと思われるのは気分がいい。

「では、妹に出仕のお話なのですね?」指名されなかったことに失望するでもなく、ロギオンが目を輝かせた。ベス同様、善良な男なのだ。
「卿にもだ」
 デイミオンはそう言うと立ちあがり、さっと手を振ってなにごとか小さく呟いた。見た目には何の変化も起きていなかったが、ファニーが二人に説明する。「弱い空気の壁を作って、声が外部に漏れないようにしているんだ」
 兄と妹は顔を見合わせた。

「よし、話をはじめよう。簡潔にと行きたいところだが、残念ながらかなり混み入った内容になる。それと、言うまでもないがここでの話は一切、誰にも漏らしてもらっては困る」
「無論、心得ております」ロギオンが緊張した面持ちで言った。

「五公たちは新顔に敏感だからね。これまで登城してこなかった人間がいるとなれば、あらゆる方面から探りが入ると思ってほしい。具体的にどう対処するかはあとで説明するけど」
 ファニーは落ち着いた笑みだが、デイミオンはあきれたように「おまえが言うのか……」と言った。

 ともかくも、セラベスの探求の旅は、そのようにして幕を開けたのだった。
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