16 / 17
リャナンシーさんとスコップケーキ
⑦
しおりを挟む「ど、どなたですか…ぐす」
「こんにちは!心配になって見に来ちゃいました、ってどうしたんですか?」
泣き顔を隠す余裕もないままに扉を開いてみると、そこに立っていたのは魔女っ子さんとカラスさんだったのでした。
あれから魔女っ子さんもリャナンシーさんがうまく出来ているか心配だったので、少しだけお手伝いしようとここまでやってきたのです。
突然現れた救世主の姿に、リャナンシーさんはおいおい泣きながら縋りついてお願いしました。
「ああ!助けてください魔女っ子さん!もう私どうしたらいいのか…」
自分よりも大きな体をしているリャナンシーさんに全力で縋られて、魔女っ子さんはあわや潰れそうになっていましたが、何も言わぬままこっそり魔法を使って支えてあげました。
リャナンシーさんを落ち着かせないと、何があったのかすらわかりませんから、とにかく宥めようとしているのです。
「ええ、私にできることなら手伝うわ。だから何があったのか教えてちょうだいな」
リャナンシーさんはぽろぽろと涙をこぼしながらも、キッチンの中へと魔女っ子さんたちを案内しました。
「あらまぁ、これは…」
「すっごくこげちゃってるねぇ」
魔女っ子さんが言葉を選んでいるというのに、カラスさんはストレートに事実を口にしてしまい、リャナンシーさんがしゅんと俯いてしまいました。
カラスさんはマジョッコサンに、もう!と頭を小突かれましたが、何が悪かったのかわからず首を傾げているのでした。
「こんなに黒焦げじゃ、ケーキは食べられません。
せめてタイマーをつけておけばよかったのに、うぅ…」
もうおしまいだと泣いているリャナンシーさんに、魔女っ子さんはまあまあと宥めながらも首を傾げて言いました。
「まあ落ち着いて下さいな。
…案外なんとかなるかもしれませんよ」
そう言うと魔女っ子さんはキッチンからナイフを拝借して、黒焦げのケーキへと刃をすっといれていきました。
「これをこうすれば、っと」
真っ黒に焦げてしまった表面だけを薄く削ぎ落としていけば、中から綺麗な黄金色をした生地が露わになっていきました。
一回り小さくはなっていましたが、先ほどの有様よりは随分と良くなっています。
「ちょっと焼きすぎたくらいなら、こうすれば食べられますからね。
とはいっても予定していたようなホールケーキには使えませんけど」
「じゃあ、やっぱり…」
「いえ、大丈夫ですよ!
ホールケーキではなくても、素敵な飾り方は他にもたくさんありますからね」
リャナンシーさんは魔女っ子さんに大きめの硝子の器があれば持ってくるよう頼まれて、収納棚から2人用のグラタン皿を取り出して渡しました。
「いつもはグラタンを入れる物ですが、これでいいでしょうか?」
「これから作るケーキには、それがぴったりです!」
魔女っ子さんは手に持ったナイフを使って、スポンジケーキを器の大きさに合わせてカットしていきました。
この時切り落とした部分も使わないと勿体ないですので、間違えて捨ててしまわないよう別に避けておきます。
「それじゃリャナンシーさんは生クリームを泡立てていってくださいな。
練習の時よりゆるくても大丈夫ですからね」
魔女っ子さんに指示されて、リャナンシーさんが生クリームをがしゃがしゃと泡立て始めました。
ホールケーキの飾りに使うのであればクリームが緩いとだらりと垂れてきてしまうのですが、今回は器の中に入れていくだけですので泡立てるのにも大して時間はかかりません。
すぐにボウルの中の生クリームはふんわりと泡立ってきましたが、ここでやめてもいいのか判断しかねてリャナンシーさんは泡立て器を持った手を一度止めました。
そして結局魔女っ子さんに確認してもらおうと、抱えたボウルを持ったまま声をかけにいきました。
「魔女っ子さん、これくらいでしょうか?」
「うん、いい感じですね」
魔女っ子さんにお墨付きをもらったので、リャナンシーさんは自信を持って調理をすすめていきました。
用意した硝子の器にカットしておいたスポンジケーキを詰めていき、余った隙間には切り落とした部分のケーキをぎうぎうと詰め込んでいきます。
