27 / 41
教師の子 13
しおりを挟む
俺は地元の大学へと進学した。そこでもサッカー部に入った。オファーがきた大学程強い訳ではないが、近くの強豪校やプロ、セミプロのチームと練習試合が出来るし、それ程練習が厳しい日程ではないから、勉強と両立出来ていて日々充実している。
敦人は都内の強豪校へと行った。きっと成功すると思う。毎日の食生活から、体作り、普段の生活からストイックにしている敦人はきっとプロにもなれる。今は自分がゴールを決めた動画や押しキャラの画像付きでメールが来たり、SNSでやりとりをしていたりする。
久保は地元の大学へと進学した。中学時代、プロを目指したいと言っていたが、プロになる事は諦め、違う形でサッカーに関わる仕事をしようとしているらしい。
俺たちが卒業する頃くらいから、藍ちゃんは少しずつ前みたいに笑う様になった。家族か俺が一緒なら外にも出られる様になった。海が丘高校に興味はもっていたけど、学校にもう価値を感じないしどうしても抵抗が拭えない、とそのまま通信制に通っている。フォローのしっかりとした学校を選んでいたから、勉強の方は学ぶ意思さえあればどうにかなるんだ、と彼女は笑った。でも、それでも分からない事があると久保や俺が教えた。
藍ちゃんはイラストを描いていて、将来そっちの方で仕事が出来れば良いと思っているみたいだ。ネットには投稿していて、ちょっとだけファンみたいな人がいるんだ、と教えてくれた。美術系の専門学校か大学への進学を目指している。
海が丘高校には卒業の時に付き合っている子や好きな子に、男女問わず校章をあげる告白がある。卒業の日、俺は藍ちゃんに校章をあげた。彼女は意味を知らなかったけど、机の上の小さな箱に入れて大事にしてくれている。
とても平和で穏やかな日々を過ごしている。大学にも他人を攻撃してこようとしてくる人は居るけど、なるべく避けて通っている。攻撃的な人間に付き合うほど、暇はない。彼らから、俺は何一つ学べない。どうせ付き合うなら穏やかに付き合える、何かを学べる友達にしたい。
でも、何処かで俺はまだ、前に進めていない気がしていた。心の底で憎しみや恨みが募っていて、過去を振り切れないままでいる。時が経っても、被害に合った事を完全に忘れられる事はない。人は『やられた方はずっと覚えている』と簡単に言うけど、被害に実際合って苦しんでいる最中の人からはそんな言葉は出てこない。
俺は苦しんだ全ての事を父さんのせいだと思っている。何故かいじめた加害生徒達よりも、父さんを憎んでいる。父さんだけのせいじゃないと神澤先生に何度も言われたけど、いじめは加害者とその保護者の問題で、被害者に落ち度はないと言われたけど、どうしても拭えないままでいた。
それに父さんが何故、あんな事をしたのか理解が出来ないままでいる。そこには何か理由がったのではないか、と考えてしまう。
多分、俺は何処かで父さんを信じたいんだと思う。それは加害生徒を庇う保護者と同じ気持ちなのかもしれない。でも、父さんを全て信じ切れるほど、俺は愚かじゃない。自分でも解っている。父を憎む気持ちと信じたい自分がいる事に。
大分、後になってから母が教えてくれた。母は父との離婚後、自殺を図った父の生徒に連絡を取っていた。生徒は転校をしていたから、探すのはなかなか大変だったらしい。母は探し出した後に謝罪しに行った。
被害者の子は幸い後遺症などもなく、体は元気になったらしい。引っ越した先の学校はとても平和だった。傷付いた心はもう元に戻る事はないけど、前は向いているそう。
母が泣きながら謝罪をすると、被害者のお母さんが言った。「あなたに責任はありません。どうぞ気に病まずに。でも、こうして誠意ある謝罪をしてくれたのはあなたが初めてです、ありがとう」二人で号泣したと母は言った。
その涙は誰一人として、被害者の子に誠意を持って謝っていない事を物語る。
父は何処までも、何処までも卑怯だ。
敦人は都内の強豪校へと行った。きっと成功すると思う。毎日の食生活から、体作り、普段の生活からストイックにしている敦人はきっとプロにもなれる。今は自分がゴールを決めた動画や押しキャラの画像付きでメールが来たり、SNSでやりとりをしていたりする。
久保は地元の大学へと進学した。中学時代、プロを目指したいと言っていたが、プロになる事は諦め、違う形でサッカーに関わる仕事をしようとしているらしい。
