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教師の子 8
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中学時代も先生は何もしてくれなかった。いや、一度だけ、教室でいじめの授業をした。口では「私はいじめを許しません」とか言っていた。「いじめは犯罪です」なんてポスターも教室に貼られた。いじめが犯罪だなんて嘘だ。だって誰も捕まらないもの。犯罪であるなら、罪を償うのが普通だ。
俺への無視も悪口は終わる事はなかった。いじめのアンケートもあったけど、俺は書かなかった。書いたって学校も先生も、他の大人達も何もしてくれないのは分かっていたから。誰かが書いてくれたのも知っているし、俺以外の生徒がいじめられていたのを書いた子がいるのも知っている。でも何も変わらなかった。子どもは誰もいじめを辞めようとはしなかった。大人は誰もいじめを止めようとはしなかった。
だって口だけだよ、ポーズだけ。何時も、何時も言い訳ばかり。そんなもんだよ、学校なんて、そんなものだよ、先生なんて。だって父さんだってそうだったもの。
父と俺をいじめ続けた子の差が分からない。彼らはいじめを放置した教師の子だから、俺をいじめても良いと思ったんだろうか。だとしたら、父とその子達との差は何処にあるんだろう?
母は小学校時代も中学校時代も、何度も何度も学校に出向き、先生に対応してくれる様に訴えた。教育委員会にも行った。母は俺に県外への転校も勧めてきた。県外なら父の事も分からないから、と。でも、俺はそれを断った。久保やサッカー部の仲間、藍ちゃんと離れたくなかったから。
そのうち母は学校や教師に頼る事を諦めた。『では様子を見ます』は時間稼ぎ、『指導をします。更生させなければいけませんから』は加害生徒と真摯に向き合う事のない証、と瞬間的に思ったそう。父もそうだったから。父も中学校の学校の先生達も行動を起こすつもりはないと悟った。そんな口だけの先生に加害生徒を更生させる事が出来るはずがない。
本来なら加害生徒が人を傷付け笑っている事を反省させる事は教師の仕事ではなく、専門家の力や家族の力が必要だと母は言った。そもそも教師は暴力的な子を更生させる勉強をした訳ではないのだから。加害生徒を私が更生させる、何故か自信ありげにそう言い切る先生もいたらしいが、どうやって更生させるのかの具体案は何度聞いてもついに口から出なかった。そして学校と先生達は母との約束も悉くやぶっていった。この学校の教師には何も望めないと悟った母は、他で行動を起こした。
母は何処からかボランティアでいじめの被害者の弁護を引き受けてくれる人を見つけた。その弁護士さんは加害生徒、保護者宛に内容証明を送った上で、電話をかけた。これ以上、俺に攻撃をしてくるなら法的に訴えると。正直に言えば訴えても難しい状況ではあった。証拠が残る形でのいじめではなかったからだ。でも、行動を起こす事が重要だと弁護士さんは言った。他の子が自分の身可愛さに必ず証言をする、そもそも加害生徒側には後ろめたさがある、それにいじめで訴えられた事実は消せない、と。
そしてその効果は絶大だった。加害者たちはすぐさま俺に謝ってきたし、保護者もうちに電話をかけて謝った。反省しているとは思えなかったし、彼らが何か変化するとも思えなかったが、これ以上何もしてくれなければそれで良かった。加害者達とは仲良くする事はなかったが、授業中の無視もなくなり、悪口や噂話もなくなった。
先生も俺に伺う様な、戸惑った様な視線を投げかける様になった。その姿に、加害生徒達よりも強烈な嫌悪感を抱いた。でも、同時にあれ程、俺の事を見下していた加害者や保護者、先生達が手のひらを返す様になった事に、何とも言えない感情を抱いた。人の汚さをまざまざと見せつけられた気がして、ショックを受けた。
そしてその時、出会った弁護士さんに海が丘高校の事を紹介された。弁護士の先生もいじめられた経験を持ち、その時に重野先生に助けてもらったそう。彼はそれを今現在いじめられた子達を助ける事で、重野先生に恩を返しているのだと言った。
俺は母の進めもあり、海が丘高校に入学した。久保やサッカー部の仲間はサッカーの強豪校へと進学した。サッカー部の仲間とは県内の大会で会うくらいになってしまったが、久保との友情は続いている。
そして藍ちゃんはやりたい部活があった私立中学に行き、アイツと会ってしまった。
何でこんなに苦しまなければいけないんだろう?
