無責任な大人達

Jane

文字の大きさ
上 下
26 / 41

教師の子 12

しおりを挟む
「同意見よ。私も許せないわ」神澤先生は穏やかな口調で言った。でも、すごく悲しげな表情をしていた。「今までたくさんの傷付いた子ども達を見て思うのよ。誰がこの責任を取るのか、どうして誰も責任を取らないのか、責任を誰も取らない事で、これから子ども達はどうなっていくのか」
 知っている。重野先生と理事長がこの学校を開校した理由の一つだ。そしてその意思に賛同した教師やカウンセラーがこの学校で働いているのだと思う。傍観者の子どもにも違いがある様に、教師にだって違いはある。組織の中で抵抗出来ない教師は生徒を助けられない事に、きっと深く傷付いている。いじめを隠蔽する学校の中で、子どもが好きで教師と言う職業に就いたのに、その大好きな子ども達が苦しんでいるのに助け様ともしない同僚に、助けられない自分に嫌気がさして教師を辞めた人もいるらしい。
 法治国家の学校内で起こる事なのに、どうして学校の中だけ『特別』なのか。人を傷付けているのに、どうして加害者がそのままなのか。どうして、誰にも責任を取らせないのか。何故、攻撃的な子どもと向き合う事から逃げてしまう大人がいるのか。その責任はこの先誰が将来背負っていくのか、それで普通科が出来た事も。
 大人はずるい、責任を取らずに逃げて。減俸とか、謹慎処分とか、そう言う事じゃない。
「過去と向き合うのは苦しいのよ、とても。自分がした事の重さに気が付いた時にはもう手遅れなの。自業自得である事は当然だけど、教師や保護者がいる状態でどうして放っておく事が出来るのか、私には理解が出来ないわ。私は親でもあるし、教育関係者でもあるから、教師や保護者がいじめをもみ消そうとしている事実に憤りを感じるわ」神澤先生は顔を歪めていた、悔しそうな、悲しそうな顔だった。
 苦しんでくれれば良いと思う。俺をいじめた奴らも、藍ちゃんをいじめたアイツも、父も。全ての加害者も、その保護者も、教師も。そしたら少しは救われる。少なくとも、俺は救われる気がしていた。
「ところで話は変わるけど、進路は決まったの?」神澤先生が時計をちらっと見た。
 時間が迫っている、もうすぐ終わりの時間だ。
「顧問の先生が気にしていたけど」
「いいえ」
「大学からのオファー、どうするつもりでいるの?まだ悩んでる?」
「正直に言えば悩んでいます。でも」進路は最初から一つ。
 敦人だけでなく、俺にも地方の大学からサッカー推薦のオファーが届いた。それは驚き以外の何物でもなかった。敦人程、サッカーが上手い訳でもなく、体格も恵まれている訳ではない俺にとって、そのオファーは舞い上がるほど嬉しかった。敦人目当てにスカウトが来ていた中で、自分にも声が掛かるなんて思ってもみなかった。オファーが来た大学は強豪と言っても良い程の学校だった。でも、家から通う事は出来ない。行くとすれば寮に入るしかなく、家を出なければならない。それは到底無理な話だった。
「断ると思います」
「いいの?お母さんは本人が行きたいのであれば応援するって言っていたけど」
「はい」オファーをくれた大学程ではなくとも、県内にはサッカー部がそこそこ強い大学がある。そこには自分の学びたい学部もあり、偏差値も問題がない。サッカーを生業にしたい訳ではないから、これで良いと思っている。敦人の様にプロを目指せる程、俺は上手くない。オファーはきたが、それを真に受けて俺は上手いんだと自惚れはしない。
「じゃ、最後に一つだけ。後悔しない?」
 多分、しない。後ろ髪を引かれているのは事実だが、行けば違う後悔になる。「はい」家からは出ない。母も祖父母も何も言っていないが、随分前から自分の中で決めていた事がある。祖父母と母の側にいる。俺のために戦ってくれた母、俺と母を守ってくれた祖父母、俺はずっと側にいる。
 今度は俺が守る番だ。

 俺は強くなるから。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

とぅどぅいずとぅびぃ

黒名碧
現代文学
それもまた誰かの人生。 何かをする、行動するという事が生きるという事。 縦読み推奨。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

由紀と真一

廣瀬純一
大衆娯楽
夫婦の体が入れ替わる話

処理中です...