無責任な大人達

普通の子 10

　有紗ちゃんが普通科に来てから数ヵ月して、今度は萌加ちゃんが普通科に来た。彼女もまた、進学科から来た子だった。
　萌加ちゃんは芸能人みたいな容姿に、漫画のぶりっこみたいな仕草をする子だった。でも、どこか気の強さと、意地の悪い感じがする子。
　彼女は自分の容姿に自信がある様で、それを異性に対して、利用しようとしている様に感じた。木下くんは萌加ちゃんに体を寄せられたり、話しかけられたりすると喜んでいた。彼女は男性の先生にも同じような事をしていたが、通用しなかった。海が丘高校に萌加ちゃんを依怙贔屓してくれる先生はいなかった。
　小学校の時も中学校の時も、容姿の良い生徒や成績、スポーツが優秀な生徒に依怙贔屓をする先生はいた。僕自身、中学時代は依怙贔屓をされている方だったと思う。特に陸上で良い成績を収めてからは。でも、それが嫌だった。大概の同級生は依怙贔屓をしている先生に怒りを向けるが、中には依怙贔屓をされている僕らに怒りを向けてくる子がいる。僕らは彼等に何もしていないのに。依怙贔屓なんて何の為にあるんだろう。されても学ぶ事がない。されても得るものなんて何一つない。されない側も、何一つ良い事なんてないはずだ。
　先生が生徒に対して好き嫌いがあっても、それは仕方のない事くらい僕にだって分かっている。問題なのは依怙贔屓。特別扱い、何の為なのだろう。
　そして山野谷くんをいじめた加害生徒も依怙贔屓をされていた一人だった。彼は野球が抜群に上手かった。中１の時から高校の強豪校に声を掛けられていると言われていたし、噂ではプロの球団も既に目をつけていて偵察に来ていると言う話だった。スポーツに力を入れていて学校だった中でも、彼の存在は飛び抜けていた。何時もホームページに彼の写真が載っていた。
　主犯格ではなかったが、彼の存在がいじめをなかった事にしようとする学校や先生の暴走を加速させた様にも思う。それは汚い大人の策略。
　スポーツだけが上手ければ、彼はそれで良いの？山野谷くんを死に追いやったとしても？彼はその後、どうしているのだろう。
　依怙贔屓をする先生も理不尽な事で怒りを爆発させる先生も、必要だと言う大人がいる。世の中は理不尽な事だらけで、良い大人に囲まれ過ぎていると子どもは強くなれないから、だから嫌な事があるとすぐ逃げてしまう子が多い、テレビ番組のコメンテーターがそう言っていた。社会はもっと厳しい、だからいわゆる悪い先生がいてもそれはそれで良いのだと思う、とも言っていた。そのコメンテーターが言うには、今の子は打たれ弱いそうだ。だから自分が先生に少し怒られたくらいの事で騒ぐ。そしてそれを信じた親が学校に苦情を言う。
　僕も何時か、大人になった時そう思うのだろうか。良い大人に囲まれた子どもは何も学べないのだろうか。心の弱い大人になってしまうのだろうか。僕にはまだ、分からない。
　でも、これだけは分かる。僕たちは戦わなければならないモノが多すぎる。勉強、スポーツ、習い事、いじめ、友人関係、学校や先生、周囲の大人達、そして時として親。