無責任な大人達

Jane

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教師の子 13

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 俺は地元の大学へと進学した。そこでもサッカー部に入った。オファーがきた大学程強い訳ではないが、近くの強豪校やプロ、セミプロのチームと練習試合が出来るし、それ程練習が厳しい日程ではないから、勉強と両立出来ていて日々充実している。
 敦人は都内の強豪校へと行った。きっと成功すると思う。毎日の食生活から、体作り、普段の生活からストイックにしている敦人はきっとプロにもなれる。今は自分がゴールを決めた動画や押しキャラの画像付きでメールが来たり、SNSでやりとりをしていたりする。
 久保は地元の大学へと進学した。中学時代、プロを目指したいと言っていたが、プロになる事は諦め、違う形でサッカーに関わる仕事をしようとしているらしい。
 俺たちが卒業する頃くらいから、藍ちゃんは少しずつ前みたいに笑う様になった。家族か俺が一緒なら外にも出られる様になった。海が丘高校に興味はもっていたけど、学校にもう価値を感じないしどうしても抵抗が拭えない、とそのまま通信制に通っている。フォローのしっかりとした学校を選んでいたから、勉強の方は学ぶ意思さえあればどうにかなるんだ、と彼女は笑った。でも、それでも分からない事があると久保や俺が教えた。
 藍ちゃんはイラストを描いていて、将来そっちの方で仕事が出来れば良いと思っているみたいだ。ネットには投稿していて、ちょっとだけファンみたいな人がいるんだ、と教えてくれた。美術系の専門学校か大学への進学を目指している。
 海が丘高校には卒業の時に付き合っている子や好きな子に、男女問わず校章をあげる告白がある。卒業の日、俺は藍ちゃんに校章をあげた。彼女は意味を知らなかったけど、机の上の小さな箱に入れて大事にしてくれている。
 とても平和で穏やかな日々を過ごしている。大学にも他人を攻撃してこようとしてくる人は居るけど、なるべく避けて通っている。攻撃的な人間に付き合うほど、暇はない。彼らから、俺は何一つ学べない。どうせ付き合うなら穏やかに付き合える、何かを学べる友達にしたい。
 でも、何処かで俺はまだ、前に進めていない気がしていた。心の底で憎しみや恨みが募っていて、過去を振り切れないままでいる。時が経っても、被害に合った事を完全に忘れられる事はない。人は『やられた方はずっと覚えている』と簡単に言うけど、被害に実際合って苦しんでいる最中の人からはそんな言葉は出てこない。
 俺は苦しんだ全ての事を父さんのせいだと思っている。何故かいじめた加害生徒達よりも、父さんを憎んでいる。父さんだけのせいじゃないと神澤先生に何度も言われたけど、いじめは加害者とその保護者の問題で、被害者に落ち度はないと言われたけど、どうしても拭えないままでいた。
 それに父さんが何故、あんな事をしたのか理解が出来ないままでいる。そこには何か理由がったのではないか、と考えてしまう。
 多分、俺は何処かで父さんを信じたいんだと思う。それは加害生徒を庇う保護者と同じ気持ちなのかもしれない。でも、父さんを全て信じ切れるほど、俺は愚かじゃない。自分でも解っている。父を憎む気持ちと信じたい自分がいる事に。
 大分、後になってから母が教えてくれた。母は父との離婚後、自殺を図った父の生徒に連絡を取っていた。生徒は転校をしていたから、探すのはなかなか大変だったらしい。母は探し出した後に謝罪しに行った。
 被害者の子は幸い後遺症などもなく、体は元気になったらしい。引っ越した先の学校はとても平和だった。傷付いた心はもう元に戻る事はないけど、前は向いているそう。
 母が泣きながら謝罪をすると、被害者のお母さんが言った。「あなたに責任はありません。どうぞ気に病まずに。でも、こうして誠意ある謝罪をしてくれたのはあなたが初めてです、ありがとう」二人で号泣したと母は言った。
 その涙は誰一人として、被害者の子に誠意を持って謝っていない事を物語る。

 父は何処までも、何処までも卑怯だ。
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