一面に敷き詰め終えたら、今度はその上へ生クリームを乗せていき満遍なく塗り広げていきました。
次に用意しておいたベリーをパラパラと置いていき、またスポンジケーキを重ねていきました。
最後に生クリームを上から注ぐようにして掛けてから、いい感じの見た目になるよう考えつつベリーを散りばめて、彩りのミントをちょこんと載せれば出来上がりです。
「これで“スコップケーキ”の完成です。
ほら、これはこれで可愛らしいでしょう」
「わあ、あのケーキがこんなに素敵になるなんて!」
出来上がったケーキを前にして、リャナンシーさんは大喜びして言いました。
あとはご主人様が帰ってくるのを待つだけです。
魔女っ子さんは元気になったリャナンシーさんを嬉しそうに見てから、用事は終わったと家に帰ることにしました。
「それじゃあ私たちはお暇しますね。
ご主人様がどう反応したのか、またお話にきてください」
「それじゃあねぇ、ばいばーい」
そう言うと魔女っ子さんとカラスさんは止める間も無く帰っていってしまいました。
魔女っ子さんたちは玄関から出ていくと箒に飛び乗って去ってしまい、慌てて追いかけたというのにすでに2人の後ろ姿は遠いものになってしまっていました。
しっかりとお礼をする間も無かったリャナンシーさんは、せめてもの思いでどんどん小さくなっていく後ろ姿へ、いつまでも大きく手を振っているのでした。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
王女様は美しくわらいました
トネリコ
児童書・童話
無様であろうと出来る全てはやったと満足を抱き、王女様は美しくわらいました。
それはそれは美しい笑みでした。
「お前程の悪女はおるまいよ」
王子様は最後まで嘲笑う悪女を一刀で断罪しました。
きたいの悪女は処刑されました 解説版
生贄姫の末路 【完結】
松林ナオ
児童書・童話
水の豊かな国の王様と魔物は、はるか昔にある契約を交わしました。
それは、姫を生贄に捧げる代わりに国へ繁栄をもたらすというものです。
水の豊かな国には双子のお姫様がいます。
ひとりは金色の髪をもつ、活発で愛らしい金のお姫様。
もうひとりは銀色の髪をもつ、表情が乏しく物静かな銀のお姫様。
王様が生贄に選んだのは、銀のお姫様でした。
児童絵本館のオオカミ
火隆丸
児童書・童話
閉鎖した児童絵本館に放置されたオオカミの着ぐるみが語る、数々の思い出。ボロボロの着ぐるみの中には、たくさんの人の想いが詰まっています。着ぐるみと人との間に生まれた、切なくも美しい物語です。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/children_book.png?id=95b13a1c459348cd18a1)
お姫様の願い事
月詠世理
児童書・童話
赤子が生まれた時に母親は亡くなってしまった。赤子は実の父親から嫌われてしまう。そのため、赤子は血の繋がらない女に育てられた。 決められた期限は十年。十歳になった女の子は母親代わりに連れられて城に行くことになった。女の子の実の父親のもとへ——。女の子はさいごに何を願うのだろうか。
ローズお姉さまのドレス
有沢真尋
児童書・童話
最近のルイーゼは少しおかしい。
いつも丈の合わない、ローズお姉さまのドレスを着ている。
話し方もお姉さまそっくり。
わたしと同じ年なのに、ずいぶん年上のように振舞う。
表紙はかんたん表紙メーカーさまで作成
どろんこたろう
ケンタシノリ
児童書・童話
子どもにめぐまれなかったお父さんとお母さんは、畑のどろをつかってどろ人形を作りました。すると、そのどろ人形がげんきな男の子としてうごき出しました。どろんこたろうと名づけたその男の子は、その小さな体で畑しごとを1人でこなしてくれるので、お父さんとお母さんも大よろこびです。
※幼児から小学校低学年向けに書いた創作昔ばなしです。
※このお話で使われている漢字は、小学2年生までに習う漢字のみを使用しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる