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教師の子 6
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その当時、持っていたキッズ携帯にはクラスメイトや仲が良かったはずの友達から「お前の父親、最低だな」「屑じゃん」とメールが何通も着た。中には俺や母に対する誹謗中傷もあった。「親父の事、ちゃんと見てろよ。家族なら分かるだろ!」「何で父親の事を止めないんだよ」
そしてそれは同級生達だけじゃない。自殺するまでいじめた生徒達からも父に対する悪口が出た。「何で先生は止めてくれなかったんだ。先生が止めないからだから大丈夫だと思った」その親からは「あの時、先生が止めてくれれば、ここまでひどい事にはならなかったのに!」そんな話も出たらしい。
そうだよ、その通りだよ。被害者の子が自殺を図ったからじゃないく、生徒がいじめられているのを見て見ぬふりをして、なかった事にしようとした父は最低だ。被害者の子にひどい事を言った事も、加害者に加担した事も、教師としてではなく、人間として最低だ。
あの時、俺は父さんに何も言わなかった。言えなかった。俺は隅に追いやられていたから。でも、今でも時折考える。あの時、父さんに言うべきではなかったのではないか、と。そうすれば父さんは心から反省をしたかもしれない。
でも、何を?何をどう言ったら、教師の父さんに被害生徒の痛みを突きつけられただろう?
父さんにはいじめを止める義務があったはずだ。教師なのだから。クラスを担任しているのだから。その責任があるのだから。被害生徒はいじめを訴え、既に十分過ぎる程苦しんでいるのだから。何故、大勢で他人を攻撃する、暴力的な加害生徒を放置する事が出来たんだろう?父さんは一体、加害生徒に何を教えたかったのだろう?そして何を教えたと言うの?人を傷付けてもそれで良い、先生は許すよ、とでも教えたかったのだろうか?だとしたら愚かすぎる。
母は直ぐに荷物をまとめて、俺と二人で実家に身を寄せた。父とは家を出た日以来、会ってもいないし、連絡も来ていない。最後に見た父は俺をちらっとだけ見下ろして、そして振り返りもせず、声も掛けず、玄関から出て行く後姿だった。
父だけじゃない。父方の祖父母も連絡はない。あの日以来、俺には父方の祖父母も親戚もいなくなった。
父と母の離婚は仕方ないにしろ、連絡すら来ない父は俺の事などもうどうでも良い存在になったのだろうかと思う。俺に大好きだよ、と言っていた父はもういない。俺に色々な話をしてくれた父は何処にもいない。父の俺に対する愛は会えないと消えてしまうのかもしれない。
そして父は教師を辞めなかった。どうしてなのかは我が親ながら、理解出来ない。自分のクラスの生徒が自殺まで図ったのに、どうして教師を続けようとしていられるのか、理解に苦しむ。でも、父は辞めなかった。それは他の先生も同じで、被害者の子や保護者に暴言を吐いたとされる校長先生も辞めなかった。減棒になった、謹慎処分になった、そんな話はあったが、首にすらならなかった。堂々と教師を続けていた。
俺には社会の仕組みがまだ理解が出来ない。被害者の子は自殺まで図ったのに、何故また教壇に立ち、教育の現場に戻れるのか理解出来ない。それはまるで何事もなかったかの様だ。それはまるで何の罪もなかったかの様だ。
それに何より、何故恥ずかしくないのかが分からない。
俺は恥ずかしい。父さんの子どもで恥ずかしいよ、心底。
そしてそれは先生だけではない。加害生徒は数人転校したらしいが、他の子は同じ学校に通っている。何故、恥ずかしくない?何故、同じ学校に通い続ける事が出来る?何故、そんな事が出来る?俺にはその気持ちが一ミリも理解出来ない。
父は数ヶ月学校を休んだ後で、他県に移動した。でもそれはけして父だけではなく、他の問題行動を起こした教師も同じだった。中学時代に気に入った女子生徒を夜中に何度も呼び出し、いなくなった事に保護者が気付き大騒ぎになった教師も、他県に移動して終わった。彼女はその後、逃げる様にいなくなった。
「他県に移動すれば過去をなかった事に、教師を続けられるんだ、教師ってやりたい放題だな」そんな事を言っていた子がいたっけ。
大人の世界の汚さは大人だけで完結出来れば問題はないかもしれない。でも、教師と言う職業である以上、子どもが関わってくる。何故、何故としか言いようがない。それを許している、仕方ないと言い切っている教育委員会も国も社会も、法律も、今の俺には理解なんて出来そうにない。彼らの被害に合うのは大人ではなく子どもで、その苦しみは何を生み出すのだろう。
子どもは大人に対して無力だ。俺は何をすれば良かったのか、今でも考えている。
今でも。悩んでいる
そしてそれは同級生達だけじゃない。自殺するまでいじめた生徒達からも父に対する悪口が出た。「何で先生は止めてくれなかったんだ。先生が止めないからだから大丈夫だと思った」その親からは「あの時、先生が止めてくれれば、ここまでひどい事にはならなかったのに!」そんな話も出たらしい。
そうだよ、その通りだよ。被害者の子が自殺を図ったからじゃないく、生徒がいじめられているのを見て見ぬふりをして、なかった事にしようとした父は最低だ。被害者の子にひどい事を言った事も、加害者に加担した事も、教師としてではなく、人間として最低だ。
あの時、俺は父さんに何も言わなかった。言えなかった。俺は隅に追いやられていたから。でも、今でも時折考える。あの時、父さんに言うべきではなかったのではないか、と。そうすれば父さんは心から反省をしたかもしれない。
でも、何を?何をどう言ったら、教師の父さんに被害生徒の痛みを突きつけられただろう?
