無責任な大人達

Jane

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普通の子 7

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 僕は多分、あの時生きる事を辞めようとしていたのだと思う。死のうとしていた訳ではない。ただ、生きていくのを辞めたいと願った。
 山野谷くんがいじめで自殺したのに、加害者達や先生は普段通りに学校に来ている、そんな事が許される世界で生きていく意味を見いだす事なんて出来なかった。
 食べる事も出来なかったし、寝る事も出来なかったし、動く事も出来なかった。そもそも何を考え、何を感じ、何をしていたのかも余り覚えてはいない。ただただ、山野谷くんが自殺した事が悲しくて、辛くて、苦しくて、鋭い刃で胸を引き裂かれる様に痛かった。
 高校に入学して、生活が落ち着くと色々な事を思い出す。僕はずっと自分の苦しさで周りが見えていなかった。でも、冷静になって思い返せばおかしな事ばかりだった。
 あの中学校に、この国の法律は通じなかった。
 山野谷くんの他にもいじめられている子はたくさんいた。いじめられている子は他の友人に助けてもらいながら我慢して通っていたり、不登校になってしまったり、転校していったりしていた。それは一年間に何度も見聞きしていた。僕はいじめがある状態に慣れてしまっていた。多分、それは生徒の殆どがそうだったのだと思う。そして学校も先生もそれが当たり前の光景だったのではないかと思う。
 だからいじめは蔓延していく。時に被害者だった子が加害者になり、加害者が被害者になった。いじめは新たないじめを生み、悲しみや憎しみは永遠に繰り返す。
 あの学校はまるで地獄。まるで戦場。
 何故、学ぶ場で何も学べない?
 中学校の時の校長、上田先生は言っていた。「いじめはどこの学校にもある。いじめがないなんて言う学校があるけど、それは嘘だと思う」まるでいじめがあるのは仕方ない事だって言っている様だった。だから自分は悪くない、と言っている様にさえ聞こえた。何でそんな事言えるんだろう?
 全校集会で山野谷くんの自殺を告げたあの時の理事長や上田校長先生の声は冷たかった。その口から出る言葉は僕の心をズタズタに切り裂いていった。心がなかった。山野谷くんをいじめた子たちと同じくらい。あの時の先生達の表情が思い出せない、その部分だけ黒く塗りつぶしたみたいに。
 でも、僕は知っている。あの中学校は何もしていなかった。世間でよく言ういじめのアンケートはあったが、アンケートに書いても何もしてくれなかった。それは生徒も保護者にも有名な事実だ。アンケートがあろうがなかろうが、そもそも先生に相談しても何もしてくれない。全員ではないが、殆どの先生がそうだった。加害者を一度怒って終わり、はマシな先生だと言われていた。それくらいいじめに対して、何も対応をしてくれない学校だった。
 僕が入学する前、陸上部の先輩がいじめられた事が原因で転校して行った。その時は先輩だけでなく部活の部員たちも保護者も、学校に何度も訴えた。最初は低姿勢だった上田校長先生と担任の先生は加害者を何度か怒った。加害者生徒は怒られて逆切れしただけ。先生の前でしなくなっただけ。終わらないいじめをどうにかして欲しいと訴えた先輩と保護者に校長先生は「もう何もしません!私達は十分やったでしょう!これで終わり、以上」と怒鳴ったらしい。話し合いは何度もしたそうだが、学校と被害者の間には大きな溝があった、最初から。
 加害生徒は先生の前だけ良い子を装い、裏では舌を出した。それはその保護者も同じ。先生にだけ低姿勢だったが、開き直っているのは有名だった。
 上田先生はそのうち「証拠がないからいじめじゃない」と言い出した。そんな事を言っていたら世の中のいじめの殆どが証拠はないよ、と先輩は転校していった。
 加害者たちは先輩に謝る事もなく、反省をする事もなく、その後も他の子をターゲットにしていじめをしていたそう。先生は誰も止めなかった。見て見ぬふり。他の生徒も同じ、見て見ぬふり。他の保護者も同じ、見て見ぬふり。
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