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教師の子 10
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俺の思い出の中の父は子どもの扱いが上手い人だった。俺と公園に出かけると、教師と言っていないのに、いつの間にか子どもが集まってきた。特に集団の子どもたちの扱いは上手かった。遊びながら上手に集団を仕切った。
でも、輪の中に入れない子どもは俺に任せた。俺はその子を誘い、輪の中に一緒に入って遊んだ。
そして父は乱暴な子に対しては最初だけ「友達に意地悪するのはやめよう」と注意をして、後は軽くあしらっていた。乱暴な子は父の注意を惹きたいのか、それとも別の誰かの注意を惹きたいのか、他の子に悪さをする。やられた方は泣き出し親の元へ行くが、乱暴な子には大抵親が来ない。乱暴な子は持て余したように、誰かにもっとひどい事をしようとする。そしてそこで大体、父は子ども達と遊ぶのを切り上げた。父の青空学級は崩壊したのだ。
皆仲良く、そう銘打つ父の青空学級は何時も崩壊していた。父と俺の帰り時間のせいじゃない。父が強制的に終わらせるのだ。皆仲良くなど、父が言う様に上手くいった事はなかった。
青空学級の最中、殆どの親はそれを遠くから見ている。中には大人同士で話に夢中になっていたり、携帯を触りだしていたりするが、姿すら見せない親もいた。解散になると我が子を手元に呼び寄せ、大体の親は何も言わずに引き上げていった。父に向かって直接お礼を言いに来たり、会釈をしたりする親はほんの一握りだった。
公園での出会いなど、人生のうちのほんの一瞬。日々の生活には無関係だから、傍若無人に振る舞う親子など山のように居た。目の前で自分の子どもが他の子どもにひどい事を言っても、叩いても、何も言わない親なんてざらに居る。
青空学級で見たのは、様々な親子。公園は全ての子どもにとって幸せな場所ではない。子どもより、友人や携帯、自分を優先している親がいて、そう言う親の子は幸せそうな顔で遊んではいなかった。
父は母や祖父母が言う様に、本当は子どもが好きではなく、教育に情熱を感じていなかったのだろうか。それとも若い頃はあったけど、年月とともに消え去っていったのだろうか。
あの時、父が被害生徒にした事だけでなく、他からもボロボロと父の行いが出てきていた。人間なのだから教師と言っても完璧ではなく、ちょっとした言葉で誰かを傷付けてしまう事もある。それは生徒でも、保護者でも、どんな人でも同じ事。人は誰かを傷付けていて、自分も傷付けられて、生きている。でも、父がしてきた事は人間だから、誰だって、では言い訳にはならない様に思う。
勉強を教えていてなかなか理解出来ない子がいると小突き、ずっと責め続ける言葉を言う。
君は金持ちなんだから気に入らないなら私立に行けば良い、と怒鳴り散らす。
0点だけど、君は一生懸命頑張ったんだね、と漢字が苦手な帰国子女の子のテスト用紙をクラスで掲げる。
些細ともとれる様な事で、生徒が悪い事をした時だからこそ、保護者は何も言えなかったらしい。今時は直ぐにモンスターペアレンツ扱いをされるから、子どもを預かってもらう立場だから、言えない人もいる。理不尽な親もたくさんいるが、言えない親もそれ以上に居る。テレビで報道されるなんて、世間から叩かれる先生や保護者なんて、ほんの一握りだ。
でも、俺は先生にされたら、やっぱり嫌だと思う。そう思う事を自分の父親が生徒にしていた事がひどく悲しい。ひどく恥ずかしい。
父が勤めていた中学校は県内でも有数に荒れている学校だった。いわゆる不良になってしまう子がたくさんいて、窓ガラスが割られている事もあったり、補導されている生徒もいたりする様な学校だった。夜中、電話が掛かってきて、父が慌てて警察に向かった姿を覚えている。子どもながらに親ではなく、教師が警察から呼び出される事が不思議だった。今ならその意味が痛いほど分かる。
