無責任な大人達

Jane

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教師の子 12

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「同意見よ。私も許せないわ」神澤先生は穏やかな口調で言った。でも、すごく悲しげな表情をしていた。「今までたくさんの傷付いた子ども達を見て思うのよ。誰がこの責任を取るのか、どうして誰も責任を取らないのか、責任を誰も取らない事で、これから子ども達はどうなっていくのか」
 知っている。重野先生と理事長がこの学校を開校した理由の一つだ。そしてその意思に賛同した教師やカウンセラーがこの学校で働いているのだと思う。傍観者の子どもにも違いがある様に、教師にだって違いはある。組織の中で抵抗出来ない教師は生徒を助けられない事に、きっと深く傷付いている。いじめを隠蔽する学校の中で、子どもが好きで教師と言う職業に就いたのに、その大好きな子ども達が苦しんでいるのに助け様ともしない同僚に、助けられない自分に嫌気がさして教師を辞めた人もいるらしい。
 法治国家の学校内で起こる事なのに、どうして学校の中だけ『特別』なのか。人を傷付けているのに、どうして加害者がそのままなのか。どうして、誰にも責任を取らせないのか。何故、攻撃的な子どもと向き合う事から逃げてしまう大人がいるのか。その責任はこの先誰が将来背負っていくのか、それで普通科が出来た事も。
 大人はずるい、責任を取らずに逃げて。減俸とか、謹慎処分とか、そう言う事じゃない。
「過去と向き合うのは苦しいのよ、とても。自分がした事の重さに気が付いた時にはもう手遅れなの。自業自得である事は当然だけど、教師や保護者がいる状態でどうして放っておく事が出来るのか、私には理解が出来ないわ。私は親でもあるし、教育関係者でもあるから、教師や保護者がいじめをもみ消そうとしている事実に憤りを感じるわ」神澤先生は顔を歪めていた、悔しそうな、悲しそうな顔だった。
 苦しんでくれれば良いと思う。俺をいじめた奴らも、藍ちゃんをいじめたアイツも、父も。全ての加害者も、その保護者も、教師も。そしたら少しは救われる。少なくとも、俺は救われる気がしていた。
「ところで話は変わるけど、進路は決まったの?」神澤先生が時計をちらっと見た。
 時間が迫っている、もうすぐ終わりの時間だ。
「顧問の先生が気にしていたけど」
「いいえ」
「大学からのオファー、どうするつもりでいるの?まだ悩んでる?」
「正直に言えば悩んでいます。でも」進路は最初から一つ。
 敦人だけでなく、俺にも地方の大学からサッカー推薦のオファーが届いた。それは驚き以外の何物でもなかった。敦人程、サッカーが上手い訳でもなく、体格も恵まれている訳ではない俺にとって、そのオファーは舞い上がるほど嬉しかった。敦人目当てにスカウトが来ていた中で、自分にも声が掛かるなんて思ってもみなかった。オファーが来た大学は強豪と言っても良い程の学校だった。でも、家から通う事は出来ない。行くとすれば寮に入るしかなく、家を出なければならない。それは到底無理な話だった。
「断ると思います」
「いいの?お母さんは本人が行きたいのであれば応援するって言っていたけど」
「はい」オファーをくれた大学程ではなくとも、県内にはサッカー部がそこそこ強い大学がある。そこには自分の学びたい学部もあり、偏差値も問題がない。サッカーを生業にしたい訳ではないから、これで良いと思っている。敦人の様にプロを目指せる程、俺は上手くない。オファーはきたが、それを真に受けて俺は上手いんだと自惚れはしない。
「じゃ、最後に一つだけ。後悔しない?」
 多分、しない。後ろ髪を引かれているのは事実だが、行けば違う後悔になる。「はい」家からは出ない。母も祖父母も何も言っていないが、随分前から自分の中で決めていた事がある。祖父母と母の側にいる。俺のために戦ってくれた母、俺と母を守ってくれた祖父母、俺はずっと側にいる。
 今度は俺が守る番だ。

 俺は強くなるから。
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