リアナ3 約束の王国

西フロイデ

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商人ヴェスラン ②

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「まあ、あとは、アエディクラの軍事機密を探るためとか。理由はいろいろ聞きおよんでいるんですよ、でも、あなたは読めない人ですからねぇ」デカンタからワインを注ぎ、続ける。「ただもっとも大きな目的は、ある科学者の手記だと聞いていますよ」
「……手記……?」問いを挟んだリアナに、商人は笑みを向けた。
「そう、手記。たいへん貴重な研究記録で、、マリウス手稿ノート、と呼ばれているようですよ」
「マリウス……〈黄金賢者〉マリウス?」
 ヴェスランがリアナの後を続ける。「あるいは、反逆者マリウス」
「そうだ」フィルがため息をついた。
「反逆者マリウスのノートには俺にとって――俺たちにとって極めて重要な情報が含まれているとにらんでいたんだ。オンブリアではすでに失われた知識が、アエディクラの軍によって引き継がれ、知見を重ねられていると」
「身の毛もよだつような生体実験を繰りかえしながらね」
「ああ」
「戦時中はどこの国でもあった類のものだ。唾棄すべき所業でも、貴重な研究に違いはない。……戦後のどさくさであちらに渡ったんでしょうかね?」
「それは重要じゃない。内容だ」
「何だったんです、その内容というのは? 噂はいろいろありましたが、なにしろ錯綜していましてね」
「……デーグルモールの研究だ。より正確には、研究は竜の力の源泉を突きとめるためのものだった」
 横で静かに聞いていたリアナは、思わずまじまじとフィルに見入った。彼の出奔の理由がその手記にあったというのも初耳だったし、研究の中身はさらに衝撃的だったからだ。もし本当なら、アエンナガルで彼女たちが見つけた白竜とメドロート公の惨状も、その研究のなかで行われたことのはずだ。
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