担任を受け持ち、役職も付き、運動部の顧問でもあった父は休日も練習や試合に出かけていた。俺は父と休日を過ごした記憶が余りない。特に公園などに出かけてしまうと青空学級になってしまうので、父と二人で思いっきり遊んでいる記憶がなかった。でも、俺にはそれが普通で、父は子どものために頑張っているのだからと、誇りにさえ思っていた。
あの学校は保護者の理不尽なクレームも多く、教師間のトラブルも多かったらしい。父が母に、教師間のトラブルの愚痴を零している姿を何度か見ている。皆が同じ様に懸命に働く訳ではない。同僚にハラスメントをする教師、仕事をさぼり同僚に押しつける様な教師も居た様だ。
きっと学校自体に問題は山積みだったのだと思う。教師の仕事は大変だと思っている。でも、いじめの問題と同様、一行に改善されない。
方法は無限にある様に思えるのに、何が邪魔をしているのだろう。誰が邪魔をしているのだろう。
でも、それとこれとは全くの別問題で、いじめを放置したり、いじめに加担したりするのはただの言い訳にしかならない。それは父の保身の為で、教師と言う仕事を父自身が馬鹿にしている様にしか思えない。
サッカーで言えば、教師は監督と同じ。このチームの方向性を決める。もちろん全ての部員が同じ方を向ける訳ではないのかもしれない。高校のサッカー部の監督は良いプレーをすれば褒めるし、悪いプレーをすればそれがどうして悪いのか説明してくれる。父はどちらもしなかったのだと思う。それが生徒の為になるのだろうか。それが生徒の将来を作れるのだろうか、俺には父のしてきた事が間違っている様に思う。
子どもの世界はとても狭くて、俺も学校がこの世の全てだった。母も祖父母も安心する場所を俺にくれて、久保やサッカー部の仲間のおかげで学校にも居場所はあった。だから俺はクラスメイトから無視をされていても、先生が助けてくれなくても、やっていけただけだ。母や祖父母、久保達がいなければ、俺がどうしていたか、どうなっていたかなんて分からない。
何故、父は、一部の先生はその事が分からないのだろう?先生だって、父だって、学校に通っていた事があったはずだ。子どもだった時があったはずなのに。自分が経験した事がないにしろ、ほんの少しの優しさと想像力があれば、被害者の子の気持ちくらい分かるはずだ。
でも、輪の中に入れない子どもは俺に任せた。俺はその子を誘い、輪の中に一緒に入って遊んだ。
そして父は乱暴な子に対しては最初だけ「友達に意地悪するのはやめよう」と注意をして、後は軽くあしらっていた。乱暴な子は父の注意を惹きたいのか、それとも別の誰かの注意を惹きたいのか、他の子に悪さをする。やられた方は泣き出し親の元へ行くが、乱暴な子には大抵親が来ない。乱暴な子は持て余したように、誰かにもっとひどい事をしようとする。そしてそこで大体、父は子ども達と遊ぶのを切り上げた。父の青空学級は崩壊したのだ。
皆仲良く、そう銘打つ父の青空学級は何時も崩壊していた。父と俺の帰り時間のせいじゃない。父が強制的に終わらせるのだ。皆仲良くなど、父が言う様に上手くいった事はなかった。
青空学級の最中、殆どの親はそれを遠くから見ている。中には大人同士で話に夢中になっていたり、携帯を触りだしていたりするが、姿すら見せない親もいた。解散になると我が子を手元に呼び寄せ、大体の親は何も言わずに引き上げていった。父に向かって直接お礼を言いに来たり、会釈をしたりする親はほんの一握りだった。
公園での出会いなど、人生のうちのほんの一瞬。日々の生活には無関係だから、傍若無人に振る舞う親子など山のように居た。目の前で自分の子どもが他の子どもにひどい事を言っても、叩いても、何も言わない親なんてざらに居る。
青空学級で見たのは、様々な親子。公園は全ての子どもにとって幸せな場所ではない。子どもより、友人や携帯、自分を優先している親がいて、そう言う親の子は幸せそうな顔で遊んではいなかった。
父は母や祖父母が言う様に、本当は子どもが好きではなく、教育に情熱を感じていなかったのだろうか。それとも若い頃はあったけど、年月とともに消え去っていったのだろうか。