父さんにはいじめを止める義務があったはずだ。教師なのだから。クラスを担任しているのだから。その責任があるのだから。被害生徒はいじめを訴え、既に十分過ぎる程苦しんでいるのだから。何故、大勢で他人を攻撃する、暴力的な加害生徒を放置する事が出来たんだろう?父さんは一体、加害生徒に何を教えたかったのだろう?そして何を教えたと言うの?人を傷付けてもそれで良い、先生は許すよ、とでも教えたかったのだろうか?だとしたら愚かすぎる。
母は直ぐに荷物をまとめて、俺と二人で実家に身を寄せた。父とは家を出た日以来、会ってもいないし、連絡も来ていない。最後に見た父は俺をちらっとだけ見下ろして、そして振り返りもせず、声も掛けず、玄関から出て行く後姿だった。
父だけじゃない。父方の祖父母も連絡はない。あの日以来、俺には父方の祖父母も親戚もいなくなった。
父と母の離婚は仕方ないにしろ、連絡すら来ない父は俺の事などもうどうでも良い存在になったのだろうかと思う。俺に大好きだよ、と言っていた父はもういない。俺に色々な話をしてくれた父は何処にもいない。父の俺に対する愛は会えないと消えてしまうのかもしれない。
そして父は教師を辞めなかった。どうしてなのかは我が親ながら、理解出来ない。自分のクラスの生徒が自殺まで図ったのに、どうして教師を続けようとしていられるのか、理解に苦しむ。でも、父は辞めなかった。それは他の先生も同じで、被害者の子や保護者に暴言を吐いたとされる校長先生も辞めなかった。減棒になった、謹慎処分になった、そんな話はあったが、首にすらならなかった。堂々と教師を続けていた。
俺には社会の仕組みがまだ理解が出来ない。被害者の子は自殺まで図ったのに、何故また教壇に立ち、教育の現場に戻れるのか理解出来ない。それはまるで何事もなかったかの様だ。それはまるで何の罪もなかったかの様だ。
それに何より、何故恥ずかしくないのかが分からない。
俺は恥ずかしい。父さんの子どもで恥ずかしいよ、心底。
そしてそれは先生だけではない。加害生徒は数人転校したらしいが、他の子は同じ学校に通っている。何故、恥ずかしくない?何故、同じ学校に通い続ける事が出来る?何故、そんな事が出来る?俺にはその気持ちが一ミリも理解出来ない。
父は数ヶ月学校を休んだ後で、他県に移動した。でもそれはけして父だけではなく、他の問題行動を起こした教師も同じだった。中学時代に気に入った女子生徒を夜中に何度も呼び出し、いなくなった事に保護者が気付き大騒ぎになった教師も、他県に移動して終わった。彼女はその後、逃げる様にいなくなった。
「他県に移動すれば過去をなかった事に、教師を続けられるんだ、教師ってやりたい放題だな」そんな事を言っていた子がいたっけ。
大人の世界の汚さは大人だけで完結出来れば問題はないかもしれない。でも、教師と言う職業である以上、子どもが関わってくる。何故、何故としか言いようがない。それを許している、仕方ないと言い切っている教育委員会も国も社会も、法律も、今の俺には理解なんて出来そうにない。彼らの被害に合うのは大人ではなく子どもで、その苦しみは何を生み出すのだろう。
子どもは大人に対して無力だ。俺は何をすれば良かったのか、今でも考えている。
今でも。悩んでいる
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