無責任な大人達

Jane

文字の大きさ
上 下
15 / 41

教師の子 1

しおりを挟む
「違うよ、先生。あいつは俺の友達の妹をいじめたんだ!」気が付いたら、怒鳴りながら泣いていた。我ながらだせぇ。
 目の前にいる先生は少しも慌ていな。俺の肩をポンポンっと軽く叩いて、「大丈夫、知っているから」と小さな声で言った。先生は職員室の奥の方を指差す。「あっちで座ろうか」
 俺は頷くだけで精一杯だった。手の甲で涙を拭って、情けなさでため息を付く。
 先生が指さしたのはカウンセラーとの面談の時に使用される個室だった。職員室の中に小さな部屋が幾つかあって、中はソファーとテーブル、先生用の椅子のみの狭いカラオケボックスの様な場所。でも、カラオケボックスと違うのは、窓があり薄い緑色のカーテンが引かれ、何処かの国の美しい風景の写真が飾られ、リラックス出来る花の良い香りがする事。
 目の前のテーブルにボックスティッシュを置き、先生は「ちょっと待っていて」と部屋の外へ出て行った。部屋のドアが閉まり、部屋の中は一気に静かになった。
 俺はティッシュを取り、涙を拭った後でため息を付いた。有り得ない。こんなに取り乱すなんて、自分でも思ってもいなかった。何で我慢出来なかったんだ。
 最初にアイツに気が付いたのは、サッカー部の練習中だった。ネット越し、何処かで見た様な顔だとは思っていた。一年がアイツの名前を話しているのを聞いて、自分の中の二つの記憶が合致した。名前を聞いた事があるのと、ちらっとプリクラの写真を見ただけの顔、実際に会った事がある訳ではないから、最初は分からなかった。
 アイツは後輩には人気があるらしかった。中学時代に何していたかも知らない癖に。たかが、外見が少し良いくらいで騒ぐ後輩にうんざりしていた。でも、その時点では我慢出来ていた。
 別に俺に近寄って来なければ、頻繁に顔を見る事がなければ、とは思っていた。
 我慢が出来なくなりつつあったのは、サッカー部の練習を頻繁に見に来た事。何で何度も来るんだ?後輩とでも付き合っているのかと思っていた。
 でも、ある日、後輩が言った。「あの子、瀬戸先輩に気があるみたいですよ」
 吐き気がした。俺にとって、これほど嫌な事はなかった。
 後輩は何処か嬉しそうで、「良かったら紹介します」と言った。「お似合いだと思いますよ」にこやかに笑う後輩に悪気がない事は知っていた。あの、人なつっこい笑顔を向けられた時、アイツの事を説明する気にはなれなかった。
 勿論、すぐに断った。でも、その時にきちんと理由を言えば良かった、と今は思う。せめてアイツに興味がない事だけでも、伝えておけばこんな事にはならなかったのに。
 今日アイツのクラスにいる後輩への伝言を俺に頼んだのは、サッカー部の仲間。もう部活の中でアイツが俺に気がある事が噂になっていたから、皆がいらぬお世話をしたのだと分かっていた。そんなお世話等、本当にいらなかった。
 どうして断らなかったのか、自分でも良く分からない。そもそも行かなければ良かった。行く必要は全くなかったのに。自分の情けなさに、また涙が出そうになった。でも、寄ってくるとは思わなかった。
 それどころかまさか、話しかけてこようとするなんて、思ってもみなかったんだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

【Vtuberさん向け】1人用フリー台本置き場《ネタ系/5分以内》

小熊井つん
大衆娯楽
Vtuberさん向けフリー台本置き場です ◆使用報告等不要ですのでどなたでもご自由にどうぞ ◆コメントで利用報告していただけた場合は聞きに行きます! ◆クレジット表記は任意です ※クレジット表記しない場合はフリー台本であることを明記してください 【ご利用にあたっての注意事項】  ⭕️OK ・収益化済みのチャンネルまたは配信での使用 ※ファンボックスや有料会員限定配信等『金銭の支払いをしないと視聴できないコンテンツ』での使用は不可 ✖️禁止事項 ・二次配布 ・自作発言 ・大幅なセリフ改変 ・こちらの台本を使用したボイスデータの販売

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

由紀と真一

廣瀬純一
大衆娯楽
夫婦の体が入れ替わる話

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

借金した女(SМ小説です)

浅野浩二
現代文学
ヤミ金融に借金した女のSМ小説です。

処理中です...