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普通の子 3
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その日からいじめは悪化した。山野谷くんは学校を休みがちになった。頑張ってくる日もあったが、クラス中から無視された。誰も彼に話しかけようとしなかった。先生もまた同じだった。
後で聞いたら山野谷くんの親は随分前から、校長先生たちに何度も相談していたらしい。でも、何も変わらなかった。それどころか山野谷くんの親はモンスターペアレンツ扱いだったそうだ。
山野谷くんが何をされていたのかはニュースで知った。集団無視、暴力、暴言、金品の要求。学校を休んでいても、呼び出され暴力を振るわれていたそうだ。学校も先生もいじめをなかった事にしようとしていた。
ニュースでは理事長と校長先生が会見をしていた。「学校ではいじめを把握しておりません」朝礼では堂々としていた校長先生は顔を映されていなかったが、口調が何処か他人ごとだった。それはまるで自分の学校には問題がないと言いたげだった。私のせいではないと言っている様だった。
山野谷くんはあの学校に通っていて、いじめられ自殺したのに。何故、山野谷くんが自殺した事に理事長は、校長は涙一つ流さないの?どうして山野谷くんだけに責任を押しつけるの?
ニュースでやっていた保護者会では怒号が飛んだ。学校や先生を責める言葉ばかりだった。知らない顔をしていたのは皆同じだ。必死だったのは山野谷くんの親だけ。仕方がない。私達には何もできない。そう言って、誰も助けてあげなかった。今更、先生達に怒鳴ってどうなるって言うの?
僕も、僕だって、彼を助けてあげなかった。出来る事はたくさんあったはずなのに。
加害者は補導された。それだけ。それも暴力を振るった子だけ。暴力を振るっている時に一緒に居た子はすぐさま転校していった。
クラスの中で無視したり、笑ったりしていた子は何も罰せられる事もなく、他人事の様な顔で登校していた。山野谷くんが自殺した時は泣いていた。無視したくせに、悪口を言っていたくせに、笑っていたくせに。私は何もしていません、悪くありません、どうしてそんな事が言えるの?何故?
理事長はそのまま理事長をしている、校長先生はそのまま校長を続けている。担任だった先生は学校を変えて、また違う学校で教壇に立っている。それは何故?
職員室で、山野谷くんの親の悪口を大きな声で話していた先生はまだ学校にいる。何事もなかったかの様な顔をして、何も悪い事をしていない様な顔をして。それは何故?
先生たちは何故警察に捕まらないの?
僕は何故警察に捕まらないの?
何故、皆笑えるの?
山野谷くんは自殺したのに。もうこの世にいない。もう、話す事すらできない。それなのに何故、みんな笑えるの?山野谷くんはもう笑う事すらできない。
山野谷くんの死を無駄にしないって何?
卒業が寂しいってSNSにあげているのは本心?何が悲しいの?何が嬉しいの?
僕は何一つ嬉しくない。学校を卒業する事なんて、ちっとも悲しくない。
先生も同級生も怖かった、ひどく。喉の奥に何かが詰まったみたいで、苦しい。
「染谷くん、良く聞きなさい」校長先生が少し大きな、それでいて優しい口調で言った。
僕はハッとして顔を上げた。「すみません」
「君は悪くない。自分を罰するのをやめなさい。この学校に入学したいのなら、まずは入院をして元の体重に戻しましょう。そして体調を整える事です」
「でも、学校に行かないと出席日数が足りなくなって高校に入れなくなるって先生が」山野谷くんが自殺をしてから、僕はしばらく学校に行ったり行かなかったりを繰り返していた。進学の個人面談で出席日数が危ないと担任の先生に言われている。これ以上欠席が増えると、陸上部での功績も役に立たなくなってしまうらしい。そもそも陸上部には行っていない。だから無理やりでも通う様にしていた。
「大丈夫。出席日数はうちの学校では問題視していません」重野先生は悲しそうな、苦しそうな表情で続けた。その表情がどんな意味を持つのか、僕にはこの先も分かりそうにない。「それにその学校に通っていても染谷くんが学ぶ事はないでしょう?良いですか?君の学校の先生は山野谷君のいじめを見て見ぬふりする事で、彼だけでなく染谷くんや他の生徒の事もいじめたのです。その学校に通う事は君の為にもなりません。だからお母さんの言う通り、学校を休み入院をして体重を増やして下さい」
後で聞いたら山野谷くんの親は随分前から、校長先生たちに何度も相談していたらしい。でも、何も変わらなかった。それどころか山野谷くんの親はモンスターペアレンツ扱いだったそうだ。
山野谷くんが何をされていたのかはニュースで知った。集団無視、暴力、暴言、金品の要求。学校を休んでいても、呼び出され暴力を振るわれていたそうだ。学校も先生もいじめをなかった事にしようとしていた。
ニュースでは理事長と校長先生が会見をしていた。「学校ではいじめを把握しておりません」朝礼では堂々としていた校長先生は顔を映されていなかったが、口調が何処か他人ごとだった。それはまるで自分の学校には問題がないと言いたげだった。私のせいではないと言っている様だった。
山野谷くんはあの学校に通っていて、いじめられ自殺したのに。何故、山野谷くんが自殺した事に理事長は、校長は涙一つ流さないの?どうして山野谷くんだけに責任を押しつけるの?
