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序章:始まりの終わりと終わりの始まり

目が覚めると、そこは火の海でした

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――アルマ。真の強者というのは一見して強者であるとは分からないものだ。
確かにお前は筋がいいし、あらゆる分野で公国の十指に入るんじゃないかって程の天才だ。
だが、まだその域には達していない。相手に実力を悟られるようではまだまだだな。
え、若い時のお前よりずっとマシだって?おい母さん、昔のことはいいんだよ!

****************************





懐かしい夢を見た。昔は毎日のように父さんに稽古をつけてもらっていたな。
なるほど、あの時言っていたのはそういう意味だったのか。

謎の少女、アルドノートの絶技を目の当たり今となっては、在りし日の父さんの言葉が身に染みて分かる。多少は僕も進歩したはずだけど、あの次元と比べるとちょっと自信なくすなあ。
何はともあれ、彼女は命の恩人だ。次あったらきっとお礼をしなくちゃ。

徐々に意識が夢から現実へと帰って来る。
よし、身体はちゃんと動くな。英雄の力の副産物はこういう時ものすごく役に立つ。
異常回復体質なんて世の人は呼んで気味悪がるけど、この際どうでもいい。

ところで、なんか焦げ臭くない?

飛び起きて目を開ける。すると、そこに広がっていたのは――

「えっ、なっ、なんじゃこりゃあ!!!」

眼前の森を覆いつくす炎。これは一体…

その時、

「ひゃっ!」

突然後ろから肩を小突かれる。恐る恐る振り返ると、「彼女」がそこに立っていた。無表情で。

いよいよ状況が分からない。もしかして、彼女も僕を消しに来た刺客だったのか!?
いや、それならあの時僕を見殺しにすればよかった。こんな回りくどいことしなくてもいいはずだ。
それに、彼女なら万全の僕でも何も出来ずに殺すことが出来るだろう。
まさか、僕を苦しめて殺すためにわざとこんなことを!?

だが、彼女は無表情のまま動かない。それが逆に恐ろしい。
これは一体どういう感情だ?何を訴えているんだ?なんでこっちをずっと見てる?なんで無言?
なんか言って!

すると、僕の思いが届いたのか彼女はおもむろに口を開いた。

「…燃えたのだけど」

モエタノダケド?

「…え?なんて?」

「…燃えたのだけど」

「いやそうじゃなくて」

「…暗くなったから火をつけようとしたの。」

状況を整理しよう。ええと、僕はガイアスに負けそうになって、この人に助けられて、気を失った。その間に、彼女は明かりのために火をつけた。なるほど、でその火が木に燃え移ったと。

…アホなのか?

いや、火の勢いが思いのほか強くなることはよくあるし、それが手違いでその辺りの枯草とかに燃え移っちゃうことはあるよ?
なんで消さないの!?普通こうはならないよ?ここまで燃え広がる前に消すよ?

「…どうしよう。」

「取りあえず水魔法を!」

正直ここまで燃えちゃってると水の下級術式では間に合わない。中級以上、出来れば上級が必要だ。
でも今の僕はさっきの戦闘で魔力切れ寸前、中級魔法以上は厳しい。だけど、彼女なら――

「…私、魔法は使えないよ?」

はい!?じゃあガイアス倒した時の詠唱は何!?それとも単に水魔法がめちゃくちゃ苦手ってこと?
いや、そんなこと今考えてる場合じゃない!水魔法がダメなら他は?
近くに水辺は…ないな。周りは炎の壁、逃げるのも難しい。じゃあ、水以外の下級術式なら?
ダメだ!消火に役に立ちそうなのはない!逃げに使えそうな空間作用の術式は全部中級以上、今の魔力量では無理!

「せめて逃げ道だけでも切り開ければ…」

「…分かった。」

「え?」

彼女は前方に手を伸ばす。すると、炎の海が割れ、道が現れた。

「はぁ!?」

無詠唱!?いや、無詠唱自体は珍しいけどそれなりに使用者がいる。問題は発動が速過ぎることだ。
無詠唱は術式詠唱による反応機構の構築短縮を受けない分、相当熟達していないと発動に時間が掛かる。今彼女が使った術式は全く原理が分からないけど、間違いなく中級以上。無詠唱で中級魔法をあの速度で発動させられそうなのは大公、あとは「彼奴」ぐらい。間違いなく世界最高クラスの技術。

「…これで、大丈夫かな。」

こともなげにとんでもないことをやってのけた彼女は、相変わらずの無表情のままこちらを振り返り、自らが作った道の先を指さした。




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