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5 王都タマリス

第29話 試される王 4

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 同時刻、掬星城きくせいじょうにて。

「メドロート公」
 戴冠式に向けた打ち合わせ。その会が閉じ、部屋を出ようとしていた広い背中を、デイミオンは呼びとめた。
「あれ……いや、殿下の竜術の教育は、どこまで進んでおられる?」
 デイミオンをも見下ろすほどの巨体は立ち止まって顔を向けたが、「必要ない」と言って踵を返した。
「私には報告の必要がないと?」と、デイミオン。「彼女になにかあった場合、次に王になるのは、王太子である私なのだが」
 北の領主は長い間黙っていたが、口のなかにこもるような小声で言った。
「……そっだら、ことでねぐ」
 否定したもののすぐには続けず、眉間のしわを指で延ばしている。もともと、寡黙すぎるほど寡黙な男なのだ。公的な場で領主らしくふるまうのは苦手なのかもしれない。
もライダーなら、わかっぺや。ライダーが竜の力を使うのに、訓練だば必要ね。必要なのは、使い方を知るごどだけだ」
 それを聞いたデイミオンは考えるそぶりをした。言葉足らずではあるが、言いたいことは分かる。あの廃城にとらわれているあいだ、リアナに教えたことの基本と同じだ。
「それはそうだが、ほかにも教えておくことはいろいろあるでしょう? 白竜の力はだ。使い方にはご注意いただかないと、こちらも困る」
「ん」メドロートはうなずく。「そこは、おれがしっかり教えておくでな。案ずるでね」
「頼みます」
 ならいいが。
 デイミオンは用件を終えて立ち去ろうとしたが、立場上メドロートのほうが目上なので、いちおう彼の退室を待った。しかし、公はぐずぐずと、なかなか退室しないでいる。
 なにか言いたいことでもあるのかと、忙しい青年は目でうながした。
 かなり長い間があった。
「……あのは、親もねぐ、一人で頑張ってきたんだべな」
 メドロート公は呟いて、髭に覆われた顔をぺろりと撫でた。「……もごさいなぃ」
「えっ」柄にもなく間抜けな声が出てしまった、デイミオンである。
「だすけ……だすけな、黒竜の若君よ。あのにひどくあたってはなんねぞ。縁あって王と王太子さなっただはんで。二人でよく、たすけあってな」
(ええーっ)
 白竜公の目の端にきらりと慈愛の涙が光るのを見て、デイミオンの心は、棒でつつかれたサワガニのごとく跳びすさった。
 まさかこのヒグマの頭のなかには、手に手を取って王国を導く清く美しいカップルの図でも浮かんでいるのだろうか。現実のリアナとデイミオンの間に存在するのは、政治的対立関係だけなのだが。
 彼の心境としては、しくも数日前に公に相対した時のリアナとそっくりだった。

 ――なにがなんだか、わからない。
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