俺たちが卒業する頃くらいから、藍ちゃんは少しずつ前みたいに笑う様になった。家族か俺が一緒なら外にも出られる様になった。海が丘高校に興味はもっていたけど、学校にもう価値を感じないしどうしても抵抗が拭えない、とそのまま通信制に通っている。フォローのしっかりとした学校を選んでいたから、勉強の方は学ぶ意思さえあればどうにかなるんだ、と彼女は笑った。でも、それでも分からない事があると久保や俺が教えた。
藍ちゃんはイラストを描いていて、将来そっちの方で仕事が出来れば良いと思っているみたいだ。ネットには投稿していて、ちょっとだけファンみたいな人がいるんだ、と教えてくれた。美術系の専門学校か大学への進学を目指している。
海が丘高校には卒業の時に付き合っている子や好きな子に、男女問わず校章をあげる告白がある。卒業の日、俺は藍ちゃんに校章をあげた。彼女は意味を知らなかったけど、机の上の小さな箱に入れて大事にしてくれている。
とても平和で穏やかな日々を過ごしている。大学にも他人を攻撃してこようとしてくる人は居るけど、なるべく避けて通っている。攻撃的な人間に付き合うほど、暇はない。彼らから、俺は何一つ学べない。どうせ付き合うなら穏やかに付き合える、何かを学べる友達にしたい。
でも、何処かで俺はまだ、前に進めていない気がしていた。心の底で憎しみや恨みが募っていて、過去を振り切れないままでいる。時が経っても、被害に合った事を完全に忘れられる事はない。人は『やられた方はずっと覚えている』と簡単に言うけど、被害に実際合って苦しんでいる最中の人からはそんな言葉は出てこない。
俺は苦しんだ全ての事を父さんのせいだと思っている。何故かいじめた加害生徒達よりも、父さんを憎んでいる。父さんだけのせいじゃないと神澤先生に何度も言われたけど、いじめは加害者とその保護者の問題で、被害者に落ち度はないと言われたけど、どうしても拭えないままでいた。
それに父さんが何故、あんな事をしたのか理解が出来ないままでいる。そこには何か理由がったのではないか、と考えてしまう。
多分、俺は何処かで父さんを信じたいんだと思う。それは加害生徒を庇う保護者と同じ気持ちなのかもしれない。でも、父さんを全て信じ切れるほど、俺は愚かじゃない。自分でも解っている。父を憎む気持ちと信じたい自分がいる事に。
大分、後になってから母が教えてくれた。母は父との離婚後、自殺を図った父の生徒に連絡を取っていた。生徒は転校をしていたから、探すのはなかなか大変だったらしい。母は探し出した後に謝罪しに行った。
被害者の子は幸い後遺症などもなく、体は元気になったらしい。引っ越した先の学校はとても平和だった。傷付いた心はもう元に戻る事はないけど、前は向いているそう。
母が泣きながら謝罪をすると、被害者のお母さんが言った。「あなたに責任はありません。どうぞ気に病まずに。でも、こうして誠意ある謝罪をしてくれたのはあなたが初めてです、ありがとう」二人で号泣したと母は言った。
その涙は誰一人として、被害者の子に誠意を持って謝っていない事を物語る。
父は何処までも、何処までも卑怯だ。
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活
XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
男女比の狂った世界で愛を振りまく
キョウキョウ
恋愛
男女比が1:10という、男性の数が少ない世界に転生した主人公の七沢直人(ななさわなおと)。
その世界の男性は無気力な人が多くて、異性その恋愛にも消極的。逆に、女性たちは恋愛に飢え続けていた。どうにかして男性と仲良くなりたい。イチャイチャしたい。
直人は他の男性たちと違って、欲求を強く感じていた。女性とイチャイチャしたいし、楽しく過ごしたい。
生まれた瞬間から愛され続けてきた七沢直人は、その愛を周りの女性に返そうと思った。
デートしたり、手料理を振る舞ったり、一緒に趣味を楽しんだりする。その他にも、色々と。
本作品は、男女比の異なる世界の女性たちと積極的に触れ合っていく様子を描く物語です。
※カクヨムにも掲載中の作品です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる