無責任な大人達

Jane

文字の大きさ
上 下
24 / 41

教師の子 10

しおりを挟む
 俺の思い出の中の父は子どもの扱いが上手い人だった。俺と公園に出かけると、教師と言っていないのに、いつの間にか子どもが集まってきた。特に集団の子どもたちの扱いは上手かった。遊びながら上手に集団を仕切った。
 でも、輪の中に入れない子どもは俺に任せた。俺はその子を誘い、輪の中に一緒に入って遊んだ。
 そして父は乱暴な子に対しては最初だけ「友達に意地悪するのはやめよう」と注意をして、後は軽くあしらっていた。乱暴な子は父の注意を惹きたいのか、それとも別の誰かの注意を惹きたいのか、他の子に悪さをする。やられた方は泣き出し親の元へ行くが、乱暴な子には大抵親が来ない。乱暴な子は持て余したように、誰かにもっとひどい事をしようとする。そしてそこで大体、父は子ども達と遊ぶのを切り上げた。父の青空学級は崩壊したのだ。
 皆仲良く、そう銘打つ父の青空学級は何時も崩壊していた。父と俺の帰り時間のせいじゃない。父が強制的に終わらせるのだ。皆仲良くなど、父が言う様に上手くいった事はなかった。
 青空学級の最中、殆どの親はそれを遠くから見ている。中には大人同士で話に夢中になっていたり、携帯を触りだしていたりするが、姿すら見せない親もいた。解散になると我が子を手元に呼び寄せ、大体の親は何も言わずに引き上げていった。父に向かって直接お礼を言いに来たり、会釈をしたりする親はほんの一握りだった。
 公園での出会いなど、人生のうちのほんの一瞬。日々の生活には無関係だから、傍若無人に振る舞う親子など山のように居た。目の前で自分の子どもが他の子どもにひどい事を言っても、叩いても、何も言わない親なんてざらに居る。
 青空学級で見たのは、様々な親子。公園は全ての子どもにとって幸せな場所ではない。子どもより、友人や携帯、自分を優先している親がいて、そう言う親の子は幸せそうな顔で遊んではいなかった。
 父は母や祖父母が言う様に、本当は子どもが好きではなく、教育に情熱を感じていなかったのだろうか。それとも若い頃はあったけど、年月とともに消え去っていったのだろうか。
 あの時、父が被害生徒にした事だけでなく、他からもボロボロと父の行いが出てきていた。人間なのだから教師と言っても完璧ではなく、ちょっとした言葉で誰かを傷付けてしまう事もある。それは生徒でも、保護者でも、どんな人でも同じ事。人は誰かを傷付けていて、自分も傷付けられて、生きている。でも、父がしてきた事は人間だから、誰だって、では言い訳にはならない様に思う。
 勉強を教えていてなかなか理解出来ない子がいると小突き、ずっと責め続ける言葉を言う。
 君は金持ちなんだから気に入らないなら私立に行けば良い、と怒鳴り散らす。
 0点だけど、君は一生懸命頑張ったんだね、と漢字が苦手な帰国子女の子のテスト用紙をクラスで掲げる。
 些細ともとれる様な事で、生徒が悪い事をした時だからこそ、保護者は何も言えなかったらしい。今時は直ぐにモンスターペアレンツ扱いをされるから、子どもを預かってもらう立場だから、言えない人もいる。理不尽な親もたくさんいるが、言えない親もそれ以上に居る。テレビで報道されるなんて、世間から叩かれる先生や保護者なんて、ほんの一握りだ。
 でも、俺は先生にされたら、やっぱり嫌だと思う。そう思う事を自分の父親が生徒にしていた事がひどく悲しい。ひどく恥ずかしい。
 父が勤めていた中学校は県内でも有数に荒れている学校だった。いわゆる不良になってしまう子がたくさんいて、窓ガラスが割られている事もあったり、補導されている生徒もいたりする様な学校だった。夜中、電話が掛かってきて、父が慌てて警察に向かった姿を覚えている。子どもながらに親ではなく、教師が警察から呼び出される事が不思議だった。今ならその意味が痛いほど分かる。
 担任を受け持ち、役職も付き、運動部の顧問でもあった父は休日も練習や試合に出かけていた。俺は父と休日を過ごした記憶が余りない。特に公園などに出かけてしまうと青空学級になってしまうので、父と二人で思いっきり遊んでいる記憶がなかった。でも、俺にはそれが普通で、父は子どものために頑張っているのだからと、誇りにさえ思っていた。
 あの学校は保護者の理不尽なクレームも多く、教師間のトラブルも多かったらしい。父が母に、教師間のトラブルの愚痴を零している姿を何度か見ている。皆が同じ様に懸命に働く訳ではない。同僚にハラスメントをする教師、仕事をさぼり同僚に押しつける様な教師も居た様だ。
 きっと学校自体に問題は山積みだったのだと思う。教師の仕事は大変だと思っている。でも、いじめの問題と同様、一行に改善されない。
 方法は無限にある様に思えるのに、何が邪魔をしているのだろう。誰が邪魔をしているのだろう。
 でも、それとこれとは全くの別問題で、いじめを放置したり、いじめに加担したりするのはただの言い訳にしかならない。それは父の保身の為で、教師と言う仕事を父自身が馬鹿にしている様にしか思えない。
 サッカーで言えば、教師は監督と同じ。このチームの方向性を決める。もちろん全ての部員が同じ方を向ける訳ではないのかもしれない。高校のサッカー部の監督は良いプレーをすれば褒めるし、悪いプレーをすればそれがどうして悪いのか説明してくれる。父はどちらもしなかったのだと思う。それが生徒の為になるのだろうか。それが生徒の将来を作れるのだろうか、俺には父のしてきた事が間違っている様に思う。
 子どもの世界はとても狭くて、俺も学校がこの世の全てだった。母も祖父母も安心する場所を俺にくれて、久保やサッカー部の仲間のおかげで学校にも居場所はあった。だから俺はクラスメイトから無視をされていても、先生が助けてくれなくても、やっていけただけだ。母や祖父母、久保達がいなければ、俺がどうしていたか、どうなっていたかなんて分からない。
 何故、父は、一部の先生はその事が分からないのだろう?先生だって、父だって、学校に通っていた事があったはずだ。子どもだった時があったはずなのに。自分が経験した事がないにしろ、ほんの少しの優しさと想像力があれば、被害者の子の気持ちくらい分かるはずだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

借金した女(SМ小説です)

浅野浩二
現代文学
ヤミ金融に借金した女のSМ小説です。

💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活

XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。

男女比の狂った世界で愛を振りまく

キョウキョウ
恋愛
男女比が1:10という、男性の数が少ない世界に転生した主人公の七沢直人(ななさわなおと)。 その世界の男性は無気力な人が多くて、異性その恋愛にも消極的。逆に、女性たちは恋愛に飢え続けていた。どうにかして男性と仲良くなりたい。イチャイチャしたい。 直人は他の男性たちと違って、欲求を強く感じていた。女性とイチャイチャしたいし、楽しく過ごしたい。 生まれた瞬間から愛され続けてきた七沢直人は、その愛を周りの女性に返そうと思った。 デートしたり、手料理を振る舞ったり、一緒に趣味を楽しんだりする。その他にも、色々と。 本作品は、男女比の異なる世界の女性たちと積極的に触れ合っていく様子を描く物語です。 ※カクヨムにも掲載中の作品です。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

とある高校の淫らで背徳的な日常

神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。 クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。 後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。 ノクターンとかにもある お気に入りをしてくれると喜ぶ。 感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。 してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。

処理中です...