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7 ふたたび、ケイエへ

第36話 ケイエ炎上――わたしにも、きっとできる 2

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 バリバリという不気味な音がいたるところから聞こえてくる。白い煙が黒くなると同時に、家々の窓から赤い炎が噴きだしたが、次の瞬間、水柱にのみ込まれた。あちこちにあがる火の手と同じくらいの激しさで、地面から水が噴出している。水柱に覆われた建物からは炎が消え、一気に蒸発する水が音をたてた。
(これが、白竜の能力!)
 シーリアが低く旋回せんかいしながら、建物のあいだを縫うように飛ぶ。水柱が、その進路に高く上がっていく。

 煙をおさえ、火そのものを消す――
 それはまさに、神にもひとしい力ではないだろうか?

(わたしも、同じようにできれば……)
 リアナはほとんど躊躇せず、メドロートをまねて両手を地面に向けて伸ばした。
(できれば、じゃなくて、できるはず。ライダーなら必ずできるとデイミオンは言ったわ。わたしは、メドロートと同じ白竜のライダーのはず!)

〔お願いね、レーデルル〕
 肩の上の白竜にそう呼びかけて、意識を自分の内部へと集中させた。身体の奥へ。むき出しの腕を撫でる熱風ではなく、冷たさを。そして穏やかさを感じるようにする。集中は、自分ではなく竜のためにある。

(デイミオンに教わったとおりに)

 1、2と数えるうちに変化がやってきて、両目のあいだがひきつるように動き、がひらいたのがわかった。そうとしか言いようのない感覚だ。身体の奥で、水が大きく動いている――岸を洗う波のように、寄せて、また引いていく潮。冷やしたエールを注《そそ》いだ銅のジョッキのように、手のひらに細かな水滴が盛りあがる。ひとつ呼吸をするたびに、水滴は量を増して、ゆっくりと水の形になっていく。
 竜の力と同化する上でもっとも大切で、もっとも難しいのは、頭を空っぽにたもつこと――デイミオンから習ったことを思いだす。竜の意識に自分の意識を重ね、ひらき、受けいれたとき、乗り手ライダーは竜の力を世界に向かってはなつ放水栓ほうすいせんになる――
 
 
 心の目がみわたり、目の前にある火事の情景が消え去って、まったく違うものを感じた。廃城でやり方をおぼえた、あの網目グリッドの力と同じものだ。自分の知覚を、竜のそれと同化させて広げたもの。
 地面の下を一本の暗色あんしょくの水脈が走っている。太いものが一本、そして数本の支流がある。支流の先で、血管が破けるように水が噴き出しているのは、メドロートとシーリアの力だとわかった。水は足もと深くから湧きあがりながら、おのれの力に作用としようとする二柱の竜をいぶかしみ、その力の源を突きとめようとするかのようにうごめいていた。
 
 自分の呼吸と、手のひらの水位が連動して上下していることに気づくと、息を整えることが重要なのが体感としてわかった。身体のなかが海の縮図になったように、激しく干満を繰りかえし、やがて水をコントロールしきれなくなり、手のひらから鉄砲水のように勢いよくあふれだした。目標地点までいっせいに水が放たれるが、コントロールが未熟なせいで自分の顔にもめいっぱいかかってしまった。

「わっぷ」リアナと同時に、レーデルルがぶるると身ぶるいする。「で、できた……」

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