リアル

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街に入ると、富澤はスピードを緩めた。

「話して分かった事は、富士八は何かを止めようとしていたって事だ」

「何ですか?」

すっかり日も暮れ、街には灯りが灯り始めている。

「知らんが、後3回と言っていた。詳しくは話をしてくれなかったが、モーセを止めるファラオになるようだった」

「ファラオって」

「俺には分からん。酔っぱらっては、俺の役目はファラオだと言っていた」

静かに車が止まり、富澤が俺の方を向いた。

「お前なら分かるはずだ。好きにやれ」

「な、何をしたらいいですか?」

「まずは記憶をどうにかしろよ。行くぞ」

富澤に連れて行かれたのは、昭和の匂い漂う2階建てアパートの103号室だった。

ガチャリと音を立て開いた扉は、うるさいくらいにギギィと鳴った。

パチリと電気がつくと、俺は目を丸くする。

「クレイジーだろ」

6畳ほどの部屋の壁一面に、新聞記事やメモ、写真が貼り付けられている。

「ここは?」

机の上は山のような書類にまみれ、崩れ落ちた一部は床に散乱していた。

「富士八の家だ」

床の上の紙を足でどかしながら、辛うじてあるスペースーーベッドの上に富澤は腰を下ろす。

「お前の答えは、多分ここにある」

俺は靴を脱ぎ、恐る恐る部屋へ上がる。

古いものから新しいものまで、無作為に壁に貼られているのかと思ったが、よく見ると関連性があるようだ。

「どうして僕の答えがあると思うんですか?」

「そりゃ、お前が富士八だと思ったからだ」

ベッドに座った富澤は、タバコに火をつける。

「病院で、何か考えている時、お前は唇を噛んでいた」

言われてみれば、癖になっている。

「それだけ?」

「九重の家に連れて行った時、お前は九重のPCを見てただろう?」

確かにフォルダなどチェックをした。

「PCの中を見たら富士八さんなんですか?」

「お前、どうやってPCを開いた?」

言っている真意が分からない。

「電源入れましたよ」

「で?」

ふぅと煙を吐き出しながら、ポケットから携帯灰皿を取り出した。

「フォルダ開きました」

「その前に何した?」

「IDとパスワードを入れましたよ」

「それ、どうして分かった?」

「どうしてって・・・あれ?」

確かに。俺はどうしてIDやパスワードが分かったのだろう。

「ここからは俺の推測だが、かなりトリッキーな話になる」

前置きをした富澤は、顎を撫でた。

「九重には富士八の記憶があった。恐らくお前には九重と富士八の記憶があるはずだ」

「ど、どうして?!」

「それは俺が知りたい。ちなみに富士八には七嶋しちしまの記憶もあったから、お前にもあるんじゃねぇか?」

情報が多くてパニックになりそうだ。

「その人誰です?」

「富士八の側で死んでた男だ」

胃の奥から酸っぱいものが込み上げてきそうになり、俺は思わず飲み込んだ。

「俺に出来ることは、お前に協力することだけだ」

富澤が俺を引き取った意味も理解した。

「それが富士八の望みなんだろうし。時間も無いんだろう?」

この人は、どこまで知っているのだろう。

俺はこの部屋と富澤の情報を紐解いていかなければならない気がした。





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