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富澤は毎日病院に来た。
彼が帰った後は、扉の前に制服を着た警察官が立つ。
それの繰り返しが2日程続き、ついに退院の日を迎えた。
「退院日も来るんですね。親も来てるのに」
「富澤さんに、そんな口を聞かないの!」
母親は富澤に深く頭を下げる。
「お母さん、良いんですよ。それより、今後の事を一君にお話ししてもいいですか?」
今後?入院中、たいした話はしていない。
「はじめちゃん、しばらく富澤さん家でお世話になるのよ」
「全く聞いてないけど」
「初めて言ったからねぇ」
フフッと笑ってる場合か母よ。
「学校もしばらく休む連絡はしたけど、勉強はちゃんとやりなさいよ」
「なんで?帰れないの?」
無性に帰りたい気分になり、俺は荷物を持ったまま立ち尽くす。
「子供じゃないんだから。はい、これお小遣い」
荷物を持つ右手を掴むと、無理矢理手のひらに封筒を握らせる。
「富澤さん、よろしくお願いします」
再び頭を下げる母親の横で、俺は少しだけ右手を開いた。
茶色い封筒には現金が入っているようだ。
その表面に目が止まる。
【あと3日】
見覚えのある小さな文字が書かれていた。
何かが俺を導いている。もしくは、陥れようとしているのだろう。
生まれ持った直感に近い感覚が、言い知れぬ危険を察知する。
逃れられそうにないのだろう。
「分かっよ」
逃走出来ないのなら、飛び込むしかない。
俺は富澤に引き取られる形で退院をした。
車に乗せられ、見知らぬ街をボウッと見つめながら考える。
3日後、何が起こるんだろう。
「行くか?」
「もう富澤さんの家に向かってるんでしょ」
通り過ぎて行く住宅街。どこも平和そうに見えた。
「九重の家だよ」
「行きます」
即答する俺に、満足げな笑みを浮かべる。
確信は持てないが自信はある。九重の家に行けば、分かることがある気がした。
程なくして、車は住宅街の一角にある駐車場で止まる。
「向かいにあるマンションだ」
俺は車から降りると富澤とマンションへ向かう。
黒っぽい落ち着いた色の大きなマンションは、おそらく中流階級の中でも上の方の人向けだろう。
俺より先に行った富澤は、入り口のオートロックに話しかけているようだ。
日差しは暖かいものの、冷たい風が頬を撫でる。
「入るぞ」
モノトーンに統一されたシックなエントランスの先にはエスカレーターがある。
チンと軽い音がし扉が開くと、富澤が乗った。
俺も後に続きボタンを押す。
「九重の親御さんには、お前の状況を話しておいたが、失礼な言動はするなよ」
「分かってます」
扉が開き、広い廊下の先に目的地はあった。
俺が立ち止まると、富澤はインターホンを押すと、おもむろにドアが開く。
「こんな状況の時にすみません」
「いえ、どうぞ」
青白い顔をした細身の中年女性が、俺たちを部屋の中へ招いた。
彼が帰った後は、扉の前に制服を着た警察官が立つ。
それの繰り返しが2日程続き、ついに退院の日を迎えた。
「退院日も来るんですね。親も来てるのに」
「富澤さんに、そんな口を聞かないの!」
母親は富澤に深く頭を下げる。
「お母さん、良いんですよ。それより、今後の事を一君にお話ししてもいいですか?」
今後?入院中、たいした話はしていない。
「はじめちゃん、しばらく富澤さん家でお世話になるのよ」
「全く聞いてないけど」
「初めて言ったからねぇ」
フフッと笑ってる場合か母よ。
「学校もしばらく休む連絡はしたけど、勉強はちゃんとやりなさいよ」
「なんで?帰れないの?」
無性に帰りたい気分になり、俺は荷物を持ったまま立ち尽くす。
「子供じゃないんだから。はい、これお小遣い」
荷物を持つ右手を掴むと、無理矢理手のひらに封筒を握らせる。
「富澤さん、よろしくお願いします」
再び頭を下げる母親の横で、俺は少しだけ右手を開いた。
茶色い封筒には現金が入っているようだ。
その表面に目が止まる。
【あと3日】
見覚えのある小さな文字が書かれていた。
何かが俺を導いている。もしくは、陥れようとしているのだろう。
生まれ持った直感に近い感覚が、言い知れぬ危険を察知する。
逃れられそうにないのだろう。
「分かっよ」
逃走出来ないのなら、飛び込むしかない。
俺は富澤に引き取られる形で退院をした。
車に乗せられ、見知らぬ街をボウッと見つめながら考える。
3日後、何が起こるんだろう。
「行くか?」
「もう富澤さんの家に向かってるんでしょ」
通り過ぎて行く住宅街。どこも平和そうに見えた。
「九重の家だよ」
「行きます」
即答する俺に、満足げな笑みを浮かべる。
確信は持てないが自信はある。九重の家に行けば、分かることがある気がした。
程なくして、車は住宅街の一角にある駐車場で止まる。
「向かいにあるマンションだ」
俺は車から降りると富澤とマンションへ向かう。
黒っぽい落ち着いた色の大きなマンションは、おそらく中流階級の中でも上の方の人向けだろう。
俺より先に行った富澤は、入り口のオートロックに話しかけているようだ。
日差しは暖かいものの、冷たい風が頬を撫でる。
「入るぞ」
モノトーンに統一されたシックなエントランスの先にはエスカレーターがある。
チンと軽い音がし扉が開くと、富澤が乗った。
俺も後に続きボタンを押す。
「九重の親御さんには、お前の状況を話しておいたが、失礼な言動はするなよ」
「分かってます」
扉が開き、広い廊下の先に目的地はあった。
俺が立ち止まると、富澤はインターホンを押すと、おもむろにドアが開く。
「こんな状況の時にすみません」
「いえ、どうぞ」
青白い顔をした細身の中年女性が、俺たちを部屋の中へ招いた。
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