無責任な大人達

Jane

文字の大きさ
上 下
3 / 41

可哀想な子 3

しおりを挟む
「違います」私の声は震えている。
「何がどう違うの?」木村先生が首を傾げた。
「私はいじめていません。私は仲良くしていました」
「瀬戸君が間違っていると言いたいのかしら?」
 私は頷いた。手の中で美奈ちゃんが貸してくれた桜の柄のハンカチがぐちゃぐちゃになっていた。これを返せる日はくるのだろうか、ないかもしれない、そうふと考えてぞっとした。
「そう。古賀先生の言う事と随分違うわね」
 私は木村先生の顔を見上げた。先生と目が合い、すぐに視線をハンカチに戻す。ハンカチに涙が落ちた。
 古賀先生は2年の時の学年主任だ。50代くらいの女性の先生で何時でも私に優しかった。でも、何時も授業を遅刻して来る癖に、生徒の遅刻や忘れ物はヒステリックに怒鳴った。そして何時も自分の事を褒め、自分は教師として間違ってないと言い、自分は今までずっと生徒に慕われてきていると皆に言っていた。
「萌加さんがした事を隠してくれると思った?学校や先生がいじめを隠蔽するのは加害生徒の為ではないのよ。全て自分の為。自分の学校からいなくなれば喜んであなたがした事を話すわ。時にはテレビの取材だって喜んで受けて悪く言うのよ」その声は優しくて、でもどこか怒りを含んでいた。「いじめを誤魔化しても大人しか得をしないのよ」
 ちらっと見た木村先生は泣いていた。目の端がきらっと光り、長い指で涙を弾いた。
「可哀想な子」
 何故かすごくショックを受けた言葉だった。木村先生は私を憐れんでいた、心から。凛とした木村先生は女子生徒の間では憧れの存在で、涙を流すイメージなんてなかった。その先生が泣いている、私を可哀想と言って。私がどうして可哀想なのかが分からない。
 私はいじめなんかしていない。藍ちゃんは確かに無視をされていた。グループの中で浮いていたからだ。私たちのグループは5人居て、中心には何時も早紀ちゃんがいた。早紀ちゃんが藍ちゃんに「死ね」と言った。早紀ちゃんが藍ちゃんの首を絞めた。クラスメイトはそれを見て笑っていた。
 藍ちゃんはずっと1人で通っていた。でもやがて来なくなった。早紀ちゃんは嬉しそうに「ざまぁみろ」と笑った。
 藍ちゃんが学校に来なくなってから、先生が騒ぎ出した。私たちは呼び出されて「いじめは駄目だ。藍ちゃんは傷付いているんだ。傷は薄くなるけど残るんだ」と怒られた。早紀ちゃんは先生の言葉をバカみたいと笑った。
 嘘つき。
 早紀ちゃんは藍ちゃんにメールも送ったらしい。何を言ったのかは分からないけど、今度はクラスメイトの全員の前で先生が告げた。「このクラスでいじめがありました。いじめはしてはいけない事です」その後続く説教は駄目、駄目を繰り返していた。その言葉はクラスの中の誰の心も動かさなかった。皆、深刻そうな表情の裏で、面倒くさそうに聞いていただけ。
 でも、早紀ちゃんは泣いた。まるで自分がいじめられたかの様に。クラスの女の子が「かわいそう」と彼女の周りを囲んで慰めていた。
 私たちのグループの中の子が早紀ちゃんに言った。「何で泣くの?バカみたい」早紀ちゃんはそれを聞いて、また泣いていた。
 私たちのグループは壊れた。早紀ちゃんは他の庇ってくれる子の中に入れて貰っていた。あなたは悪くないよ、と慰められていた。
 グループに、いじめに、先生に怒っていたのは数人の男子だけ。後は知らん顔。でも知らん顔しながら、自分たちだって笑っていた。悪口を言って、睨み付けて、早紀ちゃんが「死ね」って言うのを聞いて笑っていた。
 3年になってクラスが変わったけど、しばらくすると早紀ちゃんも元通り仲良くなった。藍ちゃんの姿はもう見る事がなかった。私は藍ちゃんをいじめていない。いじめていたのは早紀ちゃんだけだ。私は藍ちゃんとも仲良くしたかった、本当だもの。
「やっていないと嘘を付く人はやがてその嘘に自分自身が呑み込まれてしまう。でも、君は知っている、自分がした事を。違うかな?」どんな言葉でも、髭野先生の声は優しい。
 でも、嘘なんて付いてない。早紀ちゃんがいじめただけ、私は何もしていない。「いじめていません」
 少しの沈黙の後、部屋を除く顔があった。「先生、お父さんが来られました。お通ししても良いですか?」
「えぇ」木村先生がその声に応える。
「良いね?」髭野先生がもう一度繰り返した。「困った時は何時でも来るんだよ」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

[R18] 激しめエロつめあわせ♡

ねねこ
恋愛
短編のエロを色々と。 激しくて濃厚なの多め♡ 苦手な人はお気をつけくださいませ♡

マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子

ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。 Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

若妻の穴を堪能する夫の話

かめのこたろう
現代文学
内容は題名の通りです。

♡蜜壺に指を滑り込ませて蜜をクチュクチュ♡

x頭金x
大衆娯楽
♡ちょっとHなショートショート♡年末まで毎日5本投稿中!!

令嬢の名門女学校で、パンツを初めて履くことになりました

フルーツパフェ
大衆娯楽
 とある事件を受けて、財閥のご令嬢が数多く通う女学校で校則が改訂された。  曰く、全校生徒はパンツを履くこと。  生徒の安全を確保するための善意で制定されたこの校則だが、学校側の意図に反して事態は思わぬ方向に?  史実上の事件を元に描かれた近代歴史小説。

[恥辱]りみの強制おむつ生活

rei
大衆娯楽
中学三年生になる主人公倉持りみが集会中にお漏らしをしてしまい、おむつを当てられる。 保健室の先生におむつを当ててもらうようにお願い、クラスメイトの前でおむつ着用宣言、お漏らしで小学一年生へ落第など恥辱にあふれた作品です。

就職面接の感ドコロ!?

フルーツパフェ
大衆娯楽
今や十年前とは真逆の、売り手市場の就職活動。 学生達は賃金と休暇を貪欲に追い求め、いつ送られてくるかわからない採用辞退メールに怯えながら、それでも優秀な人材を発掘しようとしていた。 その業務ストレスのせいだろうか。 ある面接官は、女子学生達のリクルートスーツに興奮する性癖を備え、仕事のストレスから面接の現場を愉しむことに決めたのだった。

処理中です...