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ある雨の朝
ある雨の朝 2
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そういうわけで、城内のフィルの部屋に向かったリアナである。
なぜか音を立てないようにそーっとドアを開ける。一兵卒の宿舎と言われても違和感がない狭く簡素な部屋の寝台に、フィルバートの姿をした男がいた。完全に横にはなっておらず、ヘッドボードに背をあずけて、腕を組んで足を交差させていた。フィルバートの身体なのに、驚くほど尊大に見える。さすがはデイミオンだ。
「やっぱり! 絶対サボってると思った!」
予想が当たっていたので、リアナは勝ちほこった。ふだん、業務の忙しさに不平を漏らしているだけに、別人と入れ替われば堂々と仕事をサボるに違いないと踏んだのだ。
フィルの顔をした男が目を開ける。ベッドのなかにカブトムシを見つけたとでもいうような、嫌悪に満ちみちた目線をリアナに送ったあと、ふいとそらした。
「なんのことかわからんな。俺はフィルバートで、いまは自由時間です」
「デイ、フィルのフリするの下手すぎ! フィルもデイのフリするの下手すぎだけど! 兄弟でしょ!?」
デイミオン(確定)は露骨に舌打ちをした。
「せっかくあの無職の男と入れ替わったんだぞ。溜まった睡眠欲を解消してなにが悪い」
フィルは別に無職じゃないし、わたしの護衛だし、朝は優しく起こしてお茶を淹れてくれて時にはドレスを選んでくれ、正直いって自分も年頃だからそこまで世話を焼かれたくはないが、とにかく。
「今日は五公会の日でしょ!」
「あいつが行けばいい。大丈夫だ。俺は弟を信じている。やればできるやつなんだ、ただただやらないだけなんだ」
「こんなときだけ兄弟を持ち出してこないでよ! ほら、起きて!」
「イヤだ!」
上腕をつかんで寝台から引きはがそうとするが、デイミオン(inフィル)はヘッドボードにしがみつく。
「これは働きづめの俺に竜祖が与えたもうた貴重な休日なんだ! 今日は絶対に寝台から動くもんか! 放せ!!」
惰眠をむさぼりたいデイミオンと、阻止しようとするリアナ。
二人は必然的に、もつれあうように寝台に倒れ――まさにちょうどそのタイミングで、フィルバートが部屋に入ってきた。
二人そろって目をあげると、フィル(inデイミオン)が肩に巨大な長斧をかつぎあげ、自分の寝台の上で密着状態にある男女にうろんなまなざしを投げかけた。
「――俺の身体で何をしているんだ? デイミオン――いや、フィルバート卿」
「「戦斧――!!!」」
デイとリアナは声を合わせて叫んだ。
なぜか音を立てないようにそーっとドアを開ける。一兵卒の宿舎と言われても違和感がない狭く簡素な部屋の寝台に、フィルバートの姿をした男がいた。完全に横にはなっておらず、ヘッドボードに背をあずけて、腕を組んで足を交差させていた。フィルバートの身体なのに、驚くほど尊大に見える。さすがはデイミオンだ。
「やっぱり! 絶対サボってると思った!」
予想が当たっていたので、リアナは勝ちほこった。ふだん、業務の忙しさに不平を漏らしているだけに、別人と入れ替われば堂々と仕事をサボるに違いないと踏んだのだ。
フィルの顔をした男が目を開ける。ベッドのなかにカブトムシを見つけたとでもいうような、嫌悪に満ちみちた目線をリアナに送ったあと、ふいとそらした。
「なんのことかわからんな。俺はフィルバートで、いまは自由時間です」
「デイ、フィルのフリするの下手すぎ! フィルもデイのフリするの下手すぎだけど! 兄弟でしょ!?」
デイミオン(確定)は露骨に舌打ちをした。
「せっかくあの無職の男と入れ替わったんだぞ。溜まった睡眠欲を解消してなにが悪い」
フィルは別に無職じゃないし、わたしの護衛だし、朝は優しく起こしてお茶を淹れてくれて時にはドレスを選んでくれ、正直いって自分も年頃だからそこまで世話を焼かれたくはないが、とにかく。
「今日は五公会の日でしょ!」
「あいつが行けばいい。大丈夫だ。俺は弟を信じている。やればできるやつなんだ、ただただやらないだけなんだ」
「こんなときだけ兄弟を持ち出してこないでよ! ほら、起きて!」
「イヤだ!」
上腕をつかんで寝台から引きはがそうとするが、デイミオン(inフィル)はヘッドボードにしがみつく。
「これは働きづめの俺に竜祖が与えたもうた貴重な休日なんだ! 今日は絶対に寝台から動くもんか! 放せ!!」
惰眠をむさぼりたいデイミオンと、阻止しようとするリアナ。
二人は必然的に、もつれあうように寝台に倒れ――まさにちょうどそのタイミングで、フィルバートが部屋に入ってきた。
二人そろって目をあげると、フィル(inデイミオン)が肩に巨大な長斧をかつぎあげ、自分の寝台の上で密着状態にある男女にうろんなまなざしを投げかけた。
「――俺の身体で何をしているんだ? デイミオン――いや、フィルバート卿」
「「戦斧――!!!」」
デイとリアナは声を合わせて叫んだ。
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