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1 雪と灰のなかの婚姻
デイミオンの目覚め ②
しおりを挟むデイミオンが四度目に目を覚ましたのは、若い〈癒し手〉が肩の繃帯を替えているときだった。
「俺は何日眠っていた?」
老婆のようなしわがれ声だったが、かろうじて声が出た。
〈癒し手〉はびくっと肩を震わせた。患者が完全に意識を失っていると思っていたのだ。「五日です、閣下」
――五日? 意識を失ったまま、そんなに眠っていたのか?
どうやら、かなりの重傷を負っていたらしい。まだ記憶が混濁しているが、死を覚悟したのをおぼえている。こうやって生き延びたのは奇跡に近いだろう。「俺の治療は誰が?」
「アスラン卿です」
「……アーシャが?」
あの女なら、貴人牢に入っていたはずだが……まあ、今はいい。それどころではない。
「リアナ陛下はどこに?」
一番気になっていたことを尋ねる。目ざめてすぐに〈呼ばい〉を使ったが、そのときは、彼女の意識に触れたことで安心してまた意識を失ったのだった。今また、頭痛に苦労しながら〈呼ばい〉を送ってみているが、応答が遠いことが気にかかる。
「まさか怪我などしていないだろうな? 〈呼ばい〉が遠いが……城内にいるのは間違いないのか?」唇が乾燥しているせいで、しゃべるのに一苦労する。
〈癒し手〉は繃帯をはさみで切るまでためらっていたが、「ご無事と聞いています。陛下の私室におられると」と答えた。デイミオンは眉をひそめた。
王とその後継者をつなぐ〈血の呼《よ》ばい〉は、お互いの生体反応と深いところで結びついている。だからこそ、彼の夜の営みにリアナが苦しめられるといった悲劇が生まれたわけだが、逆に言えばそのくらい強い生理的な結びつきでもある。単なる念話のみの〈呼ばい〉とは違い、意志の力で遮断できるような種類のものではない。
国を横断するくらい離れていても所在がわかるほどなのに、今はなぜ、こんなにも声が遠いのか?
あのときもそうだった、とデイミオンは不安に駆られた。
アエンナガル――あの、デーグルモールたちの潜む遺跡で、黒竜アーダルが暴走しかかったために、彼はリアナと離れてしまった。そのあとはデーグルモールとの戦闘で、彼女のことが心配で気が急くばかりで、〈呼ばい〉に向ける余裕がほとんどなかった。しかし、彼が意識を手放す直前には、それは常にないほど薄く遠くなっていた。
もしかして、それは彼女とデーグルモールとのことと関係があるのだろうか、と考える。
イーゼンテルレで再会したときのリアナは、おびえて取り乱してはいたが、それ以外に普段と違う様子はなかった。エンガスは彼女がデーグルモールだと匂わせてはいたが、確信を持ってはいなかったようにも見えた。
――おまえたちの王は、私の娘だ。
奴らの頭領、ダンダリオンの言葉の真偽はともかくとして、事実がはっきりするまで、五公十家にも手出しできる権限などない。なんとしてでも彼女を守らねば。
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