39 / 41
普通の子 11
しおりを挟む
「そうね」路子先生は少し間を置いてから、僕の顔を見て言った。「そのコメンテーターの人が言う事が全て間違っているとは思わないけど、今の子は打たれ弱いと言うのなら、今の大人は横暴な人がたくさんいる、と言わなければ不公平だと思うわ。それにまず変わらなければいけないのは、被害者ではなく、加害者よ。打たれ弱い子どもがまず変わらなければいけない訳じゃない、まず理不尽な怒りをぶつける教師が変わらなければいけないのよ。その教師を放置している周囲の大人達も同じ様に変わらなければいけないと思うわ」
僕は小さく頷く。
「それに、もしもそのコメンテーターの言う事が正しいとしても、海が丘高校には依怙贔屓する先生も理不尽な事で怒る先生も必要ないの。全ての生徒にとって、全ての保護者にとって完璧には出来ないけど、ここは生徒にとって安心出来る居場所にしたいの。安心して通う事が出来て、安心して学べる学校にしたいのよ。もう十分傷付いている生徒たちがこの学校にはたくさん通っているから」そう話す路子先生の表情は悲しげだった。
海が丘高校ではもしも先生の言動で傷付く生徒がいたら、保護者やカウンセラーを交えて話し合いの場を設けている。先生は自分の言動で生徒が傷付いたと言う事実に向き合い、きちんと謝罪をする。大人だから、教師だからと言って、言い訳して誤魔化す事はしない。生徒も先生がどうしてそういう言動になったかと言う説明を聞いて誤解だと思えば謝るらしい。
結局のところ、人間関係はお互いがきちんと向き合えるかどうかだと路子先生は言う。どんな関係であっても、向き合えるかどうか。そしてそれには日頃の積み重ねも必要。
萌加ちゃんは先生に依怙贔屓をされなくても、気にしていない様に見えたが、諦めていない様にも見えた。
有紗ちゃんは同性が来て、少し嬉しそうだった。
でも、僕たちの間にはそれぞれ距離があった。永遠にクラスメイト止まり。友人にはなれない。教室だけの付き合い。その距離はそれぞれ長さが違ったが、僕と萌加ちゃんの距離が一番遠い様に思えた。
僕たちはみな、人をいじめた加害者。それは永遠に変わらない事実。例え、大人になっても、社会的に成功しても、消えはしない。どんな事をしたとしても過去は消えないし、変わらない。
有紗ちゃんは別だが、萌加ちゃんや木下くんが何をしたのかは知らない。知ろうとも思わない。知りたくはない。知ってしまうのは怖い。
夏が過ぎ、秋が来ても萌加ちゃんは有紗ちゃんの時の様に変わらなかった。たった数人のクラスメイトだから、遠慮がちではあるが、言葉の端々に意地の悪さが透ける。彼女は目の前の相手の様子を見ていないみたいだった。自分の言動で有紗ちゃんが困ったような表情をしても、悲しい表情を浮かべても、気にしていない様に見えた。
不愉快だった。
まるで山野谷くんをいじめた子たちみたいで。萌加ちゃんはその中の子に似ている。だから、僕はなるべく関わらないようにしていた。
僕は小さく頷く。
「それに、もしもそのコメンテーターの言う事が正しいとしても、海が丘高校には依怙贔屓する先生も理不尽な事で怒る先生も必要ないの。全ての生徒にとって、全ての保護者にとって完璧には出来ないけど、ここは生徒にとって安心出来る居場所にしたいの。安心して通う事が出来て、安心して学べる学校にしたいのよ。もう十分傷付いている生徒たちがこの学校にはたくさん通っているから」そう話す路子先生の表情は悲しげだった。
海が丘高校ではもしも先生の言動で傷付く生徒がいたら、保護者やカウンセラーを交えて話し合いの場を設けている。先生は自分の言動で生徒が傷付いたと言う事実に向き合い、きちんと謝罪をする。大人だから、教師だからと言って、言い訳して誤魔化す事はしない。生徒も先生がどうしてそういう言動になったかと言う説明を聞いて誤解だと思えば謝るらしい。
結局のところ、人間関係はお互いがきちんと向き合えるかどうかだと路子先生は言う。どんな関係であっても、向き合えるかどうか。そしてそれには日頃の積み重ねも必要。
萌加ちゃんは先生に依怙贔屓をされなくても、気にしていない様に見えたが、諦めていない様にも見えた。
有紗ちゃんは同性が来て、少し嬉しそうだった。
でも、僕たちの間にはそれぞれ距離があった。永遠にクラスメイト止まり。友人にはなれない。教室だけの付き合い。その距離はそれぞれ長さが違ったが、僕と萌加ちゃんの距離が一番遠い様に思えた。
僕たちはみな、人をいじめた加害者。それは永遠に変わらない事実。例え、大人になっても、社会的に成功しても、消えはしない。どんな事をしたとしても過去は消えないし、変わらない。
有紗ちゃんは別だが、萌加ちゃんや木下くんが何をしたのかは知らない。知ろうとも思わない。知りたくはない。知ってしまうのは怖い。
夏が過ぎ、秋が来ても萌加ちゃんは有紗ちゃんの時の様に変わらなかった。たった数人のクラスメイトだから、遠慮がちではあるが、言葉の端々に意地の悪さが透ける。彼女は目の前の相手の様子を見ていないみたいだった。自分の言動で有紗ちゃんが困ったような表情をしても、悲しい表情を浮かべても、気にしていない様に見えた。
不愉快だった。
まるで山野谷くんをいじめた子たちみたいで。萌加ちゃんはその中の子に似ている。だから、僕はなるべく関わらないようにしていた。
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
【Vtuberさん向け】1人用フリー台本置き場《ネタ系/5分以内》
小熊井つん
大衆娯楽
Vtuberさん向けフリー台本置き場です
◆使用報告等不要ですのでどなたでもご自由にどうぞ
◆コメントで利用報告していただけた場合は聞きに行きます!
◆クレジット表記は任意です
※クレジット表記しない場合はフリー台本であることを明記してください
【ご利用にあたっての注意事項】
⭕️OK
・収益化済みのチャンネルまたは配信での使用
※ファンボックスや有料会員限定配信等『金銭の支払いをしないと視聴できないコンテンツ』での使用は不可
✖️禁止事項
・二次配布
・自作発言
・大幅なセリフ改変
・こちらの台本を使用したボイスデータの販売

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる