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序章:始まりの終わりと終わりの始まり

神のみぞ知る

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「あー、これどうすんだよ…」

小高い丘の上、燃え盛る郊外の森を見ながらため息をつく。火事だ、大火事だ。きっと町からも見えるし、今頃大騒ぎに違いない。そろそろ防火兵も駆けつけてくるだろう。まあ、極力目立ちたくない、という当初の最低限の願いはそもそもヴィガルム兵とかち合った時点でもうダメだったわけだが。はぁ…

「…森ごと切る?」

「いや、いいです。なんかもうロクでもないことになりそうなので。」

「…そう」

この状況を前にして、彼女は泰然としている。何もない日の午後に、ぼー、っと空を眺めるような感じで焼け落ちていく東部森林を見つめていた。

「なんでそんなに落ち着いてるんです?」

「…この程度で私は死ねないし、それに、見慣れた光景だから。」

「見慣れた、って…何度かあるんですか?森焼いたこと。」

「…森はあんまりない。町なら、何度か。」

「…そうですか。」

なんかもう突っ込むのも面倒くさくなってきた。この人はなんかおかしい。いや、命の恩人にこんなこと言うのもあれなんだけど、ものすごくややこしい人と関わってしまったのかも知れないな…

あー、これからどうするかな。ヴィガルムに居場所バレちゃってるし、荷物まとめて逃げるか。いや、そんな暇あるか?今回の依頼自体罠だったのだとすれば、この町のギルドも敵。あと人身売買に絡んでる市長もヴィガルムとグルだった可能性が…あ。

「捕まってた子たちは!?」

「…とっくの前に逃がしてあげたよ。もう、帰ったんじゃない?」

良かった!いや良かったのか?逃がして終わりってちょっと後始末が雑過ぎる気もする。火事に巻き込まれてないと良いのだけど。

「…」

もしかして、案外この人は僕と似たような立場なのか?
最初は浮浪児かと思ったけど、いくら何でも強すぎる。
それと、さっきの町焼いた発言から察するにどうもこの人もあちこち旅してるみたいだ。
ヴィガルムに滅ぼされた国はレ―ウェンの他にもいくつかあったし、その可能性もある。
もしかすると、似たような境遇を感じ取って助けてくれたのかも知れない。

「あの、あなたはなんであの時助けてくれたんですか?」

ふと、なんの気なしに聞いてみた。
すると、彼女は一度だけちらりとこちらを見た後、再び前を見てほっ、と息を吐く。

「…人を助けるのに理由はいるか?」

「え?」

「…そう、父様はよく言っていた。今日のことも、特に理由は無いの。ただ――」

彼女は少し俯き、黙り込む。そして、漏らすような小さな声で呟いた。

「…あなたがほんの少しだけ、父様に似ているような気がしたから。」

懐かしむような、慈しむような、そんな声色。

「優しい人なんですね。」

「…そうだね、こんな私を拾ってくれた、とっても優しい人だった。」

過去形。故人か。しまったな、ちょっと踏み込み過ぎた?いや、ここは食い下がるべきか。

「あなたの旅の目的も、その人に何か関係が?」

「…無くは、ないね。でも、違うのかもしれない。もう、私にもよく分からないから。」

遠い目をして彼女は呟く。さぞ長い旅だったのだろう。外見年齢は17、8といったところだが、実際はもっと上かも知れない。

「…ただ」

少女は押し黙る。その目に宿る感情は決意か覚悟か。そして――

「私は神子を滅ぼす。そのために、この世界にいる。」

奇しくも目的は同じ。彼女が何を思い、それを果たさんとするのかは分からない。
この出会いは運命の悪戯か、それとも必然か。それは、神のみぞ知ることである。




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