何時まで俺たちは苦しいんだろう?
俺への無視も悪口は終わる事はなかった。いじめのアンケートもあったけど、俺は書かなかった。書いたって学校も先生も、他の大人達も何もしてくれないのは分かっていたから。誰かが書いてくれたのも知っているし、俺以外の生徒がいじめられていたのを書いた子がいるのも知っている。でも何も変わらなかった。子どもは誰もいじめを辞めようとはしなかった。大人は誰もいじめを止めようとはしなかった。
だって口だけだよ、ポーズだけ。何時も、何時も言い訳ばかり。そんなもんだよ、学校なんて、そんなものだよ、先生なんて。だって父さんだってそうだったもの。
父と俺をいじめ続けた子の差が分からない。彼らはいじめを放置した教師の子だから、俺をいじめても良いと思ったんだろうか。だとしたら、父とその子達との差は何処にあるんだろう?
母は小学校時代も中学校時代も、何度も何度も学校に出向き、先生に対応してくれる様に訴えた。教育委員会にも行った。母は俺に県外への転校も勧めてきた。県外なら父の事も分からないから、と。でも、俺はそれを断った。久保やサッカー部の仲間、藍ちゃんと離れたくなかったから。
そのうち母は学校や教師に頼る事を諦めた。『では様子を見ます』は時間稼ぎ、『指導をします。更生させなければいけませんから』は加害生徒と真摯に向き合う事のない証、と瞬間的に思ったそう。父もそうだったから。父も中学校の学校の先生達も行動を起こすつもりはないと悟った。そんな口だけの先生に加害生徒を更生させる事が出来るはずがない。
本来なら加害生徒が人を傷付け笑っている事を反省させる事は教師の仕事ではなく、専門家の力や家族の力が必要だと母は言った。そもそも教師は暴力的な子を更生させる勉強をした訳ではないのだから。加害生徒を私が更生させる、何故か自信ありげにそう言い切る先生もいたらしいが、どうやって更生させるのかの具体案は何度聞いてもついに口から出なかった。そして学校と先生達は母との約束も悉くやぶっていった。この学校の教師には何も望めないと悟った母は、他で行動を起こした。
母は何処からかボランティアでいじめの被害者の弁護を引き受けてくれる人を見つけた。その弁護士さんは加害生徒、保護者宛に内容証明を送った上で、電話をかけた。これ以上、俺に攻撃をしてくるなら法的に訴えると。正直に言えば訴えても難しい状況ではあった。証拠が残る形でのいじめではなかったからだ。でも、行動を起こす事が重要だと弁護士さんは言った。他の子が自分の身可愛さに必ず証言をする、そもそも加害生徒側には後ろめたさがある、それにいじめで訴えられた事実は消せない、と。
そしてその効果は絶大だった。加害者たちはすぐさま俺に謝ってきたし、保護者もうちに電話をかけて謝った。反省しているとは思えなかったし、彼らが何か変化するとも思えなかったが、これ以上何もしてくれなければそれで良かった。加害者達とは仲良くする事はなかったが、授業中の無視もなくなり、悪口や噂話もなくなった。
先生も俺に伺う様な、戸惑った様な視線を投げかける様になった。その姿に、加害生徒達よりも強烈な嫌悪感を抱いた。でも、同時にあれ程、俺の事を見下していた加害者や保護者、先生達が手のひらを返す様になった事に、何とも言えない感情を抱いた。人の汚さをまざまざと見せつけられた気がして、ショックを受けた。
そしてその時、出会った弁護士さんに海が丘高校の事を紹介された。弁護士の先生もいじめられた経験を持ち、その時に重野先生に助けてもらったそう。彼はそれを今現在いじめられた子達を助ける事で、重野先生に恩を返しているのだと言った。
俺は母の進めもあり、海が丘高校に入学した。久保やサッカー部の仲間はサッカーの強豪校へと進学した。サッカー部の仲間とは県内の大会で会うくらいになってしまったが、久保との友情は続いている。
そして藍ちゃんはやりたい部活があった私立中学に行き、アイツと会ってしまった。
何でこんなに苦しまなければいけないんだろう?
何時まで俺たちは苦しいんだろう?
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