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教師の子 1
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「違うよ、先生。あいつは俺の友達の妹をいじめたんだ!」気が付いたら、怒鳴りながら泣いていた。我ながらだせぇ。
目の前にいる先生は少しも慌ていな。俺の肩をポンポンっと軽く叩いて、「大丈夫、知っているから」と小さな声で言った。先生は職員室の奥の方を指差す。「あっちで座ろうか」
俺は頷くだけで精一杯だった。手の甲で涙を拭って、情けなさでため息を付く。
先生が指さしたのはカウンセラーとの面談の時に使用される個室だった。職員室の中に小さな部屋が幾つかあって、中はソファーとテーブル、先生用の椅子のみの狭いカラオケボックスの様な場所。でも、カラオケボックスと違うのは、窓があり薄い緑色のカーテンが引かれ、何処かの国の美しい風景の写真が飾られ、リラックス出来る花の良い香りがする事。
目の前のテーブルにボックスティッシュを置き、先生は「ちょっと待っていて」と部屋の外へ出て行った。部屋のドアが閉まり、部屋の中は一気に静かになった。
俺はティッシュを取り、涙を拭った後でため息を付いた。有り得ない。こんなに取り乱すなんて、自分でも思ってもいなかった。何で我慢出来なかったんだ。
最初にアイツに気が付いたのは、サッカー部の練習中だった。ネット越し、何処かで見た様な顔だとは思っていた。一年がアイツの名前を話しているのを聞いて、自分の中の二つの記憶が合致した。名前を聞いた事があるのと、ちらっとプリクラの写真を見ただけの顔、実際に会った事がある訳ではないから、最初は分からなかった。
アイツは後輩には人気があるらしかった。中学時代に何していたかも知らない癖に。たかが、外見が少し良いくらいで騒ぐ後輩にうんざりしていた。でも、その時点では我慢出来ていた。
別に俺に近寄って来なければ、頻繁に顔を見る事がなければ、とは思っていた。
我慢が出来なくなりつつあったのは、サッカー部の練習を頻繁に見に来た事。何で何度も来るんだ?後輩とでも付き合っているのかと思っていた。
でも、ある日、後輩が言った。「あの子、瀬戸先輩に気があるみたいですよ」
吐き気がした。俺にとって、これほど嫌な事はなかった。
後輩は何処か嬉しそうで、「良かったら紹介します」と言った。「お似合いだと思いますよ」にこやかに笑う後輩に悪気がない事は知っていた。あの、人なつっこい笑顔を向けられた時、アイツの事を説明する気にはなれなかった。
勿論、すぐに断った。でも、その時にきちんと理由を言えば良かった、と今は思う。せめてアイツに興味がない事だけでも、伝えておけばこんな事にはならなかったのに。
今日アイツのクラスにいる後輩への伝言を俺に頼んだのは、サッカー部の仲間。もう部活の中でアイツが俺に気がある事が噂になっていたから、皆がいらぬお世話をしたのだと分かっていた。そんなお世話等、本当にいらなかった。
どうして断らなかったのか、自分でも良く分からない。そもそも行かなければ良かった。行く必要は全くなかったのに。自分の情けなさに、また涙が出そうになった。でも、寄ってくるとは思わなかった。
それどころかまさか、話しかけてこようとするなんて、思ってもみなかったんだ。
目の前にいる先生は少しも慌ていな。俺の肩をポンポンっと軽く叩いて、「大丈夫、知っているから」と小さな声で言った。先生は職員室の奥の方を指差す。「あっちで座ろうか」
俺は頷くだけで精一杯だった。手の甲で涙を拭って、情けなさでため息を付く。
先生が指さしたのはカウンセラーとの面談の時に使用される個室だった。職員室の中に小さな部屋が幾つかあって、中はソファーとテーブル、先生用の椅子のみの狭いカラオケボックスの様な場所。でも、カラオケボックスと違うのは、窓があり薄い緑色のカーテンが引かれ、何処かの国の美しい風景の写真が飾られ、リラックス出来る花の良い香りがする事。
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俺はティッシュを取り、涙を拭った後でため息を付いた。有り得ない。こんなに取り乱すなんて、自分でも思ってもいなかった。何で我慢出来なかったんだ。
最初にアイツに気が付いたのは、サッカー部の練習中だった。ネット越し、何処かで見た様な顔だとは思っていた。一年がアイツの名前を話しているのを聞いて、自分の中の二つの記憶が合致した。名前を聞いた事があるのと、ちらっとプリクラの写真を見ただけの顔、実際に会った事がある訳ではないから、最初は分からなかった。
アイツは後輩には人気があるらしかった。中学時代に何していたかも知らない癖に。たかが、外見が少し良いくらいで騒ぐ後輩にうんざりしていた。でも、その時点では我慢出来ていた。
別に俺に近寄って来なければ、頻繁に顔を見る事がなければ、とは思っていた。
我慢が出来なくなりつつあったのは、サッカー部の練習を頻繁に見に来た事。何で何度も来るんだ?後輩とでも付き合っているのかと思っていた。
でも、ある日、後輩が言った。「あの子、瀬戸先輩に気があるみたいですよ」
吐き気がした。俺にとって、これほど嫌な事はなかった。
後輩は何処か嬉しそうで、「良かったら紹介します」と言った。「お似合いだと思いますよ」にこやかに笑う後輩に悪気がない事は知っていた。あの、人なつっこい笑顔を向けられた時、アイツの事を説明する気にはなれなかった。
勿論、すぐに断った。でも、その時にきちんと理由を言えば良かった、と今は思う。せめてアイツに興味がない事だけでも、伝えておけばこんな事にはならなかったのに。
今日アイツのクラスにいる後輩への伝言を俺に頼んだのは、サッカー部の仲間。もう部活の中でアイツが俺に気がある事が噂になっていたから、皆がいらぬお世話をしたのだと分かっていた。そんなお世話等、本当にいらなかった。
どうして断らなかったのか、自分でも良く分からない。そもそも行かなければ良かった。行く必要は全くなかったのに。自分の情けなさに、また涙が出そうになった。でも、寄ってくるとは思わなかった。
それどころかまさか、話しかけてこようとするなんて、思ってもみなかったんだ。
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