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リャナンシーさんとスコップケーキ
①
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赤い屋根の可愛らしい一軒家の前に、1人の美しい女性が立っていました。
女性は裾の長い、クラシックなメイド服を着ていました。
先ほどから控えめに扉を叩いているのですが、ちっとも反応が返ってこないのです。
彼女はすっかり途方にくれてしまっているのでした。
先ほどから叩き続けられている扉には、手作りらしい温もりのある看板がぶら下がっていました。
そこには
『なやみごと、かいけついたします
魔女っ子さん』
と書かれていました。
「あのぅ、どうかなさったの?」
「きゃっ」
突然背後から声をかけられて、女性はびっくりして声を上げながら、弾かれたように振り返りました。
そこには燃えるような赤毛の女の子が立っていました。
この女の子こそ、この家の主人である魔女っ子さんなのでした。
右手には大きな籠を、左手には箒を持った魔女っ子さんが、申し訳なさそうに眉を寄せながら口を開きました。
「ごめんなさいね、ちょっと用事があって少しだけ留守にしていたの。
なにかお困りごとなのかしら?」
魔女っ子さんは話しながら片手に持った箒をひょいと軽い調子で家の方に向けて放りました。
箒は宙に浮かび上がるとふわふわと漂いながら、定位置の壁まで移動していきぽすんと音を立てて収まりました。
その間にも魔女っ子さんは両手で籠を抱え直すと、どんどん家の方へと歩き始めます。
扉を開けて中へ入っていってしまうので、女性はあわあわとしながら追いかけていきました。
けれども敷居を越えるギリギリのところで、女性は足を止めてしまうのでした。
「あ、これは重ねて失礼しました。
どうぞお入りくださいな」
一度中に入っていった魔女っ子さんが女性の方を振り返って、合点がいった表情を浮かべると声をかけました。
「ええ、ありがとうございます」
そうすれば女性もほっと表情をゆるめて答えながら、ゆっくりと室内へ足を踏み入れました。
魔女っ子さんのお家の中には、香草やドライフラワーなどが束になって吊るされており、至る所に薬草だとか植物の鉢植えが置かれていました。
勧められるままに椅子に座った女性が
辺りを興味深そうに眺めていると、キッチンに行っていた魔女っ子さんが湯気を浮かべるカップを二つ持って現れました。
魔女っ子さんは手に持ったカップをダイニングテーブルに置くと、早速本題に入ることにしました。
「それで、どういったご用件なのかしら?」
魔女っ子さんがそう言うと、女性も話しにくそうにしながらも口を開きました。
「その、魔女っ子さんはお菓子作りが得意だと聞いたのだけど」
女性の言っている事は事実でしたので、魔女っ子さんは頷きながら答えました。
「そうですね、お菓子作りは魔法薬を作るくらい得意ですよ」
ちなみに魔女っ子さんの魔法薬を調合する腕前は、魔女の中でも上手な方なのですが、まだまだお母さんの腕には及びません。
お菓子作りも魔法薬の調合も、魔女っ子さんはお母さんに教えてもらいました。
優秀な魔女であるお母さんはどちらの腕前も優れているのですが、今ではお菓子作りの方はとうとう魔女っ子さんが勝つことができるようになったのです。
それもこれもおやつの時間になる度に、森の皆がお菓子の焼ける匂いに釣られて遊びにくるからでした。
彼らは旬のベリーだとかナッツの類だとか何かしらのお土産を持ってやってきては、物欲しそうに出来上がったお菓子を穴が開くほど見つめておねだりするので、魔女っ子さんはいつも苦笑しながらも家へ入れてあげるのでした。
時にはお土産を使ったお菓子を作ってあげてみせたり、皆で協力してお菓子作りをしたりする日々を過ごしていたので、魔女っ子さんの料理の腕前がどんどん上がっていったのでした。
そういうわけで魔女っ子さんはお菓子作りの腕前には自信があり、堂々と返事をしたのでした。
何かを話そうか悩んでいた女性が、その態度を見て決意を決めたのか、思い口を開きました。
「実は、その、私にケーキの作り方を教えて欲しいの…」
恥ずかしそうに小声で言った内容に、魔女っ子さんは片方の眉をあげて尋ねました。
「ケーキ作りを?貴女に?」
「…ええ、そうよ」
「リャナンシーである貴女に、私が教える必要があるのかしら?」
心底不思議そうに尋ねる魔女っ子さんに、リャナンシーと呼ばれた女性は少し目を見開きながら答えました。
「気づいていたんですね、仰る通り私はリャナンシーと呼ばれる妖精ではあるのですが…」
リャナンシーはそこまで話すと言い難い事でもあるのか、ぐっと言葉に詰まり会話を途切れさせました。
数秒の後、またリャナンシーは口を開いてこう言いました。
「私は料理の出来ない、欠陥品のリャナンシーなのです」
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