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第6話 放棄
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こうして放棄されたままだったかつての集団農場が世界農地争奪戦「ランドラッシ ュ」の草刈場になったあとに残されたのは無残に破壊された自然環境だった。
狙われる貧しい農村へ続く道はかなりの悪路だった。一応、舗装はされているものの、右側がへこんでいるかと思えば、そのすぐ先では左側に穴が開いているという有様だった。
かつてはスウェーデンの大手アグリ企業などが農地を囲い込んで整備された道路も今は見る影もない。
わたしたちは、農地獲得交渉を取材するため、車はガタガタと激しく上下に揺れながら、イスラエルから進出したある農業会社に同行していた。
この会社も水面下でプロジェクトを進行させていたのでNDAを結んでの視察だから社名は明かせないことになっている。
西ウクライナの中心都市リヴィウを出発しておよそ一時間。
でこぼこ道の果てに到着したのは、人口一千五百人のヴォシチャンツィ村だ。
道の傍らに古びた小さな家がぽつぽつと並んでいる。
村人が飼っている家畜だろうか、車の前をガチョウの親子が行列を作ってトコトコと横切って行く。このAIの時代にほのぼのとした風景で癒されたが、違う時代に迷い込んだという錯覚も起こさせる。
ようやく村の片隅にある古びた教会に到着し、車を降りた。
まだ日曜日のお昼前だから、辺りはシーンとしていたが、そのまま十五分ほど待っていると、教会の建物から次々と村人たちが出てきた。
ウクライナでは、首都キエフをはじめ東部ではギリシア正教の流れを汲むウクライナ正教を信仰する人が多く、ここ西部ではカトリック教徒が多い。
視察先の会社に到着し、担当マネージャーが対応してくれ、ここで日曜日のミサを終えて出てくる村人たちを一緒に待ち構えていた。
人々の中に村長を見つけると、担当は近寄って声をかけた。
この村にはもう何度も通っているらしく、すでに顔見知りのようだ。
「みんなさんしばらくぶりですが、お元気ですか?」
「今日はめでたいだから、みんないい気分ですよ」
この日はちょうどウクライナ・カトリック教会の高位大司教スヴィアトスラヴ・シェフチュクの誕生日だった。
「ところで、また土地を貸してもいいという人がいるそうですが?」
「はい。先日あなたの会社が、隣の村で農地を貸している人に地代を支払っているのを見た人がいて噂になっていたところ、わたしの村でも貸したいという人が出てきました」
「それはいい話ですね。すぐにでも契約を結んで作業を開始したいです」
村長の隣にいた教会の神父が話に割り込んだ。
「わたしたちの教会では今困っていることがあります。村人たちとちょっとしたところに出かける際の移動手段がないのです。古い小さなバスは壊れてしまって動かなくなってしまったのです。」
彼は、すかさずこの要望に応えた。
「教会に新しいバスを提供できるよう、すぐに社内で検討しますよ。日本製のバスを用意します。メンテナスしなくても長持ちしますし、とても便利ですよ。任せてください」
わたしに気を使ってか、日本のバスを用意する話になったが、彼の所属するイスラエルの会社は、中東を地盤にする投資金融会社「ドバイ・キャピタル・マネジメント」によって設立されている。
そのため、経営を担うのは、農業ではなく金融の専門家だ。
彼らもまた、農業ビジネスの将来性に目をつけ、ロシアとウクライナで、自ら農地を確保して穀物を生産するビジネスに乗り出したのだった。
狙われる貧しい農村へ続く道はかなりの悪路だった。一応、舗装はされているものの、右側がへこんでいるかと思えば、そのすぐ先では左側に穴が開いているという有様だった。
かつてはスウェーデンの大手アグリ企業などが農地を囲い込んで整備された道路も今は見る影もない。
わたしたちは、農地獲得交渉を取材するため、車はガタガタと激しく上下に揺れながら、イスラエルから進出したある農業会社に同行していた。
この会社も水面下でプロジェクトを進行させていたのでNDAを結んでの視察だから社名は明かせないことになっている。
西ウクライナの中心都市リヴィウを出発しておよそ一時間。
でこぼこ道の果てに到着したのは、人口一千五百人のヴォシチャンツィ村だ。
道の傍らに古びた小さな家がぽつぽつと並んでいる。
村人が飼っている家畜だろうか、車の前をガチョウの親子が行列を作ってトコトコと横切って行く。このAIの時代にほのぼのとした風景で癒されたが、違う時代に迷い込んだという錯覚も起こさせる。
ようやく村の片隅にある古びた教会に到着し、車を降りた。
まだ日曜日のお昼前だから、辺りはシーンとしていたが、そのまま十五分ほど待っていると、教会の建物から次々と村人たちが出てきた。
ウクライナでは、首都キエフをはじめ東部ではギリシア正教の流れを汲むウクライナ正教を信仰する人が多く、ここ西部ではカトリック教徒が多い。
視察先の会社に到着し、担当マネージャーが対応してくれ、ここで日曜日のミサを終えて出てくる村人たちを一緒に待ち構えていた。
人々の中に村長を見つけると、担当は近寄って声をかけた。
この村にはもう何度も通っているらしく、すでに顔見知りのようだ。
「みんなさんしばらくぶりですが、お元気ですか?」
「今日はめでたいだから、みんないい気分ですよ」
この日はちょうどウクライナ・カトリック教会の高位大司教スヴィアトスラヴ・シェフチュクの誕生日だった。
「ところで、また土地を貸してもいいという人がいるそうですが?」
「はい。先日あなたの会社が、隣の村で農地を貸している人に地代を支払っているのを見た人がいて噂になっていたところ、わたしの村でも貸したいという人が出てきました」
「それはいい話ですね。すぐにでも契約を結んで作業を開始したいです」
村長の隣にいた教会の神父が話に割り込んだ。
「わたしたちの教会では今困っていることがあります。村人たちとちょっとしたところに出かける際の移動手段がないのです。古い小さなバスは壊れてしまって動かなくなってしまったのです。」
彼は、すかさずこの要望に応えた。
「教会に新しいバスを提供できるよう、すぐに社内で検討しますよ。日本製のバスを用意します。メンテナスしなくても長持ちしますし、とても便利ですよ。任せてください」
わたしに気を使ってか、日本のバスを用意する話になったが、彼の所属するイスラエルの会社は、中東を地盤にする投資金融会社「ドバイ・キャピタル・マネジメント」によって設立されている。
そのため、経営を担うのは、農業ではなく金融の専門家だ。
彼らもまた、農業ビジネスの将来性に目をつけ、ロシアとウクライナで、自ら農地を確保して穀物を生産するビジネスに乗り出したのだった。
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