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  ノックが聞こえた。

  室内に入って来たのは、赤茶色の髪でうすい緑色の瞳の綺麗な女性だった。

「オリヴィアさん!!」

  ジャック様が声を上げて近寄った。

「俺、ずっと探していたんだよ。ハーヴェス領中探したんだよ。急に居なくなるから、心配したじゃないか。俺、俺、オリヴィアさんに何かあったらどうしようって……」

  ジャック様が泣き始めた。オリヴィア様が、背中を擦るが泣き止まない。

「ジャック……。お顔がぐちゃぐちゃよ。今拭くわね」

  オリヴィア様はジャックの涙と鼻水でドロドロになった顔を、ハンカチでゴシゴシ拭いていた。

  ちょっと、あの拭き方は痛そうね……

  拭いて貰った後のジャック様の顔は、幸せそうだった。

  あの二人……お似合いね。

  落ち着いて来たジャック様が、オリヴィア様に話し掛ける。

「オリヴィアさん。どうして、急に居なくなったの?」

「私はこの家を継がなくては、ならなくなったのよ」

「俺と別れて、別の男と結婚をするの?」

  ジャック様は、また泣きそうだ。

「仕方がないのよ。この国は基本的には男性が爵位を継がなくてはならないのよ。私と結婚をしたら、ジャックも父の仕事を私と一緒に手伝わなくてはならないわ。騎士を続けられなくなってしまうわ。あんなに、騎士になれた時に喜んでいたじゃない。私は、ジャックから夢を奪いたくなかったのよ」

「嫌だ。俺、オリヴィアさんとずっと一緒にいたい」 

「いけないわ。ジャックは、毎日一生懸命に稽古に励んでいたじゃない」

  その話を聞いていた、グリデーラ侯爵がオリヴィア様に話し掛けた。

「私はジャック様がグリデーラ侯爵家に入る事を反対しないよ。だから、二人で話し合いなさい」

  それにオリヴィア様が返事をするとグリデーラ侯爵は、私とお兄様に話し掛けた。

「ルイス様。リリアーナ様。よろしければ、屋敷の中を案内しますね」

  私達はグリデーラ侯爵に返事をして、ついて行った。

  グリデーラ侯爵は屋敷の中を案内しながら、話し掛けて来た。

「オリヴィアは実験とか調合が好きでね、貴族の世界にはあまり興味が無かったんです。家を出て薬屋を始めると言った時には驚いたが、侍女と護衛を付ける約束で許可を出しました。グリデーラ領だとオリヴィアだと気が付く人間もいるかもしれない為、ハーヴェス領で店を開きました」

  そこで一旦呼吸を置いてから、グリデーラ侯爵は話を続けた。

「オリヴィアは、亡くなった妻にとても良く似ていました。どうしても、やりたい事をやらせてやりたかったんです。けれど、それがいけなかったんでしょうね。ルシアンには家の為に政略結婚をさせて、オリヴィアには自由にやりたい事をやらせてしまった。だから、ルシアンは捻じ曲がってしまったのでしょう。リリアーナ様の時もエルーシア様の時も、父親の私の関わり方が悪かったんです。ルシアンだけに厳しくしてしまった。本当に申し訳ありませんでした」

  私はグリデーラ侯爵の話を聞き、気の毒と思ったが事情を聞いても、ルシアンの事は許せそうになかった。

  グリデーラ侯爵は庭園まで案内をしてくれて、お茶を用意してくれた。

「しばらく時間が掛かると思いますので、こちらでおくつろぎ下さい。私は一旦失礼します」

  そう言うと私とお兄様の二人で、ゆっくり過ごせるようにしてくれてから、グリデーラ侯爵は去って行った。 

  私は色々思う事があったが、グリデーラ侯爵家の敷地内なので無言でお茶を飲んだ。
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