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1 雪と灰のなかの婚姻
凍りつく世界のなかで ①
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しっかりと起き上がれるほど回復するまでには、あきれるほどの時間がかかった。それまでの間も、デイミオンは政敵の動向を監視するためにあちこちに部下を送ったし、枕元に廷臣を呼んで宮廷での動きを指示するなどした。エンガス卿の動機は権勢欲に基づいているからまだ話が通じるが、エサルのほうはデーグルモールへの強い憎しみを抱いていて、是が非でもリアナを処刑したいと考えているらしい。彼が五公十家の総意を無視してまで暴挙に出るとは思えないが、彼女の安全に関することだから、わずかな動きでも見逃せなかった。
デイミオンの部屋には毎日、数名の貴族が呼ばれ、時には長い時間、計画を打ち合わせることもあった。血縁のグウィナとヒュダリオン、それに若い北方領主ナイルの出入りが多かったが、ときには、城内の人間には顔を知られていない軽装の少年が訪ねてくることもあった。打ち合わせのあいだは冷静を装っているデイミオンだったが、話が終わって彼らが帰ると、とたんに激しい焦燥感に襲われるのだった。
そうやって、さらに数日の時間が過ぎていった。
上体を起こすと、めまいと吐き気に襲われた。それで、妖精罌粟の効力が切れかかっていることがわかり、いくらか力づけられる。
デイミオンは、副官のハダルクの肩を支えに、なんとか起き上がった。沈みかけの陽が、部屋のなかに長い影を落としていた。ちょうど、昼勤と夜勤の兵士の交代時間だ。
「ここから王の私室までは、近衛とわが団の竜騎手が守っています」デイミオンの胴に革の鎧下をあてながら、ハダルクが説明した。「お部屋とその前広間にはエサル公の私兵が。十五人ほどですが、竜騎手にも劣らない精鋭です」
「私兵など、誰が帯同を許可したんだ?」
「エンガス卿が、臨時の五公会を開かれて」
デイミオンは呪詛を吐いた。デイミオンが不在の場合、かれの投票権はもっとも在位年数の長い議員が持つ。つまり、エンガスにとってはやりたい放題というわけだ。デイミオンが意識を失っている数日間を、甘露のように味わったことは間違いない。
「ナイル卿を王の部屋の前に連れてきておいてくれ。疫病だのなんだの適当な理由をつけて、城内を自由に移動できないようにさせているはずだ」
ハダルクがうなずいた。「おそらくそうでしょう。〈通信手〉を使いますか?」
「いや」デイミオンは首を振った。「ここまでやっているんだ、私なら〈通信手〉には監視をつける。……使用人棟へ行って、〈ハートレス〉の侍女に伝言を頼め」
デイミオンの部屋には毎日、数名の貴族が呼ばれ、時には長い時間、計画を打ち合わせることもあった。血縁のグウィナとヒュダリオン、それに若い北方領主ナイルの出入りが多かったが、ときには、城内の人間には顔を知られていない軽装の少年が訪ねてくることもあった。打ち合わせのあいだは冷静を装っているデイミオンだったが、話が終わって彼らが帰ると、とたんに激しい焦燥感に襲われるのだった。
そうやって、さらに数日の時間が過ぎていった。
上体を起こすと、めまいと吐き気に襲われた。それで、妖精罌粟の効力が切れかかっていることがわかり、いくらか力づけられる。
デイミオンは、副官のハダルクの肩を支えに、なんとか起き上がった。沈みかけの陽が、部屋のなかに長い影を落としていた。ちょうど、昼勤と夜勤の兵士の交代時間だ。
「ここから王の私室までは、近衛とわが団の竜騎手が守っています」デイミオンの胴に革の鎧下をあてながら、ハダルクが説明した。「お部屋とその前広間にはエサル公の私兵が。十五人ほどですが、竜騎手にも劣らない精鋭です」
「私兵など、誰が帯同を許可したんだ?」
「エンガス卿が、臨時の五公会を開かれて」
デイミオンは呪詛を吐いた。デイミオンが不在の場合、かれの投票権はもっとも在位年数の長い議員が持つ。つまり、エンガスにとってはやりたい放題というわけだ。デイミオンが意識を失っている数日間を、甘露のように味わったことは間違いない。
「ナイル卿を王の部屋の前に連れてきておいてくれ。疫病だのなんだの適当な理由をつけて、城内を自由に移動できないようにさせているはずだ」
ハダルクがうなずいた。「おそらくそうでしょう。〈通信手〉を使いますか?」
「いや」デイミオンは首を振った。「ここまでやっているんだ、私なら〈通信手〉には監視をつける。……使用人棟へ行って、〈ハートレス〉の侍女に伝言を頼め」
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