リアナ3 約束の王国

西フロイデ

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3 黒の王

黒の王 ⑧

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 デイミオンは、ファニーの言葉をとっくりと考えてみたようだった。
「それを聞いて思い出したんだが……」と言う。
 
「イーゼンテルレでリアナと過ごしたとき、彼女の古竜レーデルルがよくわからないことをしゃべりだしたんだ」
 デイミオンはそのときの会話を簡単に説明した。会話というか、独言のような一方的なものだったが。

 ――息、心臓、新しい血の王子さま。
 ――大きい大きい竜。問題と解決。命令装置は正常ですか?

 ファニーは身を乗り出した。
「いろいろ気になる点はあるけど、『新しい血の王子さま』。本当にそう言ったの?」
「ああ。流れからして、俺のことを言ったのだと思うが」
 ファニーはあごに手をやった。「興味深い」
「何かわかるか?」
「関係があるかわからないけど、かつて戴冠式には黄の古竜が臨席して、王の即位をよみしたんだよね。エリサ王の時代までだけど」
 デイミオンがうなずく。「彼女への弑逆しいぎゃくを企てたとき、マリウスの黄竜が殺されたからな」
「王たちに竜が告げた言葉のなかに、似たものがあるはずだよ。たしか……エリサ王とクローナン王は『ふるい血』。あなたのお母さんは『新しい血の王』」
「母の即位のときのことは、覚えている」と、デイミオン。「エクハリトス家もそうだが、母の生家は旧家に数えられているから、不思議だと思っていた。そうか……竜たちの知識は、竜族そのものよりも古いのかもしれないな」


 話題はその後、ファニーの旅の仕度に移った。

「任務を考えると、もう一人くらいはほしいね」
「……おまえ以外にか? だが、難しいぞ」デイミオンは思案げになった。

「タマリスから長く離れて、人間の領地に足を踏み入れる可能性もある。文字が読めることはもちろん、博識でなければ務まらないし、場合によっては各地の領主たちと交渉しなければならない。しかも、なるべく五公たちには気づかれたくないから、あまり重要な役職についていないのも条件だ」

「いるじゃない、適任者」ファニーは快活に言った。「地理に明るく考古学に興味があって、五公十家クラスの地位を持ち、それでいて長期の旅も可能な、なんの役職にもついていない、卿のよく知る人が」

 デイミオンはくっきりした眉をよせて押し黙った。「……誰のことを言っている?」
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