無責任な大人達

Jane

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普通の子 11

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「そうね」路子先生は少し間を置いてから、僕の顔を見て言った。「そのコメンテーターの人が言う事が全て間違っているとは思わないけど、今の子は打たれ弱いと言うのなら、今の大人は横暴な人がたくさんいる、と言わなければ不公平だと思うわ。それにまず変わらなければいけないのは、被害者ではなく、加害者よ。打たれ弱い子どもがまず変わらなければいけない訳じゃない、まず理不尽な怒りをぶつける教師が変わらなければいけないのよ。その教師を放置している周囲の大人達も同じ様に変わらなければいけないと思うわ」
 僕は小さく頷く。
「それに、もしもそのコメンテーターの言う事が正しいとしても、海が丘高校には依怙贔屓する先生も理不尽な事で怒る先生も必要ないの。全ての生徒にとって、全ての保護者にとって完璧には出来ないけど、ここは生徒にとって安心出来る居場所にしたいの。安心して通う事が出来て、安心して学べる学校にしたいのよ。もう十分傷付いている生徒たちがこの学校にはたくさん通っているから」そう話す路子先生の表情は悲しげだった。
 海が丘高校ではもしも先生の言動で傷付く生徒がいたら、保護者やカウンセラーを交えて話し合いの場を設けている。先生は自分の言動で生徒が傷付いたと言う事実に向き合い、きちんと謝罪をする。大人だから、教師だからと言って、言い訳して誤魔化す事はしない。生徒も先生がどうしてそういう言動になったかと言う説明を聞いて誤解だと思えば謝るらしい。
 結局のところ、人間関係はお互いがきちんと向き合えるかどうかだと路子先生は言う。どんな関係であっても、向き合えるかどうか。そしてそれには日頃の積み重ねも必要。
 萌加ちゃんは先生に依怙贔屓をされなくても、気にしていない様に見えたが、諦めていない様にも見えた。
 有紗ちゃんは同性が来て、少し嬉しそうだった。
 でも、僕たちの間にはそれぞれ距離があった。永遠にクラスメイト止まり。友人にはなれない。教室だけの付き合い。その距離はそれぞれ長さが違ったが、僕と萌加ちゃんの距離が一番遠い様に思えた。
 僕たちはみな、人をいじめた加害者。それは永遠に変わらない事実。例え、大人になっても、社会的に成功しても、消えはしない。どんな事をしたとしても過去は消えないし、変わらない。
 有紗ちゃんは別だが、萌加ちゃんや木下くんが何をしたのかは知らない。知ろうとも思わない。知りたくはない。知ってしまうのは怖い。
 夏が過ぎ、秋が来ても萌加ちゃんは有紗ちゃんの時の様に変わらなかった。たった数人のクラスメイトだから、遠慮がちではあるが、言葉の端々に意地の悪さが透ける。彼女は目の前の相手の様子を見ていないみたいだった。自分の言動で有紗ちゃんが困ったような表情をしても、悲しい表情を浮かべても、気にしていない様に見えた。
 不愉快だった。
 まるで山野谷くんをいじめた子たちみたいで。萌加ちゃんはその中の子に似ている。だから、僕はなるべく関わらないようにしていた。
 
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