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可哀想な子 2
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先生が腕時計にちらっと視線を落とした。「あら、もうこんな時間。2人はもう教室に戻って。授業が始まっちゃうわ」にこやかに微笑んで、私に告げた。「暖かい飲み物を用意するわね」
涙は止まらなかった。
「先行くね」
「頑張って」
美奈ちゃんと亜美ちゃんは私の顔を見なかった。私も2人の顔を見る事が出来なかった。2人は先生に「失礼します」と言って、静かに部屋を出て行った。
小さな部屋の中に先生が入れる甘いココアの香りが漂い始めていた。すごく甘くて、良い匂い。
「さぁ、飲んで。いっぱい泣いたから水分補給しないとね」先生はそう優しい声で言って、淡いピンク色のカップを私の前の机に置いた。
私は促されて、ココアを一口だけ飲んだ。すごく甘くて、今まで飲んだ中で一番美味しかった。
有り得ない程長い、長くて辛い時間だった。でも、時計の針は5分ぐらいしか進んでいない。
チャイムが鳴った。廊下で騒いでいた生徒がいなくなり、部屋は静けさの中に包まれている。職員室も気が付けばざわめきが消えていた。
私が使ったティッシュでゴミ箱が半分埋まりかけた頃、部屋の中に校長先生が入ってきた。校長先生は重野と言う苗字だが、白い立派な顎鬚を生やしていたので生徒からは髭野先生と呼ばれている。童話に出てくるサンタクロースみたいな体格で、何時でも優しく笑う。
髭野先生の後ろからは副校長先生の木村先生がファイルを抱えて入ってきた。背が高くスレンダーで、何事もはっきりと言う40代くらいの女性の先生。
2人は私の前の席に座った。
「話す事はできるかしら?」木村先生が口を開く。私に応えを促す。
私は小さく頷いた。涙は時折零れる。
「そう、それは良かった」髭野先生はいつも通り優しく笑う。「君のお父さんは後30分くらいで来るそうだ。だから、その前に少し話しておこう。まず君はこの学校の生徒だ。それはどんな事があっても変わらない。私たちは君を諦めない。だから、今後どうなっても困った時には何時でもおいで」
私は俯いていた顔を上げた。2人の先生も、その後ろに座る先生も穏やかな笑みを浮かべている。どうなっても?私はどうなるのだろう。何故、父は呼ばれたんだろう。
「良いね?君が困った時、辛くなった時、何時でもおいで」
言葉は優しいのに、何故か怖かった。私は小さく頷き、泣いた。私は何もしていない。なのに、父が何故呼ばれたのか分からない。私は何もしていない。なのに、何故こんな言葉を告げられるのだろう。
「萌加さん、あなたは後数年で大人です。泣いて他人を誤魔化せるのはもう終わりにしなければなりません」
木村先生の言葉は私に更に涙を流させた。
「あなたは何故、授業を受けずに、私たちとこうして話しているのか理解していますか?」
私は首を振った。「先輩が」掠れた声が出た。
「瀬戸君が話しかけるなと言ったから?それであなたが泣いて大騒ぎになったのよね?」
「はい」
「彼がそう言った理由は分かる?」
私は再び首を振った。「いいえ」
「萌加さんは久佐真学院中学だったね?久保藍さんを知っているかな?」髭野先生の優しい声。
何時かその優しい声が消えてしまう気がして怖かった。「2年の時のクラスメイトです」
「瀬戸君の親友は久保藍さんのお兄さんなんだそうだ」
髭野先生の声を最後に部屋が静まり返った。どう返事をして良いのか分からなかった。さっき、瀬戸先輩が怒鳴っていたから、知っている。
涙は止まらなかった。
「先行くね」
「頑張って」
美奈ちゃんと亜美ちゃんは私の顔を見なかった。私も2人の顔を見る事が出来なかった。2人は先生に「失礼します」と言って、静かに部屋を出て行った。
小さな部屋の中に先生が入れる甘いココアの香りが漂い始めていた。すごく甘くて、良い匂い。
「さぁ、飲んで。いっぱい泣いたから水分補給しないとね」先生はそう優しい声で言って、淡いピンク色のカップを私の前の机に置いた。
私は促されて、ココアを一口だけ飲んだ。すごく甘くて、今まで飲んだ中で一番美味しかった。
有り得ない程長い、長くて辛い時間だった。でも、時計の針は5分ぐらいしか進んでいない。
チャイムが鳴った。廊下で騒いでいた生徒がいなくなり、部屋は静けさの中に包まれている。職員室も気が付けばざわめきが消えていた。
私が使ったティッシュでゴミ箱が半分埋まりかけた頃、部屋の中に校長先生が入ってきた。校長先生は重野と言う苗字だが、白い立派な顎鬚を生やしていたので生徒からは髭野先生と呼ばれている。童話に出てくるサンタクロースみたいな体格で、何時でも優しく笑う。
髭野先生の後ろからは副校長先生の木村先生がファイルを抱えて入ってきた。背が高くスレンダーで、何事もはっきりと言う40代くらいの女性の先生。
2人は私の前の席に座った。
「話す事はできるかしら?」木村先生が口を開く。私に応えを促す。
私は小さく頷いた。涙は時折零れる。
「そう、それは良かった」髭野先生はいつも通り優しく笑う。「君のお父さんは後30分くらいで来るそうだ。だから、その前に少し話しておこう。まず君はこの学校の生徒だ。それはどんな事があっても変わらない。私たちは君を諦めない。だから、今後どうなっても困った時には何時でもおいで」
私は俯いていた顔を上げた。2人の先生も、その後ろに座る先生も穏やかな笑みを浮かべている。どうなっても?私はどうなるのだろう。何故、父は呼ばれたんだろう。
「良いね?君が困った時、辛くなった時、何時でもおいで」
言葉は優しいのに、何故か怖かった。私は小さく頷き、泣いた。私は何もしていない。なのに、父が何故呼ばれたのか分からない。私は何もしていない。なのに、何故こんな言葉を告げられるのだろう。
「萌加さん、あなたは後数年で大人です。泣いて他人を誤魔化せるのはもう終わりにしなければなりません」
木村先生の言葉は私に更に涙を流させた。
「あなたは何故、授業を受けずに、私たちとこうして話しているのか理解していますか?」
私は首を振った。「先輩が」掠れた声が出た。
「瀬戸君が話しかけるなと言ったから?それであなたが泣いて大騒ぎになったのよね?」
「はい」
「彼がそう言った理由は分かる?」
私は再び首を振った。「いいえ」
「萌加さんは久佐真学院中学だったね?久保藍さんを知っているかな?」髭野先生の優しい声。
何時かその優しい声が消えてしまう気がして怖かった。「2年の時のクラスメイトです」
「瀬戸君の親友は久保藍さんのお兄さんなんだそうだ」
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