あの時、父が被害生徒にした事だけでなく、他からもボロボロと父の行いが出てきていた。人間なのだから教師と言っても完璧ではなく、ちょっとした言葉で誰かを傷付けてしまう事もある。それは生徒でも、保護者でも、どんな人でも同じ事。人は誰かを傷付けていて、自分も傷付けられて、生きている。でも、父がしてきた事は人間だから、誰だって、では言い訳にはならない様に思う。
勉強を教えていてなかなか理解出来ない子がいると小突き、ずっと責め続ける言葉を言う。
君は金持ちなんだから気に入らないなら私立に行けば良い、と怒鳴り散らす。
0点だけど、君は一生懸命頑張ったんだね、と漢字が苦手な帰国子女の子のテスト用紙をクラスで掲げる。
些細ともとれる様な事で、生徒が悪い事をした時だからこそ、保護者は何も言えなかったらしい。今時は直ぐにモンスターペアレンツ扱いをされるから、子どもを預かってもらう立場だから、言えない人もいる。理不尽な親もたくさんいるが、言えない親もそれ以上に居る。テレビで報道されるなんて、世間から叩かれる先生や保護者なんて、ほんの一握りだ。
でも、俺は先生にされたら、やっぱり嫌だと思う。そう思う事を自分の父親が生徒にしていた事がひどく悲しい。ひどく恥ずかしい。
父が勤めていた中学校は県内でも有数に荒れている学校だった。いわゆる不良になってしまう子がたくさんいて、窓ガラスが割られている事もあったり、補導されている生徒もいたりする様な学校だった。夜中、電話が掛かってきて、父が慌てて警察に向かった姿を覚えている。子どもながらに親ではなく、教師が警察から呼び出される事が不思議だった。今ならその意味が痛いほど分かる。
担任を受け持ち、役職も付き、運動部の顧問でもあった父は休日も練習や試合に出かけていた。俺は父と休日を過ごした記憶が余りない。特に公園などに出かけてしまうと青空学級になってしまうので、父と二人で思いっきり遊んでいる記憶がなかった。でも、俺にはそれが普通で、父は子どものために頑張っているのだからと、誇りにさえ思っていた。
あの学校は保護者の理不尽なクレームも多く、教師間のトラブルも多かったらしい。父が母に、教師間のトラブルの愚痴を零している姿を何度か見ている。皆が同じ様に懸命に働く訳ではない。同僚にハラスメントをする教師、仕事をさぼり同僚に押しつける様な教師も居た様だ。
きっと学校自体に問題は山積みだったのだと思う。教師の仕事は大変だと思っている。でも、いじめの問題と同様、一行に改善されない。
方法は無限にある様に思えるのに、何が邪魔をしているのだろう。誰が邪魔をしているのだろう。
でも、それとこれとは全くの別問題で、いじめを放置したり、いじめに加担したりするのはただの言い訳にしかならない。それは父の保身の為で、教師と言う仕事を父自身が馬鹿にしている様にしか思えない。
サッカーで言えば、教師は監督と同じ。このチームの方向性を決める。もちろん全ての部員が同じ方を向ける訳ではないのかもしれない。高校のサッカー部の監督は良いプレーをすれば褒めるし、悪いプレーをすればそれがどうして悪いのか説明してくれる。父はどちらもしなかったのだと思う。それが生徒の為になるのだろうか。それが生徒の将来を作れるのだろうか、俺には父のしてきた事が間違っている様に思う。
子どもの世界はとても狭くて、俺も学校がこの世の全てだった。母も祖父母も安心する場所を俺にくれて、久保やサッカー部の仲間のおかげで学校にも居場所はあった。だから俺はクラスメイトから無視をされていても、先生が助けてくれなくても、やっていけただけだ。母や祖父母、久保達がいなければ、俺がどうしていたか、どうなっていたかなんて分からない。
何故、父は、一部の先生はその事が分からないのだろう?先生だって、父だって、学校に通っていた事があったはずだ。子どもだった時があったはずなのに。自分が経験した事がないにしろ、ほんの少しの優しさと想像力があれば、被害者の子の気持ちくらい分かるはずだ。
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