ニュースでやっていた保護者会では怒号が飛んだ。学校や先生を責める言葉ばかりだった。知らない顔をしていたのは皆同じだ。必死だったのは山野谷くんの親だけ。仕方がない。私達には何もできない。そう言って、誰も助けてあげなかった。今更、先生達に怒鳴ってどうなるって言うの?
僕も、僕だって、彼を助けてあげなかった。出来る事はたくさんあったはずなのに。
加害者は補導された。それだけ。それも暴力を振るった子だけ。暴力を振るっている時に一緒に居た子はすぐさま転校していった。
クラスの中で無視したり、笑ったりしていた子は何も罰せられる事もなく、他人事の様な顔で登校していた。山野谷くんが自殺した時は泣いていた。無視したくせに、悪口を言っていたくせに、笑っていたくせに。私は何もしていません、悪くありません、どうしてそんな事が言えるの?何故?
理事長はそのまま理事長をしている、校長先生はそのまま校長を続けている。担任だった先生は学校を変えて、また違う学校で教壇に立っている。それは何故?
職員室で、山野谷くんの親の悪口を大きな声で話していた先生はまだ学校にいる。何事もなかったかの様な顔をして、何も悪い事をしていない様な顔をして。それは何故?
先生たちは何故警察に捕まらないの?
僕は何故警察に捕まらないの?
何故、皆笑えるの?
山野谷くんは自殺したのに。もうこの世にいない。もう、話す事すらできない。それなのに何故、みんな笑えるの?山野谷くんはもう笑う事すらできない。
山野谷くんの死を無駄にしないって何?
卒業が寂しいってSNSにあげているのは本心?何が悲しいの?何が嬉しいの?
僕は何一つ嬉しくない。学校を卒業する事なんて、ちっとも悲しくない。
先生も同級生も怖かった、ひどく。喉の奥に何かが詰まったみたいで、苦しい。
「染谷くん、良く聞きなさい」校長先生が少し大きな、それでいて優しい口調で言った。
僕はハッとして顔を上げた。「すみません」
「君は悪くない。自分を罰するのをやめなさい。この学校に入学したいのなら、まずは入院をして元の体重に戻しましょう。そして体調を整える事です」
「でも、学校に行かないと出席日数が足りなくなって高校に入れなくなるって先生が」山野谷くんが自殺をしてから、僕はしばらく学校に行ったり行かなかったりを繰り返していた。進学の個人面談で出席日数が危ないと担任の先生に言われている。これ以上欠席が増えると、陸上部での功績も役に立たなくなってしまうらしい。そもそも陸上部には行っていない。だから無理やりでも通う様にしていた。
「大丈夫。出席日数はうちの学校では問題視していません」重野先生は悲しそうな、苦しそうな表情で続けた。その表情がどんな意味を持つのか、僕にはこの先も分かりそうにない。「それにその学校に通っていても染谷くんが学ぶ事はないでしょう?良いですか?君の学校の先生は山野谷君のいじめを見て見ぬふりする事で、彼だけでなく染谷くんや他の生徒の事もいじめたのです。その学校に通う事は君の為にもなりません。だからお母さんの言う通り、学校を休み入院をして体重を増やして下さい」
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